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ご主人様は真っ黒  作者: pinfu
第三章 現身
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第八十三話 深層

 俺とシャルは復活祭に合わせて学園へと戻った。

 それは復活祭の前日(・・)だ。


「シャル、本当に行くのか?」

「ええ、今この時を逃したらもうずっと行けない気がするの」


 それは危険な事だった。

 復活祭が始まると迷宮の入口は閉じてしまう。

 そして中は一新され、復活祭の終わりにまた入口が開く。

 その間、中にいた者は誰一人として帰って来た者はいなかった。


「準備は万全よ。

 もし帰れなかったとしてもギルドにはお金が預けてある。

 家族にも迷惑は掛からないわ」


 シャルはもう一億の借金分を稼いでいた。

 俺的にはそんな事よりもシャルの安全の方が心配だった。


「それに万が一の時はファーストがアレを使えば良いわ。

 ……頼りにしているわよ!」


 確かに万が一の時の保険(・・)もある。

 でもどうしてこんな危険を冒すのか分からなかった。

 だがシャルは何度説得しても、この迷宮攻略を行う事は諦めてくれなかった。


 そして俺とシャルは迷宮へと出発した。




◇◇◇




「……迷宮が閉じて行く」


 シャルは迷宮の中から入口が閉じて行くのを見ていた。

 それはゆっくりと塞がっていく様な光景だった。

 そして入口が完全に塞がってしまう。

 中に変化は無かった。


「どうする? このまま待つのか?」

「奥へ行っても仕方がないわ。

 ……待ちましょう」


 そしてそんな考えをする事も無かった。

 それは直ぐに起こったからだ。


「壁が、床が消えていく?」


 迷宮と呼ばれるその場所は徐々に消えて行った。

 壁が消え、床が消え、天井も消える。

 迷宮は崩壊した。

 その先には真っ黒で何も無い空間が広がっていた。

 そして俺達は下へ落ちるという事は無く、浮くと言った方が近い状態になった。


 最終的に……そこには何も無かった。


「何にもないな……これでおしまいなのか?」

「どうかしら? この後に迷宮が再生していくのかしら?」


 真っ黒なその空間で俺達はただ浮いていた。

 いや落ちているのかもしれないし、飛び上がっているのかもしれない。

 何も無いその空間では何一つ分からなかった。

 そこには空気も無く、俺とシャルが存在できる空間を俺が魔力で作っている状態だった。


 そしてそれは不意に起こった。

 一瞬光に包まれたかと思うとそこは真っ黒な空間では無かった。


「……地面がある。

 木や草、それに鳥の鳴き声?

 ここはどこなのかしら」


 次の瞬間には自然あふれるどこかの草原の様な場所に立っていた。


「光もある。

 それにこれは太陽だろう?

 空もあるし、雲も見えるな」


 これが噂に聞く、迷宮内にあるという外と変わらない不思議な空間なのだろうか?

 そして俺達は大きな影に包まれた。

 太陽を遮る雲では無い。

 それは俺の知っているモノだった。


「我が息子よ。よくぞ戻った。

 その人間は土産か? 旨そうじゃの」


 それは雲よりも大きな俺の両親。

 ドラゴンの父だった。




◇◇◇




「ファースト、これはどういう事かしら?」

「説明すると長くなるけど端折って言うと……両親です」


 俺とシャルはドラ父に連れられて懐かしきわが家へと戻っていた。

 そこでは両親は人の姿に擬態していた。


「さすが我が息子。いつの間にか人の言葉を覚えたか」

「あらあら、それじゃあもうお肉も食べられるのかしら?」


 そう言ってドラ母がシャルの手を引いてどこかへ行こうとする。


「シャル! 着いて行っちゃ駄目だぞ!」

「……私は食べられちゃうのかしら?」


 シャルの予想は当たっている。

 それだけは阻止せねば。


「えと、この人は食べる為に連れて来た訳では無いから!

 食べちゃ駄目だから!」

「そうなのか?

 そう言えば何時もこの人間と我が家へ来ていたのう」


 我が家ってなんだ。


「財宝だけ荒らして魔石を持ち帰らんとは何たる不届き者と思っておった。

 だが我が息子が傍に居たからの。

 大目に見てやったんじゃぞ?」


 訳が分からない。


「実はここがどこなのか良く分からないのだけど……」


 俺は今更ながらの質問をしていた。


「ふむ。何もわかっておらんようじゃの。

 ここは迷宮じゃが、その迷宮を作ったのは儂じゃ」


 だから我が家なのか?

 そしてそんな事が出来るのか。


「だがこの場所は迷宮をいくら進んでも辿り着けん。

 儂の認めた者だけがここへ来ることが出来る。

 そして儂の作った迷宮で起こった事は全て儂は分かるという事じゃ」

「ではどうやって俺達はここへ来たんだ?」

「ん? 転移の魔法じゃよ。

 我が息子も使えるじゃろう?」


 俺は転移の魔法を使える。

 もしもの時はその魔法で逃げ出すつもりだったからだ。

 何時もは危険すぎるという事で使用を控えるようシャルに言われていた。


「さぁ、どうぞ。最近凝っているお茶ですわ」


 ドラ母がお茶を持ってきた。

 それは……ドラゴンも絶賛! 何時ものマルメラが作った物だった。

 どこから入手したんだよ……。


「うむ、心落ち着く良いお茶じゃ。

 それでなんだったかの?

