第57話 少女パーティ
シャームが連れ帰って来た面々と改めて挨拶を交わし、今更ながらしっかりと自己紹介を済ませた。
王宮では何だかんだバタバタしていた為、そういう時間も取れなかったので。
「随分とバランスの良さそうなパーティだな」
「そう言って頂けるのは光栄ですが、一人問題児が混じっていますので、戦闘以外はあまり効率良くありません」
彼女達のパーティリーダーである術師が、鋭い視線をミーと呼ばれている少女に向けるが。
当の本人は早くも話し合いから離脱しており、今ではスーの小動物達の元へ。
他のメンバーからすればいつもの事なのか、呆れた表情を向けられていた。
「えぇと、では改めて調査報告を聞かせてくれるか? “ワン”さん、で良かったんだよね?」
「我々に敬称は不要です、呼び捨てで構いません。私は特に此方では珍しい名前ですから、呼びづらければ家名の方の“リーシェ”と呼んでいただいて大丈夫です」
「あ、あぁ……」
やはり若い子達ばかりだと話しづらいと言うのもあるが、他のメンバーに比べて少々固い雰囲気のあるリーダーの様で。
正直どう対応したら良いのか反応に困ってしまう。
彼女はこの辺りの生まれではないらしく、札などを使う一風変わった術師の様だ。
名をワン・リーシェ。
確かに独特な雰囲気を放ち、来ているドレス? も此方では見かけない物。
随分と深くスリットが入っている作りであり、若い男連中なら思わず目で追ってしまう事だろう。
「ウチのリーダーは普段からこんな感じですから、あんまり気にしないで下さいねぇ? 珍しい名前ですけど、ミーの本名みたいに妙な発音じゃないし気軽にワンちゃんって呼んであげて下さいっす」
「そういうニーナは馴れ馴れしい。年上の方々な上、実力も私達よりも遥かに上。ならば、もう少し敬意を払いなさい」
「私達相手だともっと短文で、不愛想な感じに喋るんですよ? ウチのリーダー」
「話を聞いているのかしら?」
リーダーとは打って変わって、えらく緩い雰囲気を放つ斥候の少女“ニーナ”。
俺としては、こういう性格の方が気兼ねなく子供扱い出来る為多少楽かもしれない。
歳の違いもあって、向こうから距離を縮めてくれる方がありがたいと言うのもあるが。
「何はともあれ、さっさと報告した方が良いんじゃないか? あまり時間ばかり取らせても申し訳ないからな」
少々男勝りな口調で喋る大剣使い、“フォール”。
自分でも「男っぽい名前だろ?」なんて苦笑いを溢していたが、実際はそこまで気にしている雰囲気はなく、パーティの役割もタンクだそうだ。
斥候に術師、そしてタンクが揃って……最後のアタッカーはと言えば。
「何で!? ウチの子はすぐにでっかくなったのに、アンタの所のグリフォンはまだこんなに小っちゃいの!? でっかくなっても可愛いけど、もうちょっと小さいままで居て欲しかったぁぁ!」
スーと同じ顔をした、ミーと呼ばれる少女“ミヤビ”。
とはいえやはり発音が難しく、変な呼び方になってしまう為“ミー”と呼ばせてもらう事にしたが。
そんな彼女は、スーにくっ付いているグリフォンを見て先程から叫び声をあげている。
どうやらアグニ王子の所に置いて来たリーガル同様、彼女に渡したグリフォンも既に巨大化してしまった様だ。
「ちなみに……そのグリフォンはどこに?」
「些か大きくなり過ぎまして、今は馬小屋に預けてあります。ミーに対してはあまり懐きませんが、我々に対しては良く懐いてくれています。良い子にしていますよ」
だ、そうで。
というか馬小屋に預ける程大きくなっているのか。
下手したらリーガルよりも成長しているのかもな。
「まぁあちらの鬱陶しい叫びを上げているのは放っておくとして、お仕事の話に戻りましょう」
「そうしようか……」
そんな訳で色々長くなってしまったが。
やっと仕事の話へとたどり着いたのであった。
しかしこの子達、本当に今日の宿どうするんだろう。
――――
「何か難しい話してるっぽいけど、コイツは混じらなくて良いのかね」
『混じっても邪魔になるからコッチに任されてんじゃねぇの?』
「あ、あり得るわぁ……」
皆揃って何やら会議が始まってしまったので、言葉が分からない俺はベッドに座って大人しくしている。
片やパーティメンバーであるはずの妹は、ウチの小動物を弄り回しながら奇声を上げておられる。
ちゃんと仕事してるのかコイツは?
