誕生日前夜よりももっと前からの下準備
サブタイトルは色々悩んだ末にこうなりました。
何か、他にも良いタイトルがあるような
気もしますが、思い付きませんでした。
毎回タイトルにどうしても悩んでしまうのを
自分でもどうにかしたいんですが、
なかなか如何ともし難いです…。
なお、途中に料理長の生い立ちや独白などが
含まれているのでご了承下さい。
夏期休暇が終わる時と言うのは、地球の日本換算でも夏休みが終わるのと変わらない感じかと思われがちだが、私が通うフィーリルトン学園では夏期休暇は60日となっているので、割と長いように感じる。長いからと言って途中でだれたりとかはない…筈だ。まあ、私はまだ今年10歳になるくらいだから、休みが長すぎてだるくなったりするのはまだまだ先の話になるんだろうな。
ラピスラズリの月の15日、今年も夏期休暇明けの始業式が多目的ホールで行われていた。いや、去年もそうだったんだけど話す機会がなかっただけだ。コンラード理事長の有り難いお話と、担任のクレメント先生からの新学期に関するお話があり、それが終わればそれぞれ教室へと戻って行く、と言う地球でも見たような光景が広がっていた。違いがあるとすれば、よく校長先生の話が長かったり、つまらなかったりで居眠りしてしまう生徒を見かけたりする、と言うものをほとんど見かけない事くらいだろうか。まあ、理事長の話が凄く面白かったり、ためになったりしたのか?と聞かれたら、微妙な所なので、そこは想像にお任せしたいと思う。
教室に戻った私たちはクレメント先生に明日から始まる新学期についての簡単な説明を聞き、ホームルームが行われた後に解散、と言うスケジュールだった。これも大体地球の日本とそう変わらないような気がするけど、そこはあまり気にするような部分ではない気もするので、気にしない事にして、何時ものようにオルテンシア様とカトリーナ様と一緒に他愛もない話をしながら、帰る為に馬車へと乗り込んだ。学園の前からは、それぞれのお屋敷から迎えに来た馬車で帰るので、概ね何時も通り…いや、帰る時間が少し早いのが違いと言えば違い…かもしれない。まあ、始業式なんてまた来年も再来年もあるので、ここまで深掘りする必要とかあるのかな、とも思ったけど、これはこれで異世界の学校はどんな感じなのかが伝わるだろうから、意味はある…筈だと思いたい。
早めに帰宅した私は、明日から始まる新学期に備えての準備をしてから、読書に勤しむ事にした。始業式でも、学園にある図書館は開いていたので借りてきた訳だ。今回は、ティシュヴァンフォーレにおけるパンの歴史に関する本だった。何故それを借りたかと聞かれれば、来月には私の誕生日があり、フォルトニア様から食パンのレシピを貰える時でもあるからだ。日本では食パン、と呼んでいるが、本来はパン・ド・ミー、と言う呼び名が元々海外と言うかフランスでそう呼ばれているらしいので、似たような呼び名になるか、同じ呼び名になりそうな気はする。大きな長方形の型でパンを焼く風習がない可能性もあるし、そこはタールベルク家の料理長とよく話し合う必要があるかもしれない。私は料理長と普段そこまで話をした事がないと言うか、いつも料理は美味しいので、ヘラルダやファニタにお礼を伝えて欲しいと定期的に言っているくらいしか、接点がない。
以前に、話したのは多分だけど誕生日の時に一度だけ顔を出してくれて、いつも美味しい料理をありがとう、って言ったら照れたように笑っていた事があったくらいだろうか。つまりは、一度しか話はしていない、と言う事になる。これはもう少し話をしてみないといけない、と思い立ってヘラルダにまずは相談してみる事にした。
