第七十九話 信仰2
「今日は布教活動に向かいます。
まだ神への信仰を知らない方々に知って貰う事が目的です」
ザフィーアと教会の関係者、そして学生達が周辺の町へと布教の為に向かう事になった。
荷物は恵まれない人々に配る食糧くらいだった。
道中は毎回町で宿を取りながらの移動になる。
「ドラゴンはウロウロしない!」
俺はリーリエにがっしりと掴まれていた。
自由に動き回るとまた前回のような事があるかもしれないからだ。
「やっぱり……リボンだけでは駄目なのかもしれませんね。
首輪と鎖で繋ぎますか?」
「……それは勘弁して欲しい」
移動中にそんな物を付けられたら邪魔で仕方ないと思えた。
「私もそう何度も庇う事は出来ません。
大人しくしていてくださいね」
ザフィーアにも言われてしまった。
俺は何時も大人しくしているのに!
◇◇◇
「神は存在します。
いつも我々を見守って下さっています。
純粋な願いは必ず神に届きます。
さぁ、皆さん祈りましょう!」
ザフィーアが町の人々に信仰を伝える。
しかし言葉だけでは伝わらない事もある。
最後には必ず食べ物を配り、教会の力も見せる事を忘れない。
実際の所、本当の加護の力を見せた方が早いと思う。
しかしそれは魔術とどれだけ違うというのだろうか。
この世界は魔術を使えない人がほとんどだ。
そして魔術と言う物が存在する。
……逆に神の力を見せるのは難しいのかもしれない。
トートは忙しそうに食事を配っていた。
俺はリーリエに抱えられたままだ。
そしてリーリエはそれが仕事だと言わんばかりに何もしていない。
「リーリエも手伝ったらどうだ?」
「私はドラゴンの見張りで手が離せませんの」
こんなので良いのかと思うが良いのだろう。
ここではこの前の様な問題は起こらなかったのだから。
◇◇◇
「教会よりも宿の方がやっぱり良い作りですわね」
寝所は宿だった。
そしてリーリエとトートと俺に対して、部屋は一つだけ。
「私とトート君は一緒に休みますわ。
ドラゴンは外の好きな所で休みなさい。
他の人に迷惑はかけないでね!」
「あ、いや、僕も外で……」
トートはリーリエと同じ部屋は避けたかったのか、外へ出ようとする。
だがそれはリーリエによって阻止された。
「俺は中でも……」
「ドラゴンは外!」
そして俺は部屋の外へと投げ出された。
この扱いの差は酷い。
それにリーリエのトートを見る目が何か怪しい。
俺はそれだけが少し気になっていた。
……覗くか!
◇◇◇
部屋の周りはマジックアイテムにより気配や音が遮断されていた。
宿の物では無い。
リーリエかトートが持ち込んだ物だろう。
窓はカーテンの様な物で隠され中を覗きこむ事も出来ない。
普通なら中の様子を伺う事は不可能だった。
だが俺にはアンチマジックフィールドがある。
それはマジックアイテムだろうがなんだろうが簡単に中和してしまえた。
それにドラゴンの感覚もある。
分からない事など何も無かった。
中は簡単な作りで、机、椅子、ベッドがあった。
トイレやお風呂場なども各部屋についている。
マジックアイテムの灯で明るく照らされており、夜という事を全く感じさせない。
そこでリーリエとトートは大人の遊びをしているようだった。
……その少し変わったプレイというかなんというか。
「ねぇ、トート。
どうして欲しいか自分の口で言ってみなさい……」
「リーリエ、様に……して、欲しいです……」
「教えたでしょう? もっと具体的に言わないと駄目よ……」
「ぼ、僕の……」
まぁこんな感じだ。
リーリエが攻めでトートが受けか!
そこはどうでも良いが。
何かリーリエが無理矢理トートを強要しているように思えた。
トートは恥ずかしそうという事もあるがどこか嫌がっているようにも思えた。
言葉では望んでいるけどな。
これは俺の立ち入る問題では無いように思える。
見た事、聞いた事は忘れよう。
……最後まで覗いたけどな!
