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謎の敵との遭遇

これはある少年の物語。


黒い髪に黒い瞳を持つ、何処にでもいるような日本人の顔立ちで特に何かに秀でているわけでもない。勉強、スポーツ、共に平均。読書量、平均。食事量、平均。

……人よりも友達が少ない。


彼は高校生で志望校に今年入学した高校一年である。

高校生活が始まって一ヶ月、彼は誰とも話していない。そりゃあもう、見事なぼっちだ。

休み時間は大体一人でいる。だが、それを寂しいとは感じていない。寧ろ、それが普通になりつつある。


つまらない。


それが今現在の高校生活についての感想。


ただ学校に行き、家に帰る。土日は家でぐうたらと過ごす。

そんな決まりきった日常の中で過ごしていた。


ーーお前、彼女とかつくらないのか?


そんな事をよく、友達 (と言えるか分からないが)に言われた。

確かに元々同じ中学だった人達は「誰々に彼女がいる」だの、「誰々と誰々が付き合ってる」だの言っていた。けど、別に興味は無かった。


例え「彼女つくらないの?」などと言われても、その全てに決まりきった答えを返してやった。


「……はぁ、めんどいし、つくらない」


この答えを聞いた人は、ほぼ全員が同じ反応をした。「そんなまたまた〜」「嘘つけぇ」

アホかお前らと叫びたくもなった。


そんな変わらない日常が、ある日唐突に、



壊れた。

バキンと音を立てて。


◇◆◇


彼はいつも通り家に帰っていた。部活なんて帰宅部だから放課後する事なんて無い。それに学校からは早々に立ち去りたかった。自転車をこぎながらのんびり走った。


今日は近道して帰ろうとふと思い、いつもは通らない道を選んだ。薄暗く、誰も通る事のないような細い道だ。

現在の時刻は午後四時二十分。まだまだ明るい。


今日は帰宅したら何するかなぁ、と考えながら自転車をこいでいると、唐突に寒気がした。背筋が凍ってしまったと錯覚するほどに。


「ッ…………? 気の、せいか?」


後ろを振り返るが、そこには何も無かった。

別に何も無いだろうと思う事にし、また自転車をこぎ始めた。


それが間違いだったと思い知るのは、これから少し後の事。


◇◆◇


今走っている道は細く、自動車一台しか通れないぐらいだ。そもそもこの道を通る車なんて見た事ない。

そんな道をキコキコと、一人自転車をこぐ。

周りが静かな所為か、やけに自転車の音が大きく聞こえる。


と、その時誰かに自転車の後ろの辺りを掴まれた。自転車がキキッと、音を立てて止まる。誰だ! と思い、背後を振り返る。

だが、振り返ると誰もいない。

あれ? と思ったが、気にしない事にした。怖くなったからだ。

気にしないぞと言う証明の意味も込めて自転車をこぎ始め……

ようとするが、なぜか足が動かない。


ガシャン


そのせいで転んでしまう。


あれ?動かない。動かない?

嘘だ、嘘だ、嘘だ。


すぐ近くに見える暗闇が深い谷底に繋がっている様に錯覚する。

自分の後ろに誰かがいる様で思わず振り返ってしまう。


彼はパニック状態になりかけていた。動かない体を動かす努力をせず、何故か周りを気にする。というかそもそも、先程から頭を、手を動かしているというのに未だにそれに気付いていない。

と、その時


「あ! だ、大丈夫ですか?」


誰かが、話しかけてきた。

顔だけ向けると、そこには同じ制服の女子が走ってきた。

同じ制服という事は、同じ高校かと考えているうちに冷静になった。


小走りで駆け寄ってくる彼女を見て、ホッとした。

足が急に動かなくなるなんて聞いたことない。

それに数分前の寒気の事もあり、正直、ゾッとしていた。

なんて考えていると、足は動くようになっていた。実際はもっと前から動いていたが。


彼女は彼に近づき、しゃがんだ。そして、話しかけてきた。


「あの……大丈夫、ですか?」


優しい声で、話しかけてきた。不思議と、安心出来てしまう声色。心から不安が消えていく様に感じられる。


彼女は、とても綺麗な銀髪を持ついわゆる美少女である。

建物と建物の隙間から入る細い光の線。それが銀髪に当たるとキラキラと光を反射させる。淀みない、銀髪だった。日々の手入れが行き届いているのだろうなと勝手に考えさせられてしまう。

美少女、という言葉がぽっと浮かんでくる程にその顔立ちは美しかった。完璧な造形。言い方を変えるなら、「顔のパーツの位置が完璧」と言った所か。

吸い込まれる様な蒼の瞳。柔らかそうな唇。真っ白な肌。目のやりどころに困る程に美しい造形だった。


いかにも外国人らしい髪の色だが、どうしても外国人だとは思えなかった。恐らく、ハーフではないかと彼は推測する。


(……ん? なんかどこかで見たような……気のせいか?)


