第3章 第4話 模索
「お兄ちゃん、マリンちゃんから聞いたんだけど、本当に大丈夫なの?」
「自分、あいつに牢にぶち込まれたっすよ」
俺がヴィクターを召し抱えたことを聞きつけ、早速、珠莉とハム太が俺の執務室に押しかけてきた。
「能力的には適任だぞ。そろそろ視察から帰ってくる頃なんだけどな。二人とも自分の目でみてみたらどうだ」
「スイ様が言われるなら仕方ないっす」
「もう!」
「勇者様、ヴィクター・グリムストーンを連れてきました」
ほっぺたを膨らませる珠莉を尻目に、マリンがヴィクターを連れて来た。
カツラとシークレットシューズを着用したのか、ダンディーな紳士に見えるが、俺と目が合う度、びくっとその身を震わせ続けている。
「ちっ」
「ひいいっ」
「おい、珠莉。そんな怖い眼で見るなよ」
「ふん!」
「ヴィクターもそう恐がることないぞ。まずは視察ご苦労。直轄領の様子を教えてくれ」
「はい。そ、それが……村々は黄金米の収穫のために人手を増やしたにもかかわらず、収穫が右肩下がりで逆に人手が余る有様。かなり不満が溜まっています」
ヴィクターはそう言うと、汗を拭いて報告書を差し出した。
「作付けはどうだった」
「農地が増えていますが、収穫高の減少は目を覆うばかりです。今では最盛期の十分の一以下の落ち込みです」
「それでも、水田で普通の米を作ったり、小麦や大麦を作るより収穫は多いんだろう」
「今のところは。しかし、一番の問題は、年を経るごとにどんどん収穫高が減ることです。農民の中には米から麦に戻したいという声も聞こえます」
「そこまでか……」
「勇者様」
「どうした、マリン。何かいい考えでもあるのか」
「今まで申し上げようかどうか迷っていたのですが。これは、魔力の枯渇が原因かもしれません」
「魔力の枯渇って初めて聞いたぞ。一体どういうことなんだ?」
「月の満ち欠けのように、大地の魔力量にも満ち欠けがあるのです。最初に勇者様が来られた頃に比べ、今は大地の魔力がほとんど失われている状態です。黄金米は魔力の影響を受けますので、これが不作の原因に違いありません」
すると、マリンの周りで金色と水色の二色の光の粒が小さく輝き、すぐに消えた。
「このように、精霊さんたちも元気がないのです」
「何とかならないのか」
「大地の魔力を強制的に満ちさせる方法が、ひとつだけあるのですが……」
「その方法、教えてくれ。是非試してみたい」
「わかりました。勇者様がそこまでおっしゃるのでしたら。お教えしないわけにはいきません」
マリンはそう言うと、俺を見据えた。
「勇者様に大地の精霊と契りを結んでいただきます」
「おいおい。相手は実体のない精霊だぞ」
「そのためには、自らの身体を器とし、そこに精霊を満たした女性と結ばれるのです」
「ちょっと待て!」
「勇者様のご決意、このマリンがしっかり受け止めました」
「やっぱダメだ!」
「大陸広しといえども、精霊を身体中に満たす器は、私くらいのものです。仕方ありません。我が王国のため、この清らかな身を捧げましょう」
「しないって!」
「勇者様こそ、目をお覚ましください! これはあくまで、勇者様と精霊の神聖なる契約。私には私情などこれっぽっちもございません!」
「そ、そうなのか……って、そんなので納得できるか! こっちはただでさえ国王を引き受けてんだぞ。何で結婚までしなきゃならんのだ!」
「そ、それは、私だって形の上だけでも結婚式を挙げてみたいですし……」
「おい!」
こいつ、思い切り私情をはさんでやがった。
「コホン」
「どうした? ヴィクター」
「大地の魔力に関することはよくわかりませんが、実は黄金米の収穫量には、村によってかなり違いがありました。たとえばこのようなばらつきが見られます」
ヴィクターが指さすところを見ると、確かに村によって落ち込み方に違いがある。
「農地を増やしたせいか?」
「いいえ。これらの村は、黄金米の合間に地域の特産品である野菜、例えばカブやラディッシュを作っていました」
「なるほど……。連作障害かもな」
「まさか米でそのような」
「混合農業を試してみるか」
混合農業とは土地を複数区画に分け、毎年作物を入れ替える農法である。実際中世ヨーロッパで行われていた農法だ。
「上手くいく保証はないけどな。ハム太、直轄領の村々の代表をすぐに集めてくれ」
「了解っす!」
「そういや、お兄ちゃん。発芽米って、米以外でもできるのかな?」
「米以外か。考えたこともなかったよ」
「なら一度、試してみる価値あるよ。黄金米だけ早く育っちゃったら、輪作もしにくいだろうし」
この後、俺は炊飯器の発芽モードで、色々な種子について試してみることにしたのだった。




