第3章 第3話 ヴィクターふたたび
翌日、国内外に新国王即位の布告がなされた。
各国首脳を招いての即位式はさすがに費用的に無理とのことである。しかも、俺の即位に合わせて、宰相も新しく任じられたのだが……。
「国王様」
「国王って呼ぶな。まだ勇者の方がマシだ」
「いえ、それでは陛下に対して無礼にあたります」
「少なくとも、マリンは俺の呼び名はこれまでどおりにするように。王命だからな」
「えっ。私だけ特別なんて……これはもう、婚約したようなものでしょうか」
「そんなわけあるか! それより何でマリンが宰相になってんだよ」
「先代の宰相は、高齢でしたから。今王宮内を見回しても、私程の人材はいないかと」
「……」
国の政策を担う最高責任者がこんなポンコツ魔導士でつとまるのだろうか。
一応、珠莉はそのまま『差配の騎士』として、王国の近衛騎士団長に。ハム太は俺付きの執事として仕えてもらっている。
「人事も刷新されてようやく我が国も本格的に再始動ですね」
「もっと前から動いて欲しかったわ!」
(それにしても……)
よくよく考えてみれば、先代の国王も俺と同じように勝手に召喚されて、王にまつりあげられ、財政危機を押し付けられていたのか。そう思うと気持ちは分からんわけではないのだが……いやいや、それでも、俺たちは被害者なんだぞ。
思わず、レイ=アルベルトに対し同情してしまいそうになって、俺は頭を振ったのだった。
◆
(くうう……国政を10年もほったらかしにしやがって)
宰相マリンが持ってきた資料は、聞いていた通りの大赤字。はっきり言って、俺が最初に来たときよりも悪化している。
「わかった。税率1割も黄金米の安売り方針も今すぐ撤回する……い、いや、待て」
「はい?」
「まずは、農地の立て直しが先だ。黄金米の視察に行くぞ」
「勇者様、お待ちを」
「どうした?」
「勇者様は今や我が国の国王。軽々しく出向かれては、民も驚きます。やはり王としての威厳が必要かと」
「なんだか、やりにくいな」
「視察には誰か代理の者を遣わすか、村々の代表をお呼びになるかがいいと思います」
「代理の者か……」
信頼できるものと言えば、珠莉とハム太くらいしかいないが、二人とも視察には向かない。誰か適任者がいればいいのだが……。
「そうだ。あいつにしよう。マリン、すぐに行方を占ってくれ」
◆
三日後、玉座に座った俺の前で、一人の男が震えながら、平伏していた。
「いいかげん顔を上げよ。俺は何もお前をどうこうするつもりは無い。安心してくれ」
「ははっ」
この男こそ、元、グリムストーン商会店主、ヴィクター・グリムストーンである。
さっきから、俺が顔を上げるように言っているのだが、体をこわばらせハンカチで汗をぬぐうばかりでひたすら恐縮している。
ダンディーな紳士だと聞いていたが、ちんちくりんのハゲおやじである。
マリンの占いで王都の民家に潜伏していることを特定し、珠莉の近衛騎士団に確保してもらったのだ。どうやら就寝中だったらしい。
「今までのいきさつは、水に流して俺に仕えてくれないか」
「恐れ多いお言葉です……今の私は、ただの破産寸前の元商会主。国王陛下が直接『仕えろ』とおっしゃるなら、這いつくばってでも従いましょう。それに、心臓を返していただいた恩もあります」
「心臓の話はもういい。ただし、裏切ったら今度こそ心臓じゃ済まさないぞ」
「肝に銘じます」
こうして、俺は、元敵商人のヴィクター・グリムストーンを急遽「財政兼復興担当」として登用したのだった。