◇◇◇
あくる日はトートがげっそりとしていた。
仕方ないかもしれない。
逆にリーリエは気分爽快と言った感じだ。
「トート、大丈夫か?」
「は、はい! 何の問題もありません」
本人もこう言っているし、まぁ良いか。
こんな事を繰り返しながら各町を回っていく。
そしてそれは起こった。
「助けて下さい! 子供が怪我を!」
ある時、いつもと同じように布教活動をしていると、一組の親子と思われる者達が助けを求めてきた。
母親と思われる者が血だらけの子供を抱えていた。
誤って高所から落ちたらしい。
子供の半身は潰れ、もうとても助かるとは思えなかった。
その子供へザフィーアが近づく。
「……私達には何も出来ません。
ただ神に祈る事しか……」
「そんな……。
どなたか! 私の息子を助けて下さい!」
母親の声が響く中、子供は目を閉じ動かなくなってしまった。
周囲にいた教会の者達はただ祈るだけだった。
ここに治癒魔術師はいない。
どうする事も出来なかった。
母親は泣き崩れてしまった。
ザフィーアはどこからか取り出した白い布で子供を包み込む。
「皆さん、せめてこの子の安らかな眠りを祈りましょう」
その町の住民も教会の者達も皆が祈っていた。
しかしそれは全ての者という訳では無かった。
「……祈るだけじゃ何にもならねーじゃねーか!」
当然そう言った反応をする住民もいる。
何かにこのどうしようもない気持ちをぶつけたいという事も分からないでも無かった。
「……ここでは落ち着いて祈れませんね。
家の方で改めて祈らせてください」
ザフィーアは子供と一緒にその家族の家へと向かう。
それにリーリエとトートもついて行くようだった。
当然俺も行く事になる。
これも経験という事だろうか。
その家族の家へと着くとザフィーアは子供をベッドへと寝かせた。
「……これから起こる事は他言無用でお願いします」
ザフィーアは神へと祈りを捧げる。
白い布で包まれた子供が光り輝いているのが分かった。
そしてこれこそが神の奇跡、加護の力と言う物だった。
布の中から傷一つない状態で子供が現れる。
「ぼ、僕は……。お母さん!」
「ああ、怪我が治っている?
……有難う御座います、有難う御座います!」
親子は抱き合っていた。
そして母親はザフィーアへ感謝の言葉を述べていた。
「お礼など必要ありません。
ただ神への祈りを忘れてはいけません。
それだけで良いのです。
さぁ、祈りましょう!」
治癒魔術など比較にならない。
まさに奇跡だった。
「ザフィーアさん、今のは一体?」
トートが質問する。
「これが私の神から授かった加護なのかもしれません。
ですが私はただ祈っただけですよ。
そして今回は助かりましたが、助からない時もあります。
その基準は良く分かっていませんし、知らなくても良いと思っています。
私はただ祈るだけなのですから」
やはり加護の力の様だった。
そしてそれは万能では無いという事か。
純粋な祈りがその対価か?
他言無用というのは、もしこの力の事が広まれば騒ぎ所では済まないからだろう。
そして助からない者はさらなる絶望へと落ちてしまうからか。
「魔力を使ったはずなのに、それが感じられませんわ。
この様な事(魔術)は大量の魔力が必要なはずですのに」
リーリエが疑問を述べる。
そこがおかしかった。
これ程の怪我を一瞬で治してしまうのだ。
魔法が使えない者でもその魔力に気付けそうな物だった。
だが分かったのは光り輝いた事だけで、それ以外は何もわからない。
ザフィーアの体からも周りの大気や自然の中からも魔力は出ていなかった。
そこにいきなり大量の魔力が発生した。
それが一番近い表現だと思う。
「神はどこにでもおいでになります。
それはどこからでも祈りが届くという事です。
それに私は洗礼を受けていません。
祈りを捧げるうちにいつの間にかこういった事が起きるようになりました。
だから皆さんも祈りましょう。
神はどんな祈りも必ず聞いてくれるはずですから!」
洗礼を受けずとも加護が貰える。
では洗礼とはなんだろうか?
その答えは分からなかった。
ザフィーアはただ祈っているだけなのだから。
そこに見返りを求めてはいなかった。
◇◇◇
そして卒業課題はあっさりと終わってしまった。
しばらく教会で活動しただけだ。
多額の寄付もしたのかもしれないが俺には関係ないしな。
「初めは退屈でしたけど、中々有意義な物になりましたわね」
「……加護と言う物も見れましたし、得る物は多かったと思います」
「俺は散々だったがな……」
俺は捕えられてばかりだった。
そこには兵士かリーリエかの差しか無かったからな。
「今回は協力有難う御座いました。
皆さんに神の加護がありますよう祈っています」
ザフィーアが最後にもう一度俺達の為に祈っていた。
ザフィーアはいつも何を思いならが祈っているのだろうか。
「神はモンスターの祈りにも答えてくれると思います。
……前例はありませんが。
もし答えられたのならぜひ教えて頂けたらと思っています」
「……神に祈る予定は無いよ」
俺は神に祈る事はあるのだろうか?
今の俺には神に頼る必要がないくらいの力があると思う。
だがこれから先、何が起こるか分からない。
俺は前の世界で神頼みする時によくしていた願いを祈った。
……世界が平和でありますように。
そこに具体性は何も無かった。
そしてそれが叶った事も……無かった。




