第六十三話 岐路
今日は三話分更新予定です。
その一話目です。
次は二十時になると思います。
「本当に良いの?」
「ええ、私はこれから一人で行動する」
シャルはある決断を下した。
迷宮に俺を連れて行かない。
そうすれば魔物と遭遇できるはずだ。
「いくら値下がりしたとはいえ、財宝を集めた方が儲かると思うけど」
実際の所モンスターを倒して魔石を集めるより、俺と迷宮で財宝を集めた方が儲かるのだ。
「これで良いのよ。
ファーストも好きにして良いからね?」
これまでほとんどの時間をシャルと一緒に行動してきた。
いきなり好きにして良いと言われても何をして良いのか分からない。
「でもやっぱり心配だし……」
「そんなに深い階層には行かないわ。
それほど心配なら感覚共有を使っても良いわよ」
「危なかったら……アレを使う」
「……そんな事無いと思うけど、もしもの時は良いわよ。
でもくれぐれも注意して使うのよ?」
「……ああ」
シャルの心配はこれくらいにしておこう。
……いつまでたっても心配なままだからな。
◇◇◇
「なぁトルテ、いつも一人の時は何してるんだ?」
「キュウ?」
俺はキルシュの使い魔、トルテに話しかけていた。
言葉なんて通じないけど。
「トルテ、迷宮へ行くよ!
ん? ファーストもいたのか。
二人きりの所を邪魔して悪いが、これから迷宮でね。
美竜のトルテを口説くのはこれくらいにしてくれるかな?」
美竜ってなんだよ……。
トルテは雌らしいが、そんなつもりは俺には無いからな!
そして俺はまた一人ぼっちになってしまった。
◇◇◇
「これ……食べる……」
「いや遠慮しとく……」
「そう言わずに食べてくれないか?
私はもうお腹いっぱいでね」
俺はレーレン先生の研究室に来ていた。
そこではマルメラが新しいお菓子を作っていた。
それは緑色の怪しいジャムだった。
絶対変な効果のある薬に違いなかった。
「先生……体は大丈夫なんですか?」
「私は治癒魔術が得意だからね、問題ないよ」
それは問題があるって事じゃないでしょうか。
やっぱり食べない方が良いようだった。
これ以上ここに居たらただでは済まない。
俺はすぐにそこをあとにした。
◇◇◇
「ショーコーラー! あーそーぼー!」
俺の声が空しく辺りに響いていた。
ショコラは居なかった。
キルシュと迷宮に行ったようだった。
この分だとトートも居ないだろう。
◇◇◇
「ファースト、良い所に来たな」
俺はトイフェルの傍でついに居場所を見つけた。
「助けてくれ、アネモネが執拗に迫ってくるんだ!」
アネモネはトイフェルの地属性魔術、アースウォールで閉じ込められていた。
俺はその魔術をアンチマジックフィールドで解除した。
「ちょっ? えええっ? それ助けてないよな?」
「リア充は死ね!」
「ファースト、良くやったわ!」
俺は拘束を解かれたアネモネに感謝されながらその場を去った。
こんな場所にずっと居られるほど俺は我慢強くない。
空気くらい読めるさ……。
◇◇◇
俺はもう行く所が無かった。
いや一つだけあった。
絶対にそこへ行く事は無いと思っていた。
だが世の中に絶対という事は無いとその時初めて思った。
「なんだ? 遂に俺の元へ来る気になったか?」
「ペットだけ? シャルさんはどうされたのかしら?」
俺はケーゼの所へ来ていた。
傍にはメッサーと執事かメイドか良く分からない家政婦のような者が控えていた。
「まぁせっかく来たんだ。
お茶でも出してやれ。
ん、酒の方が良かったか?
好きな物を何でも言うが良い」
「ケーゼ様の出すお茶もお酒も最高級品でとっても美味しいわよ」
ケーゼの指示に従ってメイドが俺に対してお茶を出してくれた。
なんだこれ。
なんでこんな優しいんだ。
ここはこんなにも居心地が良かったのか。
「どうした?
