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神獣飼いの獣人少女 ~TSして猫耳生えた、猫としか会話出来ない。詰んでね?~  作者: くろぬか
3章

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第61話 街中での戦闘


 事態が一気に悪い方向へと進み出す。

 人攫いなどには注意していたが、まさか街中で矢が飛んで来るとは思っていなかった。

 その為遠方から放たれたらしい矢の存在に、全く気が付く事が出来なかった俺達。

 とんでもない勢いが乗ったその矢はスーの肩に突き刺さり、彼女の体を浮かせる程の衝撃を与えた。

 吹き飛ばされた彼女に慌てて駆け寄ってみれば、両目からボロボロと涙を流しながら苦しんでいる。


 「クソッ、骨まで行ってるなコレは……リリシア! 矢を抜くから治療を頼む!」


 「分かっている! 矢避けに風を起こしているが、相手の技量が分からない! グラベルは周囲を警戒してくれ! 襲撃者の下へはシャームをやった!」


 周辺はリリシアが作り上げた風の壁に守られているが、飛んで来た矢は随分と長い上に重い様だ。

 明らかに特別製、遠距離から一撃で仕留める為の代物。

 “そういう専門家”が相手だと思った方が良さそうだ。


 「な、何が起こったのですか!? ねぇ貴女! 大丈夫!?」


 「護衛の方! この子を抑えて後ろに下がってくれ!」


 イリーゼと名乗っていた少女を護衛に押し付け、此方は矢が飛んで来た方向を睨みながら長剣を引き抜いた。

 どこだ? 全く異常らしい異常が見当たらない。

 姿形も見えないし、距離があって気配さえ感じない。

 まさかもう逃げたのか?

 一撃で仕留められなかったから一旦退く、そういう発想になったと言うのなら相手は暗殺者か何かの可能性が高い。

 しかし何故スーを狙った?

 護衛付きの女の子の方なら、姫様と呼ばれていた事から狙われる理由があるのかもしれないが。

 彼女を狙ったが矢が逸れてしまったのか、それともお姫様に近付く相手を排除しようとしたのか。

 彼女自身と、護衛も取り乱している事から察するに味方ではない様だが。


 「な、なんっすかこの状況は!? 姫様っ!? 大丈夫ですか!?」


 飲み物を買いに走った軽い方の護衛がこのタイミングで帰って来たらしく、買って来たばかりの飲食物を取り落としながら此方に向かって来た。


 「危ないっ! 伏せるんだ!」


 睨んでいた視線の先から、また先程の矢が飛んで来た。

 今度の狙いは、どうやら護衛の様で。

 長剣を振るって飛んで来た矢を撃ち落としてみれば。


 「チッ、今度は魔力が乗っているな……」


 とんでもない速度で飛んで来た矢は、普通では考えられない程の力強さと重さを持っていた。

 たった一本叩き落しただけだと言うのに、じぃぃんと手が痺れているのが分かる。

 それに、リリシアの矢避けの魔術を平然と貫通して来たではないか。


 「うへぇっ!? なっ、なぁっ!? すげぇ!?」


 「早く皆の元へ! 散らばっていると守り切れない!」


 「りょ、了解っす!」


 そんな訳で、皆を一か所に集めて再び剣を構えてみれば。


 「――――」


 「え?」


 いつか聞いた、スーの声。

 何を言っているのかは分からないが、普段とはまた違った言葉を喋っているあの声。

 警戒を解かぬままチラッと背後を一瞬だけ振り返ってみれば、そこにはやはり。


 「またか……リリシア! 何が起きた!?」


 視線を戻しながらスーの近くに居る彼女に声を掛ければ、向こうからも慌てたような声が返って来た。


 「わからんが、また白いスーになった! おそらく腕の治療の為なんだろうが……すまない、さっぱりわからない!」


 そう言われてしまうと、見ていない俺としては更に混乱してしまうと言うもの。

 とはいえ考えている時間は無いらしく、再び矢が此方に向かって飛んで来る。

 しかも、数が多い。

 乱射しているのか、それとも複数人居るのか。


 「厄介な……」


 思わず舌打ちを溢しながら長剣に魔力を通し始めた、その時。


 「――、~~」


 背後から、スーの歌声が聞え始めた。

 その場で治療が始まったのか? だとしたら、此方も矢の一本すら通す訳にはいかない。

 グッと足に力を入れ、飛んで来る矢を睨んだのだが。


 「なっ!?」


 急に十字の光が俺達を取り囲む様に出現し、眩しいくらいに輝き始めたかと思えば。

 此方に向かって来た相手の攻撃を、呆気なく無力化していくではないか。

 十字の光が周辺に壁でも作っているかのように、矢が当たる度コォォンっと高い音が響くと同時に光の波紋が広がる。

 まるで矢の勢いを殺してしまったかの様子で、空中でピタッと静止した矢は数秒後にポロッと足元に降って来た。

 こんな魔術、見た事が無い。

 以前白くなったスーの背後に現れた、あの精霊……だろうか?

