第56話 余分なお土産
「お土産がいっぱいだぜぇ!」
『海老! 海老!』
よく分かんないけど、ギルドで謝ったお兄さんにいっぱい奢って貰っちゃった。
最初は背高くて怖いなぁ、なんて思っていたのに。
いざ和解してみれば、俺のジェスチャー勝負でも伝わる伝わる。
あっと言う間にお土産用のご飯を頂いてしまい、周りに集まっていた彼の仲間達? も御菓子とか色々くれた。
幼女姿ってのは凄いな、見ず知らずの人からだって奢って貰えるのだから。
非常にホクホク顔のままお礼を伝えていれば、職員の方々からペット達のおやつまで頂いてしまった。
冒険者ってすげぇ、皆良い人だ。
「でもまぁ、余計なお土産まで貰って来ちゃったけど」
『結局コイツ等も付いてきちまったなぁ……』
両手いっぱいにお土産を抱えつつ、後ろを振り返ってみれば。
俺とシャームの後ろにはジトッとした目を向ける妹と、そのパーティメンバーが。
お前順調に異世界主人公してるんだろうが、行く先々にイベントキャラみたいに出て来るんじゃないよ。
「これさ、一緒の宿になる流れかな?」
『そうっぽいな、今日の宿決まってねぇとか言ってるぞ』
「最悪同じ部屋って可能性も……」
『あるかもな』
「うへぇ……騒がしくなるぞこりゃ」
思い切り溜息を吐きながら、俺達は妙に大人数になりながら宿へと向かって足を進めるのであった。
――――
「すまない、遅くなってしまって」
「たー、まぁ」
シャームが申し訳なさそうな顔で帰って来たかと思えば、言葉ったらずの声を上げながら大荷物を持ったスーが部屋に入って来た。
もしかしたら、スーが露店の食べ物をねだって遅くなったのだろうか?
なんて事を思いながらクスクスと笑って見せたが、次に顔を見せた少女達により表情筋が固まった。
「随分と……その、なんだ。お土産が多い様だな」
「すまないリリシア。色々あって、その……彼女達が、アーラムからの調査隊の様だ」
「アグニ王子は何を思ってこの子達を……いや、確かに戦闘力という意味では間違ってはいないのか」
思わずため息を溢してしまった訳だが。
「グ、グラベル様が寝てる!?」
若干一名、やけにハァハァしながら此方に寄って来たので。
「“プロテクション”」
「ぶはっ!?」
室内に魔術防壁を張って接触を阻止してみた。
確かミヤビ……だったか? ミーと呼ばれていたスーと同じ顔の少女。
アレくらいの歳なら年上の男が好きだと言うのは理解出来るが、グラベルは年上過ぎると思うのだが。
だというのに、未だに執着してくるのかこの娘は。
些か趣味が特殊なのかもしれない。
「他人の旦那に色目を使うな、小娘」
未だ膝の上で眠りこけているグラベルの頭を抱きながらそんな事を言い放ってみれば。
「なっ! 旦那!? オバサンまさか――」
「ミー、前にも言った、失礼な態度は控えろって。すみません、リリシアさん。先程のこの馬鹿が言った発言、聞かなかった事にして頂けると」
彼女達のパーティリーダーが、非常に不機嫌な顔をしながらミーと呼ばれる少女の頬を捻り上げた。
なかなかどうして、普段なら手綱を握っているという訳か。
「そう言われておかしくない歳ではあるからな、気にはしていないさ。しかし煽り文句として言われると少々イラッと来るが……まぁ良い、聞かなかった事にしよう」
それだけ言って、思い切り溜息を溢していると。
何をやっているんだろう? 何も無い空間をぺたぺたと触るスーの姿が視界の隅に映った。
「色々と事情説明してもらいたい事態ではあるが……その前に。スー、どうした?」
一見おかしな行動をしている様に見えるが、恐らく私の魔力防壁を触って確かめているのだろう。
アレは魔力が多い人間じゃないと、防壁自体を見る事は難しいからな。
彼女にとっては珍しい物だったのかもしれない。
そんな訳で確かめるかの様に魔力の壁を触れて周り、やがて終着点というか“端”を見つけたのか。
やけに周囲に手を振り回して他の壁を探しているスー。
何だろう、まるで周囲を警戒しながら徐々に進んでいく小動物の様だ。
しばらく観察していれば、やがて目の前の一枚以外壁が無い事を確信したのか。
此方にダダダッと走って来て、グラベルの頭にムムを乗せた。
いや、本当に何をしている?
