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ご主人様は真っ黒  作者: pinfu
第二章 成体
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第四十九話 十月2

 模擬戦闘は魔法もしくは物理攻撃が当たった時点で戦闘不能扱いになる。

 防御した場合はその限りでは無い。

 戦闘不能になった場合は速やかに戦闘範囲外へと撤退する。


 殺傷能力の高い魔法は禁止。

 飛び道具には先端に保護膜がつけられたり取り除かれたりと、一応の安全に配慮はされている。

 だがそれがきちんと守られる事は少ない。

 そしてそれは容認(・・)されている。

 戦闘の危険性を覚える為には多少は……という事だろうか。


 今回は全員が戦闘不能、もしくは戦闘範囲外に出るまで終わらない。

 つまり撤退の指示が出ても逃げ切るまでは終わらないという事だ。

 最低一度は攻撃を受けないと撤退は許されない。

 そしてその時期を誤ると蹂躙される事だろう。

 それは指揮官の五年生次第という事に他ならない。

 あのプフェとかいう指揮官で大丈夫なのだろうか。

 副官のルトナーの方がしっかりして良そうだから大丈夫か。




◇◇◇




 そして模擬戦闘が始まる。

 初めは四年Eクラスとだ。


「あー、攻撃のタイミングはケーゼ中隊長に任せる。

 陣形は横陣、隊列はハンターだ。

 いくら上級生とはいえ、Eクラスに射程で負ける事はないだろう?」

「了解だ。俺に任せておけば問題ない!」


 指揮官プフェはこの戦いに勝つつもりかもしれない。

 小隊員の装備は盾、剣、弓だ。

 密集陣形ではない為、槍など不要と副官ルトナーの指示だった。

 剣も細身の軽い物が支給され一応の護身用といった感じだった。


 ハンターは前に小隊員が壁を作り後ろから魔術師が援護する隊列だ。

 完全に遠距離で戦いを決めるのだろう。


 前列から第一中隊から順に並び最後は俺達第四中隊だ。

 ケーゼに任せたのは魔法と物理での射程を今日会ったばかりのプフェでは分からないからだろうか。

 ……ケーゼが目立ちたくて進言したような気がしないでもないが。


 敵となる四年Eクラス達と向き合う。

 敵も此方と同じ横陣だ。

 そして思ったよりも戦闘範囲が広い。

 撤退するとなるとかなりの距離を移動する事になるな……。

 逃げる事ばかり考えていたら攻撃の指示が始まった。


「弓を構えろ!

 適当に飛ばせば後は魔法で援護してやる。

 何も考えずに思いっきり飛ばせ―!」


 相変わらずの上から目線だが指揮を取るなら当たり前の事かもしれないな。


「……いくらなんでもこんな所から届くと思ってるのか?

 人選を間違えたか……」

「届かなくても正確な射程が分かります。

 多少の消耗と引き換えになら大丈夫でしょう。

 兵に損害が出る訳でもありませんから」


 プフェとルトナーは逆の方が良いんじゃ……むしろプフェがいらない。


「……放てー!」


 ケーゼの掛け声で一斉に弓が放たれる。

 そして魔術師達がその後に続く。


「「「ウィンド!」」」


 全員が同系統の属性魔法を使う事で威力が多少上がる。

 そしてコントロールもしやすいという事だろう。


「で、どこまで届いた?」

「……敵の三分の一程が戦闘不能。

 撤退を始めました」


 うん、強い。

 曲がりなりにも一度は戦争と言う物を経験しているからだろうか。

 これまでの魔法に対する訓練は真剣だったという事か。

 敵もプフェと同じで届くとは思って居なかった為、防御をしなかったようだ……。

 いくら殺傷能力は抑えられているとはいえあれではたまった物じゃ無いだろう。


「追撃はどうしますか?」

「……いらん。この後もまだ訓練は続くのだからな」


 そのまま四年Eクラスとの模擬戦闘は終わってしまった。


「予想通り、一方的だったわね」


 シャルがそう言った。

 俺は逆の予想だったんだよ!

 みんなも同じだったのか特に驚きも何も無かった。

 ……兵士としての小隊員達を除いては。


「こいつら本当に三年生かよ」

「上級生達より明らかに強いぞ」

「楽勝だったな」

「まぁ相手もEクラスだったし、これくらいは?」


 仲間が居て良かった。

 そしてここから離れた場所で一部の者達も驚いていたようだ。

 此方を見渡せる高台に設置された天幕からだ。

 俺は遠く離れていてもそれが感じ取れた。


「実戦を経験している者は違うという事かしら?」

「今一番の注目株だからの。

 貴方方の同胞もあのクラスだったはずじゃ」


 エルフの国の代表者だろうか、そこには美しい女性がいた。

 そしてもう一人、位の高そうな感じのおっさんと話して居た。


「そして陛下の息子もおいでるそうで?」

「はっはっはっ、それは秘密にしておいてくれるかの」


 ……キルシュの親父じゃねーか!

 こんなとこ来て良いのかよ。

 確か国王だったよな?

 陛下とか呼ばれてたし。


「他にもブラゼンの倅もおるしの」

「あとはドラゴンを使い魔にしている者もいるとか」

「はっはっ、何でも知っておるのう。

 その通りじゃ、まだ幼生でその力は発揮されていないと聞いておるがの」


 おっ? 俺の事も噂してるし!

