第235話 【攻略対象 平凡村娘】世界救済エンド
ついに、乙女ゲーム『虹の彼方のダンテフォール ~堕ちる神と滅びる世界で、真実の愛が繋げる奇跡~』で、ヒロイン聖女と攻略対象らがエンディングを迎える、王立ダルクヴィスト貴族学院の卒業祝賀夜会当日となった。
会場となる学院の講堂は、この日のために煌びやかな装飾を施された舞踏会場へと変貌を遂げている。開会までにまだ1時間余りの余裕はあったが、既に色とりどりのドレス、あるいはタキシードを纏った大勢の卒業生らが入場し、同窓生や教員らと最後の交流を図ろうと、歓談に花を咲かせていた。
定刻となれば、このホールを階上から見下ろす形に設置された幾つものバルコニー型の貴賓席に、高位貴族のみならずベルファレア国王も姿を現すことになっている。卒業生らにとって、一生に一度の貴重な経験だ。
会場が熱気と緊張感に包まれる中、ついに夜会は開幕した。
「此度、多くの学びと経験と、交流をもたらしてくれた、この王立ダルクヴィスト貴族学院において、私は共に高めあい、歩んで行きたい唯一の存在を得ることが出来た。これからは、新たな王族の一員として迎える彼女を、私たちと共に見守って欲しい」
学院長の後を引き継いで登壇したクラウディオ王子が、卒業生代表挨拶を締め括った後、そのまま自身の婚約を発表した。
「共に学んだ皆に、これから王国を支えて行く彼女を改めて紹介させて欲しい」
告げるとともにホールに立つ一人の令嬢を招き、手を差し伸べて壇上に迎え入れれば、婚約者となった令嬢は今回の魔族、魔獣の群れ討伐において多大なる貢献をした聖女であった。手を取り合い、神々の助けを得て、ベルファレア王国のみならず、世界を崩壊の危機から救済した二人の間には、いつしか深い共感が生まれていたのだ。
壇上に立ち、柔らかな笑みを交わす王子と婚約者は、万雷の拍手に包まれた。国王をはじめ、同窓生である卒業生、父兄、会場に詰めた貴賓らの歓迎の意に、二人は晴れやかな笑顔で応じる。
だが視線は、注意深く目的の相手を探し、素早く来場者らの間を走り抜ける。クラウディオ王子と婚約者共に、だ。
その視線が、同じ場所を映した途端、二人の頬は歓喜に染まった。外向き用の美麗な笑顔を張り付けたまま、興奮を隠しもしない口調で隣に立つ同志に語り掛ける。
「ああ、レーナさんがいらっしゃいます! 最高神様や化身の皆様に守られてっ……尊いですぅ」
「あぁ、本当だ……。ほら、今近寄ろうとした愚か者が、精霊姫の茨にからめとられて、アルマジロどのによって地中に沈められたぞ。バルザックめ、会場の守備を買って出ておいてわざと、間者を捕り漏らすのだからな。困った奴め」
だが言葉とは裏腹に満足げに頷く王子は、内心では「警備の穴をよくぞ作った」と称賛している。
「そのお気持ちはわかりますわ。レーナ様を想う皆様のお気持ちと、鮮やかな手腕はいっそ芸術的で、何度見ても心を奪われますもの。あの不審者は、このまま何もできずに故国へ強制送還ですわね」
「レーナ嬢は優しいからな。だが、化身殿らが代わりにしっかり仕置きをしてくれる。ファルーク殿が、あの不審者の連なる国名と罪状を火印で全身に刻み、ヴォディム殿が水流で大空に筒型滑空水路を創って各国の上空に晒すんだ」
「陽の化身様が、夜も目映い光で照らし出すから、目立つことこの上ないのですよね。これで世界中にまた、レーナ様を狙うのが如何に愚かなことかを知らしめることができますわ」
「ああ、そうだな。それにしても、レーナ嬢の化身に対する求心力には惚れ惚れする。本人は何もできぬと言い張るが、彼女あればこそ一つに纏まった神々だ。レーナ嬢こそ尊い」
「えぇ。レーナ様は、私では到底成し得ない偉業を成し遂げても奥ゆかしく、最高神様や化身様方を率いて驕ることのない聖女様……。
尊いですわ。出来ることならあの方と添い遂げたかった」
「シルビア? それは私とて望んだこともあった。謂わばライバル同士であったが、共に諦めたであろう? あれらに勝てる見込みは、どう足掻いても無かったのだから」
「言ってみただけです。口惜しいですけど、この立ち位置で見守らせていただくことに決めたんですもの。あなたで妥協します」
「あぁ、私たちは同じ推しを見守る盟友だ」
壇上の婚約者同士が笑顔で語り合い、時折頬を染める仲睦まじい様子に、卒業生をはじめ、その保護者である貴族や来賓達は、明るく拓ける王国の未来を映し見た。