思わず首を傾げてしまう様な光景ではあったが。
「たー、まぁ。グラベル、リリシア」
たどたどしい声を上げながら、彼女は微笑んで見せるのであった。
眠っているグラベルに気を使ったのか、随分と小さな声だったが。
「あぁおかえり、スー。随分とお土産を買って来たみたいだね?」
思わず此方も頬が緩み、彼女の頭に手を乗せてみれば。
「ん……んん?」
流石にここまで騒がしくした上、頭にモモンガを乗せられてはグラベルも目が覚めたらしく。
目を擦りながらゆっくりと起き上がって、ボケッとした目をスーに向けている。
「たー、まぁ」
「おかえり、スー。何事も無かったかい?」
ふにゃっと柔らかい笑みを浮かべながら、緊張感の無い様子でスーの頭を撫でまわすグラベル。
これは随分と疲れていたな?
部屋に新しい客が居る事にも気づかず、更には頭の上にムムが乗っかっているというのに。
「グラベル、そんなに疲れていたのかい? 随分と周囲の警戒が疎かじゃないか」
「うん?」
ボケッとした顔を浮かべ、未だ眠そうな目を周囲に向けたグラベルであったが。
「……」
「おはようグラベル。二人が帰って来た上に、お客様だ」
「ゴ、ゴホンッ! 起こしてくれるのではなかったのか?」
「私も疲れて気が緩んでいたという所かな」
そんな会話をしながらニッと口元を吊り上げてみれば、彼は少々顔を赤くしながら今一度咳払いを溢す。
男だってたまには気を抜いても良いと思うのだが……周りがココまで若い集団だと、確かに恥ずかしい所を見せてしまったかもしれないな。
申し訳ないと思いつつも、随分と熟睡していた彼を起こしたくないと思ってしまったのも確か。
という訳で、やはり笑みを溢しながらグラベルの頭に手を置いた。
が、そこにはムムがしがみ付いていたので肩に手を置く。
「悪かった、私も少しばかり居眠りしてしまった様だ。しかし休む事は大事だと思うが?」
「分かっていて言ってるだろう、リリシア……まぁ良い。それじゃシャーム、説明してもらえるか? 何故彼女達が……って、あぁそうか。アーラムから来たのが彼女達だったという事か。すまない、ちょっと待ってくれ。まだ寝ぼけているみたいだ」
ふぅ……と息を吐きながらグラスに手を伸ばすグラベルであったが。
「グラベル、――? みーじ?」
「あぁ、ありがとうスー。水を貰えるか? みじ、ではなく、水だな」
「みぃず!」
「そうだ、水だ。頼んで良いか?」
生憎と彼が手を伸ばした先に有るグラスは空だった為、スーが早くも反応したみたいだ。
グラベルの言葉を聞いて、パタパタと走りながら水を貰いに行こうと走り出す。
当然彼女だけで宿のカウンターに向かわせる訳にもいかず、シャームも静かに腰を上げた訳だが。
「あっ、ちょっと待った! スー、止まれ!」
声を上げたが……遅かった。
ガンッ! と派手な音を立てて、スーが見えない壁にぶつかってしまったのだ。
不可視の魔術防壁、プロテクション。
解除するのを忘れて、そのままだった……。
「スー! すまない、大丈夫か!?」
ひっくり返った彼女を慌てて抱き起してみれば、額を抑えながら涙目を向けて来るスー。
「ごめんよ? 大丈夫かい? 今治癒魔法を……」
「ったく、何なのアンタ。本当にどんくさいわね」
ミーと呼ばれた少女が私の魔術防壁を避けて近寄って来たかと思えば、スーの額に人差し指を当て。
「“ヒール”。どう? もう大丈夫でしょう?」
やけに呆れた様子を見せながら、いち早くスーの治療をして見せたではないか。
これまでの彼女の様子からすれば、とてもでは無いが信じられない光景ではあったが。
「? ――、――ミヤビ」
「相っ変わらず何言ってんのかは分からないけど……どーいたしまして。今度から気を付けなさいよ?」
そんな言葉を言い放ちながら、ミーという少女も呆れた笑みを浮かべて見せるのであった。
――――
「治療も出来るのかアイツ、すげぇな」
『器用貧乏って知ってっか? まさにそれだな、お前の妹は』
「むしろ猫がそんな言葉を知ってる事に驚きだよ」
なんて会話をしながら、シャームと一緒にカウンターへと水を貰いに歩いた。
此方の世界、綺麗な宿に泊まらないと水道が無いのだ。
排水はあるのに。
まぁ当然か、身体洗った水とかその辺に捨てられても困るしな。
そんな訳で、今回の宿は水道無し。
非常に面倒くさい、いちいち水を貰いに行かなければいけないのだ。
などと思っている内に。
「――――」
「――」
カウンターにたどり着いてみれば、シャームが金銭を支払ってから水の入った容器を受け取っているではないか。
有料!? とか思ってしまったが、確かに水道を付けない程だったらそうなるのか。
今受け取ったヤツはでっかいデキャンタみたいな代物に水が並々と注がれている訳だが……大丈夫なんだろうな?