俺が言えた事ではないのは確かだが、現状ヒモ状態だし。
「――――!」
グリフォンと兎をモフッている訳だが、二匹とも物凄く不機嫌そうだ。
魔獣のモモに関しては唸り声を上げ、兎に関しては度々ダンッ! と音がする程に後ろ足でベッドを叩いている程。
一度モモがグリフォンクローで引っ掻こうとしたので、コラって軽く叱ったら今の状態に落ち着いた。
ほんっと、なんであそこまで嫌われるもんかね。
「なぁビル、妹が小動物に嫌われるのって何で? そんなに触り方が気持ちわりぃの?」
膝の上に乗っかっているブサ猫に問いかけてみれば、ビルは『んあ~?』とか興味なさそうな声を上げながらゴロンゴロン。
今の俺じゃ膝の上も狭いだろうに、器用なもんです事。
『グリフォンに関しちゃ、アイツの魔力だな。デカい魔力を持った奴が近付けば魔獣は警戒するもんだ。リリシアとグラベルにもあんまり懐かねぇだろ?』
「他の小動物に関して言うと?」
ゴロンゴロンするビルの腹をモフッていれば、機嫌良さそうに喉を鳴らし始める始末。
やはり俺にはマッサージの才能がある様だ。
『んーとな……人間で言うとどう言えば良いんだ? ハァハァうるせぇ息を吐きながら、触るぜって雰囲気を前面に押し出して迫って来る感じって言えば良いのか? 俺等みたいなのは、にじり寄られると自然と警戒する訳よ』
「うん、何か分かった気がする。そりゃ確かに気持ち悪いわ」
俺も結構モフッてんのに、こんなに嫌われないよなぁとか思っていたが。
どうやら大前提が違ったらしい。
小動物にとって、妹は巨大な変質者な訳だ。
“向こう側”でも、確かに今の様な雰囲気だったし。
俺が猫を見ても「あ、猫やんモフったろ」ってくらいな所を、妹の場合は獲物を見つけた変態かってくらいに迫って来る訳だ。
そりゃ餌とかあげて機嫌取った所で懐かないわな。
そうなって来ると、グリフォン&兎コンビには非常に悪い事をしている気分になって来た。
変質者に触られてんのに、反撃しちゃ駄目って言っている様なもんだよね。
「モモ、兎。こっちおいで」
思い切り溜息を溢してから一声かければ。
失われた野生が戻って来たのかと言う程の速度で、俺の後ろに隠れる小動物達。
そんなに嫌だったか、スマンお前等。
「――!」
何やら妹が叫んでおられるが、煩い馬鹿。
同じ部屋の中で皆はお仕事の話をしてるんだから、静かにしなさい。
――――
あまり調査は進んでいない、とは言っていたが。
だが期待外れなんて事は無く、やはりメンバー自体は優秀だった様だ。
まず此方の国、昔ながらの“人族排他主義”の様な雰囲気は全体を見ればあまり残っていないらしい。
そこら中で他種族の者達が暮しているし、受け入れている者達も多い。
しかしながら、そういう思考を持った者が一定数いるのも確か。
王族に度々訴えかけたり、まるで宗教の類かという程民に演説している者達もいる様で。
そして悪い事に、貴族の面々にもそういう思考を持つ者は存在するらしく。
そう言った団体がデモ紛いな事をしても、権力者の後ろ盾があり野放しになる事が多い様だ。
兵士達の様子を見るに、人族排他主義の思考を持ち合わせているのは国に関わる人間にもチラホラ居るのだろう。
だからこそ、暴動にならない限りは兵も動かないという訳だ。
こうなって来ると更に相手を探すのが面倒になって来る。
一般市民の中にも“そういう意識”がある以上、組織立って動いている連中には良い隠れ蓑になってしまうのだから。
どうにかそういう組織を探して虱潰しにするか。
もしくは王宮に関わる立場の協力者を得て、内部から探ってもらうか。
どちらにせよ目標となる相手が民間の組織なのか、貴族の様な立場のある人間が動かしているのか。
ましてや王族絡みで動いているのかさえ分からない状況。
非常に漠然とした相手を調査する事に変わりはないのが、辛くも今の状況という訳だ。
「こうなって来ると……地道に長い時間を掛けて調べていくしかないな」
「捕らえられた連中も組織名までは吐かなかった様だし、口にしたところでそんな組織が実在するのかも現地に来ないと分からないとなると、ねぇ?」
思わずリリシアと共に、大きなため息を溢してしまうが。
