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硝煙の幻想郷《ファンタジア》  作者: 日之浦 拓
第二章 一杯の借り

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009

「ふーん。見た目は別に普通の銃ね。DDに関する話が丸ごと抜けてるから良くわからないけど、これは凄い物なの?」


「この流れでそんだけ軽い感想とか、すげぇお嬢さんだな」


 俺からすればいつも通りだけど、ダレルからすればびっくりなマリィちゃんの変わらない態度に、俺も思わず苦笑い。


「こいつぁまあ、すげぇと言えばすげぇな。純技術(テクニカ)産の武器だから、魔術(マギ)が使えないような環境でも使えるし、何より威力が馬鹿高い。ドラゴンだろうが魔導列車だろうが、一撃で風中が開くぜ」


「は!? 何それ凄いじゃない! あ、なら、これを売ったら……」


 得意満面のダレルに、今度は自分がびっくり顔になったマリィちゃんからの提案がなされるが、ゆっくりと首を振って否定される。


「馬鹿ぬかせ。こんな危険物それこそ売りようが無い。適当な理由で消されて、存在を秘匿されるのがオチだ。それに、正直まともに運用できるとも思えないしな。

 こいつの専用弾は生成するのに大量の希少素材がいる。今の時代なら物質複製機(デュプリケーター)があるからまだ何とかなるが、それでも個人レベルじゃ重すぎるし、逆に国家レベルならこんなものより使い勝手のいい武器は、魔術(マギ)混じりでいくらでもある。


 そもそもこのシリーズは、魔術(マギ)を「侵略者の力」として否定して、技術(テクニカ)だけで魔物をぶっ飛ばそうっていう、馬鹿で頑固な学者や職人の、夢とこだわりの詰まったガラクタだ。代を重ねて改良を加え、実用性を高めるのが前提だから、最初のコレは、威力が高い以外のデメリットが大きすぎる。装弾数1発、弾丸は超希少で、射程も20メートルくらいしかなくて、何より量産がきかないとなれば、数が頼りの技術(テクニカ)においては限り無く失敗作に近い実験作、ってところだな。


 あとは、あー、ドネット。ここにいさせたってことは、お前の……」


「ああ、大丈夫だよ。マリィちゃんは『知らないふりをしてくれてる』だけだから」


 俺の言葉に、マリィちゃんは素知らぬ表情で酒を飲んでいる。実にいい女だ。


「ならいいな。ドネットの持ってる第2の銀セカンド・シルバーは、名前の通りこいつの次だ。装弾数を増やし、銃弾を生成する機能……今ある物質複製機(デュプリケーター)の前身に近いもんがついてるが、第1の巨人コイツに使ってる銃弾に近い物を生成するには消費する材料が多すぎて、1発作るのに1ヶ月くらいかかるし、威力もせいぜい7割くらいしかない。それでも、自前で弾丸を補給できるのはかなり便利だろうけどな。


 話を戻すぞ。第1の巨人ファースト・タイタンは強力な銃ではあるが、弾は俺の手持ちには3発しかない。1発を俺に使って、1発は万が一物質複製機(デュプリケーター)を使える状況になったときに複製出来るように残して、最後の1発はサンティの護身用に取っておくってのが、俺の考えだ」


 「わかったか?」とでも言いたげに、ダレルがカップの中の酒を飲み干す。それは明確に会話の終わり……納得のいかない答えを受け入れることを意味する。


「結局、金かぁ……」


 ため息共に、俺は言葉を吐き出す。これが不治の病や、あらがえない寿命のようなものだったら、俺は覚悟を胸にダレルを撃っただろう。逃げられない状況で魔物の大群が攻めてくるとかなら、力及ばずとも共に戦ったかも知れない。

 だが、金さえあれば助かる可能性を残せるとなると、どうしても納得しきれない。しかもその金が、国をひっくり返しても無理みたいなものではなく、渡れそうな危ない橋にいくつも連続で出会い、その全てを渡りきれば稼げそうなくらいの、現実と非現実の境目にあるくらいの金額なのが、なおさら気持ちに拍車をかける。