ドラゴンの顔色など分からんが浮かない様子に思えるな。
何があったのか知らんが話してみろ。
相談に乗ってやっても良いぞ」
「ケーゼ様と同じ時間を過ごすのはそれだけでも楽しいわ。
でも何かお話をしていたらもっと楽しいわね」
「実は……」
俺は何故かすんなりと現状を話していた。
「構って貰えなくて寂しいか。
お前は子供なのか?」
「ペットらしくて良いじゃありませんか」
「お前らに相談した俺が馬鹿だった!」
貰った回答は酷い物だった。
だがそれは真実でもあった。
「まぁそう言うな。
……たまには離れて見るのも良い物だぞ。
日頃気付けない事にも気付きやすい。
そして次に会った時は今まで以上に嬉しく感じる事もある」
「本当かよ?」
「そうですわね、離れている間に思いが募る事もありますわ」
「本当?」
「現に今お前は会いたくて会いたくて仕方がないのだろう?」
「……そうかもしれない」
そういう物なのだろうか。
確かにずっと一緒と言うのは息が詰まる事もある。
適度に離れた方が良いのかもしれない。
「なんだか少し元気が出て来たよ!」
「ああ、それは良かったな」
「私もお話が出来て楽しかったですわ」
俺は何か分かった気がして感謝しながらケーゼ達と別れた。
「言ってみたのは良いのだが……どう思う?」
「そうですわね、相手が自分の事を良く思っているとは限りませんわ。
その場合は離れられて清々したと思っている場合も……」
「そうだな。
だがそれ程嫌われているという事はないだろう?」
「迷宮へ一緒に行くのを断るのは、よっぽどの事だと思いますわ
それに嫌っていたはずの貴方の元へ来る事もあるのなら……」
「好かれていたはずの者から去る場合もある……か」
俺はやっぱりシャルの真意は分からなかった。
◇◇◇
シャルは予定よりも早く三日ほどで迷宮から帰って来た。
「シャル会いたかった!」
「そう? ありがと。
それよりもこれマジックボックスへ入れといてくれる?」
シャルの対応は釣れないものだった。
そしてそれは疲労からくる物だったと信じたい。
……そこには山のように魔石があった。
「一階から十階までのモンスターを狩りつくしてやったわ!
ボスは居なかったけどかなりの量の魔石が集まったはずよ」
大きさは小さいが量だけは凄い。
千を越えるほどの魔石がそこにはあった。
「こんな量を一体どうやって……
モンスターを倒すのもそうだけど運ぶのも難しいような?」
「雑魚ばっかりだったからね。
運ぶのはそれこそ迷宮を何往復もしたわよ!
迷宮の途中に氷で拠点を作ってそこに魔石を集めてね」
それ通りかかった生徒に氷を破壊されたり、モンスターに壊されなかったのか?
壊されなかったとしたらどれだけ分厚い氷で囲ったのだろうか。
「あー、もう駄目。
眠い……。
不眠不休で狩りをするのは無理があった……かも……」
シャルはそのままベッドに倒れ、眠ってしまった。
その顔は何かをやり切ったかのように晴れ晴れとしていた。
「もしかして俺って必要……ない……?」
俺の気持ちは晴れなかった。
◇◇◇
俺は何か腑に落ちない、落ち着かない気持ちで日々を過ごしていた。
そんな中で進級試験が行われた。
今までと違い、俺は様々な制約を受けながら試験を受けた。
周囲への影響を考えてのことなのだろう。
そんな事をしなくても本気なんて出さないが。
結果は今まで通りいまいちな成績だったが進級に問題は無かった。
そしてクラスメイト全員が進級した。
この年は四年生からの留年や飛び級も居なかった。
そしてシャルは四年目の学園生活を迎える。
迷宮の探索はこれまで通りシャル一人で行うようだった。
そしてまた寮で食堂の手伝いを始めた。
これだけ迷宮での稼ぎがあるのにだ。
お金とは関係なく始めたかったのかもしれない。
……ちゃんと給料は貰っているけどな。




