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最終決戦 II

「大和ォォォォォォォォォォッ!!」


Rの叫びは、大和に届く事はなかった。


直後、吹き飛ばされてきた大和をRが受け止めると、Rの顔は大きく歪んだ。


……息を、していない。

……心臓の鼓動も、聞こえない。


……首の骨が、これでもかと言う程に、バラバラとなっている。


そう──アンリ・マンユの蹴りで、大和は即死していた。

頭に当たったことでまず、首の骨が崩壊した。更にアンリ・マンユの蹴りは頭蓋を割る事なく、脳を破壊した。いや、正しくは、脳は爆破された様になっていた。


「おい」


Rは、怒る。

……Rは、人の死を許せないのだ。過去に多くの命を失ったが故に、味方を守る事ばかり考える程に。

彼は歪んでいる。自分よりも他人が大事だと平然で言える程に歪んでいる。いつしか彼の目的は、味方を絶対に死なせないと言うこととなってしまった。


そんなRは、人の死で誰よりも怒る。


「ぶっ殺してやる」


◇◆◇


何も聞こえない。


真っ暗闇。


ここは何処だろう。


何か叫ぼうとしたけど、声が出ない事に気が付いた。


同時に、息をしてない事に気が付いた。


けど、そんな事は別にどうでも良かった。というか寧ろ、それが当然の事だった様に思えて、気にする事すら無くなった。


どうにかして動こうとしたけど、手足が動かない事に気が付いた。


手足はそこに付いているのだけど、まるで天井からぶら下がる、てるてる坊主の様にぷらぷらと動くだけで、言う事を聞く気は無いらしい。


けどやっぱりそんな事はどうでも良くて。


どうしてかそれが当然の事の様になっていって。


結局気にする事はない。


手足は動かなく、声も出ない。きっと宇宙に投げ出されたのなら、こんな感じなんだろうなーって思った。


静か。


とても、静か。


まるで雪の降る丑三つ時の様。雪は音を吸収でもしてしまうのだろうか、物音一つない時がある。


そんな時よりも、今はずっと静か。だと思っていたけど、少し違った。ただ耳が聞こえないだけだった。


けど、もうそんな事気にすらしない。


あれ、僕の名前は何だっけ?


忘れた。


あれ、僕? それとも、私だっけ?


忘れた。


けど、やっぱり、そんな事は気にすらしない。


◇◆◇


「ああああああああああああああああああああああッ!!」


Rの速度を格段に上げた斬撃はアンリ・マンユの体を斬り刻む……様に見えたが結果で言えば殆ど当たっていなかった。


その直後に、いつの間にやら背後にいたアジ・ダカーハの蹴りがRの左脇腹に衝突する。Rはギリギリの所でその蹴りをいなす。が、目の前にいたアンリ・マンユの拳が衝突し左腕の骨が砕かれる。


Rはわざと避けなかった。左腕を犠牲にしてアンリ・マンユに致命傷を与える為に。

アンリ・マンユの拳が左腕に衝突すると同時にRは前に踏み出し、右腕の剣を振るう。が、アンリ・マンユは体を動かす事によっていとも簡単に避けた。そしてその直後、背後からアジ・ダカーハが迫る。

Rは勢いよく左に跳躍し、体勢を立て直す。


「ぐっ……くそっ……」

『なんだ、Rとやら。随分と動きが鈍いではないか』

「黙れッ……」


Rの動きが鈍い。それはR自身だけでなく相手にさえも分かってしまう程に鈍っていた。

その理由は、大和の死亡である。


Rは人の死による怒りを、自分では制御出来ない。

怒りは時に絶大な力を与えるが、その逆の場合もある。あまりに強すぎる怒りは、自らの動きを阻害してしまう。動きが単調になると言ってもいい。同時に、思考の阻害もしてしまう。


実際、Rが背後を取られるという事はない。今まででも、Rが背後を取られたと言うのは一度もない。つまりは、それほど阻害されているのだ。

それと、先程の攻撃の際Rの斬撃がいとも容易く避けられた。それも、Rにとってはあり得ない事なのだ。それは、避けられる程に斬撃の速度が落ちたのではなく、予備動作を相手が読めてしまう程に露骨にしてしまったのだ。何時ものRなら上手く隠す筈の予備動作が、相手から見れば笑ってしまう程に浮き出てしまっていた。


くそっ……落ち着け……。


Rは自分に語りかける。このままでは自分まで死んでしまうだろう。


と、その時。

大和の死体に近付く影があった。



椿と、白百合だった。



──なっ?! あいつら、何してやがる?!


