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神獣飼いの獣人少女 ~TSして猫耳生えた、猫としか会話出来ない。詰んでね?~  作者: くろぬか
3章

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第58話 怖い夢


 「ふがっ!」


 何やら妙な衝撃を受けて目が覚めてみれば、妹の足裏が顔面に叩き込まれていた。


 「馬鹿兄、今日買い物付き合ってくれる約束でしょ!? 私お小遣い使い終わっちゃったから、お兄ちゃんが来てくれないと何も買えないんですけど!?」


 「それは買い物に付き合うって言わない……たかるって言うんだよ……」


 「女の子は色々お金かかるの! たまにゲーム買うくらいしかしてないお兄ちゃんはお小遣い残ってるでしょ!?」


 「こいつジャイ〇ン、マジでジャイア〇」


 「誰がブ〇ゴリラよ!」


 「作品がちげぇのよ、ソレは。むしろよく知ってたなお前。あぁもう、はいはい起きる起きる。誕生日に何か買ってやるって言ったの俺だもんな。ったくもう……あんまり高い物は無理だぞー」


 我が家の狂犬を宥めながら、欠伸をかみ殺してベッドから起き上がり。

 未だギャーギャーと騒ぐ煩い妹にため息を溢しつつ、洗面所で顔を洗ってから鏡を眺める。

 普段通りの行動、だったというのに。


 「……はい?」


 鏡には妹が映っていて、しかも頭から猫耳なんぞを生やしていて。

 なんだ、なんだコレは。

 俺はいつからこんな顔になってしまった?

 前はもっとダンディなイケメン……では無かったが、ここまで妹みたいな顔はしていなかった筈だ。

 確かに周りからは女顔だとか、色々言われていたが――


 「あれ? ちょっと待った」


 鏡に手を触れながら、自らの顔をジッと眺める。

 大丈夫だ、分かる。

 コレは“スー”と呼ばれた少女の顔。

 それくらいは分かる、コレは夢だ。

 だからこそ、もう少しすれば異世界の方で目が覚めて、皆揃っていて、それで……。


 「俺って、“こっち側”だとどんな顔してたっけ?」


 自らの口から零れた一言に、ゾッと背筋が冷たくなった気がした。

 待て待て待て、大丈夫だ。

 夢だから思い出せないだけ、そうだ、きっとそうだ。

 俺の名前は須賀旭、すーがーあーさーひー!

 よしっ! 大丈夫、俺は俺で……ソレで。


 「顔だけじゃなくて、声は? 友達はどんな奴だっけ? 両親の顔は……大丈夫、まだ思い出せる。あれ? 後は何だ? 趣味、そう趣味は? ゲームとか色々あったけど、えっと?」


 思わず混乱し始めた頭を抱えながら、鏡の前で悶えていると。


 「ちょっとお兄ちゃんまだー!? いくら髪型弄っても大して変わんないってば! 余計女の子みたいになっちゃうよ!?」


 なんて台詞を吐きながら、洗面所に妹が侵入してきた。

 そして、俺の顔を見て。


 「――、――?」


 急に、訳の分からない言葉を呟いたのであった。


 ――――


 「うわぁぁぁ!」


 『うぉっ!? どうしたオイ!』


 急にベッドから起き上がったせいで、隣で眠っていたビルを吹っ飛ばしてしまったらしい。

 コレはすまない事をした……なんて思ったのも束の間。

 周りのベッドからは皆揃ってゾロゾロと起きて来る始末。

 やってしまった、俺のせいで皆を起こしちゃった。

 なんて、思っていたのだが。


 「ハッ……ハッ……ハッ!」


 心臓がバクバクと鳴り響き、息が苦しい。

 何だ? さっき凄く酷い夢を見た気がするんだけど。

 今ではどんな内容だったかも思い出せないのに、物凄く怖かったという感情だけは残っていた。

 ボロボロと両目から涙が零れ、ヒューヒューと浅い呼吸を繰り返していれば。


 「スー、――? ――」


 近寄って来たリリシアが、何かを呟きながら抱きしめてくれた。

 彼女の温かさがこの身を包み込むが……何でだろう、全然落ち着かない。

 煩いくらいに心臓は脈打っているし、呼吸がどんどん浅くなっていき、次第に吐きそうになってしまった。


 「ムム、どこ? ごめん、治して……」


 ポツリと小さく呟いてみれば、毛布の中から這い出して来たモモンガすぐさま体をよじ登って来る。

 俺の胸に張り付き、プスプスと小さな声を上げながらじんわりと温かくなっていく。

 前に気を失う前に見たムムが幻でないとするなら、多分コレで何とかなる筈。

 なんて事を思っている間にも、徐々に吐き気は引いて来た。

 流石ムム、お姫様を治してくれた実力は確かな様だ。


 「ごめ、ごめん皆。起こしちゃった……」


 未だ気持ち悪い胸を抑えながら、ケホケホとむせ込みつつ声を掛けてみれば。

 リリシアはギュッといつも以上に包み込んで来て、シャームも心配そうな顔を浮かべて近くに寄って来てくれた。

 グラベルは此方に声を掛けながら、水の入ったグラスを渡してくれる。

 その水を一気飲みしてから、幾分か落ち着いた視線を周囲に向けてみると。


 「スー――、――」


 昨日見た妹のパーティメンバーの一人が、此方に頭を下げながら“隣で”眠っていた筈の妹の襟首を掴んでベッドから引きずり下ろした。

 その際俺の体の上に乗っかっていたらしい妹の脚も撤去され、身体が随分と軽くなる。

 ……え? もしかしてコイツに寝ている間に足乗っけられて悪夢見ただけ?

