第六十六話 依頼
「俺も行きてーぜ……」
「トイフェルは私とまた今度ね?」
トイフェルはどうもアネモネの手に陥落したようだった。
今までは人前で手を組む事は無かったからな。
いやあれは捕えられているのか?
そして俺とシャルは課外授業へと行く事になった。
その他にも三人が一緒に行く。
テラー、トルペ、ヴィンデだ。
あまり親しくない奴らだった。
テラーは何度か一緒に迷宮へ行っていたが、それ程親しい訳でも無い。
どうも敢えてあまり親しくない人と行くようにしているようだった。
それでいて戦力が集中しないよう均等になるように分けられているようだ。
トイフェル、安心しろ。
きっとアネモネとは違う時に課外授業へと行く事になるだろう。
「今回行く場所は冒険者ギルドです。
そこで実際の依頼を受けて貰います。
現役の冒険者が一名同伴するので、その者の指示に従ってください。
私は少し離れた所から観察しています。
あまり親しくない者と行動をする事も、今回の課外授業の目的の一つです」
レーレン先生が直接教える訳では無いのか。
一応、万が一に備えて、傍に控えているらしいが。
「俺はあんまり人と話すのが得意ではなくてね」
これはテラーだ。
「まずは会ってみない事には何とも言えないな」
トルペ。
「なんとかなるさ、あんまり気負っても仕方ないよ?」
ヴィンデ。
「冒険者ギルド……ね」
シャル。
「あそこで習う事なんてあるのか?」
身も蓋も無いのが俺。
「反面教師と言う言葉もあります。
どんな事からも習う事はありますよ」
先生も俺達がギルドで受けた事を知っているのか?
少し言葉が悪かったな。
どうしてこう俺達の行く先には悪い予感しかしないのだろうか?
◇◇◇
そして悪い予感って奴は当たる物だ。
「Cランク冒険者のゲファールだ。
実質Bランクの様な物だがな。
今回は俺の言う事を聞いておけば何の問題も無い。
必要な物も全て此方で準備した。
黙ってついてくればいい」
ランクが下がってやがる。
ざまぁ。
「実質Bランクというと?」
トルペが空気を読まない質問をする。
「ちょっとドジっちまってな。
あれは運が悪かっただけだ。
だからBランクと言って良いんだよ!
今回の依頼もBランクだしな」
「反省してないようね……」
「おいおい、運が悪かっただけだって言ってるだろ?
生意気な、学生、だ、な……?」
ゲファールの顔色が変わる。
元から学生など眼中になかったのだろう。
シャルの存在に今頃やっと気付いたようだ。
「いやそうだな。
……俺は今Cランクだ。
今回は謙虚に行こうと思う」
急に態度を改めるがもう遅い。
今回は覚悟して依頼に望んで貰おうか。
「依頼の説明をする。
簡単な護衛……いや油断するのは良くないな。
商人を一人護衛しながらしばらく近隣の町を回る。
商人は一人だが積荷もあるので其方を守る事も忘れてはいけない」
「最近、護衛の依頼を受けた冒険者が夜盗と組んで、護衛対象者を襲った事があったと思います。
それについてどう思われますか?」
「……冒険者の風上にも置けないな」
「また護衛が夜盗に投降したとも聞きますが、それについては?」
「……もう本当にすいませんでした。
この辺で勘弁してください!」
シャルの大人げない質問にゲファールは耐えきれなくなった。
そして恥も外聞も無く年下の女の子に頭を下げていた。
「分かれば良いんだよ。
初めからそうしろよな!」
俺もこれくらいで許してやる事にした。
「君達はどこでもなにかしらの問題を起こしていますね……」
先生は呆れていた。
弁明の余地も無かった。
「それではここからはゲファールさんの言う通りにして下さい。
……お手柔らかにお願いしますよ」
お手柔らかにするのはどっちなのだろうか。
◇◇◇
「シャルさんは凄いとは思っていたけど、まさか冒険者まで頭を下げるとは……」
テラーが驚いていた。
「俺もそこまでの実力? があるとは知らなかった。
素直に感心する」
トルペも驚きを隠せないようだった。
「凄いよね。
でも何となく話しやすくはなったでしょう?」
ヴィンデがゲファールを慰めていた。
学生に気をつかって貰うとか、何やってんだよあいつは。
「世の中辛い事ばかりだ。
この年になってやっとそれが分かった」
今までが楽過ぎたんじゃないのか?
「もうすぐ街の入口だ。
そこで商人が待っている。
……あれだな」
「ゲファールさん、いつもお世話になっています。
今回は学生の方も護衛に付いてくれるそうで?
皆さん魔術師でとてもお強いと聞いています。
今回は宜しくお願いしますね」
「「「はい!」」」
そこではぽっちゃりとした気の良さそうなおっさんが待っていた。
「商人のドレーエンで今回の護衛対象者だ。
積荷はその荷馬車の物がそうだな。
俺達は周囲を警戒しながら徒歩での移動になる。
だが食糧なんかの荷物も一緒に荷馬車に乗せてある。
まぁ楽勝だろうな」
もう既に慢心している気がする。
◇◇◇
街を出て丸一日。
道中は野営を挟みつつも、順調に進んでいた。
そして途中、旅の者とすれ違う事もあった。
「やぁ、旅の者ですが商人の方ですかね?
