第54話:魔造屋メイク③
「はぁ……『以上です』じゃねぇってんだ」
「あなた本当に変わってるわね。自分のことを忘れてるわよ」
「あ……」
そう言われ、仲間の事ばかり考えていて、自分の事を考えていなかったことに気が付いた。
「ふふふ。そこがルークさんのいいところです」
「いや、ここまで来ると短所とも言えるな」
セレナとリズがそう言うと、フリードは「うんうん」と言って頷き、リズの言葉に賛同した。
「投擲しやすいように、肩回りは動かしやすくしてほしいです。あと、ファイターほど筋力がないので、軽い装備がいいです。それと……えっと……」
俺が困っていると、カーニャさんが言う。
「おめぇさんの装備が一番大変なんだ。もっと聞かせろい。殴るときは炎と雷だけか?」
「そうです。石と氷も手に覆う事はできますが、筋力が足りなくて、ろくに殴ることができなくなります」
「ウォーリアーちゃんの石の双剣はあなたがつくったの?」
「はい。でも作るのに時間がかかるし、俺自身は筋力不足で振るえないです」
俺はヘカーテさんに答えながら、地魔術でナイフ状に尖らせた礫を生み出した。
「戦闘で傷を負わせたいときは、こんな感じで刺さりやすくして投げつけてます」
「なるほどな。水と風は?」
「壊滅的です。強めの放水と送風程度なので、攻撃手段としては使い物になりません」
「あらあら。あなたってアンギフちゃんの中でもズバ抜けて個性的ね」
まさかヘカーテンさんに個性的と言われるとは思ってもみなかったな。
そっちの方がショックがデカい。
俺が衝撃を受けきれずにいると、カーニャさんは「なんとなくわかったぜ!よっしゃ!次行くぞ!」と言って隣の部屋に続く扉を開けた。
「ここだ。靴を脱いで、そこに並べ」
俺たちは言われるがまま、並んで次の指示を待つ。
「よし!全部脱げ!」
「え?」
「ええっ!?」
「ん?」
「えっと……」
俺たちが驚きを示すと、ヘカーテンさんが「あなたねぇ。せめて男女は分けなさいよ」と指摘してくれた。
「おおっ!そうだったな!」
カーニャさんはそう答えると「おーい!採寸だ!」と大きな声で指示を飛ばす。
ヘカーテンさんも「ベイビーたち!出番よぉ!」と続く。
すると、ぞろぞろと大勢の人が入ってきた。
「男女で区切れ!目隠しが出来たら採寸開始!」
「「はいっ!」」
「ベイビーちゃんたち!まどろっこしいから、全身くまなく採寸しちゃいなさいっ!くまなくよっ!」
「「かしこまりましたっ!」」
カーニャさんとヘカーテンさんの指示に、それぞれの弟子らしき人たちが切れのいい返事をする。
すぐさま大きな布で仕切りが作られ、採寸開始。
あっという間に下着にされてしまった。
「では始めます。身長176cm」
「はい。身長176cm」
測る人と書き留める人に分かれている。
俺の隣ではフリードが同じように採寸されている。
「す、凄く手際がいいね」
「ああ。ゴウゼンさんのお墨付き。流石だな」
フリードと俺が感心していると、仕切りの向こう側から声が聞こえてくる。
「わっ!ちょ!くすぐったい!」
この声はリズだな。
「あ、動かないでください。胸囲XXXcm」
「はい。胸囲XXXcm」
お弟子さんたちの会話の後、唐突に「XXXcmっ!?」と驚きの声が上がる。
セ、セレナかな?
