気付いたら神と契約してた。
異世界に行くのは、もう少し後になる予定。
最初は怖いとか思っていたのだが……
えっと……何この状況……?
大和のまわりを走る美少女二人。顔立ちはまだ幼さを感じる。身長は共に一四〇センチ程度だ。
ちなみに大和は一六四センチだ。大和からすると見下ろす形になる。歳は見た目から推測するに十二、三だろう。だが……その年齢にしては図太い精神をしている。
まわりには人の死体があるというのに、彼女らはなんとも呑気に遊んでいる。
一人は、綺麗な白髪をポニーテールにしている。
もう一人は、真逆の黒髪をポニーテールにしている。
仮に名前を一人目を、白髪。二人目を、黒髪としよう。
白髪は、とても長い白髪を持っている。恐らくそのままポニーテールとして纏めなければ背中の中程まではあるだろう。今はそれをポニーテールにしている為、綺麗に纏まっている。そして、白いワンピース姿。 柄はない。
黒髪の美少女は、逆にとても短い黒髪で、たぶんポニーテールを解いても肩の辺りまでぐらいしかないだろう。そして、黒いワンピース姿。
そしてその二人に共通する事がある。それは、白百合に勝るとも劣らない美形の顔だ。だが、まだ幼さが残る為に美しいと言うよりは可愛いに分類される。
あ、可愛い……じゃなかった、 なにしてるのこの人達……
大和は先程からその疑問ばかりが頭を埋め尽くしていた。
先程、大和は影を見事に倒す事ができた。そしてその後、頭の中に突然声が響いた。その直後、白髪と黒髪が現れた。そして現在、無邪気に走り回っている。
「えっと…君たちはな「「どうかした?マスター?」」」
最後まで言わせろよ……
「あー、その…マスターって…なに?」
途中で遮られた為、何を言おうとしたか忘れてしまった。
だがすぐに疑問は浮かび上がる。大和の疑問その一。それは自分がマスターと呼ばれる理由。残念ながら、いや、残念でも無いが大和は所謂、ロリコンではない。攫ってきてそう教え込ませたと言う様なものではない。決して。
白髪が答える。
「え?マスターって…私たちと契約したからだよ?マスター?」
「ふむ……分からん」
どうやら、彼女らは大和と契約したらしい。何の、と言いたい所だが一つ思い当たる事があった。
契約……あの炎を思い出した。
恐らくあの炎を使えたのは、彼女たちと契約したからだろう。そもそも、あんなマジシャン顔負けの炎の扱いを一般庶民ができるわけもない。
それに炎を使えるようになる前に誰かに話しかけられた記憶がある。確か『この力をくれてやる』だとか。誰だろうと思い首を傾げるが、明らかに目の前の二人でない事だけは確かだ。その為、すぐに忘れた。
………………あの声は、おじさんの声だったからだ。
(それよりも、だ。契約したのなら自己紹介しなきゃだよな)
即、行動に移す大和。
契約した事によるメリット、デメリットなどを全く考えない大和はまさしく変人である。大和には昔からこの様な一面があった。それは、人が思い付かない様な事、もしくは思い付いたとしても後回しにする様な事を平然とするという所だ。
普通なら『契約していて大丈夫なのか』等を考えるだろう。契約したらまた巻き込まれるのだろうか。死にまた直面するのだろうか。そんな事を考える、筈だ。
まぁ、人の死体に高校生の時点で耐性がついている事からして、普通では無いのだが。
「えっと、俺の名前は村雨 大和。君たちと契約したんだよな。よろしく」
我ながらびっくりするほど受け入れられている。
なぜだ……まぁ、どうでもいいけど。
ここまで潔く受け入れられるのは大和だからだ。が、それを不審にすら思わなかった彼女らも同類だった様だ。
「「ん!よろしくね!大和っ!」」
……なんだ、これ。
硬直。大和は硬直していた。それはもう、石像の如く。大きな仏様の如く。
言い方を変えると、ガン見。
「「う、ぅぅ、あの……大和ぉ……」」
二人はもじもじしながら大和に向かって言う。
顔は真っ赤だ。
ん?えっ?