アンリ・マンユとアジ・ダカーハがいる戦場に踏み入れるなど、普通では考えられない。

それに、あの二人は知らないだろうが……大和はもう死んでいる。

そんな大和に近付く暇があるのなら、一刻も早く立ち去って欲しいものなのだ。


だが……そんな事を言っても無駄だと、Rは誰かに言われた気がした。それが誰なのかはR自身も理解しかねるが、ただ一つ、確信に近いものがある。

恐らく、その声の言っている事は正しい。


この戦闘が始まる前に白百合を見たが、彼女は大和を見捨てて逃げる事は出来ないだろうとは薄々感じていた。

椿からも似た様な感じはしていた。


だとしたら、する事は一つしかないだろう。

目の前の怪物モンスターの、目を引く。そうしなければ、死体が二つ増えるだけだ。


Rは、走り出した。


◇◆◇


白百合とスサノオは、それぞれ水馬にまたがり疾走していた。スサノオはアルテミスを、白百合はブラフマー、シヴァ、ヴィシュヌを一緒に乗せていた。


そんな時、唐突に白百合は謎の感覚に襲われた。

虫の知らせとでも言うのだろうか。唐突に悪寒が突き抜けたのだ。

咄嗟に水馬を反転させる。


「おい?! 何してる白百合!」


スサノオの戒める様な声が響く。だが、白百合への虫の知らせは、その声を無視させてしまう程に酷く悍ましいものだった。


それは、“大和の死”。


「ごめんなさいっ……スサノオさん……」


ブラフマー達三人を新たに創り出した水馬に乗せて、自分は颯爽を元来た道を走り抜けた。



そしてそれから数分後、大和が戦っている筈の戦場に着くとそこで戦っていたのは、R一人だった。


「えっ……な、なん、で──」


その時、白百合は確かに見つけた。力なく横たわる、大和の姿を。

はっとなって、白百合は突き動かされる様に動き出す。

水馬を最大出力で動かし、戦場を駆ける。


横目でRを見ると、Rは敵と思しき相手を自分から遠ざけていた。

それと同時に、大和に向かって走る椿の姿を見つけた。


けど今はそんな事はどうでもよく、一秒でも早く大和の元に着く事を考えた。



大和の元に辿り着いたのは、椿の方が若干早かった。椿は大和の胸に猫耳を当てている。

そして、表情を歪めた。


「椿ちゃん! 大和は?!」

「…………」


椿は、何も答えなかった。代わりに椿は耳を話し、首筋に手を当てる。そして、その時気付いた。

ボロボロの背骨に。


椿の表情が、絶望一色になる。


「椿……ちゃん? どう、したの?」

「……」

「大和……生きてるんだよね?」


白百合の声は、震えていた。


「大和……ただ気絶してるだけ……なんだよね?」


白百合は震えながら、ゆっくりと大和の隣に膝を下す。そして、椿の表情を見て、固まる。


椿の表情は、絶望一色で、同時に涙でぐちゃぐちゃだった。


「…………白、百合、ちゃん……もう……大和、は……」

「嘘よ!」


白百合は瞳に涙を溜めながら叫ぶ。


「絶対にそれはっ、無い! 大和が、大和が死ぬ筈ない!」

「白百合ちゃん……」

「だってあの大和よ?! 私達に出来ない事だって出来てしまう、あの大和よ! 死ぬ筈ない…………絶対に……死ぬ筈……ない、も、ん……」


大和の“死体”に、白百合は回復魔法をかける。が、特に変化が起こる事はなく光は霧散する。


「嘘……」


もう一度同じ事をするが、結果は同じであった。


「こんなの、嘘よ……」


もう一度、またもう一度、と同じ事を繰り返すが、結果は変わらない。


「嘘……嘘……嫌だ、うそだって言ってよ……おねがいだから……うそだっていってよ……」


椿は、ただ大和の顔を見ている事しか出来なかった。そして、止まる事のない涙をただひたすらに流し続ける。


白百合はいつもよりも燃費の悪い回復魔法をかけ続けるが、特に変化がないまま魔力が底を着く。そして白百合は、大和の胸に顔を埋めた。そして、泣け叫んだ。


