第十三話 響きあう心
ドラギルスとインフェルノ・クリムゾンが戦いを繰り広げたあの廃鉱山に、鎧姿の男達が集まっていた。
その中心にいるのは、シルクハットを被ったタキシード姿に長身の片眼鏡を掛けた男、十騎士の一人、"極氷"のガブリエルだった。
「ガブリエル様、ご命令通り魔獣を大穴へ放ってまいりました」
「ご苦労さまでした、これで確実に奴らの命運も尽きたでしょう」
「しかしよろしかったので?あれはサンダルフォン様より託された、王都攻略の切り札のはずでは?」
「私の決定に何か不満でも?」
「い、いえ……そのようなことは」
不快そうに顔を歪めたガブリエルは、言い聞かせるように話す。
「相手は手負いとはいえあの"獄炎"、そしてその獄炎を跡一歩まで追い詰めた"龍神"なのですよ、やりすぎるということはありません、それに龍神の加護を失った魔王軍など、恐れるに足りませんよ」
「は、はぁ……」
そんな時、息を切らせて軽装姿の男が走り込んで来た。
「伝令致します!本隊の編成が終了致しました、いつでも出撃可能です!」
「ふむ、では始めましょうか、魔王軍最後の日をね……」
これから起こる惨劇に心を躍らせ、彼は心底楽しそうに笑みを浮かべながら、進軍を待つ部下の元へと歩き出したのだった。
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それは小さなビルほどはある巨大なライオンだった、しかしそれは俺の知っているライオンと大きな違いがあった、なんと下半身がまるで魚のように鱗に包まれ、後ろ足の代わりに大きな尾びれが付いていたのだった。
「なんだありゃ!?」
「おそらく魔獣、しかもかなり強力な部類に入る物だろうな」
「なんで急に、元々ここに住んでたとは思えないし……」
「聞いた事がある、騎士団が戦力として魔獣を捕獲していると」
騎士団と聞いて、俺達をここに落としたシルクハット姿の男が思い浮かぶ。
「ってことは、あのガブなんとかって奴か!」
「ああ、恐らくガブリエルの仕業だ、ここまで極端な手を打ってくるとは、本気で私を亡き者にしたいようだな」
魔獣の様子を伺いながら、俺達は状況を確認する、手持ちの武器は俺の腕輪とメタトロンの剣のみ、どう考えても、あの巨大な魔獣を倒すには力不足だ。
「ここは私に任せ、ヒロ殿は逃げろ!」
鎧を着込み終わったメタトロンが叫ぶ
「いきなり何を!?」
「私には白兵戦の心得もある、だが貴殿を守りながら奴と戦うほどの余裕は無い」
「そんな……」
悔しいが、彼女の言うとおりだろう、生身であんな巨大な怪物と戦うなんて、今まで普通の生活を送ってきた俺には到底出来っこない。
「安心してくれ、これでも私はセフィロトの十騎士が一人、獄炎のメタトロンだ、あんな図体が大きいだけの魚猫一匹、どうってことはない」
「メタトロン……」
魔獣がもうそこまで迫ってきた、話し合っている時間は無いだろう
「一つだけ、約束してくれ」
「?」
「俺はまだ、君の本名を……メタトロンじゃない君の名前を聞いてない、だから、次に会った時に教えてくれないか、君の、本当の名前を」
正直な所、なんでそんなことを言い出したのかってのは、俺にも良く分からなかった、でもそうでも言わないと、彼女が居なくなってしまうような、そんな気がしたのだ。
メタトロンが本当の名前じゃないって事を俺は確信していた、元々女の子にしては変な名前だなとは思ってたけど、確信に変わったのは、さっきの彼女の言葉を聴いてからだった。
俺の言葉に彼女は少しだけ驚いたような顔をしてから、ゆっくりと頷いた。
「……分かった」
そして、彼女は魔獣に向かって走り出して行った。
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驚いた、まさか、あんな事を言われるとは。
今まで見た事も無いような凶悪な魔獣に対面しながら、それでも私の心は、とても晴れやかだった。
「私の、本当の名前……」
彼には本当に驚かされる、何故だろう、彼に出会ってから、私は私でなくなってしまったようだ。
「彼のためにも、生き延びなければならないな」
魔獣は目の前に現れた鎧姿の私を見て警戒しているようだ、その隙を突いて、火球を奴に叩きこむ。
「獄炎乱舞!」
いくつもの火球が巨体に吸い込まれていく、だが巨大すぎるのか、大したダメージは与えられていないようだ。
煙が晴れる間も無く、魔獣の鋭い爪が連続で襲ってくる。
「くっ」
咄嗟に側面に飛びのいてかわす、そのまま後方に下がりながら次の手を考えていたその時、魔獣の口から、巨大な竜巻が発せられた、これは、避け切れない……!?