そこで漸く自分がガン見しているという事に気付いた。それはもう、遠慮のない視線を与えていたという事に。
いよいよ大和がロリコンだと思われそうになっている、と言うのは置いておこう。
というやり取りが終わり、漸く白髪の挨拶が始まった。
「え、えっと、私の名前は、ブラフマー!創造神だよ!うふふっ、私の武器はブラフマーストラ!なんでも倒しちゃう武器なんだーえへへー」
満面の笑みを向けてくる。
(てか、まじすか……創造神て……そんな漫画みたいな話……しかもブラフマーストラ……それって確か、当たっちゃえば必ず勝つのだとか。因果を捻じ曲げてでも勝利させる究極の武器、だったか)
ブラフマーストラ どんな敵でも必ず滅ぼす事が出来る投擲武器である。まさにチートである。
まぁ、『相手に当たれば』だが。この武器のデメリットは当たらなければ意味をなさない所にある。つまり、避けられたら終わりという事だ。
そもそも、ブラフマーとは宇宙の根本原理を示す『ブラフマン』という思想が神格化した神だ。そしてブラフマーは非常に偉大な神だった。……創造神ですから。
これはどうでもいい情報だが、ブラフマーの一日の長さはなんと80億年を超えるらしい。果てしなく長い時間だ。人間の一生が、成虫となった蝉の一生の如き短さである。
ブラフマーは褒めて褒めてとこちらを見る。見える筈のない尻尾が引きちぎれんばかりに振られている。一先ず頭に手を置く。
どうやらそれでも嬉しそうだ。よかった。
黒髪の挨拶 なぜか初めから満面の笑みだ。
「私の名前はシヴァ!破壊神だよ!破壊神!!」
矢鱈と破壊神を強調したなと思う。
「武器は、トリシューラとピナーカ!三叉戟と、弓だよ!ちなみにー、さっきの炎は私の炎だよー!」
「そっか、さっきの炎は君のだったんだ…ありがとな」
「えへへ…」
シヴァの頭を撫でてやった。嬉しそうだ。可愛……
破壊神……世界を滅ぼす力を持つ神か。
(あー、シヴァの炎というとなんでも燃やすとか聞いたことある。通りであの安心感か。納得した。それに破壊神というと尋常ではない戦闘力があるな。まぁ、シヴァと言えばブラフマーと並ぶ神だしな)
ちなみにシヴァとは、元来はインド周辺を襲う台風が神格化された存在のようだ。台風とは、雨を降らせて、大地に恵みをもたらすものだ。
つまりシヴァには破壊神という一面と、病気を癒す慈悲深い神という側面がある。
なんかすごいな。強くて優しいとか……
とその時これまた漸く気付く。自分の体に傷がない事に。男四人組にリンチにされた時に体の所々から出血していたのだが、それが綺麗さっぱり無くなっていた。
そして三叉戟には、《暴風》《豪雨》《落雷》を操る事が出来る。まさに台風である。
ん?あれ?そういえば…
「そういや、ブラフマー、シヴァ、ときたらヴィシュヌはいないのか?」
実はと言うか、大和は神話好きだったりする。先程までの大和の考えを聞けば分かるだろうが、色々と知っている。
ブラフマー【創造】
ヴィシュヌ【維持】
シヴァ 【破壊】
これが、三神一体論【トリムールティ】である。この三体の最高神が一つとなって世界を創り、維持し、破壊するという一つの流れである。地球で表すなら、現在はヴィシュヌによって維持されていると言う事だ。
「「あー……ヴィシュヌちゃんは……恥ずかしがり屋だからなー」」
「あ、そうなのか。出て来たくなったら出てくればいいとでも伝えられる?」
「「わかった!大和は優しいって伝えておく!」」
少し変わっているが、まぁいいだろう。
(恥ずかしがりやか。いや、それは置いておくとして、確かヴィシュヌの武器はチャクラム と 棍だったかな。そしてヴィシュヌは、アヴァターラと呼ばれる十の姿に変身も出来たな。何になれるかは、忘れた)
大和が思考していると、二人が満面の笑みで大和に話しかけた。
「「ありがとう!大和っ!」」
恐らくヴィシュヌについてのありがとうだろう。
……久し振りだった。大和に面と向かってありがとうと言ってくれた人は。いや、神か。
久し振りの感謝の言葉につい、涙腺が緩む。そして、ぽろりと涙が一つ、コンクリートに落ちた。
「えっ、えっ」
「あ、あのっ、な、何か気に触り、ました……?」
何て優しいのだろう、と、思った。
