第五十三話 十月6
「君は……ファーストなのかい?」
キルシュが疑いようがないが、信じられないと言った感じで話していた。
俺はその黒い巨体をみんなの前に晒していた。
「ん、そうだよ」
俺が答える事でやっと納得したようだった。
「やっぱりファーストなんだよー」
「凄い……強そう……」
「これが本来の姿という事ですか」
だがその驚きは隠せないでいた。
「ファースト、戻りなさい」
シャルの言葉で俺は幼生の体に擬態した。
理由は一応あった。
「全く君達には本当に驚かされる。
ですが今はそれどころではありません。
疲れているでしょうが、治癒魔術の使える者は負傷者の治癒を手伝いなさい。
あとシャル君は使い魔と共に自分の天幕で待機になります。
見張りが付くと思いますが、抵抗などしないように!」
理由は抵抗の意志を見せない為だった。
そしてレーレン先生は早口でまくし立て、エルフの軍勢の方へと急いだ。
それにマルメラや治癒魔術が使える者が着いて行く。
「仕方ないわね。
あ、この剣をマジックボックスに入れてくれる?
取り上げられたくないから」
俺はシャルがローゼから奪った魔法剣をマジックボックスにしまう。
絶対これ怒られると思うんだが良いのだろうか。
「どうなるかまだ分からないけど、今は大人しくしていましょう」
シャルの言う通りどうなるか分からない。
やり過ぎた結果の為、軍法会議っぽいのとかするのだろうか?
いやまだ軍という訳では無いのだから普通の裁判とかなのか?
裁判があるのかどうかも良く分からないがな。
俺は今更ながらに事の次第を理解してきたのだった。
◇◇◇
あれから三日。
まだ遠征地からは動いていない。
それどころか俺とシャルは未だに見張られたまま軟禁状態にあった。
本来ならエルフ達との記念式典なんかをしている頃のはずだった。
だが今はそんな雰囲気では無くなってしまった。
慰安どころではない、敵対されてもおかしくなかった。
「いい加減この状態に飽きて来たわね」
「ああ、暇だな。人との会話も制限されるとかどんだけだよ」
「それ程の事をしちゃったって事でしょう。
これからは行動だけじゃなく、発言にも注意するのよ?」
「余計な事を言わないように?」
「それもあるけど今のアンタは……」
「出ろ、これから事情聴取を行う」
そこで見張りが俺達を呼び出した。
そして連れて行かれた先には厄介な人物ばかりが待っていた。
「長らく拘束して悪かったの。
ローゼ殿の回復を待ってから話を聞こうと思うての」
国王陛下、キルシュの父だ。
「一緒に話した方が効率的でしょうし、事情も分かりやすいと思いましたのでこうさせて頂きましたわ」
エルフの国の代表者。
「……ご心配をお掛けしました。
もう大丈夫です」
エルフの軍勢の指揮官であったローゼ。
大丈夫とは言っているが立っているのもやっとの状態に見えた。
あとは中隊長のキルシュ、此方の指揮官であったプフェ、担任のレーレン先生がこの場には集められていた。
その周りには物々しい程の見張りの兵が囲んでいる。
そして……。
「こんなのつける事ないのに……」
俺は首輪に拘束具、簡易的に作られたであろう小さな檻に入れられていた。
「別に良いじゃない。記念にそれ貰ってあげるから」
「使うつもりなの!? こんなのいらないから!」
「そう? そう言うのも好きなんじゃなかった?」
「いや、これはこれで良いと言うかなんというか。
って何を言わせてるんだよ!」
ノリ突込みをしてしまった……。
まったくなんの記念だというのか。
こんな場ではあったがシャルは余裕を見せる。
「わっはっはっ、使い魔との仲は良いようじゃな。
さて……戯言はこの辺にして、早速だが説明して貰おうかの」
「その前に一つ良いでしょう?」
シャルが陛下に質問した。
「なんじゃ?」
「貴方は誰でしょうか、出来ればお名前を伺っても?」
「なっ、シャル君! それは無礼と言う物ですよ!」
シャルは俺から聞いて知っていたのに敢えて質問した。
理由は陛下という事を知っていた方が良いのか知らない方が良いのか、判断が付かなかったからだ。
ただのお偉いさんという事ならまた対応が変わってくる。
「良いのじゃ、これは失礼した。
儂はヘルシャ・アインツ、まぁこの国の王という事になるかの。
ここにいる事は他言無用で頼むぞ?
