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ご主人様は真っ黒  作者: pinfu
第三章 現身
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閑話 ご主人様は真っ白

 人によっては好ましくない表現があるかもしれません。

 この場面は飛ばしても問題ありません。



「トイフェル、もう逃がさないわよ!」

「アネモネ、落ち着け! 話せばわかる!」


 俺は捕えられていた。

 それはもう身動きが出来ない程に。

 俺は自分の部屋で寝ていたはずだ。

 だが今はこの場にいつの間にかアネモネが居て、更に俺は拘束されていた。

 そう言えば前にアネモネが勝手に部屋に侵入した事があった。

 迂闊だった。

 いや対策のしようも無かったのかもしれないが。


 俺はそれ程深く相手の内へと踏み込んだつもりは無かった。

 アネモネは人と少し違った所があったようだな。


「俺は誰にも縛られねぇよ。

 お前も好きだが、ほかの女も好きなんだよ」

「ほかの女と一緒にされるのも我慢ならないわ。

 でももっと許せないのが、トイフェルには特別な人がいる事よ!」

「……そんな奴いねぇよ」

「嘘よ!

 いつも女の事ばかりだけど、一人の時は誰かを想う様に黄昏てる。

 私にトイフェルの事で分からない事なんて無いのよ!」


 一人の時も見張られていたのか?

 それに黄昏たつもりは無かったのだが、自分でも気付かないうちにそうしたのか。


「何の事か覚えが無い」

「でももう良いの。

 トイフェルは想うだけでそいつとは会っていない。

 なら今のうちに私の物にする事にしたわ」


 そう言って俺は拘束されたままの状態で、服が刃物で斬り刻みながら脱がされていく。

 恐怖と羞恥、人の心を折るには有効な手段だ。


「そんな事をしても俺は変わらない」

「そうでしょうね。

 でも私は満足する……安心できる」


 裸になった俺をアネモネの手が撫で上げる。

 俺はどうすれば人の心を折れるか知っている。

 特殊な環境、こういった事を生業とする家で育った為だ。

 知っていれば多少は抵抗も出来る。


「俺はこんな事には屈しない。

 ……お前じゃ無理だよ」

「そんな事はない。

 女性に迫られて落ちない男なんていない」


 アネモネの手つきは拙い物だった。

 経験が浅いか無いのだろう。

 どこかで聞きかじった程度の知識だけではこんな物だろうか。

 しばらくアネモネは頑張っていたが、俺は全く反応しなかった。

 ……逆にその拙さに反応しそうだったがな。


「どうして……私には魅力が無いって言うの?

 そんなにまで思ってる人がいるっていうの!?」


 それでもアネモネは行為を止めない。

 このままでは埒が明かなかった。

 ……実はもう反応しないにも限界が近い。

 ここが交渉のタイミングだろう。


「本当の事を話せばアネモネは納得して俺を解放してくれるのか?」

「……本当の事ならね。今回は解放してあげる」


 今回は……か。

 これは解放された後は何かしら手を打たないとな。

 だが女に襲われた(犯された)から助けてくれなんて人には言えないな。

 だが今はその事は後回しだ。


「……俺が想っている奴はいない」

「嘘よ! やっぱり本当の事なんて話すつもりが無いのね」

「違う! もういないんだ。

 ……死んじまったからな」


 そうもういない。

 俺が今でも想っている……いや囚われていると言った方が良いか。

 その憧れた人はもうこの世にはいなかった。




◇◇◇




「君はいつも一人だね」

「……一人が好きなんだよ」


 俺は学園に入学してすぐはいつも一人だった。

 人の心を操る術を習ったせいか、人と言うものがまったく信用出来なかった。

 それにいつの間にか他者を誘導するような発言をしてしまう。

 それは多かれ少なかれ普通の事なのだろう。

 だが俺には容易に誘導出来てしまう。

 俺はそんな事をするのは……嫌だった。


「でも一人は寂しいでしょう?

 私が話し相手になってあげるわ」


 だが彼女は違った。

 いや同じと言った方が良いか。

 ……彼女も他者を誘導するような発言をしていた。

 それも明確に自分の意思通りに相手を誘導するのが目的で。


「君の好きな事は何かな?」

「私もそれが好きだなぁ」

「君の嫌いな事は何かな?」

「私もそれは苦手だよぅ」


 彼女は徹底的に俺に合わせてきた。

 だが俺はそんな事では好意を持たない。

 そして彼女も俺に好意を持っていない事は分かっていた。

 ただ自分の思い通りに動かしたい、それだけだ。

 逆に相手を誘導してやろうといつの間にか思っていた。


 俺の教わったやり方は特殊だった。

 最終的には特殊な薬品「水」と呼ばれる物を使う。

 それは人の心を惑わせ、それ無しではいられなくなる。

 誘導する発言と合わせて使う事で他者を思い通りに操る事が出来た。


 だが俺はそれを持っていない。

 いや持っていたとしても使う事は無いが。

 そんな物が無くとも誘導する事は出来ると思っていた。

 事実、言葉のやり取りでは俺が勝っていた。


 しかし……彼女は水を持っていた。

 正確には水と同等の効果を持つモノだ。


 彼女は……()が大きかった。


 馬鹿だと思うかもしれないが、この世の真理はそこにあった。

 俺はもう既に初めて会った時から釘付けだった。


「君の考えは凄く分かりやすいわ」


 多分俺は毎回、目でそれを追っていたのだろう。

 そして俺は彼女がいう事を聞くように誘導していた。

 彼女もそうしていた。

 言う事を聞かせるには自分も言う事を聞かなければ難しい。

 それはもうお互いがお互いに好意を持つ事と、どう違うのだろうか?

