第163話 【攻略対象 最高神リュザス】憑いてる最高神の助力
窓から飛び出てきたのは3つ。
――黒い塊。
――それから分離して、空中に放り出された王女。
――そして、彼女の手からこぼれ落ちた大気の宝珠。
どれを救えば良いのか、捕まえれば良いのか。誰もが悩む選択肢が現れた。
「プチドラちゃんっ、鳥籠を縮めて! エド、防御盾の魔法陣をそのまま黒いモノにぶつけて!!」
かと思いきや、レーナはすぐさま決断して声を上げる。今は、少しでも早く目の前のゴタゴタを片付けて、確認しなければならないことがあるからだ。迷っている時間すら勿体ない――その思いはレーナのポテンシャルを格段に高めていた。
『精霊使いが荒いわよ!!』
プチドラは文句を叫びつつも、レーナの思い付きに付き合ってくれる気はあるようだ。丸く膨らんだ鳥籠は、風船の空気が抜けるようにシュルシュルと縮んで行く。
密集した蔓薔薇の蔓に、王女と宝珠は受け止められて落下を免れた。
けれど実体を持たぬ黒い塊は、蔓を通り抜けてレーナらが待ち受ける外へ飛び出してくる。
「窓の中にっ、戻れっ!」
エドヴィンが、真っ直ぐ伸ばした右腕に力を込めて、黒い塊に魔法陣をグッと押し付ける。だが形の無い靄は、存外に強い力を持っていたらしい。前方に展開した魔方陣を支えるエドヴィンの額には玉の汗が滲み、伸ばした腕は放出する魔力を支える力が込められすぎて、筋肉が小刻みに震えている。
窓から離れて飛び去ろうとする黒い靄と、それを押し戻そうとするエドヴィンの力が均衡したのは僅かの間。
「くっ!!」
エドヴィンが苦しげな声を発すると、靄は勢い良く彼の支える防御魔法の魔法陣を押し戻し始める。このままでは、間もなくエドヴィンは押し負けてしまうだろう。
(クロ男が逃げちゃったら騒ぎが大きくなって、落ち着いてリュザス様探しが出来なくなるじゃない! 逃がすわけにはいかないんだから!!)
何とかエドヴィンに加勢したいレーナだが、魔法に関しては未だ本能で使っているのみで、彼に助力する方法など全く分からない。だが、気は急いている。
「リュザス様もどきのクロ男が、いつまでもモヤモヤして、時間取ってるんじゃないわよ!! わたしは早く、プチドラちゃんに『憑いてる』について確認しなきゃいけないんだからねぇぇーーー!!!」
レーナの原動力は、いつも変わらず最推しのリュザスだ。逢いたくても逢えなかった彼が、憑いているなどと言われて心穏やかでいられるはずがない。リュザスへの前世からの想いも乗せて、正しい方法など分からないまま「リュザス様のために、力よ届けーー!」と我武者羅にエドヴィンに助力しようと手を突き出す。
結果。
レーナの想いに歓喜して輝いた「虹色の蝶の髪飾り」から眩い光が迸り、レーナの魔力プラスアルファの魔力が、彼女の手を伝って防御の魔法陣に注ぎ込む。
すぐさま、異常なまでに強大な力の奔流に気付いたエドヴィンが、大きく息を飲んだ。
「ぐっ……!? 何だ、このとんでもない魔力は!!!」
「なんかごめんっっ!! けど、わざとじゃないのぉっ! 勝手にとんでもないものが流れ込んでくるのよぉぉっ!!」
自分以外の力がエドヴィンの魔方陣に流れ込み、そのパイプの役割と化しているレーナも混乱して叫ぶ。
混乱する2人などお構いなしに、どくどくと溢れ出す虹色の光を帯びた魔力が、髪飾りからレーナの身体を伝って、緑に輝いていた魔法陣を虹色に染め上げた。
『最高神さまの力が……』
感動に瞳を潤ませるプチドラの目の前で、魔方陣が一際激しく明滅する。
カッ
白とも虹ともつかぬ光の暴発が起こった。