「まあ、お前達が思ったよりずっと早く来てくれたから、今すぐどうこうってこともねぇ。半年は待てねぇが、1月2月なら時間をやる。俺の方も身辺整理やら何やらをしなくちゃならないしな。今日のところは、とりあえず寝ろ」


 そう言って、ダレルは懐に第1の巨人ファースト・タイタンをしまい込んで、俺たちを部屋から追い出した。時刻はもう深夜を回っている。追い出された俺たちは、お互いの部屋に向かって、寝ているサンティを起こさないように静かに歩く。


「はぁ。大変なことになったわねぇ……」


「そうだね。金かぁ……どうしよう?」


「そうじゃないわ。DDの話を何も聞けなかったじゃない。私としてはそっちの方が聞きたかったのに」


「え、そっち!? それは……まあ、別に隠してるわけじゃないから話してもいいんだけど、流石に今夜はもう寝ようよ……」


「そうね。夜更かしは美容の大敵だし。DDの恥ずかしい過去をほじくるのは、また明日にしましょうか」


 満面の笑みを浮かべて、マリィちゃんは自分の部屋へと入っていった。うわぁ、これ絶対話さないと駄目だろうなぁ。嫌とかじゃないけど、あの頃の話はなぁ。若気の至りというか、そう言う話だからなぁ……ふぅ、俺も寝よう。


 自分の部屋に入ってベッドに倒れ込む。当然、いい男は悩んで眠れないなんてことはないので、すぐに意識が闇に落ち、夢を見る間もなく朝日に起こされる。

 睡眠時間は短くても、しっかりベッドで寝たからだろう。幾分スッキリした頭を振って、俺は部屋から出てキッチンへと向かう。


「あ、おはようドネット。今ご飯作ってるから、顔洗って待っててね」


「おはようサンティ。何か手伝おうか?」


 真っ白なエプロンを着けて、朝から元気に動き回るサンティに聞いてみるも、「アタシがやりたいんだからいいの」とお断りされてしまった。久しぶりに家に帰ってきて、料理することが楽しいんだろうから、意地を張ることなく俺は顔を洗いに行く。いい男はちゃんと女心を酌んでやるもんだ。


 洗面所では先にいたマリィちゃんに挨拶をして、キッチンに戻る頃には、サニーサイドアップの目玉焼きが、湯気を立てて俺たちを出迎えてくれた。やっと起きてきたダレルがサンティから怒られつつ急いで顔を洗ってきて、全員揃って朝食。まるで昨日の話なんて無かったかのように、穏やかで楽しい時間。


「そうだな。今日は森の方に狩りにでも行くか? ちょっと前にでかいシュトラグルディアーを見たから、あれを狩れれば全員で美味い肉が食えるぞ」


「わっ、凄い! パ……父さん、アタシも行ってもいい?」


 目をキラキラ輝かせて問うサンティに、ダレルは髭を撫でて考える。


「ふーむ。そうだな、ドネット達が一緒に来るなら、いいぞ。まさかB級二人で、俺の娘一人を守れねぇなんて腑抜けたこと言わないだろ?」


 ニヤリと笑うダレルと、期待に満ちた目で見てくるサンティに、俺とマリィちゃんは笑顔を返す。


「当然。いい男が、こんな可愛い女の子の頼みを断るわけないだろ?」


「そうね。DDはともかく、私がしっかり守ってあげるから、大丈夫よ」


「わーい! ありがとうマリィさん! あとドネットも」


「うわ、何そのおまけ感溢れるお礼……いやいいけどさ」


 巫山戯合って、笑い合って、楽しい食事の時間は終わる。サンティとマリィちゃんが後片付けをする間に、俺とダレルが準備を済ませ……さあ、森で狩りの始まりだ。

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