第33話【神の技】(前編)
前回、 エルンソアへと到着した三人。
エルは街のギルドマスター、 ウェヴィーラ、 そしてジーラからアドバイスを貰い、 徐々に自身の中で出さなければならない答えを導き出そうとしていた。
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「……」
「……」
「……」
三人は神妙な顔つきで何かを見つめている。
その視線の先にあるのは……
「……おりゃっ! 」
「あぁ惜しい! 」
「……」
一つの的。
三人はエルンソアにある市場で的当てをしていたのだ。
すなわち、 三人は街で遊び回っているのだ。
「……なぁ、 本当に俺も付き合わなければならんか? 」
「駄目です! たまにはシュラスさんも息抜きしないと! 」
「だが逆さ星は……」
「まだ大丈夫なんですよね? 」
エルがそう言うとシュラスは黙り込む。
シュラスさんが何も言わないなら時間はまだあるという事……なら大丈夫……ルーミちゃんでもきっとそう言う……
「……シュラスさん……きっとルーミちゃんなら大丈夫ですよ……」
そう言うエルにシュラスは黙って付いて行くことにした。
案外……シュラスさんもルーミちゃんの事が心配だったんだ……
そして三人は街中を遊んで回った。
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その頃……
『……奴らが来たか……他の頂点は……もういない……だが、 例の扉は既に見つけた……』
何も見えない暗闇の中、 ルーミが一人扉の前に立っている。
そしてルーミは逆さ星の仮面を被る。
『もう……私しかいない……アルガノーグ様……どうか……この世界を……』
壊してください……
あぁ……シュラスさん……エルちゃん……『この人』の声を……聞いてあげて……
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「……エル、 ディア……」
相変わらず遊び回ってエルンソアを満喫していた三人。
その途中、 シュラスが二人を止めた。
「……」
「時間だ……そろそろ行かなければ間に合わない……」
シュラスがそう言うとエルとディアは静かに頷き、 シュラスの後を追った。
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エルンソアの地下深く、 下水道にて……
「……シュラスさん……ここにいるんですね……」
「あぁ……」
静かに響く三人の足音……
後も先も見えない真っ暗な空間をただ進んでいく……
……ルーミちゃん……待っててね……
しばらく下水道を進んでいくと……
「……ディア……お前はエルと共にここに残れ……」
「え……」
それは突然の命令だった。
「……この先へ行けば……ディア……お前は死ぬ……」
……シュラスさん……まさか未来を……
すると
「旦那……私も行くぜ……バカ姉が待ってるんだ……妹である私がいなきゃならねぇんだ……例え死んででも……あのバカに一発かましてやらねぇと気が済まねぇんだよ! 」
ディアはシュラスに強い意志を見せた。
それはとても子供とも思えない程の強い意志だった。
その眼を見たシュラスは少し考え込む仕草を見せる。
そして……
「あぁ……分かった……ただ、 俺は知らんぞ……どうなろうと……」
「おうよ、 それで構わねぇさ! 」
……シュラスさん……一体何を見たんですか……
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その後、 三人は下水道を進むも、 敵一人どころか……生き物の気配すら無かった。
「……シュラスさん……これって明らかに異常ですよね……」
「あぁ……近いな……」
「……」
そして三人が辿り着いた先には……
「あれが……扉……」
「……」
暗く広い空間……その真ん中に佇む黒い扉……
三人は逆さ星のアジトへ辿り着いたのだ。
そしてそこにいたのは
『待っていたぞ……鍵よ……そしてシュラスよ……』
仮面を着けたルーミだ。
この感じ……ルーミちゃんじゃない……やっぱり他の誰かが……
エルとディアが構えたその時、 シュラスは二人を止めるように前に立った。
「え、 シュラスさん……?」
「旦那! 何を……! 」
二人が困惑しているとシュラスは驚くべき事を口にした。
「……久しいな……」
「魔王……ティルディール……」
「! ? 」
「魔王……だと……? 」
そう言うシュラスにルーミは笑った。
『やはり覚えていたか……』
「忘れるものか……あの戦争で実際に殺し合ったんだ……」
『そうだろうな……忘れようと思っても忘れられないだろうに……あの戦いは凄まじいものだった……』
「え……戦争……? 殺し合った……? どういう事だ? 」
ディアは訳も分からない様子。
そうか……ディアちゃんはまだよく分からないよね……
「一応言おう……大人しくルーミを返せ……」
『それならばその器を渡してもらわないとだ……そう易々と返す私ではない事は十分に知っているはず……』
するとシュラスはエルに言う。
「……エル……ここは俺に任せろ……お前とディアは奴の本体を探せ……」
「え……本体……? 」
「本来、 魔王の魂というのはそれを結ぶ本体が消えてしまえば必ず冥界へと還るモノ……普通の生物とは違い魂だけが現世に残るという事は絶対としてあり得ない……ならば奴の魂を現世に留めている本体が必ずどこかにある……」
じゃあ……その本体を探せば……ルーミちゃんも……!
