幼女の魔力は世界随一(今の所)
ちょっと長くなりました。
引き続き主人公のお勉強と
世界観や他の国についての
説明回になります。次回はまた
主人公に甘々な異世界と、兄と姉に
ついてのお話になる予定です。
お兄様がウィシュトヴァラ王国で行われた御前試合に見事優勝した日からおよそ半年が経過していた。私は7歳になり、既に3か月程が経つがマティウス先生から魔法の練習量を増やしてもらったので、うっかり自分で用意したお守りや自作の小物などがマジックアイテムになってしまうと言う事態は流石に起こらなかった。何度もそんな奇跡みたいなのが起こっても困るし、これから勉強の時間だからね。
今日はアムルーシュ公国とその周りにあるウィシュトヴァラ王国以外の国についてと、風魔法と土魔法の復習及び新しい魔法を覚える、と言う勉強内容だ。まずは座学で地理の勉強から始まる。今まで名前が出なかったが、座学の先生は女性でリーゼロッテと言うこれまた淡い金髪に青い瞳をしている美人な先生だ。しかも、異世界に来てから二度もエルフを見た訳だが、リーゼロッテで二人目である。リーゼロッテはウィシュトヴァラ王国にある学校でも教鞭を取る才女で、何度も学校では首席になる程の頭の良さなので教わる相手としては最高の人物ではないだろうか。
そんな厳しくも優しく、美しい先生であるが、教え方が上手いのか、もうパトリシア姉様が学校で習っていそうな内容の勉強になりそうだ。先生もこれは学校の四年生が習う教本とあまり変わらないと言っていたからね。
「お嬢様、本日はアムルーシュ公国以外の国、その地理について学びます。」
「はい、先生。」
「まずは東にある大国を復習がてら答えて下さい。」
「はい、先生。アムルーシュ公国の東には王都ルツヘルムのある世界で2番目に大きな国、ウィシュトヴァラ王国があります。騎士団がとても強いと聞いております。」
「よろしい、模範解答ですね。やはりお嬢様はなかなか物覚えが良いので教えがいがありますよ。」
「ありがとうございます、先生。これからも頑張ります。」
「では教本を開いて北のロージアン王国から始めましょうか。」
リーゼロッテ先生に言われて教本を開くと、アムルーシュ公国から北にあるロージアン王国について記された頁を見つけて内容を頭に入れるべく、しっかりと読んでゆく。
ロージアン王国は商業で栄えた街がたくさんあり、商業都市とも呼ばれている。世界にある商業ギルドの本部もここにあり、まず商業を始めるのならばロージアンに行くのが商人にとっては習わしみたいなものらしい。中には商業ギルドに所属しない裏家業みたいな怪しい商人もいるらしいが、そこは商業ギルドが黙っておらず、見つけ出してちゃんと然るべき処罰をロージアン王国の重臣、商業ギルドのギルドマスターから与えられるそうなのでだいぶちゃんとした仕事をする所であると言う印象を受けた。
次に開いた頁には西のグラウルム帝国についてが記載されていた。グラウルム帝国は軍事に重きを置いている国家なので、帝国に住まう人々は早くて15歳には軍に入隊するそうだ。なので帝国の兵士は若い者もいれば老兵士もいる、と言う随分、いやかなり徴兵がやたらと多そうな国だ。ちなみに、帝国の街と城の近くにはとても高い山脈があり、そこに住まう色々なドラゴンが国にやたらと悪戯のようにあちこちを荒らして行く事が1年に結構な回数、あるそうなので、確かに大量の兵士がいるんだろうな、と想像に難くなかった。それから帝国の徴兵は基本的には男性か男子だが、女性軍人も志願してなる人が一定数いるそうだ。女性の軍人期間は大体5年~10年で、結婚や出産がある場合は国からお祝い金もしくはお見舞い金を渡され民間人に戻るのだとか。案外ホワイトな帝国なんだな、としみじみ思っていると、次の国である別の頁へと移動する。