ヘラルダは珍しい事もあるものですね、と笑って料理長と話せる機会を作ってくれる運びとなった。貴族の令嬢としてああだこうだとかは言われなかったので、まだ許容範囲内なのだろうか。そこはヘラルダやソーニャ達にしか判らない気もするので、気にしないでおこう。もちろん、料理長と話がしたい理由については、流石にフォルトニア様からの話をそのまま話す訳にはいかないので、普段からの美味しい食事へのお礼や何が食べたいのかのリクエストなどの話がしたい、と言っておいたので怪しまれてはいないと思う。多分だけれどね。
オパールの月まで後7日くらいになったある日、ヘラルダが話せる場を設けてくれた。普段は空き部屋だが、たまに新しく雇った使用人やメイドさんと面談する為に使われたり、ハインリッヒが商談の時に使ったりする臨時の為の部屋だ。要するに、急に用事で部屋が必要になった時に使われている部屋なので、特別な部屋とかではない。椅子と机があって、客室よりは少しシンプルな部屋には、料理長であるリカルドが先に席へと着いていた。リカルドは、前に料理長だった人から見込まれて副料理長から料理長になった人だ。前の料理長は年齢もおばあ様くらいらしいので、体の負担を考えて後進に道を譲った…と言うのはハインリッヒとヘラルダから教えてもらった。リカルドの年齢は27歳くらいらしいけど、若輩者と言う感じもなく、褐色肌に少し濃いめのアイボリーの髪色をした背の高い男性だ。少しいかつい顔をしているから、不機嫌そうに見えるが機嫌が悪い訳ではなく、生まれつきそう言う顔をしているせいでそう見えてしまう、と他の料理人やメイドさん、使用人も本人から聞いた、と言っていた。まあ、私はあまりそう言うのは気にしない方なので、気になったりはしなかったんだけどね。そこは人それぞれなんじゃないかな。
折角ヘラルダに機会を作ってもらったのたし、きちんと話をしよう、と私は向かい側に座るリカルドへと向き直ると、どこか緊張した面持ちでいる姿が目に映る。…ヘラルダ、どんな話があると言って呼んだのだろうか…?まるで、何か彼に落ち度があるから呼んだ、みたいな雰囲気になりかかっているのは、正直困るんだけどな。
【リカルド視点】
アムルーシュにある公爵様の屋敷で働いている、と聞けば大体の奴からは羨ましがられるってのはよくある事だ。働いてる、って言っても使用人とかそう言うんじゃなくて、厨房での仕事だ。昔の俺からすれば、こんな立派な屋敷で料理人として仕事をする事になるだなんて、信じられなかっただろうな。そう思えるくらい、今の仕事は恵まれてると思う。今から7年前、俺はこの公爵家の所有する森で代々猟師を生業にしてる家に生まれたから、俺自身も猟師になって仕事をしていた。そんな時に、たまたま仕留めた獣を買い取りたい、って話を持って来たのが俺の前に料理長をしていたニコライのおやっさんだ。年齢を感じさせない雰囲気かあるってのに、作る料理は繊細なものが多くて、あんな細かい仕事が出来る奴は今まで見た事もなくて、森と近くの村くらいしか知らなかった俺の世界を広げてくれたのも、おやっさんだった。面と向かってそう呼んだら、よく怒られたけど、悪い気はしない、って言ってたのも嬉しかった。猟師として狩った獲物を捌いたりくらいしか出来なかった俺に、1から料理を教えてくれて、それ以来、猟師じゃなくて、料理人を目指してみるのも悪くないなって思ったのもその時だ。親には悪いとは思ったが、きっちり話を通してから、俺は料理人になりたくてニコライのおやっさんに弟子入りを申し出た。結論から言えば、多少渋られたが、見習いとして厨房で働く事になったのも、考えてみりゃ7年前だ。そうして、必死に努力を重ねて、何時しか副料理長なんて肩書きまで貰うようになる頃には、おやっさんも足腰に限界が来てたみたいで。俺が副料理長になった翌年には隠居生活をする、って言うんで、屋敷からそう遠くない家で静かに暮らしている。悪い病気とかって訳じゃなくて、単に年齢が年齢だかららしいのは、まだ良かったのかもしれねえな。んで、俺が料理長になっての初仕事が、この屋敷のお嬢様の誕生日パーティーの料理だった。