「考えてる暇は無い……行け! 」
そしてエルはディアを連れてアジトの奥へと走っていった。
…………
扉の部屋で二人っきりになったシュラスとティルディールはしばらく睨み合いをしていた。
『いつから気付いていた……と言っても端から勘付いていたとは思うが……』
「あぁ……お前とルーミの気配が混じっていて確証は得られなかったが……ほぼ分かっていた……」
『ならば何故あの子娘たちに教えなかった……戦争時代の自分の事を聞かれるのを恐れたか? 』
そう言うティルディールにシュラスは少し狼狽える。
するとシュラスは仮面を外した。
『あぁ……その顔を見るのは何年ぶりだろうか……魔王殺し……否……それは人から呼ばれている名だったな……我々の言葉で言うなら……』
紅の死神……
そう言われたシュラスの表情は少し険しくなる。
『しかし……あの子娘が来るとは予想外だった……いくら姉妹とは言え、 殺されるとなれば逃げだすかと思ったが……』
「それがあいつの意志だ……だが……俺はあいつを殺させはせん……家族が死ぬ様も……見させはせん……」
『あぁ……やはり貴様は変わらん……まぁ……だからこそ未だに人々から英雄とも呼ばれるんだろうが……』
次の瞬間、 ティルディールはシュラスの目の前まで瞬間移動し、 短剣で斬り付けた。
それに対してシュラスは彼女の攻撃が形になる前に止めた。
「……お前の知る時代は終わったんだ……大人しくルーミを返せ……」
『そうは行かない……私も何時如何なる時でも変わらぬ意志がある……この間違った世界を作り直すという意志がな……その為にはアルガノーグの力が必要なのだよ……こいつはその為の人質さ……』
そう言うとティルディールは引き続きシュラスに攻撃を仕掛ける。
ルーミの体を乗っ取っているせいか、 その動きはまるでルーミの戦闘スタイルと同じだった。
…………
その頃、 エルとディアはティルディールの本体を探していた。
「エル姉さん! アイツを旦那一人に任せて大丈夫なのかよ! 魔王とか言ってたぜアイツ? 」
「シュラスさんなら大丈夫! ただルーミちゃんの体を乗っ取っている魔王の本体を早く見つけないと……」
しばらく二人がアジト内を探し回っていると
「待て姉さん! 何か来る……」
ディアが通路の先から何かが来るのを聞き取った。
警戒する二人の前に現れたのは複数のゾンビ兵だった。
中には狼やクマなどの人間でない者まで混じっている。
「姉さん……どうする……」
「……この先へ行こう……もしかするとこのゾンビ達の向こうにあるのかもしれない……」
「オーケー! 」
でもおかしい……さっきからアジトの中を探し回っているというのに逆さ星の人が現れない……このゾンビ達は召喚された兵士だとしたらその術者が近くにいるはず……あの人の他に部下がいないなんて考えられないけど……
逆さ星の人間が一向に姿を現さない事に何か違和感を感じていたエル、 しかしそんな事を考える間もなくゾンビ兵達が二人に襲い掛かってきた。
「ディアちゃん、 下がって! 」
エルは咄嗟にディアを後ろに下がらせ、 風の魔法でゾンビ兵達を吹き飛ばした。
しかしゾンビ兵達にはダメージが入っていない様子。
……駄目か……やっぱり氷と炎の力じゃないと……
エルがそう思った瞬間、 背後から凄まじい威力で水鉄砲が発射された。
水は一直線にゾンビ兵達の体を貫通し、 奥の方まで飛んで行った。
何事かとエルがディアの方を見ると
「エル姉さん、 私だって戦えるんだぜ? 」
ディアがサーベルを構えていた。
「今の……ディアちゃんが? 」
「これすげぇよな! 水をどんな形にでも飛ばせるんだぜ? 」
するとゾンビ兵達が再び二人に襲い掛かってきた。
それを見たディアは前の方に踏み出し、 サーベルを無造作に振り回した。
次の瞬間、 床、 壁、 天井から水が水圧カッターの如く噴き出し、 ゾンビ兵達の体をバラバラにした。
そして……
「うおぉぉらっしゃあぁぁぁぁぁ! ! ! 」
ディアは掛け声と共にサーベルを思いきりゾンビ兵の大軍の方へ投げ飛ばした。
するとサーベルは大量の水を纏い、 巨大な水の刃となってゾンビ兵達の体を斬り刻んでいった。
ゾンビ兵の大軍は一瞬にして壊滅してしまった。
「……す……凄い……」
ディアちゃん……いつの間にサーベルの使い方を学んだんだろう……?
