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I am Aegis/Origin 3  作者: アジフライ
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第32話【背負うモノ】


……生きとし生ける者には、 何かを背負いながら生きる者もいる……


それは神であろうと例外ではない……


責任、 役目、 罰……あるいは力か……それは様々である……


ただそのどれもはその者にとって切って切り離せないモノで結ばれてる……


彼女もまた……力と宿命に結ばれてしまった被害者でもあるのかもしれない……

「あ、 旦那! 見えてきたぜ! 」

「……あれがエルンソアか……俺も初めて行くな……」

トルムティアからギルドが用意した馬車に乗った三人は、 次の目的地であるエルンソアへ向かっていた。

「あそこに……いるんですね……」

「あぁ……あの阿保を早く助け出さなくてはだな……」

「遂にか……」

そう、 三人が向かうエルンソアに、 逆さ星のアジトがあるのだ。

そしてそこにルーミも……

心なしかディアは少し不安そうな表情を浮かべている。

「……案ずるなディア……お前の姉は助ける……」

「もちろん信じてるさ……旦那は強い……だからこそ不安なんだ……姉貴を助けようと手加減でもしてやられでもしたら……って……」

ディアがそう言うと……

「心配すんなってチビ! シュラスはそんな柔な奴じゃねぇよ! だろ? 」

一緒に馬車に乗り込んでいたジーラが言った。

「何故お前がここにいる……」

「まぁそう言うなってぇ! 騎士団の命令なんだ、 仕方ないだろう? 」

あの事件を境にエルは騎士団から厳重に監視される事となり、 偶然にも同じ目的でレムレンソアルにいたのもあり、 天星騎士団はシュラス達と同行する事となったのだ。

ジーラはその中で一番シュラス達と親しいという事で監視役として一緒の馬車に乗る事となったのだ。

「ごめんなさい……シュラスさん……私があんな事をしたばっかりに……」

「謝るなら今後どうするかを考えろ……すべき事を見失うな」

申し訳なさそうにするエルにシュラスは相変わらずの態度でそう言った。

「……まっ、 俺はお前らが何しようが知ったこっちゃねぇがよ……この後色々あるんだ、 あまり考え込んでる暇はねぇと思うぞ」

「そうですね……」

そうだ……私達にはやらなければいけない事が残っている……

エルンソアへ近づくに連れてエルの中でルーミを案ずる気持ちが強くなる。

…………

一方、 天星騎士団の馬車では……

「いてて……久々に腰をやってしまったか……」

キューサスが腰を抑える。

「だからあれ程無理はしないで下さいと……」

ミュリアは呆れ顔でキューサスの腰をさする。

「しっかし驚いたものだな……あのお嬢ちゃんがあの力を持っていたとはな……」

「私も伝承でしか聞いた事が無かったので正直驚いてます……まさか本当だったなんて……」

エルの力の正体は一体何なのか……何故エルはあの力を持って生まれてしまったのか……それを語られるのはもう少し先となる……

そうこうしているうちに一同はエルンソアへと着いた。

「……ここが……魔法都市エルンソア……! 」

「すっげー! 」

街の風景は正に魔法都市という感じ。

見たことも無いくらい高い建物が立ち並び、 エル達の頭上では空飛ぶ乗り物が飛び交っていた。

街の上空には視界に収まらない程に巨大な魔法陣が浮かんでいた。

エルとディアが街の風景に見惚れていると

「さっさと行くぞ……時間はあまりないんだ……」

「観光は事が済んでからにすることだな」

始めて訪れるのにも関わらずエルンソアの街並みには目もくれず、 シュラスとジーラはさっさと街の宿を探しに行った。

えぇ……

これにはエルも少し冷めてしまう。

しかしすぐにルーミの事を思い、 エルとディアはシュラスの後を追った。

そうして一同がまず向かったのはエルンソアのギルドだった。

「俺はちょっと騎士団の方で用があるんでな、 これで失礼するわ」

ギルドに着いて早々、 ジーラはそう言ってエル達と別れた。

エル達はというとギルドマスターのいるという部屋へと向かった。

シュラスが言うには逆さ星の件について話をしたいからそれだけだとのこと。

そして三人はギルドマスターの部屋の前に着くと

『入りな……』

シュラスがノックする寸前、 扉の向こうから声が聞こえた。

それは幼い少女のような声だった。

エルとディアはシュラスの側に寄りながら部屋へと入ると……

「……初めましてだね……この街へようこそぉ~……」

宙に浮きながら背の高い本棚を漁る一人の幼女がいた。

その服装はいかにも魔女といった感じで、 ぶかぶかの真っ白なローブととんがり帽子を身に付けている。

三人が部屋の中へ進んでいくとその幼女は床へ降り立つ。

改めて見るとその背は本当に低く、 見た目に関してはディアとそう変わりの無い程の幼さを感じた。

「……この大陸でも伝説となっている魔王殺し様が何故ここへ来たのかぁ……状況は大体見ていたから分かっているよぉ~……」

見ていた……? まさかこの大陸に来てからずっと……? この子は一体……

頭の中で様々な疑問が飛び交うエルの様子を見て察したのか、 その幼女は自己紹介を始めた。

「これは失礼、 ボクはこのエルンソアでギルドマスターをしている超級魔術師、 ウェヴィーラ・オリズ・ディ・レイダという者だ……まぁ簡単に言えば……カルミス先生の弟子さ……」

それを聞いたエルは驚愕する。

この子が……カルミスさんの弟子! ! ?