ちょうど9歳になるって聞いたが、その歳にしちゃあ利発なお嬢さんだった、ってのが第一印象だ。俺はここで働き始めてから…って言うか、薄々気付いていた事だが、あまり顔つきは良い方じゃない。いかつい顔だから、メイドにびっくりされる事も少なくない。それもあって、あまり人前には出ないようにしてたんだが、初仕事だから、って言うんでヘラルダの姐さんとハインリッヒさんに言われてお嬢様に挨拶だけする事になったんだ。その時、ミレーナお嬢様は俺を見て怖がりもせずに笑顔で礼を言ってくれた。凄く美味しかったから、また作ってね、だなんて言われたら料理人冥利に尽きるってもんだ。それから、話した事があった訳じゃねえが、お嬢様に何か失礼な事とかは全くした覚えもなかったってのに、ヘラルダの姐さんから「ミレーナ様からあなたにお話があるそうですよ。大事な話だそうですから、しっかりとお話を聞く事です。」なんて言われたもんだから、一体何の話なんだ…と身構えたくもなるってもんだ。前に座るお嬢様は不機嫌には見えないが、話の中身がどうか良い内容である事を願うしかないんだろうな。
ヘラルダからの伝え方がどうあれ、私は料理長に不平不満とかがあって話をしに来た訳ではない、とリカルドにちゃんと伝えようと会話を切り出した。
「リカルド料理長、今回お呼びしたのはあなたに落ち度があるような話ではありません。普段からのお礼と、近いうちに何か作って頂きたいものがあるかもしれないので、しっかりとお話をしたくて…ヘラルダに頼んだのです。」
「……そうですかい。お叱りとかじゃないなら、俺も安心しましたぜ。」
リカルドはあからさまに安堵した表情で苦笑いしながら返事をしてくれた。うん、やっぱりヘラルダの伝え方に問題があったんだね。多分だけど。料理長はいわゆるちょっとこわもて気味な顔だけど、話してみると気の良いお兄さんなのだと言うことがよく判る。27歳ならまだお兄さんの範囲内の筈…だよね?まあ、ちょうど無精髭もあるし眉間にシワもあるから、老けて見えるけど、それは口にしてはいけないと思ったので口にはしなかった。
その日は料理長と色んな話をして、気が楽になったのを実感しながら一日を終えた。ラピスラズリの月もそろそろ終わりだな、と考える頃にはヘラルダやハインリッヒに許可を貰って料理長と話す日が増えて行っている事に気付く。自分でもこんなにたくさん話が出来る異性の人なんて、お父様やフェリクス兄様、ジュスティーノやルシウス以来だな、とは思ったけど、異性とも友情が成立すると私は考えているので、年の離れた友人が出来たのだ、と、認識する事にした。誕生日までの日数は少ないが、今年はいつもよりも楽しみが大きいな、とカレンダーを見て呟きながら、夜も更けて来たのでお風呂を済ませて寝る準備をしよう、と自分の部屋からソーニャに付き添われて浴室に向かった。しっかりお風呂で暖まった私は、今夜もぐっすりと眠れそうだ、とふかふかのお布団に包まれて眠気の到来と共に目を閉じた。
はい、そんな訳で主人公の誕生日まで
まだ行きませんでした!
まだ話の中では9月下旬くらいですが、
現実ではもう立冬を迎える時期になりました。
本当はもっとサクサク書けたら良いんですが
難しいものです…。
今回、主人公と料理長が話をするって
言うので設定とか考えて好きに書いたら
ちょっとイケオジに片方足を突っ込み
かけているちょい悪なお兄さんになりました。
んで、その話を入れたんで予定より長くなってます。
教養とかは元々そこまでないですが、
技能面では群を抜く優秀さなので見習いから
始めて6年で料理長になった人です。
人物紹介で書く時はまた別の話で書く予定
なので、その時に料理長の事はあとがきに
書きます。
では、また次回はモチベーションの兼ね合いで
遅くなるかもしれませんが、気長に
お待ち頂ければ幸いです。




