第十二話 心通わせて(後編)
「そっちは何かあった?」
「いや、何も……」
メタトロンの協力を取り付け、まず俺達はこの洞窟の探索を開始したものの、目立った成果を挙げられずにいた、そもそもここは何処で、今は何時なのか、それさえも分からないままであった。
探索の結果分かったのは、ここは閉じた空間になっている様で、出口は俺達が流されてきた水脈の上流しかないようだ、という事だけであった。
「どうしたもんかなぁ……」
と途方に暮れていたその時、静かな洞窟に盛大な腹の音が鳴り響いた
「!」
「あ、お腹空いちゃった?俺も腹減ってきたし、そろそろ昼飯にしようか」
「わ、私は腹など空かせていない!」
顔を真っ赤にして反論される
「でも、今」
「げ、幻聴だ!」
幻聴って……
俺は気を取り直して食事の準備を始める、まずは食材集めだ
「雷よ!」
腕輪に念じて、湖の端の魚が集まっている場所に電流を流し、痺れて浮いてきた魚を取る
「炎よ!」
同様に火の準備も一瞬で終わった、探索のついでに集めてきていた木の枝に魔法で火をつけるだけの簡単な作業だ、ついこの間魔王に貰ったこの腕輪が、こんなにすぐに役に立つとは、帰って魔王に会ったら改めてお礼を言わないと……
朝と同じように、メタトロンと火を囲んで食事を始める、これはこれで美味しいけど、やっぱり塩が欲しいなぁ……
そんな事を考えながら食事していると、メタトロンが話し掛けてきた
「ヒロ殿は、その、聞かないのか?」
「聞くって何を?」
「私が何故男のふりをしていたのか……とか」
「聞いて欲しいの?」
その俺の返答に、メタトロンはあっけにとられたような顔になって、暫くそのまま静止していた。なんとなく事情があるのは分かっていたけど、面倒くさそうだから聞かなかっただけなのだが……
「ヒロ殿は、不思議な方なのだな……」
そんな風にしみじみと言われても、俺としては、俺とそんなに歳が変わらないこの子が騎士団の隊長をやっていて、あんなにロボの操縦が上手いという事実のほうが不思議なのだが。
「では、ヒロ殿のことを聞かせてもらえないか?」
「俺のことなんか聴いてもつまらないと思うけど」
「嫌なら仕方ないのだが」
まあ、別に断る理由も無いか、そう思った俺は今までの俺の人生や、こっちに着てからの出来事を簡単に聞かせてあげた。
「別の世界から……」
俺の話を聞き終えたメタトロンは、困惑しているようだった、まあいきなり別の世界からやってきたなんて言われたら当然の反応だが
「信じられないだろ?」
「いや、そんなことは」
「いいって、俺も未だに何でこんな事になったのか良く分からないし……」
そのまま暫く会話が途切れる、何か考え込んでいたメタトロンは、意を決したように俺に聞いてきた
「ヒロ殿は何故魔王軍に手を貸すのだ?別の世界から来たなら、我らに手を貸すという選択肢もあったのではないか?それにヒロ殿はただの人間なのであろう?」
「最初は成り行きだったんだ、でも今は違う、ロボットに乗って戦うのが楽しいってのもあるけど、守りたい人達がいるから」
リーゼ達の顔が思い浮かぶ
「それに、人間だとかどうとか、俺あんまり気にしてないんだ」
「気にしていない……?」
「例えばさ、普通の人間でも生まれつき足の早い人とかいるだろ?」
「それはそうだが……」
「俺はまだこっちに来て日が浅いからそう思うのかもしれないけど、俺にとってこっちの世界に住んでる人の違いってそれくらいの物なんだ」
それは俺の本心だった、最初はまるで御伽噺の住人のような魔王軍の人々に驚いたが、話してみると普通に話が通じるし、親方のように趣味で意気投合する事も出来た。
そう考えれば、こっちの世界の人達は多少姿形が変わっているだけで、あっちの人達と大して変わらないんじゃないか、今ではそう思うようになったのだ。
「そんな考え方もあったのか……」
「メタトロン達は……その、光神教ってのは人間以外の種族を認めないんだろ?そういうの、俺、何て言うか……苦手なんだよ」
なんだかメタトロンの表情が暗くなっているような気がする、しまった、ズケズケ言い過ぎたか!?俺は慌ててフォローする
「あっ、でもでも、別にメタトロンが間違ってるとか、そういうことが言いたいんじゃなくて、その、俺こっちの常識とかに疎いし、そっちの事情も知らないし……」
「私は、私は今までそんな事を考えた事もなかった、ただ言われるがままに教えに従って、ただ強さを求め、名を捨て、女を捨て、ただ神の為の戦士であろうとしたのだ」
「私は今まで、何をしていたのだろうな……」
そう言ったっきり、メタトロンは黙り込んでしまった、俺は、何と言葉を掛けたら良いのか分からなかった。
気まずい雰囲気のまま食事を終え、後片付けをしていたその時、湖のほうから、何か大きな音が響いてくるのが聞こえた
「ん……?」
それが何かを考える暇も無く、音はどんどん大きくなっていき
「なんだ……あれ」
「魔獣!?何故こんなところに!?」
俺達の目の前に、今まで見た事も無いような巨大な獣が、姿を現したのだった。




