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ご主人様は真っ黒  作者: pinfu
第三章 現身
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第六十九話 異常


「おい、今度は魔物(モンスター)が大量発生してるらしいぞ」


 もうトイフェルの話には飽き飽きしてきた。

 トイフェルは面白そうな事なら何でも興味を持つ。


「前回のモンスターが居なくなった理由も分かっていないのにこれだろ?

 迷宮では何が起こっているんだ?」

「いや俺もしらねーし!」


 俺がモンスターだからってそんな事聞くなよ!

 最近はシャルと一緒に迷宮にも行ってないからな。

 まったく理由は分からない。

 シャルは相変わらずモンスターを大量に狩っているはずだ。

 魔石を毎回大量に持って帰るからな。

 俺のマジックボックスの中はとんでもない量の魔石が保管されていた。


「だが今回は目星がついている。

 十階のボスが発生したのだろうよ。

 ゴブリンが大量発生したんだからな」

「知ってるなら最初から言えよ!」

「こういうのは小出しにする方が情報通みたいで良いだろ?」


 相変わらず良く分からない奴だった。


「で、本題なんだがファーストも迷宮へ行かないか?」

「……俺よりもシャルを誘ったらどうだ?」


 今まで俺個人を迷宮に誘う者は居なかった。

 何方にしろシャルには聞いてみないといけないだろうが。


「……お前、ゴブリン討伐に女を誘えって……」


 あれ? なんかまずったか?


「へぇ、ファーストは私がゴブリンに乱暴されるのがお望みなの?」


 背筋が凍る思いがした。

 いや実際凍っていた。


「ゴブリンは女を狙いやすいからな。

 それにもし捕まったら酷い目に遭う。

 そんな場所に普通は連れて行かねぇだろが……」


 そう言えばゴブリンって雄しかいないんだっけ?

 それで繁殖する為に雌を襲うとかなんとか?

 良く知らないけど。


「私は絶対に行かないわよ?

 ファーストだけなら好きにしても良いけど」

「……なら行こうかな」

『本気を出しちゃ駄目よ?』

『了解』


 俺はトイフェルの誘いに乗り、少しいつもとは違った気分で迷宮に挑む事になった。




◇◇◇




 今回は迷宮の十階。

 大量に発生したゴブリンとそれを支配しているであろう存在、ボスの討伐が目的だ。

 人数は四年生の男性全員。

 総勢十四名プラス俺で行われる。

 使い魔のトルテは雌(女性)なので、キルシュは連れてこなかった。

 謎の紳士っぷりだな。


「この前は稼げなかったからな。今回は稼がせてもらう」

「そうだな」

「人一杯だな」

「これだけいたら楽勝だろう?」

「油断は禁物ですよ」


 タッセ、テラー、イーリス、ネルケ、ダフネ。


「ふっ、たまには下賎の者達と行動を共にするのも良いだろう」

「ケーゼ様が居れば安心ですね!」

「僕を守ってくださいね!」

「皆で行動するのも面白いかもね」


 ケーゼ、ガーベル、レッフェル、ヴィンデ。


「僕は結構迷宮では狩り慣れているからね」

「ぼ、僕はあんまり来たことが無いので宜しくお願いします」

「事前の調べは完璧だ。何の問題も無い」


 キルシュ、モーン、トルペ。


「怪我をしないようにがんばろー」


 そして俺。

 俺は今回、サポート役だ。


「さて指揮官は発案者の俺がさせて貰うぜ!

 副官はファーストだ!

 そして今回は必勝の策を準備して来たから安心しろ!」


 トイフェルが自信満々でその策を紹介していた。


「どうして僕が……囮なんですか?」


 トートが泣きそうな顔をしていた。

 見た目は一応女の子だ、一応な。

 ……これは失敗するな。




◇◇◇




 十階の探索は既に終わっていて、地図は準備されていた。


「こことここ、それにここもだ。

 通路を地属性魔法で塞ぎ、袋小路を人為的に作る。

 そこへトートがゴブリン達を誘い込む!

 幾ら数が多かろうとも、実際に戦う数を減らせば実力で勝る俺達が勝つ!」


 ゴブリン単体では脅威になりえない。

 その圧倒的な数で囲まれさえしなければ良いと言う事だろう。


「この作戦は魔法での壁の維持力。

 戦闘する者の殲滅力。

 そしてトートの女子力。

 この三点が重要になる。

 ……皆の力を信じているぜ!」


 トートの女子力を信じるってなんだよ……。

 それは置いといても、この作戦は時間との勝負になるだろう。

 いや体力か?


