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二人の線は徐々に近付いていく

「へえ、錬成魔法の才能があるんだ。凄いねウィルくん。色んな才能があって」

「そんなことないだろう。ミオの方がよっぽど凄いと思うが」

「んーん。ウィルくんって頭もすごく良いし、足もすごく速いし、剣だって上手じゃない。わたしは全然ダメだよ。攻撃魔法も少しは上手になったみたいだけど……バカだし鈍いし」

「飛べる方が凄いけどな……俺から見たら」

「こんなの簡単だよお。ウィルくんもすぐにできるようになると思うけどな」

「そうか? じゃあさ、コツとか教えてくれよ」

「うんいいよ! そのかわりウィルくんも、わたしにお勉強教えて欲しいな」

 

 こうして俺は普段の授業に加えてグラジオラスから錬成魔法を習い、ミオから飛行魔法を習うこととなった。

 

 

 俺には本当に錬成魔法の才能があったようで、初回の特訓でゴーレムは動いた。

 作成した人形に命を吹き込めるかの実験だったので、髪の毛を包んだ紙切れをねじって人の形に生成して、念じてみたら本当に動いたのである。二秒ほど奇怪な動きをして「ぱぺぁ」と喋ったあと動かなくなったのだが。

 

「いや大したもんだよ。よっぽど才能がなければ、動くようになることすら難しいからね」

 

 錬成魔法そのものには問題ないようだ。あとはそれの入れ物を作ることに尽力すればいい。その日の特訓が終わった後、分けてもらった粘土を部屋に持ち帰り、試しに人形を作ってみた。

 

 ゼリーのように透明の粘土は、こねると濁っていく。

 三十分ほどこねくり回して出来上がったものは、呪われた木みたいな歪な人形だった。否、人形ですらないものだ。なんだこのマンドラゴラっぽいやつ。こんなものに命を吹き込んだら、ある意味敵に対しては効果的かもしれない。

 

 グラジオラスは美的センスが壊滅的だと思われるが、俺は人形作りゴーレムメイクそのもののセンスが壊滅的だった。

 こんなことになるのなら、前世でフィギュア製作にも着手しておくんだった。

 

 月日が流れても、俺の腕は一向に上がらずに相変わらず歪な物の怪を作り続けた。錬成魔法は上達しているようだが動かそうと思える入れ物は全く完成しない。そうしているうちにカメラ魔法は動画がちょっと立体的になりました。

 

 

「師匠! 俺、もうやめます! 才能なんてないんだっ!」

「どうしたんだ。才能ならあると思うけどなあ」

 

 錬成魔法の才能ならあったようだが、美少女フィギュアどころかフィギュアの定義も満たさないような動き出したら逆に怖いし困るものしか作り出せなかったのである。やばい。

 自分で制作したものでないと錬成魔法は発動しない。土の魔法が熟練しているならば、いくらでも泥人形が作り出せるのだが、俺には土の魔法と言えばちょっぴり地面がぬかるむくらいのものしか繰り出せない。

 どうやら熟練すれば泥人形が作り出せる他にも、土が牙となってせり出してくるものや、防御壁を作り出すものなど存在するらしいのだが、俺は都市伝説だと思っている。

 

「どうせ勇者としては必要のない魔法なんでしょう!」

 

 最早俺には何の希望もない。こうして粘土をこねているのも時間の無駄なのではないかとさえ思えてきた。

 座学の成績が良くても勇者に選ばれるのかは微妙なところであるし、勇者を目指すには、俺にはもう剣に賭けるしかない。幸いにも俺は運動神経はかなり高い方だ。伴って、剣の腕も上位であると思っている。

 一時は熱くなって我を忘れてしまったが、勇者を目指すには剣の修行をメインとすべきなのだ。粘土遊びをしている場合ではない。

 

「バカ!」

 

 グラジオラスは叫ぶと、俺の首を抱えてブレーンバスターを繰り出した。背中を強打して肺から空気が押し出され、むせ返った。普通ここはビンタだろ。

 

「自分の才能をなぜ信じないんだ! ……それに、勇者としても無用な魔法とはオレは思わない」

「ゲホッ! ガフッ! ど、どういう意味ですか」

「その昔、勇者はクレイプマートルに現れたんだ」

「知っています」

「その勇者は……錬成魔法で魔王を倒したんだ!」

「な、なんですってぇー!」

 