 アレがこの壁を拵えたのだとすれば、やはりとんでもない存在だという事なのだろう。

 しかし言葉が通じない以上、全てこの魔力防壁に頼り切って良いのかも分からず。


 「頼もしい限りだが、出来れば抜かれそうな時は教えてくれよ?」


 それだけ言って、改めて長剣を構える。

 何本も矢が飛んで来た事から、大体相手の位置は掴めた。

 この距離なら、そろそろシャームが到着する頃合いだろう。

 だったらそれまで、俺は皆を守らなければいけない。

 何かしら合図を送って来るだろうから、その時に加勢に行ってやれば良い。

 なんて事を、考えていたのだが。

 ズドンッ! という腹に響く音と共に、相手が居るであろう場所に雷が落ちたではないか。


 「……アレが合図、という事はないよな」


 「シャームはあぁいった魔法が使えなかった筈だが……」


 「だとすれば、スーか?」


 「どうかな、分からないが……もう戦闘をする必要はないみたいだ」


 リリシアの声に振り返ってみれば、そこには黒髪に戻ったスーが。

 今では腕の怪我も治っているらしく、大人しくリリシアの腕に抱かれて眠っていた。


 「本当に……何が何だか」


 「とにかく、一度安全な場所までスーを運ぼう。グラベル、悪いがシャームの加勢に行ってくれ」


 「了解した」


 それだけ言って、走り出そうとしたその瞬間。


 「な、な、何ですか貴方達は!? というかこの子はどういう存在なんですか!? 凄い、凄いです!」


 えらく興奮した様子のお姫様が、場の空気と全く合わない大声を張り上げるのであった。

 すまんリリシア、そっちの相手は任せた。


 ――――


 この状況を、どう言葉にしたら良いのか。

 相手が潜伏しているであろう場所に到着する少し前、何故か雷が落ちた。

 しかも、この場所を正確に狙ったかの様に。

 間違いなく魔術師の攻撃、そうとしか言えない光景ではあったのだが。


 「あの威力で……誰も死んで無い」


 民家の屋根が重なり合うかの様に入り組んだ場所、狙撃手にとっては格好の狙撃地点だったのだろうが。

 やけに大きな弓を構える二人組が、その場に転がってピクピクと痙攣していた。

 そして彼らの中央には、恐らく雷が落ちたのであろう焦げ跡と少々の破損が見られる。

 ただ、その程度なのだ。

 普通の雷がこんな場所に落ちたとなれば、大火事になってもおかしくない威力に思えたのだが。


 「とにかく、コイツ等を運ばないと。スーを傷付けたんだ、首の一つでも落としてやりたい所だが……」


 未だ痙攣している相手を蹴飛ばして仰向けにさせてから、彼らが持っていた弓と矢筒を回収した。

 ローブを羽織っている為、まだまだ武器を隠している可能性の方が高い。

 とりあえず手足を縛ってしまうか。

 そんな事を考えて、さっさと拘束を始めたその時。


 『後は頼むぞ』


 「誰だ!?」


 急に背後から声が聞こえ、思わず姿勢を低くしながらナイフを抜き放つと。

 一瞬だけ大きな影が視界の端で動いたかと思えば、隣の建物の屋根の向こうへと姿を消し、その後はタタタッと小動物が走る様な軽い足音が聞えて来るのみ。

 警戒しながら足音が聞えた方向を覗き込んでみれば……コレと言ってそれらしい生物は見当たらない。

 さっきの“何か”が、コイツ等を撃退したのか?

 男性の声に聞えたが、その後走り去る音は人間のソレとは違っていた気がする。

 そして何より、今回も“魔術”なのだ。

 グリフォンの巣から私とスーを救い出したのも、おそらく魔術師だと師匠は予想していた。

 前回城で起こった反逆者騒動の残る犯人を捕まえたのも、また魔術師。

 更には今回の一件だ。

 やはりスーを害そうとする連中に牙を剥く何者かが、彼女の事を守っているのだろうか?