「う、動かないでください」
「す、すみません」
どうやらお弟子さんに注意されたようだ。
「セレナ。どうしたんだ?」
「す、すみません!あ、えっと、その……お、大きいなって」
リズに聞かれ、セレナが答えたのを聞いてしまい、俺とフリードは思わず顔を見合わせた。
そして気まずそうにフリードが言う。
「こ、この会話って聞かない方がいいよね?」
「あ、ああ。それはそうなんだけど……」
((採寸してるから耳を塞ぐこともできないんだよなぁ))
俺たちがそう思っていると、会話はまだ続く。
「いつも川で水浴びするときに見てるじゃないか。それに昨日の宿の風呂でも」
「あ、いえ……その……数値で表すと凄いなって」
こ、これはある種の苦行だな。
会話が耳に入ってこないようにすることはできない。
ならせめて、入ってきた会話を右から左へと聞き流し、心に留まらないようにしよう。
俺とフリードは、顔を見合わせて頷いた。
数分後。
「よーしっ!終わったな!ご苦労さん!」
「「はいっ!」」
「ベイビーちゃんたち!戻っていいわよ!」
「「承知しましたっ!」」
カーニャさんとヘカーテさんの指示で、お弟子さんたちは部屋を出て行った。
「あん?どうしたんだ?」
「あ、いや。その。ちょっと疲れただけです」
「僕も」
カーニャさんに聞かれ、俺とフリードがそう答えると、リズは「だらしないなぁ」と笑った。
「あら?プリーストちゃんもお疲れね?」
「ギ、才能に恵まれし者と才能に恵まれぬ者の差を思い知らされました」
セレナはそう呟くように答えた。
「ふふふ。これからよ。こ・れ・か・ら」
「そうでしょうか……」
ヘカーテさんとセレナがそう話していると、カーニャさんが言う。
「そうだぜ!作業はこれからだからな!楽しみにしとけ!まぁ三週間もありゃできるだろ!」
「そうね。そのくらいあれば問題ないわ」
その言葉を聞き、俺は驚きの表情を浮かべた。
「なんだ?まさか今日、明日に受け取れるとでも思ってたのか?」
「気の早い男の子はモテないわよ?ケルベロスの素材の加工ってすっごく大変なんだからぁ」
二人にそう言われ、俺は「す、すみません。楽しみでつい……」と答えた。
すると、カーニャさんは俺の装備を見て言う。
「おめぇさんの装備。ダークベアーだろ?楽に勝てたか?」
「い、いえ。死にかけました」
「ケルベロスにかかればダークベアーなんて一撃だ。そんだけ強力な魔物だ。素材も一筋縄じゃいかねぇってこった」
俺はその言葉を聞き、思わず「い、一撃……そんなに強い魔物なのか」と言葉を漏らした。
「あらやだ。あなたケルベロスを知らないの?」
「す、すみません。俺たちが倒したのはオルトロスなんで、ケルベロスは見てもいなくて」
俺がそう答えると、セレナが言う。
「図鑑にはオルトロスの倍ほど大きくて、頭が三つ。それぞれ炎、雷、氷を吐き出す巨大な魔狼だと記載されてました」
「そうよ。それぞれ火炎袋、雷電袋、氷結袋があるの。上手く加工すれば、あなたの手袋にして魔術の威力を高められるわ」
ヘカーテさんがそう言うと、カーニャさんが続く。
「爪は鉄を切り裂き、牙は大岩を砕き、骨や体毛は強靭で斬撃をも弾き返す。ゴールドランク上位かミスリルランクの冒険者が挑む魔物だ」
その言葉を聞き、俺たちは唾を飲んだ。
オルトロスより少し強いくらいの魔物を想像してた。
冒険者で例えるならシルバーランクとゴールドランクの違い程度に思ってた。
俺たちはとんでもなく凄い報酬を受け取ってしまったんじゃ……
「やっと素材の価値が分かってきやがったか」
「そうみたいね。自分たちがどれほどダンテ王に期待されているのかもね」
「は、はい」
俺がそう答えると、カーニャさんは笑みを浮かべて言う。
「素材の持ち味を最大限生かした装備を作るってんだ。心躍らせながら待ってろい」
その言葉を聞き、俺たちは嬉しくなり、顔を見合わせてから「よろしくお願いしますっ!」と言葉を合わせた。