 今となってはもう遥か昔。錬成魔法の使い手でも、その中のほんのひと握りの熟練者にしか伝えられていない伝説。古の勇者は人形使いの達人ゴーレム・マスターであり、錬成魔法で世界を救ったのだと。その名残で、クレイプマートルでは今も錬成魔法が盛んなのだと言う。

 ただ、ゴーレムに戦わせて己が剣を振るわなかったのだから、英雄譚としては華が足りない。伝説は長い年月を経て美化して脚色されていき、真実は闇の中へ葬り去られてしまったらしい。だからハニーサックルも錬成魔法は勇者としては微妙なのだと述べたのだ。

 

「さあ修行を続けよう。もう辞めるなんて言っちゃダメだよ」

「はい師匠!」

 

 

 その三日後くらいの座学で古の勇者が錬成魔法の達人だったと再び教わった。どの辺がひと握りの人間しか知らない情報なのか。

 なんでも前回の魔王や手下のモンスターらはえらく巨大だったらしく、それに対抗するには同じく巨大なゴーレムを錬成する必要があったのだとか。

 どこかの鉄人なんとか号よろしく遠隔操作で世界を救ったらしい。それももう昔の話。今も遠方で出没するモンスターは軒並み小型化していて、魔王もそこまで巨大ではないんじゃないかと噂されている。

 なので、ゴーレムに頼らずとも己が剣を振るうべきであって、それこそ勇者として正しい精神で、要は、やっぱり錬成魔法は必要ないんじゃないかという授業でした。

 

 その日の授業が終わると俺は一目散にグラジオラスの元へ赴き、ついさっき教わった内容を述べて抗議した。

 すると、それこそが間違っている情報で、錬成魔法は絶対必要でゴーレムサイコーという演説を聞かされた。

 グラジオラスは多分ただのゴーレムマニアなのだと思う。しかし一応はこの学校の先生である。あまり反抗しない方が良さそうだし、目をつけられたのが運の尽きだと思って俺は修行を続けた。

 

 もう勇者は諦めた方がいいのだろうか。

 

 

 

 飛行魔法の方は、あまり才能がなかったようだが、それでも特訓に特訓を重ね、結構上空の方まで飛べるようになった。ただ、集中していないとバランスを崩して転落してしまうが。

 ミオのように自由自在に飛べるようになるには、まだまだ特訓の必要がありそうだった。

 

 

 こうして特訓の日々を送り、必然的に俺はまだ幼いのに、寝不足がデフォルトになっていった。

 なので、毎朝寝起きに行われる祈祷の時間は仮眠の時間となる。

 祈祷には出席しないと成績に響きそうなので気合で二度寝しないようにする。ちなみに目覚めはけたたましいブザーだ。脳内に直接響く。この腕輪は随分と便利で都合がいいものだ。

 

 毎朝熱心に祈っているのは、祝福持ちの森だからだ。

 魔法を使える条件、「神の祝福」とは、神の存在を心の底――魂から信じていないと具現しないらしいのだ。

 

 俺はこの体に転生する前に、キャバ嬢みたいな神と対面したから、信じるも信じないもなく、事実として受け止めている。俺が祝福持ちなのは、ここに所以があるのだろう。

  

 俺はたまたま死んだ時に、精神的に幼いから、という惨めな哀れみで記憶を引き継げることになったのだ。

 だから、もしも他にも記憶を引き継いで生まれてきた人間がいるのならば、そいつも祝福持ちとなるのだろう。ここはそういった世界だ。

 

 ……待てよ。あの神……何と言っていたか。確か……。

 

「あ、君が轢いちゃった二人も同じ世界に行くから。子供の方は記憶残ってると思うけど、どこかでばったり出会っても喧嘩しないでね」

 

 うわ。

 うわわわわ。

 

 あの少年も祝福持ちの可能性が……これはまた随分と高い、高すぎる、高すぎて確定だ。

 俺は名前も姿もまるで違うのだから、ウィル・ロウ・フォースィジアと小林耕助を結びつけるものはないはず。だからバレるはずがないと安心していたが……もしもあの少年もこの学校に通っていたら。

