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第六十九話 フラグ

「たかし、話がある。少しいいか?」

「へ?」


本日の探索を終え、さあ解散となった段でレインが俺に声をかけてきた。


(俺に一体何の用だってんだ?)


レインに話があるとか言われると、体育館裏に来いよ的な展開しか思い浮かばないのだが。


「本日は閉店となりますので、また明日のご来店をどうぞ」

「飯は奢ってやるからついてこい」


無視された。


(せっかく険悪な雰囲気を避けるべく、ウィットの効いた断り方したのに無視すんなよな)


一人で勝手に歩いて行くレインを無視して帰ったら、どんな顔をするのだろうか?

そんな意地悪な想像をするが、止めておく。

明日からの雰囲気が最悪になるのは目に見えているからだ。


「飯奢ってくれるらしいから、リン達は俺抜きで晩飯食っててくれ」

「はーい!」

「たかしさん!ファイトです!」


(何をだよ?)


フラムの理解不能な応援はスルーし、俺は小走りにレインの後を追う。



「で?話ってなんだ?」


レインに連れられて訪れたのは、高級レストランだった。

しっかりとした大きな門構えの店で、中に入ると全席個室という高級っぷりだ。

店員の案内で最奥の部屋に通され、コース料理を注文し終えた所で、俺はテーブルの向かいに座るレインに尋ねた。


「…………」


(話があるって呼んどいてだんまりかよ。よっぽど話し辛い内容なのか?)


「まあ別に飯の後でも構わないけど」

「パマソー・グレンの事だ」

「まさかとは思うけど、ひょっとして恋愛相談か?」


いやそんなばかな。

まさかねぇ、とは思いつつも口に出して聞いてみる。


「こんな事を相談できるのはお前ぐらいだからな」


(何でこいつは俺になら相談できるって思ったんだ?)


殆ど喋った事も無い相手に恋愛相談など、交友関係が狭いにも程がある。

友人が居なさそうとは思っていたが、本格的に友達が居ないようだ。


「お前には恋人がいると、フラムから聞いた。だからお前に彼女との事を相談したい」


(あんの糞アマ、あれ程デマをばら撒くなって言ったのに)


フラムには何を言っても照れているだけだと取られてしまう為、誤解を解くのは諦め、拡散をしないように懇願しておいたのだが、全くの無駄だったようだ。


だが考える。

レインが自分を目の敵にしていたのは、恋敵として見ていたからではないだろうか?

そう考えると、今までのレインの自分への刺々しい態度も納得できた。


(これは誤解させたままの方がいいやもしれん)


所詮レインとはここだけの付き合いだ。誤解されたままでも大した問題は無い。

しかも交友関係が残念な男であることから、言い触らされる心配もない。

ならばこのまま誤解させておいた方が扱いやすいはず。


(恋愛相談の方は無難そうな答え出しときゃいいだろう)


「彼女に死んだ恋人がいるのは知っているか?」

「死んだこいびとぉ?」


(それってセールス用の出鱈目じゃなかったっけ?確か貴婦人の涙の)


「ああ、彼女はきっとまだその恋人の事が忘れられないんだろう。だから王墓探索で蘇生薬を手に入れようとしているんだ」


(全然違うと思います!)


このまま放っておいた方が面白そうな気もするが、流石にそれはちょっと可哀そうな気がする。

何故なら、俺はボッチの引き篭もりだった。

だからこそ、同じボッチとして手を貸してやりたいと思う。

勿論こちらに被害が及ばない範囲の話ではあるが。


「それって貴婦人の涙のセールストークだろ?あれ、出鱈目らしいぞ?」

「なに!それは本当か!!」


レインが席から勢いよく立ち上がり、驚愕の瞳で此方を見つめる。

余りの驚き様に逆にこっちが驚き、思わず椅子から転げ落ちそうになってしまった。


「ああ、まあ本人が違うって否定してたぜ」


本人が俺達に嘘をついている可能性もあるが、その可能性は低いだろう。


(あの身なりじゃ恋人なんて絶対無理だろうし)


「そ……そうか、嘘だったのか」


レインが嬉しそうに席に着く。

気分が上がったり下がったりと忙しい奴だ。

だがそれだけパーの事が好きだという事なのだろう。


「よし!決めたぞ!」

「何を?」

「王墓探索が完了したら……彼女にプロポーズする!」


レインが決意表明を行う。

その眼は真っすぐで、一点の曇りもない。

その瞳からこの男の本気が伝わってきた。


(レイン、お前も……あほの子だったんだな……)


俺は憐憫の眼差しでレインを見つめる。

だがそんな俺の様子などお構いなしに、レインは話を続けた。


「俺は彼女と結ばれたい。だからたかし!俺に協力してくれ!!」

「わかった!まかせろ!!」


レインの頼みに俺は力いっぱい返事する。

成功する確率は皆無と言っていいだろう。

だがあほの子が必死に頑張ろうとする姿を見て、つい応援したくなってしまった。


努力は決して無駄にならない、たとえ失敗しても次の成功へと繋がる筈だ。

そんな気持ちで俺はレインを応援する。


(ん?でもあれ?王墓踏破後にプロポーズってあれなんじゃ?)


フラグ……そんな嫌な単語が頭の片隅を過る。

まあきっと大丈夫だろう。

そう思い込み、俺は深く考えるのをやめた。

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他にも投稿してますんで、良かったら見に来ていただけると嬉しいです。 おっさんだけど、夢の中でぐらい夢想していいよね!?~異世界へ日帰り転移~
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