「こちらこそ、ありがと。ブラフマーに、シヴァ。聞こえているなら、ヴィシュヌにも……」
大和は急いで、涙を拭った。
ブラフマーとシヴァが心配そうに大和を眺めていたが、ぽんと頭に手を置いて、笑顔を見せたらすぐに笑顔に戻った。
と、その時、声がした。
『そろそろ自己紹介終わったなバカどもー』
今度はなんだ……まるで頭の中に語りかけられたような感じがした。いや、頭の中に語りかけられてるという事で間違いないだろう。
直感だが。
それと、雰囲気を壊しにかかるとは……いや、そうとも限らな、
『ちなみに俺は、全・知・全・能!!ゼウス様だ!!あっはっはっはっはっは!!』
前言撤回。
雰囲気を壊す為に来た様だ。正直話したくない。
「なぁ、ブラフマー、シヴァ、倒れてる三人を治療する事は出来る?」
「えっ、あ、う、うん、出来る、よ?」
「わ、私も……けど、あの」
「あの声は聞かなかった事にしよう。な」
「「や、大和がそう言うなら……」」
『待て』
そう言えば、何時からかブラフマーとシヴァが大和と呼ぶ様になっているな。そんな関係になれたと言うなら、嬉しいなと大和は思った。
『待てって』
◇◆◇
なんか凄い言葉聞こえた。確か名前はゼウスだとか…
……いや、ない。あんな声の奴が全知全能の最高神ゼウスであってたまるか。絶対にない。
大和の中ではゼウスとは誇り高き神々の王だったはずだ。女癖があるが、それでも誇り高い……
『返事ぐらいしたらどうだー?ゼウス様だぞー? んー照れてんのかー?』
こいつの名前は……
『なっ?!だ、誰が全能神(笑)だ?!この野郎?!』
「そんな事どうでもいいから早く要件を言ってくれ」
『なっ…どうでも…いい……てか、なんか容赦無いな』
「当然だろ」
と、その時残念な神様は何かを諦めた様にため息をし、大和の質問に答えた。
『はぁ……おい、貴様、要件があるのだろうと言っておったな?その通りだ。我は貴様にある提案がある。
それは…』
大和はごくりと、唾を飲み込む。
なぜかブラフマーとシヴァも唾を飲み込む。多分これは偶然だろう。なぜなら二人は倒れた白百合達の所で治療しているのだから。
そして次に放たれる言葉を聞くため、耳をすます。一言一句聞き逃さない為に。
直感だが、スルーするのは悪いような気がするのだ。いや、スルーはしてはいけないような……そんな感じがする。
『……貴様、異世界に行きたいとは思わんかね? 無論、行くのなら我が貴様に異世界の知識、貨幣を与えてやる。どうだ?』
……? …………??
それは、突拍子のない事だった。
異世界。間違いなく、そう言った。
異世界というと、まず初めに思い浮んだもの、それは当然『スライム』だろう。よくゲームの序盤に出てくるモンスターだ。
次に思い浮かぶもの、それはまさしく『魔法』だ。実際大和は先程魔法を使っているのだが。いや、魔法とは若干違うのだが。
『モンスター』そして『魔法』。
誰でも一度は行ってみたいと、そう思った事があるだろう。そして、こうも思った事あるのではないか?
「……楽しそうだな……」
と。その言葉は大和の口から、無意識に出た。
◇◆◇
「……楽しそうだな……」
大和がそう言った時、三人かほぼ同時に目が覚めた。
三人は大和が平然と立っている姿を見て一瞬、キョトンとしていた。
「「「……え?」」」
そしてすぐに先程の惨劇を思い出し、回りを見渡す。
当然、そこには、まだ生暖かい死体があり、血があり、吹き飛んだ臓器があった。一緒にブラフマー達もいたのだが、目に入る事はなかった。
目の前に、頭がゴロンと、落ちていた。
「うわぁぁぁ?!」
「ひっ……」
「……嘘、嘘……」
大和は平気だった。
だが、『普通』の人である彼らはその酷すぎる状況に耐えられるはずはなかった。
生徒会長は吐きはしなかったが、気持ち悪くなったらしい。手で口を押さえ、四つん這いになった。
残りの女子二人には辛かった。吐いてしまった。
だが、これこそ普通。逆に気持ち悪くすらならなかった大和はもう普通ではなかった。この時、大和ははっきりと思い出していた。あの時の事を……だが、すぐに忘れようと頭を振った。
この思い出こそが、大和を普通から遠ざけている原因は、これなのだ。だが、大和はその記憶を思い起こしたいとは思っていないし、思い出したくもない。