一応お忍びで来ているのでの」
ばらしやがった。
これは本格的にシャルを取り込むつもりかもしれない。
ただのお偉いさんなら適当に流して有耶無耶に出来たかも知れないがこれは難しくなった。
「私も一応名乗っておきますわね。
エルフの国で代表をさせて頂いています、カトライアですわ。
貴方の事はマルメラから話は聞いています。
お話の通りとても優秀な方のようですわね」
エルフの代表者、カトライアも名乗る。
面と向かってみるとどこかマルメラに似ている気がしないでも無い。
特に胸とかね!
此方はやはりマルメラと知り合いらしく、シャルの事は知っていたようだった。
「ふー、それでは今回の状況を確認していきましょうか」
レーレン先生が改めて取り仕切った。
「まず今回の訓練における作戦はシャル君の発案で実行されたと聞きましたが間違いありませんか?」
「はい、間違いありません。
ですがキルシュ中隊長に相談して決めました」
はい、キルシュに丸投げ作戦きましたー。
キルシュが親の七光りでなんとかしてくれるはず!
「は、はい。僕は相談を受けました。
その作戦に可能性があると思い了承しました。
そしてそこの使い魔の手によって指揮官のプフェさんに報告しました」
キルシュもプフェに丸投げ来たー。
シャルが睨んでいたが、情けないキルシュは目をそらしていた。
「……他に手はありませんでした。
どちらにしろ全体で攻撃に転じるしか出来る事は無かったと考えます。
提案が無くとも同じような行動に出たと思います」
ああ、プフェは諦めたようだ。
責任の所在は自分にあると。
非は無くとも責任を取るのが上の義務か……。
潔いがちょっと可哀想だな。
俺はまるで他人事のようにそれを聞いていた。
「個々の能力を生徒達が把握するのは非常に難しかったはずです。
それは編成した学園側にも問題があったと思います。
生徒自身に責任は無く学園と教師陣、即ち私の監督不行き届きという事になります。
責任は私が取ります、如何様な処罰をも受けます!
何卒生徒には寛大な処置を!」
レーレン先生は初めからこうなるように誘導したのかもしれない。
責任は自分が取ると。
先生らしいと言えばらしいが、それだけでは済まされないだろう。
「過程が一番の問題なのではありませんよ。
なぜそれを行ったかの方をまだ聞いてはいませんわ」
カトライアがまだ聞きたい事があるようだった。
「使い魔が今回の事を行ったのはシャルさん、貴方の命令ですか?」
「直接命令した訳ではありません。
ですが主人の身を守る事は使い魔の義務です。
今回の事は身を守る為に仕方なく行った事です」
シャルが避けようの無かった事だと主張した。
「それはあれ程の攻撃をしなければ防げない何かがあったという事でしょうか?」
「それは私が説明します。
私は思った以上の反撃を受け咄嗟にマジックブレイドの出力を上げ過ぎた様です。
それに対抗する為に使い魔は今回の行動を取ったのだと思います。
実際にエルフの至宝ならば今回の規模以上の破壊力を出す事が出来ます!
それを見ただけで判断するのは難しいとも思えます。
また訓練でそのような物を使うとは普通思わないのですが……モンスターでは仕方のない事だと思われます」
答えたのはローゼだった。
お前は絶対わざとマジックブレイドの出力をあげただろうが!
しかも俺をモンスター扱いしやがって……まぁ、実際そうなのだが。
そしてエルフの至宝とやらの力も本当はもっと凄いんだぞ的な事も言ってるしな。
こいつ全然反省してないだろう……俺もしてないが。
「そう……つまりこれは不測の事態でおこってしまった事故って事かしら?
エルフの至宝を見せる良い機会だと思ったのだけど、これは私達の方にも非がありそうですわね」
「うむ、少し悪ふざけが過ぎたようじゃの」
そう言えばマジックブレイドの使用はこいつらの指示だったな。
こりゃ有耶無耶のうちに終わりそうだな。
国のトップを罰するのは避けるだろう。
「今後はもう少し手の内を明かし、お互いの事を知るようにせんといかん用じゃな」
陛下は此方を見ながらそう言った。
俺にまだどんな力があるのか知りたいって事か?