 だとしたら、相当間抜けな理由で皆を起こしちゃったんだけど。


 『大丈夫か? スー』


 「ん、ビルもごめん。もう大丈夫」


 前脚だけでちょこんと此方に触れて来るビルも、いつもより不安そうな瞳を向けている気がした。

 はぁ……ったく、何やってんだよ俺。

 ちょっと悪夢を見た程度で皆に心配かけて、全員を叩き起こすくらいの悲鳴まで上げて。

 しかも未だに滲み出て来る涙。

 本当にこの身体はアレだな、すぐ泣くなよ。

 男ならもうちょっと我慢しろよと、自らの体に言い聞かせてみる訳だが。

 手の震えが、全然収まってない。


 「はぁぁぁ……何やってんのマジで」


 思い切り溜息を吐きながら、プルプルしている掌を思い切り握りしめるのであった。


 ――――


 「本当に、ほんっとうに申し訳ありませんでした……」


 「いや、うん。こちらの配置ミスもあっただろうから、そこまで気にしなくて大丈夫だよ……」


 必死にペコペコと頭を下げて来るワン・リーシェ。

 結局彼女達はその後宿を取る事が出来ず、四人部屋であるこの部屋に皆で寝泊まりする事になった。

 当然ベッドの数が足りず、俺は諦めてソファーで寝る事を覚悟したのだが。

 どうやら酔って居眠りをした事で心配を掛けてしまったらしく、スーが許してくれなかったのだ。

 ソファーに寝転がろうとすれば叩き起こされ、ベッドに入れとグイグイと押して来る始末。

 諦めてベッドに腰かけてみれば、リリシアも同じベッドへと押し込まれた。

 まぁ俺とリリシアに関しては夫婦だから何の問題も無いが……などと思っていると。

 シャームのベッドはそのままに、残る二つのベッドはどうやら少女パーティに譲る様な動作を見せるスー。

 確かにこれなら二人ずつベッドを使えば解決か、なんて納得した訳だが。

 問題が発生したのだ。


 「ミーは床だな」


 「何で!?」


 「お前は寝相が悪すぎる」


 という事らしく、いつもの問題児が問題視された訳だ。

 本来の部屋の借主は俺たちなので、残る二つのベッドは好きにしてくれという感じではあったのだが。


 「あの……そういう事なら私がソファーで良いぞ? スーは師匠たちのベッドに入ってもサイズ的に問題ないだろうから、三つベッドがあれば足りるだろう?」


 シャームがそんな提案をしてしまい、向こうのメンツが全力拒否。

 流石に借り手の我々がベッドを使わないのは抵抗があったのか、パーティリーダーの彼女がソファーを陣取り、残る二人は一つのベッド。

 問題児はもう一つのベッドを使って良いから早く寝ろと、彼女達のリーダーが怒り始めた所。


 「い、いや……でも、良いのかな? 私だけ一人でベッド使っちゃって」


 「うわぁぁぁ! こういう所で微妙に遠慮するミーが超面倒くさい! アンタ寝相悪いんだから一人で寝なさいよ!」


 もはや完全に面倒くさくなったらしいニーナが、頭を抱えながら雄叫びを上げた訳だが。


 「ハァァァァ……ミヤビ、――――」


 思い切り溜息を吐いたスーが問題児の襟首を掴み、一つのベッドへと放り込み。


 「――」


 「え? 何? どういう事?」


 「――、――」


 「もう寝ろ、とか言ってる?」


 スーは彼女と一緒のベッドに潜り込み、事態を収めて見せた。

 結果的に一人はソファーで眠る事になったものの、やっと決着が付いて皆寝床に入ったのだが。

 翌朝、スーが悲鳴を上げながら目覚めたと言う訳である。


 「本当に、本当にコイツ寝相が悪いんで。多分物凄くスーちゃんに迷惑かけたんだと思います、すみませんすみません」


 「いや、本当にもう良いんだって……元々はスーが決めた事だったしな。それに同じ顔の二人だから、もしかしたら。なんて思った俺にも責任がある」


 俺たちが目覚めた時、スーの小さい身体にはミーの身体の半分以上が伸し掛かっていた。

 抱き着いていたとかではなく、横に乗っかっていたのだ。

 嘘だろ? とは思ってしまったが、アレでは苦しくて悪夢を見ても仕方ないだろう。

 その影響もあってか、小動物達は皆揃ってミーに威嚇しているくらいだ。

 珍しい事に、ビルでさえ「シャー!」と声を上げる程。

 当の本人は全てが終わってから目を覚ました為、「なんで?」とばかりに寝ぼけた顔を浮かべていた結果。

 向こうのリーダーから頭を引っ叩かれ、説教と同時に朝の出来事を教えられると。


 「あぁえっと……ごめんね? 大丈夫? まだ辛いようならまたヒールを――」


