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グランベヒーモス戦 III

「極大魔法、詠唱開始する!」


一心は、叫んだ。


彼らは、すぐに理解した。彼は、一心は、グランベヒーモスと刺し違えようとしているという事を。

だが、止めはしない。


事実、それしか勝算がないのも事実なのだ。

それに、一心自身がそうしようと決めたのなら、それを否定する事は、一心を否定する事と同義。

だから……止めない。


する事は、グランベヒーモスを全力で抑える事。

例えこの身が朽ち果てようとも、彼らは決して止まらない。あいつグランベヒーモスを、殺す事だけを考える。


「「「「「了解したッ!!!」」」」」


騎士団の者達は、言葉を交わさずとも、考える事は同じだった。


「ーーーーーーーーーーーーッ」


一心の詠唱が始まる。

これは、一心のみが使用出来る極大魔法。

詠唱時間は、一分。戦いの中では致命的な程の時間がかかる。だが、その威力は凄まじい。


◇◆◇


極大魔法。それは、こうも呼ばれる。


対国魔法、と。


まさにその名の通り、一つの国と同格、場合によってはそれ以上の威力を持つ魔法。

伝承として残っているものに、この様な魔法がある。


「極大魔法 劔ノ雨ツルギノアメ


まだ、人間世界で戦争があった頃、一人の英雄『R』が唐突に現れた。『R』とは、その者が名乗った偽名だ。「劔ノ雨」とは、その者が使用した極大魔法の名だ。

それは、「劔」を「雨」の様に降らせた魔法。それにより死者は一瞬で数万、魔法の使用後には数億にすら達したとも言われている。


だが、一心の極大魔法は、それすら上回るとさえ言われている。

まだ、使用した事など一度としてない。つまり、それが本当なのかすら不明だ。

だが、それでも使う。

そこに、少しでも勝算があるのなら。


◇◆◇


騎士団の十八人は、ただ、グランベヒーモスに向かって走る。

その顔に、恐怖や、不安などは見られなかった。もはやその顔には、希望が現れていた。


勝てるかもしれない。


たったのその一言に、希望を抱き、走った。


その表情は、戦争中の日本人と然程変わらなかった。日本の勝利のために平気で特攻するような。

「神風特攻隊」の様な。


だが、彼らでは力不足であった。明らかに、能力が足りていないのだ。


初めに、二人がグランベヒーモスに突っ込む。その内、一人は不可視の触手によって粉々に砕かれる。それと同時にもう一人はグランベヒーモスの前足を剣で斬った。が、傷は浅い。

瞬間、もう一人の頭が消える。


残り、十七。


五人が同時に突っ込む。が、グランベヒーモスは謎の鱗粉のようなものを散布し、それで粉塵爆発を起こす。咄嗟に防御魔法を使えた一人は辛うじて生き残るが、その防御魔法を解除した瞬間、粉砕された。


残り、十二。


五人の内の最後の一人が粉砕された瞬間、グランベヒーモスの死角から三人が出現する。上位魔法を連発するも、背中の触手を五本破壊出来ただけだった。

触手の数は全部で二十本である。

殺。


残り、九。


触手を五本目を破壊した時、一人がグランベヒーモスの懐に飛び込む。その一人が飛び込んだ次の瞬間、三人が粉砕される。

グランベヒーモスの懐に潜り、剣に魔力を濃縮させ、「発射」する。それはグランベヒーモスを後退させた。腹部には、大きな傷があった。

その一人は、一瞬、追撃を考えた。が、答えを出す間も無く、頭を吹き飛ばされる。


残り、八。


ベヒーモスを後退させた一人の頭が吹き飛んだ頃、三人はグランベヒーモスに突進、五人はグランベヒーモスの死角に入り込む。

グランベヒーモスは当然、前方から来る三人を標的に定める。三人の所へ動き出そうとした瞬間、若干の殺気を後方から感じた。前方へ動き出そうとしていた体制を崩す。

グランベヒーモスは、自分の真後ろに鱗粉を飛ばす。そして、真後ろにいた者達を一瞬で爆散させた。


残り、三。


三人は、グランベヒーモスの動きを見逃さなかった。そして、迷わずにグランベヒーモスに突進する。

グランベヒーモスの真後ろで粉塵爆発が起きた時には、三人はグランベヒーモスの眼前に迫っていた。三人は迷わずに上位魔法を連射。実に、たったの五秒間で二十発もの上位魔法を発射した。