色々と困惑するエル、 ウェヴィーラはずり落ちた帽子を上げ改めて話をする。

「いきなり済まないね、 そんな事を言われても混乱するよねぇ……まぁそれも含めて話をするからさ、 とりあえずくつろぎなよぉ……」

ウェヴィーラがそう言うと同時にいつの間にか部屋が星空の浮かぶ不思議な空間になっていた。

その空間の中央にはティーセットが準備されているテーブルと椅子が用意されていた。

一同は席に着き、 話を始めた。

聞けばウェヴィーラは数十年も生きている魔法使いらしく、 多彩な魔術の才能を買われてカルミスが自ら弟子として育てたそう。

それから彼女はカルミスの元を離れた後、 魔法都市エルンソアを建設し、 魔法技術の研究を続けている。

……都市一つを作ってしまう程の天才……それを超える程の才能を持つカルミスさんって……

話を聞いていたエルはカルミスの凄さを改めて知った。

そして一通りウェヴィーラ自身の話が終わると、 早速本題に入る。

「さて、 魔王殺し様……君がここへ来た理由、 逆さ星の本拠地がここにあるということだよねぇ? 」

「見ての通りだ……街でバカ騒ぎが起きるからそれを伝えに来ただけだ」

シュラスはまるで全てを知っていたと言わんばかりに話し始める。

「そう……まぁどっちにしろそっちの厄介事は君に任せるよ……問題は君だね……」

シュラスとの話があっさりと終わったかと思うとウェヴィーラはエルの方を向き、 大きな帽子の鍔から青なのか緑なのか分からない色をした瞳を覗かせる。

その不思議な雰囲気はどことなくカルミスと似ており、 エルは不思議と心が安らぐ。

「えぇっと……エル君……だっけぇ? 君の中にいるモノ……かなり凄い力を秘めてるねぇ……」

「え……分かるんですか……? 」

「うん分かるよぉ……先生程じゃないけどねぇ~……だからボクからできるのはちょっとした予言とアドバイスだねぇ~……」

予言……それがこの子の力……? もしかして……シュラスさんはこの事を見越して私をここに……?

エルがそう考えているとウェヴィーラはエルを見つめる。

「……ふぅ~ん……なるほどねぇ~……」

しばらくエルを見つめていたウェヴィーラはのんびりとした口調でそう呟くと、 どこからか本棚を出現させ、 一冊の本を取り出した。

そしてページをぺらぺらとめくり、 とあるページで手を止め、 エルにそのページを見せた。

「ボクは先生程の博識じゃないから詳しくは説明できないんだけどぉ……君の中にいるのはきっとこれだねぇ~……」

そう言ってページに指をさす。

そこに書かれていたのは……

「これって……」

そこには何百年、 何千年も前に描かれたかのような古い絵があり、 その絵には燃え盛る大地、 そこに繋がるように描かれている吹雪く凍る大地、 そして最後には木々が生い茂る豊かな大地のような絵が描かれており、 その上にはそれぞれ人の形ではない何かが描かれていた。

顔のような部分には大きな一つ目のような何かがあり、 細い体のような部分からは翼のようなモノが左右に伸びている。

明らかに人間でないのがそこから読み取れる。

「ウェヴィーラさん……」

「炎と氷の『神霊』だよぉ~……」

神霊……

「神霊は人が神となった存在だ……んで、 君が持つのはこの二つの神霊の残り火……氷の神霊と炎の神霊だねぇ~……」

「んじゃあ、 エル姉さんの暴走はこの神霊が原因だっていうのかよ? 」

そう言うディアにウェヴィーラは少し曖昧な反応を見せる。

「うぅ~ん……そうとも言えるしそうではないとも言えるんだよねぇ~……残り火自体、 力はあれど自ら動こうとする意志は無いからねぇ~……エル君の精神状態に共鳴したのは確かだけどぉ……その辺はボクにも分からないのさ~……」

