第八十二話 親友
学園での最後の長期休業が始まった。
今年は復活祭の年で少しだけ期間も長い。
だが目的もある為、それは短いと言った方が良いかもしれない。
「今回はどうするんだ?
実家に帰るのか?」
去年は俺が家出していた為、詳しくは知らないが実家には帰らなかったらしい。
「帰らないわ。
きっとまだ新しく増えた領地で忙しくしていると思うから」
シャルの実家は色々と問題のありそうな領地が増えていた。
それは一年や二年では解決出来ないだろう。
「今回は色々忙しくなるわ。
取り敢えずエレクト様の屋敷で休む事にしましょう」
俺は久しぶりにブリッツに会えると思い、嬉しくなる。
去年は会えなかったし、その前はあまり話す時間も無かったからな。
◇◇◇
「ファースト、久しぶりだな。
去年はどうしちゃったんだよ?
会えなくて詰まらなかったぞ!」
久しぶりに会ったブリッツはかなり大きく成長していた。
言葉遣いもどことなく成長した感じに思えた。
「ちょっと旅に出てたんだよ!
それにしても大きくなったな!」
「ファーストは変わらないけどな!」
俺はブリッツと取っ組み合いをしながら遊び始めた。
お互いの成長を確認するように。
「男の子っていつもこうね。
……少しだけ羨ましいわ」
「なんだ? シャルも混じりたいのか?」
「シャルさんを巻き込むのは……」
なんだろう、ブリッツがシャルを意識している気がする。
呼び方もさん付けだし。
「ブリッツ、もしや今頃シャルの魅力に気付いたのか?」
「お、俺はそんな事、ない!」
「たとえブリッツでもシャルはやらんぞ!」
「私はファーストの物では無いと思うのだけど……」
シャルの突込みは無視してまたブリッツと戯れる。
こうした馬鹿な事をしている時が一番楽しかった。
「騒がしいと思ったらファーストさんがお見えになっていたのね。
それにシャルさんも。
どうぞ中へ入ってください」
それはブリッツの母でエレクトの妻、トレーネだった。
初めて見た時からその美貌は変わらなかった。
エレクトほどの人物なら何人も妻がいても不思議ではない。
だがそうでは無いのはこの人あっての事かもしれない。
「エレクトは最近また忙しそうにしています。
もしかしら休業中に会えないかもしれませんわね」
トレーネから伝えられた言葉で嫌な予感しかしなかった。
それはきっとまた争い事が起きるという事だったからだ。
「それはどういった事ででしょう?」
シャルが質問する。
「詳しくは分かりません。
ただ東の方へ行くとだけ聞いていますわ」
それはアフュンフ国との事だろうか。
商人達も言っていた。
また必ず戦争になると。
そしてその時期も予想では……今と言う事になる。
「そうですか。
何事も無ければ良いのですが……」
シャルはそう言うのが精一杯だった。
もう十中八九、悪い事が起きていると分かっているのだから。
◇◇◇
「ブリッツ、強くなったわね」
シャルはブリッツと剣の修行をしていた。
段々体が大きくなってきたブリッツはそれ以上に強くなっていると言えた。
「くっ、今日こそ一本取って見せます!」
だがブリッツは劣勢だった。
どこをどう攻めてもシャルには届かない。
だが……。
「……ファイア!」
ブリッツは魔法を使えるようになっていた。
その威力は低いが目晦ましと意表を突くくらいは出来る。
「はああ!」
ブリッツの一撃がシャルに届くと思われた。
だがシャルは常に魔法を警戒している。
どんな時でもだ。
ブリッツの魔法はアンチマジックフィールドで中和されあまり意味がなかった。
当然、剣の一撃も防がれた。
「せめて魔術くらいは使わないと私は倒せないわよ」
シャルには余裕があった。
「父さんが魔術はまだ使っちゃ駄目だって……」
「偉いのね。ちゃんと言い付けを守って」
シャルはブリッツを撫でていた。
あのくらいの年頃なら勝負事では勝ちたくて仕方のない頃だ。
それでもきちんと決まりを守り、負けを選ぶ。
中々出来る事では無かった。
「どっかのドラゴンならとっくに約束なんて破ってるわよ?」
……確かに。
全く否定できなかった。
「俺はモンスターじゃない! 約束は必ず守るんだ!」
「待てやゴルァ! 誰がモンスターじゃ、ボケ!」
こんな小さい事に本気で怒ってしまう俺なんかと違ってな。
そこからはまた俺とブリッツの仁義なき戦いが始まった。
……仁義が無いのは俺だけだが。
◇◇◇
「ファーストの、その、硬さは、反則、だ!」
戦いは何時も俺の勝ちで終わる。
勝ちというかブリッツの体力切れなのだが。
「まだまだブリッツには負けないな!」
負けないだけで勝ちとは言えない。
これくらいの台詞で勘弁してやろうか。
そしてブリッツは息を整えてから……真面目な顔をした。
「……ファーストはこれからどうするんだ?
シャルさんは学園を卒業しちゃうだろ」
それは俺も真面目に考えなければいけない事だった。
「……シャルについて行くよ。
それが学園だろうとどこだろうと関係ない」
「そうか……」
予想された答えだったかもしれないが、その通りしか答えられない。
「じゃあ……もしシャルさんが居なかったどうするんだ?」
それは考えていなかった。
シャルの居ない世界。
それは酷く空しい物に思える。
「その時は仕方ない。
ブリッツの所で遊んで暮らすさ!」
「遊ぶなよ!
真剣に俺の従魔になれよ!」
「従魔にはならねーよ!
良くて友達くらいだろ!」
「まー……それでも良いか!」
ブリッツの気持ちには答えれただろうか?
これは俺の本心だった。
俺達はまたじゃれ合うように遊びだした。
◇◇◇
俺とシャルは復活祭に合わせて学園に帰る事にした。
エレクトとは会えずじまいだ。
「主人が帰ってくるまでお待ちになっても……」
「今回が学園で最後の機会なので……申し訳ありません」
トレーネが引き留めるがシャルはそれを断った。
「ファースト……シャルさんも……また会えるよな?
来年と言わず何時でも来て良いから!」
「ええ、また来るわ。その時は宜しくね」
「今度はブリッツが学園に行くんじゃないのか?
会いに戻ってくるのはブリッツだろ?」
「そうだな! 俺が会いに行けば良いんだな!」
ブリッツは何かを確信したようにそう言った。
そう、ブリッツからも会いに来る事は出来るのだ。
そして俺達はエレクトの屋敷を後にした。
護衛に連れられて学園に行くのもこれが最後かもしれない。
シャルは未だに卒業課題が終わってはいない。
シャルはそれを迷宮探索で成そうとしているのだろうか。
俺はシャルからなぜかそれ以上の意気込みを感じた。
食糧は数か月分買い込んだ。
普段は使わないようなマジックアイテムも学園から借りてきた。
だが迷宮へ行くのは……俺とシャルだけだ。
学園での最後の迷宮攻略が始まろうとしていた。