どこか見覚えがあった。が、記憶を思い起こすが何処にも見当たらない為、考えるのを止めた。一先ず、今の事を考えようとする。


今の状態では特に大丈夫でない所はない。

というか、『足が急に動かなくなりました』……なんて言っても信じる人などいないだろう。

そう思ったため、


「あぁ、大丈夫ですよ」


と返した。

すると彼女は安心したのか、文字通り胸をなでおろす。


「なら良かったです。怪我しなくて、良かったですね」

「そ、そう、ですね……」


優しいその声を聞いて、綺麗な声だなぁ、なんて考えていると、同じ制服の男子四人と、女子二人が、どうしたの? などと言いながらこちらへ来た。


「あ、じ、じゃあ俺は帰るんで……」


正直、嫌な予感がした。だって、男子四人がなんか凶暴そうだった。なんというか、彼女らの一言で人を平然と傷つけてしまいそうな……そんな気がした。

親衛隊、と言えば想像しやすいだろうか。


嫌な予感しかしなくなってきた。大和は内心ではガチガチと震えていた。


「えぇ? 白百合しらゆりに何の礼も無しで行く気かよ?」


男子の一人に絡まれた。見た目から、恐らくリーダーだろうか。中々のイケメンだけど性格は悪そうな顔をしてる。

これは面倒くさい。こうゆうふうになりたく無かったから逃げようとしたのだ。きっと殴られる。

恐らく、この親衛隊は言葉一つでなんでもしてしまう。先程までは勘でしかなかったが、今ならそう言える確信がある。


それに 白百合 と言うと…………

校内人気女子ランキングの堂々一位だ。


一位、だ。三位や四位ではなく、頂点。


やばい、これはやばい。マジで殴られる。いや、殴られて終わるんならそれはまだマシかも。

心の中ではチワワの如く震えながら、必死に言葉を絞り出そうとする。が、


「おいおい、礼の一言ぐらい言えよ?」


折角言葉を放とうとした時に限って話しかけられる。今回は先程の男の隣にいた、ひょろひょろの取り巻きだった。

……なんか安心できた。大和の震えが少しばかり治る。


断ると更に悪化すると感じた。これには確信がある。だから、礼を言って逃げる事にした。礼さえ言えば文句ない、筈だ。


「ご心配ありがとうございます。僕は、大丈夫なんで……それじゃ」


これでいいだろと思いながら自転車に乗ろうとしたら、急に腕を掴まれて引きずり降ろされた。


「それじゃ、じゃねえだろ!もっと丁寧にやれよ!」


なんて言われたと思ったら、殴られた。気付くとまわりには四人の男子がいた。


何なんだ、こいつら。礼は言ったのに……


と、その時、不意に分かってしまった。そうか、こいつらは俺を許さない気だな、と。よく見ると、制服が違う。


その考えは、見事に正解だった。男共は白百合に話しかけられた見知らぬ男を許す気はまっさらだった。あんなにも近くで白百合と話した事が、自分には無かったからだ。


少しの期待と共に彼は白百合のほうを見てみると、女子二人と何か話している様に見えた。その表情は恐怖の様なものがあった。

これは駄目だなと、感じた。目を、閉じる。


きっと助けはない、そう思った矢先…顔面を全力で蹴られた。鼻から血が吹き出す。


痛い。


「無視すんなよ」


勢いよく蹴られて、コンクリートを転がる。そしてうつ伏せに倒れた。

倒れた所を更に蹴られた。口内を切ったせいか、鉄の味が口一杯に広がる。不快だ。


あぁ、こうなりたく無かったと思いながら、抵抗できないままうずくまることしかできなかった。


暴力。それが終わる事など、恐らくない。なんせ、ここは人通りの少ない道。そこでどれだけ暴力を振るおうが、気付く人などいないからだ。


だが、その時、


ゾワッ……と、また寒気がした。それも…


先程のとは比にならないような寒気が。

例えるなら、蛇に睨まれた蛙。ライオンに標的にされたシマウマ。


彼が背筋に悪寒を感じながら蹲っていると、変な音が聞こえた。


ザンッ


それはまるで刀で何かを斬ったような……いや、違う。切れ味の無い剣で叩き斬られたと言う方がしっくりくる。

途端に蹴られなくなったため、音の鳴った方へと目を向けた。そこには、


胸から上の無い男子が、いた。

血が、噴水の用に噴き出している。


血が、頬に一滴、二滴とつく。


ただ、唖然とした。

なぜ? どうして? 誰が殺した?