 ブラゼンって公爵のケーゼの事か。

 それと一緒くたにされるのはちょっといやだがな。


 慰安とか言っといて実際は非公式の会合かよ。

 表向きはエルフの国は他国に干渉しないからな。

 仕方のない事かも知れないが。


 その後は他愛のない話ばかりだった。

 キルシュとマルメラの話も出ていた。

 エルフの代表者はやっぱりマルメラの知り合いなのだろう。

 だがそれ以上詳しい事は何もわからなかった。

 それにしてもこのドラゴンの感覚は便利すぎる。

 盗聴とかやりたい放題だわ……。




◇◇◇




「四年Dクラスとの対戦だが同じ感じで良いだろう。

 ただ攻撃の指揮は俺が出す。

 お前たちの力は分かったからな」

「以上です。隊列を組んで訓練に備えなさい」


 四年Dクラスとの模擬戦闘が始まる。

 相手は何か策を使ってくるのであろうか?

 射程では多分此方が上だ。

 みんなそう言ってたからな!


「敵が攻撃を仕掛けてきました。

 ですがあの位置では届かないでしょう」


 ルトナーが冷静に判断する。

 実際届かないし、その攻撃方向も明後日の方向だ。


「どうやら敵は混乱しているようです。

 五年生からの攻撃指示も無かったように見えます。

 ……戦う前から恐怖していたのでしょうか?」

「そういや四年生と三年生で前に何か諍いがあったとか?」


 ……敵は前にシャルが拷問した奴らだった。

 可哀想にその心には恐怖が刷り込まれていたのだろう。


「……前にこのクラスの者が四年生を軽く脅してたな。

 その影響かもしれないな!」


 ケーゼがプフェとルトナーに説明していた。


「お前ら……軽く脅した程度でああなるものか?」

「……試しにこの者を追撃させてみても?」


 ケーゼがシャルを紹介していた。


「良いけど、ちゃんと援護してよね」


 そしてシャルの小隊が先頭で追撃を掛けた。

 隊列はハンターのままでいつでも攻撃できる形だ。


「あ、悪魔が来るぞー!」

「ヒィィーーー!」

「ギャアアアア!」

「や、やめてくれー!」


 敵の魔術師達は一斉に逃げ出した。

 ……股間を押さえながら。

 間抜けすぎるだろう……。

 つられて兵士の小隊員達も逃げ出していた。


「……援護の必要はないな」


 呆れたようにプフェは言っていた。


「俺達の小隊長って何したんだ?」

「わからん……」

「対峙しただけであの混乱の仕方とは」

「とりあえず逆らわない方が良いだろうな」


 その恐怖は味方にすら伝染しそうだった。

 俺までその時の事を思い出し震えて来たわ……。


「ファーストまで怯える事は無いでしょう?」


 その微妙な笑顔が怖いんだって!


「ドラゴンまでビビッてないか?」

「やっぱやばいんだって」

「俺生意気な口きいちゃったよ!?」

「こ、これからは絶対敬語だな」


 ……小隊員達の統率は完璧だった。




◇◇◇




「次は四年Cクラスだ。

 必ず相手は策を擁してくるだろう。

 だが最強は遠距離からの攻撃だ。

 相手の攻撃できない所から一方的に攻撃する事だ。

 しかし訓練の為、遠距離攻撃の殺傷能力は抑えられている。

 今回は前列には近接戦闘の可能性があるのを忘れるなよ」


 やっとプフェがやる気を出したのかまともな指示を出してきた。


「装備は現状のまま、盾、剣、弓です。

 前列は耐える事だけを考え、後列からの魔術で攻撃します。

 味方を巻き込まないように注意して下さい」


 ルトナーが補足して指示は終わった。

 此方は何も変わらない。

 横陣で隊列はハンターだった。


 今回の敵は陣形も隊列も違っていた。

 魚鱗で隊列はクロス。

 三角の形をした陣形で突破力を上げていた。

 そして魔術師の周りを兵士で囲みがっちり守っている。


「全体……放てー!」


 ルトナーの号令で遠距離からの魔法と物理攻撃が始まった。

 がっちりと守りながら敵は進んでくる為、やはり攻撃はあまり効果が無かった。

 敵の被害は兵士が数人と言った所か。


「前列、敵が来ます!

 しっかり守りなさい!」


 ルトナーの的確な指示で小隊は上手く機能していた。

 だが隊列は徐々に崩れ、混戦になってくる。

 ここからは自力の差が出た。

 そして三年の方が魔術師の力は上だった。

 混戦の中でも敵だけに的確に魔術を当てて行く。

 敵の三割ほどを倒した。

 その中には魔術師も含まれていた。


「……撤退だ! 撤退するぞ!」


 そしてここで敵は撤退を始めたのだが……。


「撤退なのに敵が引かない?」


 俺は敵の指示を聞き間違えたのかと思った。


「何言ってるの? 敵は撤退してるわよ」


 よく見ると少数の……魔術師だけが後方へと撤退していた。

 これが小隊員達が三年生と組むと分かった時、落胆していた最大の理由だった。

 兵士だけが足止めに残り、魔術師だけが撤退する。

 魔術師の安全が確保されてから兵士の撤退が始まるのだが……。

 生き残れる訳が無い。

 魔術師の援護も無いのだからな。

 兵士は全員が戦闘不能だった。


 そして今回の模擬戦闘も三年生の勝利に終わった。


「チッ、くそが……」


 だがプフェは浮かない顔をし悪態をついていた。


「今は仕方ないでしょう?

 ……貴方が上に行ってこの体制を変える。

 その為には今回の勝利はきっと役に立つわ……」


 ルトナーがそれを慰めていた。

 プフェはどうやらこの戦い方が気に食わないらしい。

 確かにこの戦い方では兵士の生存率は低いに決まっている。

 だが魔術師が貴重なのだから仕方ないとも言える。

 ここでは全ての命の価値は等しいという訳では無かった。


 初日は三戦三勝の全勝で終わる事が出来たのだった。




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