「へへっ、 こういう時の為にサーベルの使い方をシュラスの旦那に教わっておいて良かったぜ! 」
そう言いながらディアはブーメランのように戻ってきたサーベルをキャッチした。
シュラスさんが教えたんだ……それにしても短期間でここまでなんて……やっぱりルーミちゃんの妹なだけあって才能があるんだ……
エルはディアの戦闘センスに感心しつつ先を急いだ。
…………
その頃……
「……」
『……』
シュラスとティルディールは目にも留まらぬ速さの中で闘っていた。
(……やはり奴はルーミの体にある記憶を元に戦闘技術を模倣しているか……だが……本物とは練度が違う……)
シュラスはティルディールの攻撃を受けながらも考えた。
ティルディールの戦闘方法は多彩な物で、 ルーミの戦闘術だけではなく今までに乗っ取り続けてきた者の記憶を元に蓄えた戦闘術も使って来る。
そして……
『◆◆◆◆◆◆◆◆◆~~~~……』
加えてティルディールは『禁忌の呪語』である『悪魔語』も使って来るのだ。
『禁忌の呪語』というのはレムレンソアルに伝わる悪魔の言葉であり、 その言葉には口に出すだけで力を発揮する……
力の根源はその言語の始祖である悪魔達から来ており、 魔法とは大きく異なる。
その恐ろしさは威力だけではない……口に出した者に呪いを掛けるのだ……使用者は悪魔の力を得る変わりに、 悪魔に魂を取られてしまうのだ……
しかし、 その代償は魔王であるティルディールには例外だ。
魔の王、 すなわち悪魔を統べる者でもある魔王には悪魔の代償は通じない……ティルディールは全くの代償なしに強力な魔法を連射できるのだ。
それでもシュラスにとっては脅威にならない……だが……
『……迂闊には手を出せぬであろうな……中身は私とてこの体は貴様の仲間……傷つけられようと我はいつだろうと抜け出せるが、 この子娘はそうもいくまい……』
「……全く……」
面倒だな……
シュラスはエルとディアを待っている……
…………
「……」
「ディアちゃん……どう? 」
エルとディアは迷路のように続く通路を進んでいた。
ディアちゃんが獣人族で良かった……でなきゃこんな迷路みたいな通路を進むことができない……
「……! こっちだ! 」
ディアは耳を澄ませ、 何かを感じ取り通路を進んだ。
「しっかしこんなデカいアジトならすぐにでも見つかるものだと思うんだが……どうして今まで見つからなかったんだ? 」
「多分、 戦争時代に生成された空間魔法と結界のせいかも……壁の模様の一つ一つに術式が刻まれてる……かなり古いし、 極限まで詰め込まれているのにすべてが正確に書かれている……こんな技術を持っている術師はきっと今の時代には殆ど存在しないかもね……」
「全く……エル姉さんの博識さをあのバカにも分けてやりてぇよ」
「ははは……」
そんな話をしながら通路を進んでいると……
「ッ! 」
「……ここが」
二人は遂にティルディールの本体があると思しき部屋に辿り着いた。
そこにあったのは祈りのポーズのまま殆どミイラ化した男の体、 その周りには逆さ星の人間達の死体が囲うように転がっていた。
なるほど……ティルディールはシュラスさんと戦うために逆さ星の人達の魂を糧に力を得たのか……でも……この魔力量じゃ……持ってあと数分……本当の目的は何なの……ティルディール……
「よし……こいつを何とかすれば姉貴も助けられる訳か……」
そう言ってディアはティルディールの本体に手を出そうとする。
「待ってディアちゃん……まだ駄目……」
それをエルは止める。
……正直、 この術式の解除は私の手に余る……見たことも無いし扱ったことも無い……きっとシュラスさんが探せとだけ言ったのはこれが理由……何とか出来るのは……シュラスさんだけ……
そう考えたエルは本体をシュラスの元へ持っていく事にした。
「でもどうやって動かすんだ? 下手にやれば何が起こるか分からねぇんだぜ? 」
「……確かに……」
二人が悩んでいると……
(その必要は無い……探し出すだけで十分だ……)
不意にシュラスの声が響いた。
次の瞬間、 二人はティルディールの本体と共にシュラスとティルディールが戦っている場所へ移動した。
「うぇっ! ? 何が起きたんだ! 」
「これは……あの時と同じ……? 」
混乱する二人を余所にシュラスは戦いながら話を始める。
「よくやった二人とも……後は任せろ……こいつは俺が何とかする……」
『よもやこんなに早く見つかってしまうとは……神々の力は使えぬからと少し侮っていたか……』
「……さぁ……決着の時だ……」
続く……