 だがずっと一緒に居る私ですら、それらしい気配を感じないのは何故だ?

 森に居る時も、家に居る時も。

 そして移動している時だって、第三者が居た様には感じなかった。

 だとすると、以前スーが出現させた白い精霊か何か。

 アレに近い存在が他にも居て、そちらもスーを守っているという事なのだろうか?


 「とはいえ、今はこっちが優先か……」


 相手を見失ってしまった事に舌打ちを溢しながら、未だ伸びている男二人の拘束に再度取り掛かった。

 どうしてスーを狙ったのか、根掘り葉掘り聞き出さなくては。

 というのもあるが、コイツ等はウチの子を傷付けたのだ。

 きっちり落とし前を付けて貰わないと。


 「シャーム、無事か?」


 丁度男達を縛り終えた所で、師匠が此方に到着した。

 すぐさま魔術痕を見つけ、彼もまた訝し気な表情を浮かべているが。


 「また、魔術か……」


 「あぁ、しかも今度は雷と来た。私よりも足が速く、師匠にさえ気配を察知されず、リリシアでさえ魔術の痕跡を追えない相手。本当に何が近くをうろついているのか……まだ仲間だと確信を持って言えない以上、気味が悪い」


 「とはいえやはりスーの事を守っている何か、という事は確かな様だ。先程、スーからまたあの精霊が出て来た。攻撃魔法を使った様な雰囲気は無さそうだったから、こちらはまた別の何かなのだろう」


 二人してそんな話をしながら、縛り上げた男達の武装解除を進めていく訳だが……こっちもこっちで妙だな。

 暗殺者の類にしては、装備が多すぎる。

 というかまるで、普通の冒険者の様だ。

 身分証の類は身に着けていなかったので、正確にどこの誰という事までは分からないが。


 「ただ依頼を受けただけなのか、それとも使いっぱしりか。とにかくコイツ等を連れて皆の所に戻ろう……あぁくそっ」


 「どうした? 師匠」


 何やら舌打ちを溢した師匠は、男達のフードを乱暴に取り去ってみたが……コレと言って異常は無い様に感じるのだが。


 「まだ正確な情報という訳では無いが、先程スーと話していた女の子。この国のお姫様だという話だ。そしてその子を狙ったとされる者達が……」


 「人族の弓兵二人……というのが問題なのか。確かに、印象は良くないかもしれない。まだ此方の国の情報が少なすぎるから、何とも言えないけども……し、しかし! 彼女を助けたのが師匠とリリシアとなれば、悪いイメージの払拭くらいには!」


 「なれば良い、な。とにかく皆の所に戻ろう、敵がコイツ等だけだと決まった訳ではない」


 そんな訳で、私達は一人ずつ男を担ぎ民家の屋根から飛び降りた。

 前まで私も人族に対して悪いイメージを持っていた一人だからこそ、どの口がと思われるかもしれないが。

 この状況で師匠やリリシアに悪い目が向くのは納得できない。

 しかし以前の私の様に、極端に嫌っている人物が相手だった場合……正直、希望は薄い様に思えた。


 「何だか、凄く嫌な気分だ」


 「そう思えるだけ、シャームは成長したという事さ」


 師匠は相も変わらず落ち着いた様子を見せる。

 私もいつか、この人の様になれるのだろうか?

 誰かから悪意や敵意を向けられても、手を出さない限りは落ち着いて話が出来る様な大人というモノに。

 スーの前では大人ぶっているというか、姉の様な存在になれる様振舞っているが。

 入国の際の話し合いなどを見る限り、私が師匠の立場であったなら何度も激怒し衝突している気がする。

 それでは半人前どころか、まだまだ子供だというもの。

 思わずため息を溢しながら師匠の背を追って足を動かしていれば。


 「お待ちしておりましたー! 馬車も準備してありますから、どうぞこちらへー!」


 スーに絡んで来た熊耳の女の子が、元気よく此方に手を振っている光景が見えた。

 話によれば、あの子は王族。

 そして馬車を用意したという事は、おそらく向かう先は……。


 「また、王宮……大丈夫だろうか、師匠」


 「こればかりは、わからん。というか、結局目立ってしまったな……」


 二人揃って、今回も大きなため息が漏れるのであった。


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