 ミーが手を伸ばしてみれば、本気で攻撃しそうな勢いで小動物が威嚇し始め、おずおずと手を引っ込めるのであった。


 「スー、大丈夫かい?」


 未だベッドに座りながらボーッとしているスーの頭に手を置いてみれば。


 「……、――」


 少しの沈黙の後何かを喋り、ニコッと微笑んで見せる。

 ただ苦しかったから夢見が悪かった、程度なら良いのだが。

 今の彼女の様子を見ると、余程悪い夢を見てしまったのだろう。

 それとも、過去に関わる辛い思い出を見てしまったのか。

 とても苦しそうなのに、無理に笑っている様な印象を受ける。

 これまでにこんな彼女は見た事が無い、余程悪い夢だったのは間違いない。

 それがただの夢だというのなら、ここまで引きずる様な子ではない筈。

 だとしたら、やはり過去の辛い記憶を思い出した可能性が高い。


 「大丈夫だ、スー。今は俺たちが一緒に居る」


 「ん、――。グラベル」


 声を返しながら、頭に乗せた手にスーも触れて来るが……まだ震えている様だ。


 「とにかく、仕事を始めよう。このまま部屋に引き籠っていても仕方がない」


 「はい……本当に、申し訳ありませんでした」


 未だ謝り続ける彼女達を見送ってから、俺達はやっと一息つく事が出来た。

 こちらは街中の調査、だからこそ慌てる必要などない訳で。


 「スー、本当に大丈夫かい? まだどこか気分が悪かったり、痛かったりしないか?」


 彼女の前にしゃがみ込んで声を掛けてみれば、スーは困った様に微笑んで見せる。


 「――、――――」


 言葉はわからないが、それでも何となく。

 この子が謝っている気がした。

 気を遣わせてごめんなさいと、無理に笑っている様に思えてしまった。


 「やはり彼女達に、というかあの小娘に部屋を貸したのは間違いだったか? グラベル、今後は相手が若かろうと路上に放り出すくらいの冷酷さを持って――」


 舌打ちを溢しそうな勢いでリリシアが言葉を紡いでいれば、彼女の裾を掴んでニコッと微笑んで見せるスー。

 その行動に続く言葉が出てこなかったのか、リリシアも中途半端な所で口を噤んでしまった。

 本当に、子供というのは大人の感情に敏感だ。

 イライラした時などは、必ずと言って良い程この子が何かしら行動を起こすのだから。

 思わず二人してグッと唇に力を入れていれば。


 「スー、おはよう。もう大丈夫か? 苦しくないか?」


 「――、シャーム」


 「そうか、ならご飯にしようか。美味しい物を今日も探しに行こう、一緒に来てくれるか? “旨い”、を見つけに行こう。スー」


 一人だけ優しい笑みを浮かべたシャームが、スーの手を取って立ち上がらせた。


 「うまぃ、いぅ」


 「行く、だな? それじゃ準備しようか」


 クスクスと笑うシャームに促され、暗い顔をしていた筈のスーが慌てて出かける準備を始めたではないか。

 これはまた……随分とこの子の扱いに慣れたものだ。

 師匠なんぞと呼ばれているが、むしろこういう事に関しては俺達が教えて欲しい程。


 「シャーム、すまない」


 「何、大した事じゃない。元気が無い時は、美味しい物を笑って食べるのが一番だ。私も、この子から教わった事だからな。それから師匠、本格的な仕事は明日からにして今日は皆で出かけないか? 多分その方が、スーも安心すると思う」


 「そうか……それじゃ、俺達も準備するか」


 もう暗い雰囲気は無しだ、とばかりに立ち上がってみれば。

 リリシアもため息を溢しながら自らの頬を叩き。


 「っよし、大丈夫。行こうか、調査なんて言っても行く先も決まっていないんだ。スーの行きたい所に向かわせて、欲しい物はみんな買ってやろう」


 ニカッと、無理矢理作った様な笑みを浮かべながら言い放つ。

 色々と気になる事もあるが、今は呑み込んだのであろう。

 とにかく今は、目の前の事を。

 そしてスーにいつまでも辛そうな顔をさせたくはない。

 それだけは、俺だって同じ気持ちなのだ。


 「よしっ! 今日はこの街の旨い物端から食べていくぞ!」


 「だなっ! 兎にも角にも、スーを満足させてからだ!」


 リリシアと共に気合いを入れて見せた訳だが。


 「師匠とリリシアは、移動中もフードを被ってくれよ? もしくはアレだ、偽耳でも付けるか?」


 そう言えば、そんな制限もあったな。

 今更ながら思い出し、二人揃って溜息を溢すのであった。


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