 ゴブリンを殲滅する前に此方の体力が尽きたらおしまいだ。

 まぁ魔術師にとってゴブリンの百匹や二百匹は敵ではないがな。


「戦闘組はケーゼ、ガーベル、レッフェル、キルシュだ。

 壁組は残りの者とそして俺になる。

 頃合いをみて壁組も戦闘に参加する。

 その指示は俺に任せとけ!

 ……それじゃあトート頼むぞ!

 一応ファーストも付けてやるよ」

「……分かりました。

 上手く誘えなくても怒らないで下さいね……」

「分かった。

 万が一の時は助けてやるから安心しとけ!」


 トイフェルは本当に助ける気があるのだろうか……。

 開始前から危険な香りがしていた。

 そして……ゴブリン討伐が始まる。




◇◇◇




「一つ気になっている事があります。

 ファーストさんがいてもモンスターって襲ってくるのでしょうか?」

「……敵の数が尋常じゃない。

 ゴブリンが俺を避けようとしてもその避ける場所が無い。

 あとは……トートの女子力に期待だな」

「そんな力は無いと思うのですが……」


 実際の所、モンスターとは遭遇できるだろう。

 この階層のモンスターは何故か好戦的に感じる。

 ボスの存在とその支配力に関係するのだろうか?


「……来たぞ!

 それも結構な数だ。

 トート、ゴブリンを誘い出せ!」


 ゴブリンは大人の人間より少しだけ背が低いか?

 しかし見た目は人間に似ているとはいえ、その獰猛さは隠せない。

 あれが普通なのか分からないが、怒り狂っているようにしか見えなかった。


「え、えっと……か、かかって来いよ! 馬鹿ゴブリン!」


 なんだそれは……。

 だが一応効果はあったようでゴブリン達が此方に注目していた。


「もっと挑発するんだよ!」

「どうして良いか分からなくて!」

「ちっ、仕方ない。俺の言う通りにするんだぞ?」

「わ、分かりました」


 本当の挑発っていう奴を教えてやるぜ!

 俺はトートに小声で指示を出した。

 初めトートは嫌がるそぶりを見せたが、やがて諦め言う通りに行動した。


 トートは両手で自らのスカートをたくし上げる。

 そして顔を赤らめ、恥ずかしがりながらこう言った。


「ご、ご主人様の好きにして下さい……」


 言わせてから思ったが、ゴブリンに言葉は通じるのだろうか?

 いやそんな事は関係なかったようだ。

 ……ゴブリン達は血走った目をしながらトートに向かって襲い掛かって来た。


「トート、上出来だ! さっさと逃げるぞ!」

「……もう死にたい」

「今それを言うな! 洒落にならないぞ!」


 半場呆けているトートを引きずりながら、予定の場所へとゴブリン達を誘い込む。


「……来たようだな? お前ら壁を張れー!」


 トイフェルの指示で通路の脇道が塞がれる。

 同時にトートの逃げる場所も限定される。


 ……トートの足が遅い。

 このままでは追いつかれる。

 トートを正気に戻す必要があった。


「本気で逃げないと本当の女の子にされちゃうぞ!」

「そ、そんなのは嫌だーーー!」


 何を言っているのか自分でも分からなかったが、効果は抜群だったようだ。

 正気を取り戻した、いや狂気に駆られたのか、トートは物凄い勢いで逃げ出していた。

 これなら何とか逃げられる。


 そして予定の場所に到着し、戦闘組と合流する。


「後は任せるぞ!」


 俺は戦闘組のケーゼ、ガーベル、レッフェル、キルシュに声を掛ける。


「任せておけ。

 予定通りいくぞ!

 キルシュは前衛だ、敵を食い止めろ。

 俺とガーベルの魔術で敵を倒す。

 レッフェルは治癒を頼むぞ。

 トートとペットはしばらく休んで置け。

 ま、出番は無いだろうがな」


 ケーゼが偉そうに指示をする。

 言われなくても俺は休んでおくがな。


 まずはゴブリン達にケーゼとガーベルの魔術が炸裂する。


「「ウィンドアロー!」」


 ガーベルも風属性なのだろう。

 目視しにくい風の矢がゴブリン達を襲う。

 ゴブリン達からしてみればいきなり味方が倒れたように感じたに違いない。


 そして大半のゴブリンが倒された。

 だがそんな事は関係ないという風に、生き残った者達が勢いよく突っ込んでくる。


「ゴブリン如きでは物足りないね」


 キルシュがそれをいとも簡単に斬り伏せる。

 しばらくキルシュが戦う所を見ていなかったが大分腕を上げたようだ。


「皆さん凄いです! 僕の出番は無いかもしれませんね!」


 レッフェルは治癒属性なのだろう、後方で待機していた。

 そしてする事が無いのか、黄色い声を上げて応援する。

 ……お前も囮役が良かったんじゃないか?