そう思った時、また、寒気がした。


後ろを振り返ると、男子生徒の後ろに影の様な真っ黒な何かがいた。それは、全身真っ黒で、顔であろう場所に目のような二つの丸がある。空洞に見える。見た目は、まるで人の様だった。だが、体はうねうねと留まることを知らない様に動き続ける。それに関節を完全に無視して腕が動いているため、人じゃないと理解するのに時間は然程も必要なかった。

影が腕……と言うより鎌のようなものをスッと横に動かすと、


ザンッ…と、音が鳴り、

男子生徒の首から上が無くなる。そして、血が噴き出す。


「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」


男子生徒二人は走って白百合たち女子三人の所に逃げてしまった。だが、男子生徒二人は女子を素通りして、近くの大通りに行ってしまう。


「は?」


彼は、ついそう呟いた。親衛隊のくせに守ろうともしないなんて。


女子三人は尻餅をついてしまっている。

すると影は、女子三人の方へ向かい、


女子一人の顔を吹き飛ばした。


普通なら、叫びたくなるだろう。

だがなぜか、彼は冷静だった。一瞬叫びそうになったが、すぐ落ち着いた。顔色を一つ変えることなく、女子生徒の一人を殺されるのを見ていた。頭が、ゴロゴロとこちらに転がってきた。その目は虚ろにこちらを眺めている。


自分が怖いと、思った。

なぜ、恐怖を感じないのか、と。

そんな時、ある光景を思い出す。

が、すぐに忘れてしまう。


「あれ……? 今、何か……いや、今は……」


こんな事考えてる暇はない、と言おうとした時、残った女子二人は叫んでいた。


白百合はまだ生きていた。なんでそんな事を考えたのかはよく分からない。


殺されたくない。

そう言っているようだと思った。途端に影を、殺したくなった。

自分でもびっくりだ。


けど、目の前の非現実的な光景を打ち壊せるとは自分でも思えなかった。


魔法を使えれば、武器を使えれば、そう思ったがそんなもの無かった。魔法なんて使える訳ないし、武器になりそうなもの等、どこにも無かった。ベルトなら武器になりそうだが、外すのに時間がかかる上に、もしも助けられたとしても後から女子に叫ばれるというオマケ付きな為、すぐに諦める。

彼女などどうでもいいが、だからと言って女子に嫌われたいとは思えない。そんなものだ。


何かないかと考えていると、影が次の標的に目を向ける。白百合だった。

影は腕を伸ばし、あと少しで顔に触れる という所で誰かが影に体当たりをした。


男子生徒だった。それもイケメンの類に属するものだ。先程の親衛隊のリーダーよりもイケメンだ。確か生徒会長を務めていた。


とその時転がる死体の一つが親衛隊のリーダーだったと分かり、何とも変な気分になった。


きっと先程逃げた男子を見て、来たのだろうと、そう思った。

そんな勇敢でイケメンな生徒会長なら物語の主人公になれるのではないかと呑気に考えていた。


だが、例え勇敢でイケメンな生徒会長でも…戦える力が無いのなら主人公になれないのだと、すぐに理解出来た。


生徒会長の体当たり。だが影は微塵も揺るがずにただ、標的を変えただけだった。


生徒会長が影の腕によって吹き飛ばされる。勢いよく壁にぶつかり地面に突っ伏しまう。

壁が大きく凹んでいる所を見ると相当強く吹き飛ばされたのだとすぐに理解出来る。


そしてすぐに気付いた。


……あぁ、そうか、今戦えるのは、俺だけなんだ……と。


不思議な程冷静な頭ですぐに戦える方法を探す。

頭の中でアレはどうだ、コレはどうだと一人で騒ぐ。だが、無かった。何一つとして、自分が戦う為の方法が無いのだ。

見つからない。


(クソったれ!!戦える武器も方法も無いのなら、くれよ!俺に!戦える力を!!)