何方に向かわれるので?」
「近隣の町を回っていますよ。
この辺は特に見る物も無いでしょうに、どういった用件で旅を?」
「どこかで稼げる場所は無いか探している所ですよ。
最近は働く場所が減ってしまって困っています」
「それなら冒険者ギルドに行くと良いでしょう。
あまり稼げないかもしれませんが、真っ当な仕事がありますよ」
「……そうしてみます。それでは失礼しますね」
旅の者とはすぐに別れた。
「……とまぁ、あれが盗賊だ」
ゲファールが説明した。
「「「えっ!」」」
その突拍子もない説明に生徒達は驚いていた。
「ならどうして捕まえないんです?」
当然の質問がテラーからされる。
「正確にはまだ盗賊ではないな。
機会があれば盗もうと思っていただけだろう。
この辺に旅をする理由は無いからな。
素直に出稼ぎに来たと言えばまだ信じられたがな」
こんな所を態々旅をして仕事を探す理由が無かった。
もっと大きな町に行けば良いだけだ。
そして近隣の町から来ているなら旅などとは言わず、やっぱり出稼ぎと言うべきだろう。
「それに本当に物好きで旅をしているのかもしれんからな。
そして気を付けろ。
夜になって仲間と共に闇にまぎれて襲ってくるかもしれん」
ゲファールが注意を促す。
ま、これだけ護衛がいる所を襲うとは思えないけどな。
「最近こういう輩が増えましたな……」
「ライフィーとの戦争が一段落ついて兵士の募集が減ったからな」
「アフュンフ国と戦争の噂もありますが、今だ膠着状態のままですからね」
「仕事はあるにはあるが……あまり儲からないからな。
ギルドの収益のほとんどは迷宮から得られている。
残りが護衛と荷運びなどの肉体労働や雑用になる。
だがいきなり迷宮など危険すぎていけないからな。
どうしても雑用などの仕事になってしまう」
「貧しい生活は誰しもが望みません」
「こういっては何だが戦争が続いていた方がまだ平和で豊かだったような気さえする。
……すまん、お前達はその被害者だったな」
ドレーエンとゲファールが話し合っていた。
そしてゲファールは俺達が戦争で直接被害を受けたのを思い出したのだろう。
俺達は同級生を失っているのだから。
「いたっ! なんなんだまったく、木の実か?」
ゲファールに空から降ってきた堅い木の実が当たったようだ。
天罰か……まぁ人為的な物だがな。
そしてゲファールの心配は杞憂だった。
道中は盗賊に襲われる事も無く、課外授業は終わった。
◇◇◇
「これで依頼は終わりだ」
「皆さん今回は有難う御座いました。
また宜しくお願いしますね」
ドレーエンと別れ、今回の護衛は終りだった。
そして冒険者ギルドに報告して依頼は終わりを迎えた。
「いくつか分からない事がある。
あまり難しい依頼では無かったように思えるが、なぜBランクの依頼に指定されていたのだろう?」
トルペが質問していた。
「積荷の問題だ。
今回は魔石を運んでいたんだよ。
割と高価な物だからな」
「もう一つは先生と連絡を取り合っていたようには思えなかった。
一体どこに先生はいたのだろうか?」
「えっ、あの先公どこかに居たのか?」
ゲファールの奴、やっぱり気づいていなかった。
「ずっと傍に居たわよ。
……会話が聞こえるくらいのね」
「いやー、それは気付かなかったわー」
シャルは気付いていたようだが、ヴィンデは分からなかったようだ。
いやシャル以外全員が分からなかったようだった。
「はい、今も傍にいますよ。
皆さん油断せずに依頼を受ける事が出来ましたか?
私に気づけないようでは冒険者にはなれませんよ」
遠回し、いや直接ゲファールを攻めているのだろうか。
道中の件では木の実とか投げてたしな。
「いや普通分からないから、元気出せよな?」
ゲファールがまたしても落ち込んでいた。
ヴィンデにまた元気づけられるとか本当に駄目な奴だな。
「俺最近駄目過ぎでさぁ。
ランクは下がるし、嫁には会えないし、もう駄目かもしれねぇ」
「お前の嫁は金が無いと会えねぇからな!」
ゲファールを他の冒険者が煽っていた。
「こいつの嫁っていうのは娼館の女達の事さ。
だからまともに取り合う必要はねぇよ」
「あそこにいる奴は全員俺の嫁なんだよ!」
駄目な奴だとは思って居たがここまでとは……。
「あまり紳士的ではない者が多い場所ですが、気にしてはいけません。
どんな者でも一緒に行動する仲間なのですから。
……私の生徒達はこうはならないと思いますがね」
先生はマジで容赦がないな。
もしかして他の生徒達の時も似たよう物だったのだろうか。
◇◇◇
「ファースト、どうだった?
何か面白い事はあったのかよ?」
「つまらねー事ばかりだったよ。
まだ一時間石を作ってるほうがマシだな」
「はぁ、でもアネモネから解放されるだけまだましか……」
どうやら次に行くのはトイフェルらしい。
そしてアネモネとは別行動らしいな。
「こっそりついて来てたりしてな」
「……笑えねぇよ。
本当にありそうだからな……」
そうだな……今も傍に居るからな……。
トイフェルも依頼は駄目そうだな。
先生には気付かないだろう。
いや気付かない方がまだ良いのかもしれない。
「道中は隙を見せるなよ」
「なんだ? そんなに危険なのかよ」
……何が襲ってくるか分からないからな。