白百合の声に呼応する様に、椿も嗚咽を漏らす。


「やまと…………まだ……しなないでよ……」


『コロロロロッ』


その時。

背後に突然敵が現れる。それは、アジ・ダカーハであった。

椿は咄嗟に鎌を握り締め、アジ・ダカーハに向かって振るう。が、神獣としての力も何も発生せず、ただの人としての一撃となる。


カキン。


そう音を立てて、鎌はアジ・ダカーハの防御すらしていない足に弾かれる。その直後アジ・ダカーハは椿を鷲掴みする。


「やっ、め……あっ……くっ……んぐっ」


ギシギシと、椿の体が悲鳴を上げる。


「止めて!」


白百合は魔法を放とうとするが、魔力がない事を思い出す。それからすぐに、白百合は魔法杖をアジ・ダカーハに叩きつける。が、やはりカキンと弾かれる。

白百合は諦めずに二度、三度叩きつけるが、それでどうにかなる程アジ・ダカーハは弱くはなかった。


その時、アジ・ダカーハは白百合を見てニヤリと嗤った。

そして、椿を持った手を頭上まで上げる。


「え、うそ、止めて、止めて止めて! お願いだからそれだけは──」


白百合は最後まで言葉を発する事なくアジ・ダカーハに吹き飛ばされる。だがそれはアジ・ダカーハにとっては、ただ手を少し動かしただけに過ぎなかった。


そして白百合がアジ・ダカーハをもう一度視界に捉えた時……


椿が、地面に叩きつけられた。


白百合は、目をこれでもかと言うほどに見開く。うそだ、と譫言うわごとの様に呟くだけだった。

しかし、椿はゆっくりではあるが上体を持ち上げる。それを見た白百合の表情は一瞬目に見えて明るくなり、駆け寄ろうとした時。


アジ・ダカーハは椿を持ち上げ、またも地面に叩きつけた。口から、血を吐き出す。


その時、白百合は悟った。

アジ・ダカーハは、遊んでいるという事を。

ぺたん、と。白百合は尻餅を着く。それを見たアジ・ダカーハはもう既に痙攣している椿を掴み、立ち上がる。そして、



────────全力で、上空に向かって放り投げた。



一瞬、何が起こったのか分からなくなった。頭の中が真っ白になり、周りの事がごちゃ混ぜになる。けど、一つだけ理解している事があった。

椿は、このままでは死んでしまうという事。


「何してやがるッ!!」


いつの間にやら近くに来ていたRだったが、背後から現れたアンリ・マンユに押さえつけられ、身動きが出来なくなった。それでも、何をしてると叫び続けた。

けど、Rはもう既に限界な様だ。


空を見上げながら、白百合は必死に立ち上がり、どうにかして受け止められないか思案する。

が、唐突に体を掴まれ、地面に打ち付けられる。肺から空気が抜ける。が、特に怪我はなかった。どうやら手加減したらしい。


そしてそのすぐ後、白百合が空を見上げると、すぐそこに迫った椿の姿があった。

うそだ。

うそだ。

うそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだ────


けどどれだけ願っても、時間は止まらない。


「いや……」


ぐにゃりと、アジ・ダカーハはその顔を気持ち悪く歪める。


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」


叫んでも、

叫んでも、

椿は……椿の体は……地面に近付くばかり。


おねがいだから、ひとりにしないで。


──願っても、


わたしを、ひとりにしないでよ。


──願っても、


いやだよ……こわいよぉ……


──椿の体は、


もう、やだよ……


──地面に近付くばかり。


……………………やまとぉ……


白百合は、顔を手で覆い隠す。




その直後────暖かな風が、頬を撫でた。


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