が、グランベヒーモスは何事も無かったかのように三人を食いちぎった。


残り、 零。


ここまでで、三十秒。まだ、半分しか詠唱は終わっていない。そして当然、グランベヒーモスは一心に狙いを定める。

一心は、目を瞑り、ただ、詠唱を続ける。

グランベヒーモスは一秒とかからず一心の目の前に肉薄する。だが、それでも、一心は詠唱を止めない。


グランベヒーモスは、大きく口を開ける。そして、一心を食おうとした。


一心は、死を覚悟する。が、それでも止めなかった。



キィィ……ン


と、その時グランベヒーモスの動きが止まった。いや、正しくは、グランベヒーモスは動く事が出来なくなったのだ。

グランベヒーモスの身体中に、真っ白な鎖が絡みついているのだ。


「一心には、触れさせないっ!」


気付くと一心のすぐ後ろには、綺音がいた。

いや、綺音だけではない。亜紀も、小鳥もいた。騎士団の者達は、倒れていた。

小鳥と綺音は支援系だ。つまり、回復、防御などが得意なのだ。時間を稼ぐのなら防御が最も良い。そのため、騎士団の残りの者達全員は二人に魔力を与えたのだ。

それによって、二人には多くの魔力が宿っていた。

それはつまり、魔法の威力、もしくは耐久力などが格段に上がっているという事でもある。


グランベヒーモスは暴れた。が、鎖は解ける事は無かった。


「あはは、それ、解こうとするほど絡まるらしいよ……」


呑気に亜紀はグランベヒーモスに話しかけていた。右手には、魔力を注ぎ込みすぎて今にも爆発しそうな剣を持って。


その剣を見て、グランベヒーモスは暴れるのを一瞬止めた。


それ程に、異常なレベルの魔力が詰まっているのだ。


「これ、結構持ってるの辛いんだよね」


なんて言いながら亜紀は、剣を両手に持ち、剣を振るための構えを作る。


咄嗟に、小鳥と綺音が防御魔法の耐久力を上げる。


「ごめんね、グランベヒーモスさん?」


勢いよく、剣を振るう。

その剣に込められた魔力は暴走し、互いに反発し、大きな爆発を起こす。


剣に込められた魔力は、風と炎の魔力だった。それを極限まで圧縮したものを、無理矢理に剣に込めた。それも、大量に。

風とはつまり空気。

空気とは、圧縮すれば爆弾となる。

その空気の爆弾と同時に炎も放出する。


実は、亜紀が込めた空気は、そこらにある酸素や二酸化炭素、窒素などではなかった。

炎を有効に使うための空気。

それは即ち、酸素と水素である。

酸素と水素というのは、混ぜ合わせる事によって危険な空気となる。もし、そこに火を近づければ、爆発する。

酸素と水素というのは、ロケットに使用される燃料でもある。大きな質量を持つロケットさえも浮かせるのだ。それ程の爆発的な燃焼が起こる。それによって発生するのは水だけだというのだからエコだったりする。


だが、亜紀の放つ爆発は、ロケットの噴射など比にならない程の爆発を起こす。

それは、グランベヒーモスの触手を数十本も破壊し、さらに身に纏う超硬質の鎧にヒビすら入れた。


派手な、爆発だった。グランベヒーモスが初めに序列一位を再起不可に落とし入れた一撃とほぼ同格と言ってもいいかもしれない。

グランベヒーモスは勢いよく後ろに弾き飛ばされる。


二キロ程、吹き飛ばされた頃、やっと止まった。


カチン、ときたらしい。


グランベヒーモスの身に纏う鎧が変化する。より、動きやすくする為の、変化。

それは、「進化」そのものだった。よく、動物がその環境に耐える為にする、「進化」と同じ。

それを、一秒で終わらせた。


そして、先程一心に肉薄した時の速度を軽く上回る速度で、四人に向かって疾走した。


詠唱は残り、十秒。

そこで、グランベヒーモスはまるで瞬間移動でもしたかの様に、唐突に、四人の目の前に現れた。


「予想済、です!」

「予想していましたわ」


だが、それを予想していた小鳥と綺音はすぐに防御魔法の耐久力を上げる。


が、


グランベヒーモスの攻撃は、予想を遥かに上回る威力だった。


「「ッ?!」」


十発程の攻撃にも耐えられる様な耐久力を持った防御魔法が、たったの一撃でヒビをいれられた。


急いで、防御魔法を更に展開する。合計で、十枚の防御魔法が展開された。だがグランベヒーモスは、一撃でヒビを入れ、二撃で一つの防御魔法を破壊する。


残った触手五本も使い、十枚あった防御魔法はあっという間に、一枚になった。

全力で魔力を注ぎ込み、最後の一枚はまだ砕かれずに済んだのだが、ここである事を思い出す。


このままでは、極大魔法に巻き込まれてしまう、と。


グランベヒーモスの狙いはそれだったのだろうか。グランベヒーモスは全くその場を離れようとしない。


何て事だろう。仲間を守っていたのに、結局死ぬ事になるなんて。

仲間を生かす為に守っていたはずなのに、これではまるで、皆で死ぬ為に守っていたよう。


絶望した。あと十秒で勝てると思っていた十秒前の自分に言ってやりたい。十秒後に死ぬのだと。


絶望を連れてくるのは、希望。


地球にいた頃、ふと、本の一ページに書かれていた言葉。それを、今、思い出した。

そして、その通りだなと、思った。


詠唱終了まで、後、二秒ぐらい。


目の前には、わざと防御魔法を脆い状態に留めるグランベヒーモス。


後、一秒。

記憶が、流れる。

親の顔、友達の顔、先生の顔、以前好きだった先輩の顔、親戚の優しいおばさんの顔、小さい頃に良くしてくれたおじいさんの顔、目の前にある『happy birthday!』と書いてあるチョコの乗ったケーキ、それを食べる自分を見て微笑む今は亡き母の顔、

つい、最近出会った、共に戦う友達の顔。

騎士団の人達の顔。


記憶が溢れてきて、止まらない。

死にたくない、そう、思った。


とても強く、思った。




グランベヒーモスは、嘲笑っているようだった。

「これでお前らも死ぬんだぞ」って、言ってる様に感じた。


もっと、生きたかったなぁ……


まだ、デートしてないのになぁ……




詠唱終了まで、後一秒。



あぁ、後、少し……


「もっと……生きたかったなぁ……」


綺音は、呟いた。




ピシッ





「動けッ!! 馬鹿者!!」

「えっ?」



と、その時、一本の矢が飛んできた。



それは、グランベヒーモスを、弾き飛ばした。

大きく、弾き飛ばした。それも、数キロ分は。


それはつまり、


「ーーーーーッ!! 発動、流星雨メテオ・レインッ!!」


グランベヒーモスのみが、極大魔法の餌食となるということ。

空から、雨が降る。

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