適当に汲んで来た水とかだったら、グラベルがお腹下しちゃうかもしれない。
とかなんとか思いながらジッと水を睨んでいると。
「――、――――?」
宿屋の人が、困った顔を浮かべながら何か変な葉っぱを見せて来た。
なんだアレ、茶葉?
『あれが消毒用の薬草なんだと。それに火を通してあるから安心して飲めって言ってんぞ』
「あ、結構ちゃんとしてるんだ」
実際それだけの処理で水が安全なのかは、俺にはよくわからんけども。
“向こう側”と同じ様な基準で考えてたら、なんも食べられないし飲めないもんね。
猫通訳を経て、内容を理解した俺はペコッと頭を下げてから来た道を戻る。
酔っぱらっちゃったらしいグラベルの為に水を貰って来ようとしたのだが、運んでいるのはシャーム。
これ、俺付いて来ただけじゃね?
プラプラと歩きながら帰り道を戻って行けば。
「あれ? そうなると風呂とかどうなんの?」
『知らんけど、冒険者って奴は何日か風呂に入らないなんて普通だって聞いた事あるぜ?』
「絶対嫌だ! 風呂入んないままベッド入るのとか俺ホント無理!」
『おっまえ……ホント潔癖だよな、風呂もなげぇし。野生じゃ生きていけねぇぞ?』
「野生じゃなくて家で住んでる生物だから良いの!」
良く分からない言い訳をしながら悶絶してみた訳だが。
ちょっと待てよ? 野営って程でも無いのかもしれないが、移動中テント生活は普通にあった。
その間は、リリシアが魔法で出してくれたお湯で体を洗っていたのだ。
という事は、何。
俺が水買いに来たのって、単純な無駄遣い?
リリシアに頼めば普通に水出してくれたじゃん。
馬に乗っての移動中は、彼女が作ってくれた魔術水を普通に飲んでいたのだ。
だったら、わざわざ買う必要など無かったのでは?
や、やっちまった……。
宿に入ってから水道が無い事に気付いた俺は、身振り手振りでグラベル達に問いかけた。
その結果。
『宿の奴に言えばくれるってよ』
なるほど、水はカウンターで貰って来るのか! 異世界あるあるだな! なんて、ビルの通訳に納得していたのだが。
まさか金を取られるとは思っていなかった。
排水溝はあるのだ、だったらリリシアに水出してもらえばよかったじゃない。
飲み水から体を洗う水まで、いつでも安心リリシア水で良かったモノを。
とくに何も考えずカウンターに足を運び、宿屋のおっちゃん水を部屋に持ち込もうとしているのだ。
完全な無駄遣いである。
こちらの金額設定はよく分からないが、このお金で他の美味しい物を買えば良かったのに。
せめてコイツは妹に飲ませて、俺たちはリリシアの天然水を頂く様にどうにか誘導するか?
なんて事を考えている間にも部屋に到着してしまい、グラベルはとても良い笑顔を此方に向けて来る。
「ビル……グラベル怒ってる?」
『はぁ? いや、別にそういうのは無さそうだが』
本当に? 俺無駄遣いしてきたけど。
有能な奥さんが水出せるのに、俺は知らんおっちゃんから水貰って来ちゃったけど。
ビクビクしながら視線を投げかけてみれば、何かを言いながらカップを此方に向けて来るグラベル。
えっと、はよ寄越せって事なんだろうか?
シャームからでっかい容器を受け取り、ヨタヨタと彼の元へ走り寄ってからコップに水を注いでみれば。
「スー、――」
何やら呟いて、コップいっぱいの水をゴクゴクと飲み干した後。
ふぅと息をついてから、柔らかい微笑みを浮かべて頭に手を置かれた。
よ、良かった……今回の無駄な出費は無事許されたらしい。
純度百パーセントの天然水を作れる奥さんが隣に居るのに、コンビニでどこぞの天然水を買って来た様な状態だったろうに。
「セ、セーフ……」
『どした?』
とりあえずグラベルが満足するまで、貰って来たお水を彼のコップへと注ぎ続けるのであった。
疲れてたっぽいし、お酒もいっぱい飲んだからね。
リリシア水で無くても良いなら、飲みたまへ。
せっかく買って来たからね、普段と違うお水を堪能してくれれば幸いです。