南にあるのはレトナーク王国、魔法国家と呼ばれるくらいに魔法によって栄えている国だ。レトナークには生活を豊かにする為の魔法を日々研究している研究所があるらしく、普段から使う時計や屋内の灯りには魔法石が使われていて、魔法石は主にレトナーク王国で作られている。そもそも魔法石は魔石と呼ばれる鉱石を加工したもので、魔石には大量の魔力が内包されているのでそれを普段街や一般の家庭で使われている魔道具に動力として搭載出来る様にしたのもレトナーク王国にある研究所だそうな。
つまりは、人々の生活に一番貢献している国で伝説の賢者や腕の良い魔法使いがたくさんいたりするので、将来1度は行ってみたい国の一つではあるかな。しかし、貴族の令嬢が冒険に出られる訳もないので何とかそのうちに手段を考えよう。そしてこれからも便利な魔道具をたくさん作って頂きたい。暮らしやすくなるのは良いことだろうし。
午前中はリーゼロッテ先生に教本の内容をしっかりと教えてもらい、今日習ったばかりの国名をノートに書いてまとめる、と言う宿題も頂いたので午後からのマティウス先生の授業が終わったら夕食までの時間にやってしまおう。もちろん、おやつの時間はちゃんと計算に入れておくとして。時計を見ると午前の授業が終わり、そろそろお昼ご飯の時間だ。ダイニングルームにお昼ご飯を食べに向かうと、パトリシア姉様が既に席についていた。今日は学校が午前だけで終わる日だったらしいが、これから食事なので心なしか嬉しそうだ。そして大体食事の時は決まって学校での出来事を話すのがパトリシア姉様の習慣になって来ていた。
「姉様、本日の学校はどうでしたか?」
「そうね、剣の稽古を授業でやったのが一番楽しかったわね。」
「あら、パトリシア、それ以外の授業はどうしたのかしら?」
「だってお母様、算術って途中から判らなくなるんだもの、つまらないわ…。」
パトリシア姉様は算術と地理と歴史が苦手らしい。成績は何とか真ん中くらいにキープしているようだが、座学全体がどうにもあまり好きにはなれないようだ。逆に体を動かす授業などは常にトップクラスなのだから本当にお転婆なのだなあ、としみじみ思ってしまう。
「駄目ですよ、パトリシア。ちゃんと他のお勉強も頑張らないと、また昇級する時に成績がぎりぎりなんて事になってしまうわよ。」
「うぐ…わ、判っているわ、お母様。」
「ミレーナもパトリシアみたいにお勉強を疎かにしてはいけませんよ。」
「はい、お母様。」
やっぱり人によっては勉強の好き嫌いが別れるのは仕方がない事なのかもしれない。私は座学は割と得意だけれど、まだそんなに体を動かす授業は習っていないのでパトリシア姉様みたいに運動が得意になれるものでもないだろうし。得手不得手は誰でもあるものだからこればかりは個人の感性によるものが大きいかもしれない。ちなみに、学校では一部男性と女性とでは違う授業を行っているらしい。男性は10歳から本格的に武術を習うそうだが、女性は刺繍やダンス、貴族の令嬢としての嗜みとして礼儀作法を習うのだ。パトリシア姉様は刺繍と礼儀作法の授業がやはり苦手で、どうしても細かい作業などは上手く出来ないそうだ。まあ、まだ12歳だしこれから上達して行けば良いのではないかと思うが…。
「パトリシア、ダンスと礼儀作法は本当にちゃんと身に付けなくては駄目よ。」
「わ、判ってるわよ。ダンスくらい踊れるようになるもの。」
うーん、何年かしたらパトリシア姉様もデビュタントが待っているから致し方ないのかも。デビュタントと言うのはいわゆる社交界デビューである。これは国によって違うのだが、ウィシュトヴァラ王国、アムルーシュ公国では基本的に女性は16歳、男性は18歳から社交界デビューを果たす。フェリクス兄様は少し遅くて騎士団に入隊後の19歳だったが、お母様からの話では何人もの令嬢がこぞってダンスを踊りたがったくらいにそれはそれはモテ過ぎたのだそう。学校でもめっちゃモテてたから仕方ないね。それで、デビュタントの年齢だが、女性は16歳よりも若くても参加する人も結構な数でいるらしい。早いうちから娘を良い嫁ぎ先に紹介したいと言う親が多いからだろうけど、流石に15歳からでないと幼すぎるみたいだから、パトリシア姉様が社交界デビューするまで3年、頑張って頂きたいと妹として応援するしかない。まだ7歳の私に何か出来る訳でもないしね。