 いくら生徒数が多くとも、同じ学校に通っているのなら話は別だ。

 祝福持ちなら、どんな魔法を使えるかわかったもんじゃない。例えば……前世を覗ける魔法の使い手だったらどうする。絶対にバレる。

 

 別人だからと安心していたのに、相手が得体の知れない祝福持ちだったらと考えたら、とてもじゃないが安心などできない。

 

 相手に俺が小林耕助だとバレたら……俺はきっと復讐されるだろう。

 

 

 □

 

 

「さあ神に祈りを捧げましょう。そして御霊に神の祝福のあらんことを」

 

 毎朝恒例の祈祷の時間。

 

 熱心に祈ってる子も結構いるけれど、みんな寝起きだからウトウトしている子も多い。そして僕は祈ってるフリをしている。神様は信じているけれど「だから何?」って感じだもの。信じていても祈る気にはなれないよね。むしろ文句の一つや二つ言ってやりたいところだ。僕の生い立ちから考えれば当然だよね。

 

 どうして勇者を育成するのに神様に祈る必要があるのかとも思ったけれど、最近になって魔法は信仰と綿密な関係があるんだと知った。

 

 祝福の強さを決めるのは神様に愛されているか。祝福を持って生まれてくるかは神様を信じているか。とういう説は広く知れ渡っている。

 

 メカニズムはわからないけれど、神様を信じていないと祝福は受けれないんだって言われている。逆に言うと、神様を信じているから祝福が受けられるってこと。僕の場合信じているって言うか、目撃しちゃったんだから仕方ないよね。それが結果として魔法使いになるなんて思いもよらなかったけれど。

 

 祝福持ちかどうかを決められるのは生まれ落ちた瞬間だから、その前の人生で神様を信じていたかどうかってことになる。その後いくら祈っても「神の祝福」が後付けされることはないとされている。

 

 だからこの学校の生徒も祝福持ちの先生も、前世では信心深い人だったんだろうなって推測できる。僕みたいな例外的で反則的なのもいるけれど。

 

 飽くまで一説だし、立証しようが無い事柄だから確かめようもないのだけれど、僕の、前世の記憶を引き継いでいるという類稀なケースから検証してみても、この説は的を射ていると思う。

 

 既に祝福持ちなのにみんなして祈っているのは、今世だけでなく来世でも祝福を願いつつ、さらなる強い祝福を望み、未来の平和と発展を願う意味合いのものだ。

 全然関係ない世界に行くかもしれないって考えないのかなあ?

 

 

 つまり、もしも他の人も僕みたいに神様に直接会って話をするような過程があれば、信心深くなくても「神の祝福」を持って生まれてくるんだと思う。

 

 ……待てよ? じゃあ「あいつ」はどうなんだろう。

 

 僕と愛美さんをトラックで轢殺したあいつ。同じ世界に転生してくると聞いたあいつ。今思い出しただけでもムカムカとしてくるあいつだ。

 

 女神様は僕に恨みを持つなって言ったし、僕も一応は納得した形になった。

 僕との約束通り愛美さんにネックレスを与えてくれて、そのおかげでリリィちゃんが愛美さんなのだと発覚したのだから、そこには感謝している。

 だから僕も、筋としては女神様の願い通り恨みを持たずにいるべきなのだろうけれど、生まれ育った環境のおかげで捨てきれない恨みがどうしてもこびりついて離れないんだ。

 

 父さんに悪意がなくても結果としては虐待と同等の扱いを受けて僕は育ってきたわけだから、これが誰のせいだって言えばあいつのせいだ。父さんに悪意がないとわかったからなおさら、僕のぶつけようのない怒りや恨みはあいつに向かっているんだ。

 

 あいつもこの世界に生まれ変わって、姿形を変えて新しい人生を送っているはずだ。人殺しのくせに、その罪を償うこともなく。そうさ、あいつは罪人なんだ。だから罰があって当然。ほかならぬ僕自身の手で下してやるさ。因果応報とはよく言ったものだね。

 

 となると、まずはあいつを探さないと何も行動を起こせない。学校からは出られないから、学校内でしか探せない。

 同じ世界なだけでなく、同じ国の同じ地方の同じ学校の中であいつを見つけるなんて、確率にしたら天文学的数字になるだろう。だけれど僕には、あいつがすぐ近くにいるような気がした。

 

 

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