「今回の件での状況を把握したかっただけじゃ。
初めから誰かを罰するつもりは無い。
他に聞きたい事が無ければこれで解散としようぞ」
「お待ち下さい! 重要な案件が一つ残っております!」
発言したのはローゼだった。
「シャルと言ったな。
あの場から持ち去ったエルフの至宝を返して欲しい。
持ち去った事をとやかく言うつもりは無い。
兎に角、今すぐに返せ!
一体どこに隠したのだ!」
ですよねー。
忘れている事をちょっとだけ期待したけどそんな訳無かった。
「……何の事かしら?」
しらばっくれるつもりですか!?
それは流石に無理でしょう。
「シャルさんあまり苛めないで欲しいわ。
……今回の件で貴方の剣が壊れてしまったそうね?
後日代わりの剣を必ず送るから返して下さらないかしら?」
提案してきたのはカトライアだ。
「儂からも頼む。
そうじゃ! 国からも何か贈り物をせんとな。
なあに今回の件の見物料みたいなもんじゃから気にする事はない」
実際は国というよりは軍に人材が欲しいのだろう。
そしてもうこれは断れなかった。
「ファースト、出して」
「……了解」
俺はマジックボックスからマジックブレイドを取り出した。
「そうじゃったの、マジックボックスも使えるんじゃったか。
優秀な使い魔で羨ましくなるの」
これはキルシュに対する皮肉だろうか。
トルテも十分優秀な使い魔だと思うのだが。
キルシュと陛下はまったく目を合わさない。
これは俺の考え過ぎだったのだろうか。
「確かに返して貰った。
後日改めて必ず貴殿のお気に召す剣を送らせて貰う!」
これで話は全て終わり解散となろうとしていた。
だが俺はどうしてもはっきりさせたかった事があった。
「まて! お前はシャルを殺……」
「ファースト、止めなさい!
今回はこれでおしまい。
……良いわね?」
「……分かった」
シャルに止められてしまった。
今回は黒焦げにしただけで勘弁してやるか。
俺は無理矢理にでも納得する事にした。
「……躾けもよく行き届いているようじゃの」
ここにいる全員が今回の事を知っていて有耶無耶にすることを選んだ。
それがどうに納得できなかったのだが仕方ない。
今度こそ本当に解散になった。
そして長かった遠征も今度こそ本当に終わったのだった。
そして今回の俺が行ったことについては緘口令が敷かれた。
だが人の噂は止められるのだろうか。
◇◇◇
予想外に長引いた事もあり今月は迷宮には行けなかった。
いや初めから行く気は無かったか。
だが今回の事で無理に力を隠す必要もなくなった。
人の目の無い迷宮でなら……駄目かな?
そしてもう一つ。
俺は確認したかった事があった。
「なぁ、シャル。
……どうしてあの時俺を止めたんだ?」
「事情聴取の時かしら?
……あの時、ファーストはローゼにもっと重い罰を与えて欲しかったのでしょう?」
俺は謝罪が欲しかった。
そして重い罰を与えて欲しいとも少なからず考えていた。
「もしそれを貴方が口にしていたら……それは叶ったでしょうね。
それ程の力を貴方は持っている。
だから貴方は力をどう使うかよく考えなければならないのよ。
発言一つを取ってもそう。
力を持つという事はそう言う事なの。
貴方はまだ考えが足りないわ、だから力を隠すのも必要だと考えたの。
……分かった?」
「……なんとなく」
強大な力で周りを従わせる。
それは良いようにも悪いようにも簡単に出来るという事だろうか。
「簡単に言うとね……。
もし罰を与えていたら私が貰えるはずだった剣や贈り物が貰えなくなったかも知れないのよ!
分かってるの!?
国からの贈り物よ!?
ああ、一体幾ら位になるのかしら……」
ああ、シャルが別の世界へ旅立っている。
そこでは金が溢れているのだろう。
シャルはいつからこの事を考えていたのだろう。
力の事を……金の事は忘れよう。
作戦を立案した時からじゃない。
きっと場を和ませるために、今考えたに違いない。
うん、きっとそうだ。
力の使いようを考えないといけないのに金の事ばかりが気になる。
……俺の考えはまとまらなかった。