なんでもいいから、と、心の中で叫ぶ。


そんな時、頭の中に響く。



『そんなに欲しいのなら、くれてやる。使いこなせるかは、お前次第だがな…』



ゴゥ……と、燃え盛る炎が目の前に現れる。その炎は、彼の腕に纏わりつき、腕を溶かしていく……事は無かった。

その炎から熱さは感じない。寧ろ、安心を感じた。


瞬間、彼は 炎を 操った。

全てを焼き払えると思える、炎を。


その炎は、いつの間にか、透明な、影さえも焼き払えると確信出来るほどの熱を、灼熱を、彼の体に まるで鎧の様に 纏わせていた。


ゴウゥ と、まるで生きているかのように、雄叫びをあげて、


それは誕生した。


◇◆◇


数分前…


彼女はふと、誰も通ることのないような細い道を見つけた。だが、すぐに目を逸らした。

当然だろう。誰も通らないような道に用があるはずないのだから。


だが、唐突に ガシャン と聞こえた。まるで自転車だ倒れたような音だった。


彼女はすぐにその音の元へ走っていった。彼女は誰かが怪我をしているのを見るとつい駆け寄ってしまうのだ。



これはある少女の話。


以前、道路に倒れた子猫を助けようとして、車に轢かれかけた事がある。


腕の骨折程度で済んで良かったとよくまわりから言われた。

怪我した理由を言うと、馬鹿か、と言われた。

けど、いくら怒られても平気だった。

命を一つ救えた。そう思う事で、平気でいられた。


それ程に、優しかった。


そんな……話。



彼女は音の方へ走っている途中で、倒れている男子を見つけ、「大丈夫ですか」と言いながら駆け寄った。


だが、その男子は「大丈夫です」と言ってすぐ立ち去ろうとした。いや、逃げようとした。


正直、少し嫌な気分になった。


ほぼ必ずと言っていいほど自分が話しかけた相手はしどろもどろになって次の言葉を探すようにしていた。いつからか、それが当然になっていた。


彼女は自分に自信を持っていた。

自分に話しかけられれば、必ずしどろもどろになるだろうと。

自分に話しかけられること自体が、相手にとってはとても嬉しい事だろうと。


だが、違った。彼は違った。


彼は同じ制服だ。なら私の事ぐらい知っているだろう。そう思って話しかけた矢先、期待を裏切られた。


イラっとしてしまった。自分でもびっくりするぐらいに。なんでこんなにイライラするのかはよく分からない。


自分に興味を持たれない事がこんなに辛いとは思っていなかった。


だから、イラっとしてしまった。

なんで私に興味を示さないの? と。


だから、助けようと思わなかった。


例え男子四人に蹴られていようと。見て見ぬ振りをした。


ーー私に興味を持たなかった罰よ……


そう、自分に言い聞かせながら。

それは間違いだった。

男子四人を止めるべきだった。

もっと、空中に意識を向けるべきだった。


ザシュ と。


悠太郎の胸から上が消えた。


次の瞬間、今度は、 ザシュ と。


皐月の頭が消えた。


ブシュゥゥゥ… と、血の噴水が二つ出来た。

それを見て、体は唐突に動かなくなる。それはまるで、金縛りの様もの。唯一動かせるのは瞳だけ。だけど、その瞳さえ謎の影を凝視したままう動かせない


「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」


途端、男子生徒の残りの二人が逃げた。


待ってと。 待ってくれと叫んだ。

が、声は出ていなかった。ただ、ひゅーひゅー言うだけ。思わず、尻餅をつく。


影がこちらへ来る。そして、自分の右側にいた由香里の頭を消した。

また、血の噴水が出来た。


血が自分に降りかかる。

頭の中が真っ白になった。何も考えられなくなった。

そして自分の目の前には 影。

怖い。けど、なぜか目をそらす事が出来ない。目を逸らしたら、終わってしまう様で……


影が腕らしきものを伸ばす。

怖くなった。

これから、自分は死ぬのだとそう、理解した途端、怖くなった。


失禁してしまう。コンクリートの地面を、濡らしていく。が、そんな事どうでもいい。助かりたい。助かりたい。それしか、頭にない。


涙が、溢れる。溢れて、溢れて、溢れて……止まらない。きっと、今の顔はグチャグチャだろうとすぐ分かる。


その時、一人 来てくれた。助かったと思った。

何しろイケメンな生徒会長だ。助けてくれるだろうと……思った……が、