その思い出は、また心の奥深くに沈み込んでいった…
ブラフマーとシヴァは女子二人の背中をさすっていた。こんな時でさえ、大和はブラフマーとシヴァが可愛いなと、優しいなと、思えた。
が、その時。生徒会長、確か名前は蓮司だったか、が声を上げた。
「なっ、なんでこんな所に子供がいるんだ?!」
「「ひゃっ……」」
二人はその声に驚いて大和の元にまで走って行ってしまった。
「お、おい、あんた……その子らは、なん……」
蓮司は大和に話しかけた。だが、答えたのは大和ではなかった。
『大丈夫じゃよ。心配せんでええ』
「だっ、誰だ?!」
『深呼吸をしろ』
「だっ、から!あんたは一体……!」
蓮司はゼウスの言葉を聞いていない様だ。が、
『深呼吸をしろ、と言っている』
ゼウスは拒否を許さない声音で言葉を発した。そして無理矢理に蓮司を落ち着かせる。
『その子らは神じゃよ。心配は無用だ』
と、先程の大和の会話の時と違い、とても優しい声だった。まるで親の様だった。
だが、声の主はゼウスだ。
ゼウスにもこうゆう所があるんだな、と、思った。
まだ蓮司は納得していない様だったが、シヴァが手から炎を出すと一応は、という形で納得したようだった。
◇◆◇
「綺麗な髪だな」
「「うぅ…」」
大和が無意識に言うと、ブラフマーとシヴァが顔を真っ赤にしてこっちを睨んできた。
ブラフマーとシヴァは思う。
この人はこれを無意識に言っちゃうの?!
と。
恥ずかしい事を平然と言われると、例え神であっても恥ずかしくなる。
どうにかして欲しいなぁ……という言葉を声に出せずにいると、
「あはは」
「「〜〜〜〜〜ッ」」
大和はポニテを弄り始めた。本当に、やめて欲しい。
けど、どこか嬉しくもあった。
◇◆◇
大和が二人を無意識にからかっているころ、蓮司、白百合、揚羽の三人はゼウスから説明を受けていた。
ちなみに大和の返答は保留になった。その質問は、「異世界に行くか否か」だ。まぁ、もう大和の答えなんて決まっているのだが。
ゼウスの説明はというと、こんな感じだ。
一つ、大和が魔法で敵を倒した事。
二つ、殺された男子二人、女子一人とまた会う事は可能。だが、それは《死者蘇生》ではなく、記憶を引き継ぐ《輪廻転生》または、《異世界転生》のどちらかしかないということ。そして恐らくどれを選んでも彼らに辛い思いをさせるという事。
その二つだ。
ゼウスが説明を始める前に、三人にこんな事を聞いた。影に襲われた彼らには必ず質問されるであろう事。
返答次第で人生が変わる 質問。
『まず初めに聞いておこう。別にこの質問は拒否しても構わない。答えを決めるのは君たちのする事だからね。
……異世界に行きたくは無いかね?』
どうやらゼウスは、被害者である彼ら三人も異世界へ誘うらしい。
だが……
ゼウスは三人は断れまいと確信を持って言っていた。なんせ、人が死ぬ瞬間、更に人の死体を間近で見てしまったのだ。そのまま元どおりの日常生活を暮らすなど、無理だ。
出来たとしても、それを楽しいと思えるには相当な時間が必要だろう。
◇◆◇
ゼウスは、彼らに拒否権がない事を自覚させるため、次の様な説明をした。意地悪だろうが、それが最善だとした行動である。
例えば。
実は影にはこの様な能力がある。
《視覚共有》
自分の分身体の視覚を能力名の通り、共有出来るのだ。そして、先程の影は分身体である。あの身体能力でも、分身体である。
本体は、もっと強い。
そのオリジナルは、彼ら三人と、大和を《視覚共有》によって「覗いて」いた。
つまり、彼らはもう影に目を付けられたのだ。
もしこのまま地球に住むのなら、きっと影に襲われるだろう。ほぼ、間違いなく。
「自分の情報をバラされる前に情報源を潰さなくては、情報が漏れてしまう」
当然、影はそう考えるだろう。というより、それが基本だ。
影は、彼らを殺しに来るだろう。例え学校であろうと、家であろうと。外国であろうと。地下であろうと。
影は身軽だ。例え空中に居ても、必ず辿り着く。
その事を全て彼らに教えた。
当然彼らの顔は絶望の色に染まるわけで……
そんな彼らにゼウスは、ある希望を与える約束をする。
それはとても単純な事で……