「ぐうっ!」
そのまま吹き飛ばされた私は、受身も取れずに硬い地面に叩きつけられる、そして倒れこんだ私に、魔獣の牙が襲い掛かってきた。
「それくらいで!」
間一髪で身を翻して魔獣の顔を蹴って飛び上がり、魔獣の頭上から火球を一点に連射する。
「獄炎連舞!」
そしてそのまま頭部に長剣を突き刺そうとした、が。
「グオオオオ!!!」
突如として至近距離で発せられた魔獣の咆哮に、一瞬動きが止まる、そして180度その巨体を回転させた魔獣の巨大な尾が、私に直撃した。
私は、一瞬何が起こったのか分からなかった、気が付くと私は、洞窟の岩肌に思い切り体を叩きつけられ、そのまま硬い地面に落下していた。
傷を負いすぎたようだ、体が動かない、倒れたままの私から血がドクドクと流れ出していくのが分かる。
「約束、守れなかったなぁ……」
動けない私に魔獣が迫ってくる、そして、止めとばかりにその巨大な腕が振り下ろされようとした、その時。
「させるかあ!」
鋼鉄の巨大な腕が、魔獣を凄まじい勢いで吹き飛ばしたのだった。
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「大丈夫か!」
俺は機体に膝を付かせ、倒れている彼女を操縦席に回収する、酷い怪我だ、腕輪の治癒魔法を試してみるが、専門家ではない俺には、効いているのか分からない
「な…何故その機体が…」
「今朝機体を見たときに、違和感があったんだ、昨日の戦いで壊れた所が治ってるように見えて、でも機体は動かないままだし、俺の目の錯覚だろうと思ってたんだ」
吹っ飛んで見えなくなった魔獣の様子を気にしながら応える、あれで倒してれば良いんだけど。
「メタトロンと分かれてから、それを思い出して、もしかしてと思って機体のところに行ったら……」
「行ったら?」
「信じられない事にまるで新品みたいに綺麗に直ってたんだ、それで乗り込んでみたら、普通に動き出してくれて、助けに来れたんだ」
前々から出鱈目な性能のロボットだと思っていたが、まさか自己修復機能まで持ち合わせているとは、この分だと、動力も永久機関とかなのだろうか?
そんな事を考えていると、さっき吹っ飛ばした魔獣が、こちらに物凄い勢いで突っ込んでくるのが見えた。
「まだ動けるのか!?」
突っ込んできた魔獣を、両手で受け止め、その勢いを活かして、空中に投げ飛ばす。
「これで!」
空中でもがいている敵目掛け、右手から最大までチャージしたインフィニティ・ブラストを放つ、空中で避けられる訳も無く、一瞬で魔獣はあっけなく消滅した。
「よし!」
「やったな……ヒロ殿」
「大丈夫か?」
「ああ、先程からの治癒魔法のおかげで、傷は塞がったようだ」
「そっか、良かった……」
どうやらまた腕輪に助けられたようだ。
そんな時、前触れも無く洞窟全体を大きな揺れが襲った。
「ヒロ殿」
「これは…」
先程の戦いの影響なのか?そう考える暇も無く、突如洞窟の天井が、物凄い勢いで崩れ落ちてきた。
と同時に、機体の足元の岩場もまた一瞬で崩れ去った。
「へっ?」
慌てて機体を飛び上がらせようとするが、上から落下してくる岩石の勢いと量が凄すぎて、まるで身動きが取れない。
「また落ちるのかあああ!?」
俺達はまた、先の見えない深い暗闇の中へと落ちていくのだった……




