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第20話 【攻略対象 辺境伯令息】精霊姫の樹海「ドライアド・ラヴィリア」


 既視感を伴う嫌な予感を無視できずに、レーナは記憶を手繰り寄せる。


 この世界がゲームの通りに創られているのなら、ダンテフォールと名付けられたこの世界を支えるのは、6つのエレメントを宿した宝珠(オーブ)だ。6つのエレメントとは「大気」「火」「水」「森」「陽」「土」で、それぞれに宝珠と攻略対象と試練が設定されている。


 精霊姫(ドライアド)に愛された一族の治めるこのシュルベルツ領が関わるのは、精霊姫の(ドライアド・)樹海(ラヴィリア)に祀られている森の力を司る宝珠(オーブ)だ。衰える森の力を取り戻す試練の攻略方法は、このゲームをクリアした玲於奈(れおな)には分かっている……はずだ。


 異世界から突如召喚された『聖女』の加護を持つヒロインと、青年となった辺境伯令息エドヴィン・ドリアーデとの愛を育むルートがそれだ。このルートでは、樹海を超えての侵攻を目論む隣国が、森の宝珠の力を削いでしまうのを防ぐのだ。


(って言っても、リュザス様を登場させたい、攻略したいって一心だったから、細かいところはあまり覚えていなかったりするのよねー)


 森の宝珠に力を与えているのは、太古からこの地を護り続けている不死の精霊姫(ドライアド)だ。その彼女がなんと、瀕死の状態で囚われているのだ。彼女を救えば、森の宝珠は力を取り戻し、復活した樹海がシュルベルツ領を守ってくれる。


「あの黒い地面は、試練を失敗したときと、他の攻略対象を選んだときに見ることになるのよね……」


 ただそこへ至る過程で、エドヴィンが命の危険に陥り、ヒロインが大いなる癒しの能力に目覚めて、()()()()蘇生とも言える治癒を施す展開がある。さらには攻略対象からの愛による支えで開眼した()()蘇生能力を駆使して、精霊姫(ドライアド)を復活させることになるのだ。


 完全蘇生でない微妙な聖女の力をどうこう言ってはいけない。


 夢見る少女を怖がらせないレギュレーション設定により、血や死など恐ろしい要素は、とことん排除された、恋に恋するお花畑なゲームなのだから――。


 一方、レーナはと言うと、12歳から魔族に遭遇し、自分は勿論、一緒に居たアルルクまでもが死ぬ目に遭った。レギュレーションに引っ掛かる血潮の飛び散る事態に巻き込まれたし、間違いなくこのお花畑世界のヒロインでは無いだろう。いや、無い。


「レーナ、これ以上進んじゃいけない。ちょっと待ってろ、今助けを呼ぶ」


 考えに沈んでいたレーナを、エドヴィンの真剣な声が呼び戻した。


「けど、どうしても気になるのよ」


「どうして?」


「どうしてって……」


 まさかゲームで見て来たから、あの異変が樹海全体に広がって、シュルベルツ領滅亡に繋がるかもしれないから調べさせて――なんて言えるわけがない。


「ねぇ、レーナ」


 理由も話せないのに、我儘を言うレーナに焦れたのか、エドヴィンが強く呼びかける。文句の一つでも言ってくるのかと身構えたレーナに、彼は真正面から向き合うと、彼女の両手をしっかりと取って穏やかに話しはじめた。


「私だってレーナの希望を叶えてあげたいけど、それ以上にレーナを危険に遭わせたくはないんだ。ここは地元の私でも来たことのない場所だし、辺りも全く見通せない。どう考えても、無理に進んで良い状況じゃないんだ。なのに、もしここで進んでレーナの身に何かあったら、私は私を許せないほど憎むことになるよ」


 聞き分けの悪い子を諭すように、ゆっくりと言葉を選びながら話す彼の両手は微かに震えている。この非常事態にあって、大人な物言いをしつつも、子供らしく怯える相反する反応を示す彼のギャップに、レーナは、いや中身18歳(オネエサン)玲於奈(れおな)は、ズギュンと心臓を撃ち抜かれた。


(怖いのに取り乱さないように強がって、わたしの心配までしてくれているなんて……なんていい子なの!?)


 ならば余計にこの子たちを見殺しになんてできない、との萌える思いが沸々と湧き上がる。


(でも困ったわ。ゲームのことや、別世界の玲於奈(れおな)のこと、それに領地が滅亡するかもしれない未来のこと……。どれも話すわけにはいかないのよね。下手に目立って平民聖女に祀り上げられた挙句、邪魔にされて消されるのは嫌だもの)


 とは言え、既に起こり始めている些細な異変だって、見て見ぬふりは出来なくなってしまった。だって、目の前の子供が「ただの綺麗で気持ちの悪い、2次元の攻略対象(キャラクター)実写版」の存在でなく、笑ったり、恐れたり、レーナの身を心配してくれる心の有る存在だと認識してしまったのだ。


 ならば、取る方法はひとつ。


 物理的な力も地位も、何もないただの12歳の子供が取れる手段だ。レーナは覚悟を決めて大きく息を吸い込む。


妖精姫(ドライアド)さぁぁーーーーん!! 聞こえてる!? あなたの子孫(・・)が大変なの、もし動けたら助けてくれませんかぁぁぁーーーー?」


「はぁ!?」


 急に真正面でバカでかい声を張り上げたレーナに、エドヴィンが大きく目を剥いた。

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