第158話 【攻略対象 最高神リュザス】名誉職「聖女」の嫉妬
プチドラが腕をさすりながら視線で示したのは、バルザックの隣に立ちながらも、シルヴィアと花弁舞う世界観を作り出している彼らから、完全に弾き出された金髪聖女だ。
「……なんですの……もとはと言えば、聖女は私のための地位でしたのよ。それなのに、次々にそれを名乗る者が現れてっ……。何の苦労もなく、私の場所を奪って行くなんてっ」
小さな、掠れる音で紡がれる怨嗟の声が、金髪聖女の愛らしいサクランボ色の唇から次々に零れ落ちて行く。だが、恨みの念をひたすら積み重ねて行くその姿は、ヒロイン・シルヴィアを中心とした華やかな空気に覆い隠されて、レーナとプチドラ以外の眼には留まってはいない。
「レーナ? どうかしたのか」
いや、レーナこそが世界の中心である赤髪と、それに対抗心を燃やす緑髪の2人は間接的に気付いた。アルルクが身体を大きく傾けて、レーナを下から覗き込んでくる。すぐさまエドヴィンに首根っこを掴んで引き離されていたが。
「アルルクにエド……、あれ? あなた達は本編の流れには乗らないのね?」
「なんの本編だ。遊戯の話なら、すでに既定の路線から外れているんだろ」
微かに眉間に皺を寄せたエドヴィンが、レーナに呆れた視線を寄越す。
「うーんそれはそうなんだけど、やっぱヒロインはヒロインなんだなぁって実感してたとこだから。シルヴィアが聖女になったからには、色々と彼女を中心としてみんなの運命が回っていくのかなぁなん―――」
「あり得ないですわ!!!」
突如上げられたヒステリックで悲鳴じみた声に、会話を遮られたレーナらは勿論、乙女ゲームな世界観を作り出していた一同も、金髪聖女の存在を思い出して、慌ててそちらへ視線を向ける。
「なんですの!? 王女として、自らを二の次に、公人としての務めを優先させ、王国の利を生み出さんがためにひたすら尽くしてきた私が……やっと、やっと唯一自ら望んだ『聖女』の座を手に入れたと思ったのにっ……それなのにっ!!」
金髪聖女――改め王女が戦慄きながら、視線をシルヴィアとレーナの間を行き来させる。
強力な光魔法を使える本来の「聖女」が100年を超えて久しく現れぬようになったこの国。そこでは様々な有力者らの思惑が働いて「聖女」は、神殿勢力のトップに並ぶ力を持つ名誉職と成り果てていた。
本当の意味での聖女シルヴィアが現れるまでは。
だからと言って、すでにその座を埋めていた王女を解任する訳にもいかない。よって現在「聖女」を名乗っているのは名誉職として襲名している王女、本来の聖女たらしめる光魔法の使い手であるシルヴィア、そして平凡村娘を強く自称するレーナの3人となっている。
王女は光魔法を使うことなど出来るはずもなく、最近の陽の宝珠を巡る騒ぎでは、本来の聖女の魔力を持つシルヴィアひとりに脚光が当たり続けた格好だ。
――面白いはずがない。