 

 ゴブリン達は仲間を助ける為か、後続からも次々と此方へ向かってきていた。

 後はこのまま敵を殲滅するだけだ。




◇◇◇




 それから暫くして俺もキルシュを手伝う為、前に出た。

 前に出たと言っても牽制程度だが。

 ほとんど全てをケーゼとガーベルで倒すのだから楽な物だ。


 トートは最後方で別の何かと戦っていた。

 その目は虚ろで怯えきっていた。

 ……早く正気に戻って欲しい物だ。


「そろそろ良いか? お前ら壁を解いて止めを刺すぞ!」


 壁組も戦闘を開始したようだ。

 後は殲滅するだけという所で……メインディッシュが現れる。


「これは少し手応えがありそうだね」


 キルシュはやっとまともに戦えるとでも言いたげだった。

 今までのゴブリンとは体格が全く違う。

 本当にゴブリンか? と思うほどの大きさだった。


「ゴブリンロード、十階のボスか。

 まずは俺とガーベルが攻撃する!

 そのままキルシュの出番は無いだろうがな!」


 ケーゼとガーベルも先程より気合を入れたようだ。


「「ウィンドランス!」」


 他の者は目視出来ないだろうが俺には分かった。

 先程とは比べ物にならない破壊力を持っている事が。

 そしてそれがゴブリンロードにとっては掠り傷程度で……ほとんど効かなかった事も。


「これはこれは!

 ボスとはこうも他とは違うものか。

 ロードの名を冠するだけの事はある」


 ケーゼが珍しく褒めていた。

 ……自分の魔術が効かなかった良い訳じゃないよな?


「どうやら僕の出番は残っていたようだね」


 次はキルシュだった。

 キルシュは時空属性だ。

 時空には攻撃魔術が少ない。

 だが魔法を使う事は出来る。

 そして魔法なら全ての属性を使う事が出来る。


 まずは炎で牽制し斬りかかっていった。


「ファイア!」


 次は風。


「ウィンド!」


 そして氷と地。


「アイス! アース!」


 魔法で牽制し本命の剣での攻撃を叩きこんでいく。

 徐々にだが、ゴブリンロードに傷が増えて行った。

 そしてキルシュがゴブリンロードから離れた瞬間。

 絶妙のタイミングでケーゼとガーベルの魔術が叩き込まれる。

 この間にもしキルシュが怪我をしても、レッフェルの治癒が受けられるだろう。


 だが……。


「それにしても頑丈なゴブリンだね」

「まったくだ。一体何時まで攻撃すれば良いのだ」

「ケーゼ様の魔術をこれほど耐えるとは」

「皆さーん、諦めずに頑張りましょう―!」


 そしてトートだが……


「来ないで、来ないで!」


 ……まだ駄目だった。


 ボス以外の雑魚はトイフェル達が抑えていた。

 そして一つの問題に直面していた。


「敵の数が減らねぇ。一体どうなってやがる!?」


 トイフェルから焦りの言葉が出る。

 周囲はゴブリンの死体だらけで足の踏み場もない。

 戦うスペースを確保する為、トイフェル達は徐々に後退していた。

 そしてゴブリン達は同胞の死体を盾に使い、魔術を耐えならが進んで来る。


 もう既にゴブリンを数百匹は倒している。

 一人につき、数百匹だ。

 全体では数千を超える数を倒しているのにこれだ。


 全員が焦りと疲労を感じた時……それは現れた。

 そして俺は全員に聞こえるよう大声で叫んだ。


「後方にもう一体ボスを確認した! 

 ……ゴブリンキングだ!!!」

「「「なっ!」」」


 当然ボスだけでは無い。


「雑魚も大量に現れやがった! 挟み込まれるぞ!」


 しかも今までの雑魚ゴブリン達と違い、体が少し大きく感じる。

 ホブゴブリンって奴か!


 そして退路は断たれていた。

 どちらかを突破しなければ、逃げる事も出来ない。 

 そして壁組、戦闘組ともに限界は近い。


 ……戦線が崩壊するのは時間の問題だった。




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