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ご主人様は真っ黒  作者: pinfu
第三章 現身
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第六十二話 贈呈


 長期休業期間が終わり、学園に生徒達が帰って来た。

 久しぶりと声を掛けあう者もいればお土産などを好感している者もいる。

 そしてシャルもお土産を受け取っていた。


「エルフの国から……剣を預かって来た……」


 それは先の遠征時に約束された剣だった。

 マルメラが珍しく休業中に帰郷し、預かって来た物だった。


「アインツ王国とは違って変わった形の剣なのね。

 やっぱりエルフの国で作られた物なのかしら?」

「違うと思う……ずっと昔、エルフの国に外から持ち込まれた物……」


 ん? 普通はこういう時、エルフの国にゆかりのある物を送った方が良いような気もするが。


 その剣は鞘に納められていた。

 シャルが鞘から剣を引き抜く。

 刀身は赤黒く、とても美しいとは言えなかった。

 だがそれは独特の雰囲気を持っていた。

 軽く反りのあるそれは……刀だと思えた。


「んー、これ魔法剣(マジックブレイド)なの?

 あまり魔力を感じないというか、それよりも何か気持ち悪いのだけど」


 そうなのだ。

 禍々しいと言えば良いのだろうか?

 とても贈り物にするような物には思えなかった。

 やはりエルフには嫌われてしまったのだろうか。


「分からない……でもシャルにぴったりの物らしい……」


 シャルは呪われた存在とでも言いたいのだろうか。

 まったく失礼な奴らだ。


「ま、使ってみれば分かるでしょう」


 シャルは一応マルメラに礼を言ってそれを腰にさした。

 今まではもう少し大きめの剣を使っていた。

 剣を使うというか使われている感じに思えたものだが、なぜかその剣はしっくりとシャルに合っていた。




◇◇◇




「もう既に知っている方もいるかもしれませんが、ライフィー共和国とは停戦協定が結ばれます。

 戦争はアインツ王国の勝利と言って良いでしょう。

 授業を始める前に亡くなった同級生、生徒の皆さんに黙祷を捧げましょう。

 ……黙祷」


 休業明けの授業はまずは黙祷から始まった。

 これで全てが終わった訳ではないのは、皆分かっていた。

 それに直接手を下したのはアフュンフ国だ。

 だがどこかで割り切らなければいけない。

 これは黙祷を捧げる生徒達自身の心を落ち着ける為の物だった。


「それでは授業を始めましょうか」


 いつもなら休業明けで浮ついた感じが残るものなのだが、今はそんな感じはしなかった。




◇◇◇




「シャルさんの剣はもしかしてマジックブレイドでは!?」


 いつかどこかで聞いたような、ちょっと違うような言葉が聞こえてきた。

 モーンが興味津々でシャルに近づいてきた。


「そうなの? 私には良く分からなくて」

「す、少し見せて貰っても良いでしょうか?」


 シャルは剣をモーンに渡す。


「抜かせて貰いますね。

 ……これは刀。

 今はもう作れる者は少ないと聞きます。

 これは魔法剣というよりは魔剣と言った方が良いのでしょう。

 幾千幾万の魔物(モンスター)を斬り伏せ、その血を刀身が吸って魔力を帯びた物です。

 特殊な力はほぼなく、その為魔力の消費もほとんどない。

 使用した時に魔力を吸収するのでむしろ増える。

 この刀の能力はただひたすらに切れ味が鋭いという事。

 どんなモンスターをも、モンスターの頂点すら斬ってしまう事から……」


 それは俺にとって、いやまさにシャルにぴったりと言えばぴったりの物だった。


「……竜殺し(ドラゴンスレイヤー)と呼ばれます」


 まったくなんて物を送ってきやがる!

 俺は相当恨まれたらしいな。

 そしてそれをシャルは……気に入ったようだった。


「等級としては二か三しかありませんがその価値は六、いや七はあると思いますよ」


 だが珍しくシャルは価値をあまり気にしていなかった。

 いやそれよりも実用性に興味があったようだ。


「さて、価値も分かった事だし……次は試し斬りね」


 ……嫌な予感しかしなかった。


「ちょっとチクッとするかもだけど、すぐ終わるからね?」


 俺はその場を逃げ出した。




◇◇◇




 学園はちょっとした騒ぎになっていた。

 逃げ回る俺をシャルが刀を振り回しながら追いかけていたからだ。

 そして今この学園でシャルを止められる生徒は居ない。

 むしろこの状況を理解し、各部屋、教室は締め切られ、俺の逃げ場は少なかった。

 そしてそれ以上に厄介な事もある。


感覚共有(シンパシー)がある限り、私から逃げ切る事は不可能よ!」

「まさかこの能力で不利になる事があるなんて……」


 いや主人と使い魔が戦う事なんて想定されるはずも無かったな。

 だがここで救世主が現れた。


「君達はいつもいつも何をやっているのですか!