「やはり私がそういう連中と接触し、紹介を頼むのが一番の近道ではないか? 師匠」
おずおずと手を上げ、シャームがそんな事を言い放つが。
流石に初手からその手は使いたくはない。
あまりにも危険すぎる。
「確かにそうかもしれんが、相手の事がまるで分かっていないんだ。焦って大きな動きをするべきじゃない。もし上手く行っても、シャームが失敗した時俺たちは助けに行けない可能性が高くなって来るからな。それに俺達の仕事は調査だ、戦闘じゃない。内部に入りすぎれば国を出る事さえ難しくなってしまうかも知れない」
「私なら大丈夫だ、と言えれば良かったんだが……すまない」
「シャーム、私達は責めている訳じゃないんだ。コレは全体の流れの話であって個人の実力云々の話をしている訳じゃない。いちいち反省しなくて良い、お前の実力不足だと言っている訳ではない」
俺の言葉にすぐさま謝罪したシャームを、ペシッと叩きながらリリシアが優し気な声を掛ける。
随分と仲が良くなったものだと微笑ましい気持ちにもなるが、今は仕事の話が優先だろう。
「だが最終的にそういう手段を取るかもしれない。そうなって来ると、可能な限りシャームは俺たちと行動しない方が良いな。顔を知られれば、その分後から言い訳が立たなくなる」
「あぁ、そちらのパーティにも獣人が居れば人を分けてもらいたかった所だが……人族のみとなると、現状はそれしかないな。私だけはシャームの方に付くか? 一応エルフだから、角は立たないかもしれない」
「どうかな。昼間の門番を見る限り、あまり期待しない方が良さそうだ。もしかしたら獣人のみで構成された組織であり、王宮に潜入した様な連中は雇われの捨て駒にされているだけという可能性だってあるからな」
リリシアと一緒に頭を悩ませていれば、少女組のパーティから小さく声が上がって来た。
「あの、我々が囮役を務めます。現状でもかなり目立ってしまう行動が多いので、その方が良いかと。それに人族を良く思わない様な組織であれば、我々の様な変に目立つパーティは特に排除対象、もしくは前回の相手同様捨て駒候補となり得るでしょうから。こちらはとにかく目立ち、成果を上げて相手が食らい付いて来るのを待とうかと思います。なのでそちらは可能な限り地道な情報収集と、種族を隠す様な服装を心掛けて頂ければなと」
と、言う事らしく。
向こうのパーティから願っても無い提案を頂いてしまった。
若者たちを囮にするというのは、なかなか気が引ける行為ではあるのだが……。
「ご心配なく、私達も冒険者です。あまり気を遣って頂いてばかりでは格好がつきませんから」
随分と頼もしい御言葉を頂いてしまい、頷く他なかった。
そんな訳で彼女達は成果を上げ目立つ事に集中し、此方は今後とにかく目立たない様にしながら情報収集という形を取る事になる。
これで上手く行くのなら、この上ない好条件。
何よりスーを連れている以上、あまり戦闘に首を突っ込みたくはない。
「では、その様に動こう。しかしやはり万が一を考えてスーとシャームは街中で、仄暗い様な場所は私とグラベルという形で調査しよう。もしも事態に進展が見られなければ、シャームに少し危ない橋を渡ってもらう事になる。それまではスーを連れて、なるべく安全に調査。分かったな?」
「了解だ、リリシア。何だか私だけ街中を歩くだけになってしまいそうだが……すまな――」
「話を聞いていたか? シャーム」
「……了解、いちいち謝罪しても意味はないな。こちらでもそれとなく調べてみる」
「それで良い」
随分とリリシアも師匠らしくなって来たものだ。
クックックと口元を隠しながら笑い声を洩らしてみれば、リリシアから軽い蹴りを貰ってしまったが。
「では、各々行動方針が決まった所で今日はお開きにしよう。また……そうだな。三日後くらいに集まるという事で良いか?」
そう声を上げてみれば、皆静かに頷いて見せる。
若干二名、同じ顔の二人は未だベッドの上で騒いでいるが。
「それで、君達宿は?」
「……これから、ここの宿に相談してみようと思います」
「駄目だったらこの部屋に泊まる様伝えておいてくれ……」
「本当にすみません……」
という事で俺たちの部屋を後にする四人組。
空き部屋、あると良いなぁ……。