 

 俺は……彼女の手に落ちていた。


 そしてそれでも良いと思った。

 誰も損をしていない。

 自覚してからは早かった。

 俺は彼女()無しでは生きていられない。


 でも彼女は俺に好意を持ってはいなかった。

 そして俺無しでも生きていけた。

 いや俺が居たから……死ぬことが出来た。


「ふふふ、君ならきっと来てくれると信じてた」


 彼女は突然、学園を止めてしまった。

 俺は何も聞かされておらず、ただ困惑しただけだった。

 そして彼女の家を調べ、すぐさま会いに行った。


 彼女に家族は居ない。

 両親は早くに亡くなったそうだ。

 財産だけが彼女の手に残った。


 そしてそこには変わり果てた姿の彼女がベッドに寝ていた。

 頬はこけ、腕はやせ細っていた。

 病気だったらしい。

 元から長くは無い寿命だったと。

 今までそんなそぶりは全く見せなかった。


「私は誰にも覚えられずに死ぬのが怖かった。

 誰かに覚えておいて欲しかった。

 でもそれは……誰でも良かったのよ」


 それは何となく気付いていた事だった。


「君は遠目でもすぐ分かったわ。

 私を見ているってね。

 ふふふ、私じゃなくて……胸だったかしら?」


 俺はこんな時なのに顔を赤らめてしまった。


「でもごめんなさい。

 せっかく来て貰ったけれど、胸は見せられないわ。

 もう……ね?」


 それはやせ細った彼女を見れば分かる事だった。

 俺は見れなくて残念な気持ちがある事が恥ずかしかった。


「君は胸を見るたび……私を思い出す。

 これが私の目的。

 私を、忘れ、ないで、ね……」


 そう言って彼女は目を閉じる。

 もう限界だったのだろう。

 一方的に言いたい事だけ言って逝ってしまう。


「俺は君を忘れない!

 でもそれは胸のせいじゃない。

 俺は誰とも話せない事が寂しかったんだ。

 それはきっと君も同じで寂しかったんだ。

 だから俺がここに来ると信じているって言ったんだろ!?

 最後に俺と会いたかったんじゃないのか!?

 そうだと言ってくれよ!!!」


 彼女はこんな変わり果てた姿を見せない方が良かったに決まっている。

 これでは彼女の目的は果たされない可能性がある。

 最後の姿はそれ程までに、俺の中に鮮明に記憶された。


 彼女の本当の願いは寂しさを紛らわせたかった事だ。

 最後に俺と会った事がその証拠だ。


「俺は君と話したその事を忘れないよ……」




◇◇◇




「それからだな、俺は俺と似たような奴を見つけては話しかけていた。

 彼女の事を思い出し、そして忘れない為にな」


 俺は本当の事を全て話したつもりだ。

 これで分かっただろう。

 俺は誰でも良かったんだよ。

 俺と同じ境遇なら……アネモネ以外でも誰でもな。


「そう……だから私に話しかけたのね」

「ああ、誰でも良かったんだよ」


 これで俺への興味は薄れるだろう。

 ……だがまてよ。

 俺は窮地に立たされていないか。

 恨まれて……殺されるとかないよな?


「どうすれば良いか……分かったわ」

「……解放してくれるんだよな?」

「ええ、解放してあげる」


 ふぅ、なんとか思いとどまってくれたようだった。


「その女からトイフェルを解放してあげる!」


 思いとどまる所か何かを決心したような感じだった。


「もう私以外と話させない。

 そしてその方法も分かった」


 アネモネは自分の服を脱ぎ去った。

 元々薄着だったが今はもう何もつけていない。


「私のこれ、大きいでしょう?

 今までは邪魔だとしか思わなかったけどね」


 そしてその大きな胸を強調するような仕草をする。

 アネモネは俺の話から何を聞いていたのだろうか。

 いや確かにそれは要点を得ていたが。


 そしてそれを俺の体に摺り寄せる。

 それは柔らかくそして弾力のある物だった。

 俺は完全に意識してしまい。

 そして……反応した。


「ふふふ、もう逃がさない」


 アネモネは人を惑わす強力な()を手に入れた。

 俺はそれに抗えなかった。


 次の日の朝。

 俺は精根尽き果てていた。


「んー、連休はあと四日あるわね。

 じっくり楽しみましょうね?」


 俺はあと四日は解放され無いようだ。

 だが高々四日だ。

 それくらいで心を折れると思うなよ!

 だが俺の心の抵抗はここまでだった。


「……半月くらい休んでも留年なんてしないわよね?」


 俺はあと十日、いや十五日は解放されないようだった。

 このやり方は知っている。

 人の心を折るやり方で習った。

 一度希望を見せておき、それをさせない。

 効果は抜群だった。


「もう良いだろう。

 ……俺はお前の物だよ」

「その言葉が聞きたかったの」


 これで解放される。

 俺はただただ安堵していた。


「次は体に聞いて確かめるわね?」


 人の心を折るだけでは無かった。

 これはもう……拷問の類だった。


「どこでこんな事を覚えたんだ……」


 俺にはもうこれ以上考える事は出来なかった。




「へーっくし!」

「シャル、風邪か?」




 数日後、俺は真っ白に燃え尽きていた。




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