そう思った矢先、壁に勢いよく打ち付けられて気絶してしまう。

それも相当勢いよく打ち付けられた。が、まだ息をしている。まだ死んではいなかった。


だが、最後の希望の火が、消えてしまった。

そう、感じた。


だが、その火は、まだ消えてなどいなかった。

その火は炎へと姿を変え、そして、


まだ生きれる、と確信出来るほど強い、とても強い透明な炎へとなり、彼女が見捨てた男子に纏わり付いた。生きれる、そう思った。


そこで、彼女の意識は、プツッと、途切れた。


視界が真っ暗になる。


◇◆◇


炎に体を包まれる。

心地よい暖かさだった。


戦える。


そう確信した。

俺はまだ戦える。この炎が使えれば。


不思議と、炎の扱い方は頭の中に既にある。

不思議な事もあるのだな、と思った。が、すぐに考える事を止めた。なぜなら、まず影を倒さなくてはいけないからだ。


「行くぞ……影野郎……!!」


彼は身を屈めた。そしてクラウチングスタートのような形を取り、力を貯めて、


足を踏み出す。


途端、彼の姿が消える。少し遅れて、地面に小さなクレーターが出来る。

影は驚いたように目 (のようなもの)を見開いた。

途端、


影の腕が切り落とされた。それも、両腕を。

直後、影の腕は宙を舞い、空中で塵となって消えていった。


彼の手には、炎の剣があった。見るからに強い熱量を放っているにも関わらずそれを持つ本人は顔色一つ変えなかった。


「グギャァァァァァァァァァァァァ!!!」


鼓膜が破れるのではないのかという程の、汚い叫び。

だが、鼓膜は破れる事はなかった。炎で防いだのだ。

なぜ防げたのかは、不明だが。


《女子二名、男子一名 保護完了 だねっ》


誰かに話しかけられた。彼のは首を傾げるが、すぐ影の方へ意識を向ける。


影はもう死んだも同然だった。相手に背中を見せている時点で殺せと言っているも同然だ。


彼は炎の剣を握り締め、影の背中目掛けて振り下ろす。


途端、影がこちらを振り向いて頭を突き出した。


(口で俺の頭を噛み砕く気か?)


彼の考えは見事に的を射ており、影は口を大きく開き、彼の顔面目掛けて顔を伸ばす。


が、


「遅せぇよ」


手に持っていた炎の剣で、右下から左上に逆袈裟斬り。少し遅れて赤の残像が影の顔を通り過ぎる。そして彼が炎の剣を振り上げると同時に影の顔面がぱっくりと斬られる。

上に振り上げた後、すぐに、体ごと回転して斬る。

影の首を切り落とした。


次の瞬間、影は闇の中に霧散した。まるで砂が風で吹き飛ばされる様に、さらさらと消えていった。


いつの間にか周囲は一層暗くなっていた。目の前の影に集中した所為で気付かなかった様だ。


が、だんだん元の明るさに戻っていった。まるで、朝日が昇っていく時のように少しずつ明るくなっていった。

だがまぁ、太陽はもう殆ど沈んでしまった様で、そこまで日中の様に明るくはならなかったが。


「ふぅぅ…」


彼は、安心した。数名は殺されてしまった。だが、たった三人でも助けられただけ良かった。


だが、礼などこなかった。当然だろう。三人とも、

気絶しているのだから。


それにしても凄い人達だなと今更ながら思った。死を免れた三人は、

一人はイケメン生徒会長 たちばな 蓮司れんじ

二人は女子人気ランキング第一位 白百合こと、天堂てんどう 白百合しらゆり

同じく第二位 佐倉さくら 揚羽あげは


うわぁー、リア充共だー。

リア充爆発しろ。


そんな事を彼は考えた。炎に包まれてからどうも思考がおかしくなった様に感じた。あながち間違ってはいない。

彼……いや、村雨 大和 は。


大和はよく、

「お前ってさぁ、名前だけは、何故かかっこいいよな」

とか言われた。これはしょうがないだろう。親からもらったんだから。




村雨 大和の物語が始まる……





『ん?ヤマトは、そこに寝転がってる奴らを爆発させたいの?』

『えぇー?!そうなの?!マスター?!』


………えっと、誰?


女の子の声がした。それも2つ。


まさか、これからいろんな事が起こるだなんて思ってもいなかった。この場、この時だけの関係だとばかり思っていた。

あの、影の襲来から、俺の物語は始まったんだ。

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