「じゃあ……私の精神状態によってはまた暴走するということ……ですね……? 」

そう聞くエルにウェヴィーラは頷く。

「まぁ、 また近いうちに暴走するとしても今回のような派手な物にはならないとは思うけどねぇ~……その頃にはもう君の力は制御できるようになっているだろうさぁ~……」

それを聞いたエルは心底安心する。

ウェヴィーラは紅茶を飲みながら話を続ける。

「ただねぇ……エル君の未来は実に不安定な形でねぇ~……専門であるボクでさえも、 この先どうなるのかはよく分からないのさ……」

「私の未来が不安定なのも……もしかしてその神霊のせいですか? 」

「うぅ~ん……一つ言っておきたいのが……その未来がどうなるのかは、 エル君が自分がどうなりたいのかをエル君自身が望まないと未来は定まった形にはならないんだ……誰の未来もそんなものだからねぇ~……」

私が……どうなりたいのか……

以前からシュラスに言われている言葉と同じ言葉を投げかけられたエルは考え込む。

するとシュラスが口を開く

「くどいようだが、 そうすぐに答えとは出るモノではない……ゆっくり考えて導き出せばいい……」

「はい……」

「……まぁ、 要はボクが言いたいのはぁ……その力は悪いものではないから怖がらないでって事だよぉ~……」

そしてウェヴィーラは指を鳴らし、 空間を元に戻した。

「さて……ボクがその子にしてやれるのはこれだけ……これはボクら生きとし生ける者がどうこうしてやれるような類のモノじゃないからねぇ~……ただ本人に委ねるしかないのさぁ~……逆さ星に関してはそっちにお任せするよ……こういうのに首を突っ込むのは柄じゃないんだ……」

「そうか……世話になったな……」

それだけ言うとシュラスはエルとディアを連れてその場を後にした。

その晩、 三人はギルドの近くにあった宿で一休みすることになった。

「……」

月明かりが街を真上から照らす頃、 エルは一人で街を散歩していた。

その目的は観光……という訳ではなく……

……私がなりたいもの……私は……何を望んでいるんだろう……

ただ一人で考え事をしたいからである。

もし……自分の心と話が出来たなら……教えて欲しい……私は一体何を望んでいて……なにを目指しているのかを……

その時……

「よぅ……小娘……」

聞き覚えのある男の声が聞こえ、 ふと声の方を見ると

「ジ、 ジーラさん! ? 」

建物の影からジーラが姿を現した。

「どうやらあの件以来、 どうもグチグチ考えちまってるみてぇだなぁ……」

「……はい」

「だぁからシュラスが言ってんだろぉ、 答えってのはすぐには出ねぇって」

深刻な顔をするエルにジーラは笑いながら言う。

「それでも……またあんなことがあるんじゃないかって……不安になってしまって……それだからどうしても急いで答えを出そうとしてしまう自分がいるんです……」

「……」

そう言うエルにジーラは少し神妙な顔つきになり、 ある話を始めた。

「なんつーか……お前、 俺の妹と似てんな……」

その言葉にエルは驚愕する。

「ジーラさん、 兄妹がいたんですか! ? 」

「あぁまぁな……もう随分昔にくたばっちまったがな……最近のお前と同じように、 バケモンになり掛けてた俺を救ってくれた存在だよ……」

そう言うジーラはそれ以上の事は話そうとはしなかった。

彼の過去に何があったのか……それは後に語られる。

エルはそんなジーラの雰囲気から察したのか、 それ以上の追及はしなかった。

「やっぱりジーラさん……人じゃなかったんですね……」

「あぁそうさ……俺は人間じゃねぇ……詳しい事は言えねぇが……そんなバケモンの俺を唯一心から親しげに接してくれたのがシュラスだったんだ……そっからだな、 俺とアイツの付き合いは……」

いつも楽観的で大雑把に見えたジーラさんだけど……ジーラさんもジーラさんなりに苦労してきてたんだなぁ……

しかし、 エルが思う壮絶な過去を持っているであろうジーラでさえ、 今は平気そうに振舞っている。

そんなジーラにエルは疑問を抱く。

「では、 どうしてジーラさんは……いつもそんなに明るく振舞えるんですか? 」

「……別に無理して明るく振舞おうとしてる訳じゃねぇさ……」

「え……」

「妹から貰った分……ただ普通に生きようとしてるだけさ……」

ただ……普通に……

「折角貰った命だ……俺らしく普通に生きられなきゃ……アイツに合わせる面がねぇからな……」

そう言うジーラの表情は少し優しいようにも見えた。

そう、 ただ普通の一人の兄のような……

ジーラさん……普段は乱暴な人に見えて、 本当は妹想いの優しい人なんだなぁ……

「……お前も過ぎた事でいちいち考えてないで、 普通に振舞ってみろ……周囲の人間だって気にしちゃいねぇよ」

そう言うとジーラは笑い、 再び暗闇の中へと消えていった。

普通に振舞う……か……

ジーラの言葉に何か思いながらエルは宿へ戻っていった。

続く……


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