あれやこれやと楽しく話をしながら昼食が終わり、食休みがてら宿題を一部済ませてからマティウス先生の魔法の授業である。風魔法と土魔法の復習として『ウィンドシュート』と『ストーンウォール』をちゃんと調整して発動させないといけない。特にウィンドシュートはテニスボール大の風の球体を的に当てる魔法なのだが、調整を間違えると的以外のものまで破壊してしまうので気を付けなくてはならない。間違っても庭の植木とかに当てては駄目だ。(初めて発動させた時にしこたまお母様に怒られた)今回はだいぶ集中力を高めてから発動したら無事に木材で作られた的だけに当てる事が出来た。
「良かった、今日はユスティーネ様に怒られずに済みますね。」
マティウス先生が安心したように魔法の発動が上手くいったことに感謝と誉め言葉を私に送ってくれた。ちなみに、土魔法のストーンウォールはちゃんと芝生などが生えていない地面で練習しているので問題はない。庭に綺麗に生えた芝生ごと壁にしてしまったらまた怒られてしまうので流石にそんなミスはしない。
風魔法と土魔法の復習については大丈夫そうだったので、新しい魔法を覚えてみようと言う話だ。今日覚えるのは何と、水魔法と風魔法の合わせ技で『イマージョン・サイクロン』と言う魔法らしい。ただ、この魔法は効果範囲と威力の問題で中庭では難しいのでお父様が所有するちょっとした湖へ先生とハインリッヒ、リーゼロッテ先生と共に向かう。小さな女の子とマティウス先生だけでは何かあった時に大変だからと言う配慮らしい。リーゼロッテ先生は弓の腕がアムルーシュ公国随一の人なのでそれもあるのかな。ハインリッヒは元々は王国騎士団所属でお父様の部下だったそうだから剣の腕は確かなのだろう。湖の前まで来ると意識を湖の水へと集中させる。湖の水を竜巻のように巻き上げるイメージで魔力を練り上げると魔法を発動させる。
「イマージョン・サイクロン!」
魔法が発動すると湖の水が大きな水柱となって空に舞い上がり、その水柱がぐにゃりと曲がり始めると風を纏い湖の真ん中で巨大な竜巻へと変化する。…うん、湖の水を半分以上使って巻き上がっているからこれ下手したら街の人やお屋敷まで見えるんじゃないかなあ…。魔力を調整して湖を元に戻すと案の定、マティウス先生、リーゼロッテ先生、ハインリッヒの三人共ぽかーんと口を開けて呆然としていた。そうだよね、普通そうなるよね。
「す、凄いですよ、ミレーナさん!こんな高威力のイマージョン・サイクロンは今まで出会ったどんな高位の魔法使いでも使えた人はいませんよ!」
マティウス先生が興奮気味にそう言っているが、それはそれで世界的にまずい事態も起きる可能性がある訳で。リーゼロッテ先生とハインリッヒが慌ててこの事態をどうすべきなのか考え始めていた。
「そうではありません、これはミハエル様とユスティーネ様にもご報告せねばなりませんよ。」
「ええ、私も夜までにウィシュトヴァラ王国に報告しなくてはいけませんからね。」
まあ、たった7歳の幼女がこんな魔法使えたらそうなるよね。かなりまずいのではないだろうか?もしかして、皆に怖がられてしまうだろうか?そんな心配を残したまま、屋敷へと帰宅してから夕食まで、不安で宿題も手につかなかったが、心配していた展開は完全に杞憂に終わった。それは、夕食の時に家族全員の意見と報告を受けた国王様からの書簡の内容が好意的だったからである。え、あれ?思っていた展開と違うぞ?私はまだ、女神様からの恩恵がどんだけ凄いのかをちゃんと理解していなかったのだ。
簡単な人物紹介
リーゼロッテ先生
フェリクスとパトリシアが通う学校を
主席で卒業を努めた才女。
つまり二人にとっては偉大なる先輩である。
現在はウィシュトヴァラ王国王妃の
相談役として重臣の一人も兼任している。
なかなかの美人だが、ちゃんと夫と子供がいる。
人間で言うと大体30歳くらい。
実年齢は聞いてはいけない。(戒め)