 騒ぎの事情を聞きます。

 今すぐ私の部屋に来なさい」


 止めれる生徒は居なかったが先生はいた。

 そしてもう何度目か分からないが、レーレン先生の部屋での事情聴取が行われた。


「……事情は分かりました。

 ですが、周りを巻き込むのは止めなさい。

 勘違いした生徒が怯えきっていましたよ」


 怯えているのは俺の方だっていうのに。


「ではこうしましょう。

 訓練室を一つお貸しします。

 そこで決着を付けては?」

「えっ!?」


 訓練室は魔術の訓練などを行う部屋だ。

 ただ広く頑丈な作りの何も無い場所だった。

 そこが俺の処刑場か。


「勘違いしないでください。

 ただ黙って斬られろと言っているのではありません。

 制限時間や範囲を決める。

 ルールを決めてその中で逃げる事も出来るようにしてみては?」


 それは願っても無い提案だった。

 このままずっと逃げ続ける訳にも行かない。

 俺には斬られる可能性しかなったのだ。

 ……他に選べる道は無かった。




◇◇◇




 訓練室の一室を貸し切った。

 そこには俺とシャルしかいない。


「ここでなら成体になっても良いわ。

 ……本気でやりましょう」

「本当に良いのか? 負ける気はしないぞ」


 俺は言われた通り、成体へと変態する。

 これで明らかに俺の方が見た目は強そうだった。


「ただ魔法は禁止にしましょうか。

 私も使わないわ」

「そうだな」


 もし俺が魔法を使ったら辺り一面焼け野原だ。


「それじゃあ覚悟は良い?

 ……狩りを始めましょうか!」


 シャルは閃光石の一種、通称一時間石を使用した。

 これは学園が生徒に無料で配布している魔石だ。

 ちょうど一時間でその光が消える事からそう呼ばれている。

 それが消えるまでが制限時間だという事だ。


「狩られるのはどっちかな!」


 俺の感覚を持ってすれば、シャルの斬撃を回避するのはそれほど難しくない。

 だが一時間も回避し続けるつもりは無かった。

 シャルのその手から刀を奪ってしまえば良いのだ。

 ……しかしそれは難しかった。


 いくら成体の姿とはいえ俺の手は……短かった。

 ついでに足も。

 長いのはその首と尻尾くらいだ。


 いや長さの問題だけでは無い。

 シャルの手から刀を奪うにはその刀に身を晒さなければ無理だった。

 刀で振り払われればそれはイコール斬られる事になる。

 刀の刃以外を振り払うなど無理だ。

 少し角度を変えるだけで簡単に刃が俺を襲う。


 やはり一時間の間、逃げ切るしかないのか?

 ここでようやくそれどころでは無い事に気づいた。


 ……逃げ場が無かった。


 訓練室が広いと言っても、無限の空間が広がっている訳では無い。

 そして俺はその大きな体のせいで追い詰められていた。

 いつの間にか部屋の隅へと追い詰められていた。


「くっ、成体になれって言ったのはこの為か!」


 騙された!

 幼生の小さな体で逃げ回った方が楽だった。


「幼生になるのは駄目よ?

 それも魔法みたいなものなのだから」


 よく考えてみれば魔法を使用するしないなど決める必要が無かった。

 おれはアンチマジックフィールドで全ての魔法を無効化出来る。

 シャルだけが有利になる条件だった。


「汚い! 狡い! 反則だ!」

「戦いが始まる前から勝負と言う物は始まるのよ」


 そして戦う前から勝負はついていたという事か。


「ぎゃうー!」


 斬られた。痛い。

 だがその痛みはどこか他人事の用で叫ぶほどでも無かった。

 ……咄嗟に声が出たのは仕方ないと思う。

 そして俺とシャルの戦いはシャルの勝利で終わった。




◇◇◇




 訓練室の外にはマルメラが待機していた。


「ファーストを治してあげて」


 もう俺が傷つく事は分かり切っていたのだろう。


「すぐ……治す……」


 だがそれは出来なかった。

 治す事が出来なかったのだ。


「もう……治ってる……」


 俺の傷は自分でも知らないうちに治ってしまっていたようだ。


「確かに斬ったはずよ?

 刀に血が付いているもの。

 ……ドラゴンの血もやっぱり赤いのね」


 勿論重要なのはこの場合血の色では無い。


「ファースト、これで分かったでしょう?」

「ああ、シャルには敵わないよ」

「そういう事では無いわ。

 ……貴方も無敵ではないって事よ!

 ドラゴンの体だって怪我をする。

 よく考えて行動しないと死んでしまうって事だからね!」


 そう俺は無敵じゃない。

 俺を倒す為の有効な武器が存在するという事だ。

 そしてシャルが気にしていたのは、いつも俺が体を張って庇う事だったのだろう。

 これからはただ単に体で受け止めるだけでは駄目だという事だった。


「分かったよ。

 これからは自分自身も傷つかないように立ち回るさ」

「過保護……あと……」


 マルメラが呆れていたようだった。

 そしてその顔は悲しげだった。


「エルフを……嫌いにならないで……」


 いや逆だろう。

 エルフはこの事を秘匿しておいても良かったはずだ。

 いや本当に有効かどうか試したかっただけかもしれないが。

 だが物は考えようだ。

 俺は今回重要な事を知る事が出来たのだから。


「そんな事はないよ!

 今回の贈り物は俺にとっても良い物だったと思うよ!」


 そんな俺とマルメラを無視してシャルは刀を振り回していた。

 怖い。


「ファースト、これマジックボックスに入れといて」

「持ち歩かないのか?」

「……切れ味が良すぎるのよ」


 シャルが刀を鞘にしまう。

 そしてカチャっというしまう音と共にガラガラと訓練室の壁が崩れた。

 何を斬ってるんですか、シャルさん!


「私には訓練用の木刀で十分よ。タダだし」


 そう言って魔術を帯びたその木刀で崩れた瓦礫を斬った。

 いや、粉砕した。


「どうして斬ったのに……粉々になるの……」


 魔術、いやこれは身体能力だろう。

 魔術で攻撃範囲を広げその圧倒的な力で粉砕したのだ。

 ……肉弾戦でも敵わないかも。


 そして当然だが……またレーレン先生に呼び出される事となった。




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