 まぁ、迷宮は我が家と言う事じゃ!」


 適当に話が終わってしまった。


「魔石を持ち帰らないのは悪い事なのでしょうか?」


 シャルが質問した。

 そう言えば不届き者とか言ってたな。


「お主はその分、後から大量の魔石を持ち帰ったから許してやろう。

 我が息子の知り合いでもあるしな。

 魔石を持ち帰る理由じゃったか?

 それが迷宮の目的じゃからじゃ!」

「目的?」

「そうじゃ、迷宮は地上に魔石を供給する為にある。

 初めはモンスターの肉ごと魔石を持って帰ってくれたのじゃがな。

 その内に肉だけを持ち帰り、魔石を迷宮に捨てて行くようになった。

 それで仕方なく魔石を使用すると強力な力が使えるマジックアイテムを迷宮内に配置したのじゃ」

「私達は全然マジックアイテムを見つける事が出来ませんでしたが……」


 そうだった、俺達は全然見つける事が出来なかった。


「ここ数千年の事かの?

 人間共が自分達でマジックアイテムを作るようになったからの。

 今度はその材料が足りなくなったようじゃった。

 それに人間共は争い事が好きだからの。

 だから武器を配置しておいたのじゃ」


 理由は何となく分かったが肝心な事が分からなかった。


「なぜ地上に魔石を供給する必要が?」

「人間には分からぬだろうがこの世界は魔力が循環して出来ておる。

 地上で使われた魔力は水の様に空や地面に流れる。

 そして迷宮内で結晶化した物が……魔物(モンスター)となる。

 それはまた人間の手によって地上へと運ばれるという訳じゃ」

「それにいったいどんな意味が……」

「生物の進化とそう変わらんよ。

 多種多様な変化を見せ、時に進化する。

 それが生物か無機物かは些細な事じゃ。

 人間が今繁栄しているのはマジックアイテムを作れるからじゃ。

 その威力が素晴らしいという事では無く、その多様性な進化が求められているからじゃ」


 それは魔力に選ばれているという事だろうか。

 まるで人間の様に魔力にも意思があるとでも言うのだろうか。

 そこには少しだけ思い当たる事も無い訳では無かった。


「もう一つ、お聞きしても?」

「久しぶりの客人じゃ、何でも聞くが良い。

 時間もたっぷりあるからの」

「ドラゴンとは何なのでしょうか?」

「難しい事を聞くのぅ。

 いつどこでどうやって生まれたかなどは分からん。

 儂らはいつの間にか存在したのじゃから。

 どういった者かを人間に分かるように言うと、そうじゃの神と言った所か。

 亜神の方が感覚的に分かりやすいかの?」


 そう俺の思い当たるそれは神だった。

 神は加護と言う力を与える。

 それは魔力に選ばれし力とも言えるからだ。


「人間は絶対的な神の他に多種多様な神がいると考える者もいる。

 山の神、海の神と言った風にの。

 その中で儂は迷宮の神と言った所かの。

 迷宮は他にも数多くあるし、また別の者が作った物もある。

 儂の迷宮と繋がっている物もあるし、繋がっていない物もある」


 神と言うより迷宮の主と言った感じか?

 だがその力は迷宮以外でも使えるのだろう。

 ……俺がそうであるように。


「……最後にお願いがあります」


 シャルは最後に質問では無く、願い事を言うようだ。

 それは神に祈ると言う事だろうか?


「儂に出来る事なら大抵は叶えてやろう。

 我が息子も世話になっておるようじゃからの。

 金か? 魔石か? マジックアイテムか?

 何でも言うが良い」

「私を元の世界に帰して下さい」


 ドラ母がさっきからシャルの事を舌なめずりしながら見ていた。

 それが関係しているのだろうか?


「……出来ぬ。

 迷宮内であれば可能じゃがな。

 まぁ我が息子が成長すれば……いつか可能かもしれんがな」


 俺はそんなに期待値が高いのか!?


「……それで構いません」


 シャルは帰るようだった。

 確かにここはシャルにとって居心地が悪いのかもしれない。


「ファーストは……残っても良いのよ」


 シャルは残っても良いと言った。

 それはここに来た時から言われるのではないかと思っていた。


「俺は……シャルと行くよ」


 だが俺の心は変わらない。


「そうあせらずとも良い物を。

 ここは外とは隔離されている。

 時間の流れも全く違うからの。

 いつ出て行ってもそれは復活祭の終わりと同時じゃぞ?」


 それはこのドラゴンの住む世界は時間の流れを早くも遅くも自由に出来るという事だろうか。


「いえ、直ぐにでも帰りたいのです」

「そうか……。

 息子よ、何時でも帰ってくるが良い。

 また帰ってこなくても良い。

 好きに生きろ!

 儂らはずっとここに居る」

「またね、私の息子。

 私はたまには帰ってきて欲しいわ。

 迷宮に入るだけで良いの。

 それで全てが感じられるのだから!」


 俺の両親はどこまでも優しく、そして俺は自由だった。

 シャルの両親とは全く違い放任主義とでも言うべきだろうか。

 これはこれで少しだけ寂しいと思えた。


 そして俺とシャルは光に包まれ、また迷宮の入口へと帰って来ていた。

 得られた物は少なかったかもしれない。


「……これ学園に報告しても信じて貰えないわね」

「……つまり?」

「卒業課題にはならないって事よ……」


 気合を入れて迷宮攻略をしようとした結果がこれだった。

 だが俺にとっては良い休業と言えたかもしれない。




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