第四十四話 七月3
「へっ?」
ショコラが面食らった顔をしていた。
「もう死んじゃったら拷問できないし、意識の無い者を痛めつけても意味がないでしょう?」
「あ、うん? そうなんだよー?」
まだショコラは理解できていないようだった。
「意識だけは……私が治す……」
マルメラは意識の無い者達を治療していた。
これからする事をしっかりと目に焼き付けて貰う為だ。
「さぁ思う存分やりましょうか! 殺しちゃ駄目だからね?」
そこからは悲鳴が辺りを埋め尽くした。
◇◇◇
「んー、すぐに気絶しちゃうんだよー」
「私が……治す……」
「ショコラは駄目ね。もう少し力を抜かないと!」
えーっと……。
俺とキルシュ、トートが付いた時そこは地獄だった。
多分コキュートスとかいう一番危ない所。
一面の銀世界の中で上級生達は囚われ拷問をされるのを待っていた。
「僕は地獄に運んで欲しいとは言ってないんだが……」
「貴方のお友達は悪魔だったんですね……」
「シャル、その辺にしないか?
キルシュが何か話があるようだし」
シャル達は作業をいったん中止し、キルシュの話を聞いた。
この件の首謀者はトートで何でも出来るキルシュを妬んでの事だったと。
倒れたキルシュを見てなんて愚かな事をしたのだと気づき、謝りに来たと。
嘘ばかりだったがシャルだけは感覚共有でこの事を知っていたが何も言わなかった。
今はこの嘘に乗せられようという事だろうか?
「本当にすいませんでした。
これからは心を入れ替えてキルシュさんの力になろうと思います」
「トートもこう言っている事だし、もう許してあげないか?」
キルシュは本当に優しすぎると思う。
まぁこの惨状を見たらこういうしかないのかもしれないが。
「私は……キルシュが良いのなら……」
マルメラはそれ程気にしていないようだった。
「これで許してやるんだよー」
ショコラは思いっきりトートを殴っていた。
本当はもっとやり返したいのだろうがキルシュのいう事だから聞いたのだろう。
「……ありがとう」
トートは殴られたのにお礼を言う。
この程度で済んだのなら安い物だろう。
「私はまだ質問があるわ」
シャルはまだ納得していない。
嘘の事を問いつめるのだろうか?
「……私は前に同じように四年生に襲われた事がある。
その時はその場でやり返して事なきを得たわ。
それはトートとは関係ないの?
それとも今回はその仕返しの意味もあったの?」
「その時の事を参考にして今回の事を思い付きました。
四年生の中にはその時の事を知って仕返しをしたいと思った者がいるかもしれません」
トートは正直に答えたのだろうか?
俺には判断が付かなかった。
「私のほかに何か聞きたいことがある人はいる?」
シャルは納得したのだろうか他に質問が無ければこれで終わるつもりに思えた。
そして特に質問は無かったようだ。
「そう。それじゃあ次は……体に聞きましょうか?」
……あーうん。
次は拷問して情報の信憑性を確かめるんだね!
容赦がなさすぎる。
一体何がシャルを突き動かしているんだ。
まさか本当に変な性癖がるとかじゃないよな!?
「じょ、冗談でしょう? 僕は正直に全て話しましたよ!」
済まない。俺の立ち聞きのせいだ……。
それは嘘だという事がばれている。
「キルシュさんも何か言って下さいよ!」
「あー、えっとお手柔らかにしてあげてね?」
「えええ!?」
キルシュも嘘ついているのが心苦しいのだろう。
トートを生贄に自分の安全を確保した。
「ショコラ、押さえていてね」
「分かったんだよー、骨が折れる位で押さえておくんだよー」
「マルメラ、やり過ぎたら死ぬ前に治してあげてね」
「死んですぐなら……なんとかなる……」
可哀想に……。
トート、己の読みの甘さを恨むんだな……。
「正直に話しましたが、これも自ら招いた事です。
覚悟して拷問を受けましょう……」
「良い声で鳴いてね?」
あー! シャルさんのスイッチ入っちゃったよーーー!
それからしばらくの間、トートの悲鳴が止まる事は無かった。
◇◇◇
指を折る。
爪を剥ぐ。
皮膚を削ぐ。
殴る、焼く、刺す、斬る。
ありとあらゆる苦痛を与え、そしてその全てを癒し、また繰り返す。
トートはそんな拷問を耐えきった。
初めに話した通りの事しか言わなかった。
正直ここまでシャルがやるとは思わなかった。
そしてそれ以上に何も話さないトートが凄いと思う。
この世界ではこんな事が日常茶飯事なのだろうか。
「私の使い魔が貴方とキルシュの事を聞いていたのよ?」
シャルの揺さぶりにも動じず決して話さなかった。
だがそれは本当の事で……シャルはまた拷問を続けようとした。
「シャルさんもう止めてあげてくれないか」
「シャル……治すの限界……」
「もう十分だと思うんだよー」
皆が止める。
それにトートはもう限界だろう。
これ以上は魔術で治したとしても体が自体が崩壊して死んでしまう。
体に体力と魔力が無くなればどれだけ優れた魔術でも治す事は出来ないのだ。
「これで最後にしてあげるわ」
シャルはついに剣を抜いた。
そしてトートを斬る。
だがそれは服を斬っただけで体を傷つけてはいなかった。
トートは一糸まとわぬ姿を皆にさらす。
「辱めでしょうか?
僕はもう全てを話して居ます。
これ以上何も出来ません」
それでもトートは毅然とした態度だった。
「ファースト、この前かったアレだして?」
「えええ!? アレはまずいって! だめだって!」
俺はシャルの考えが分かってしまった。
アレは駄目だ。強力過ぎる絶対に死んでしまう!
「アンタに使うわよ?」
「どうぞ……」
俺はそれをマジックボックスから取り出し、シャルへと渡した。
それは調理器具だった。
何に使うかも良く分からないが多分何かを潰すのだろう。
細かい穴が開いておりニュルっと潰した物が出るのだろう。
「そ、それをどうするつもりなんだ……」
トートが慌てる。気付いたのだろうその使用用途に。
「シャルさんそれだけは止めてあげてくれ!」
「シャル……それは本当に恐ろしいんだ!
俺はもう見ただけで震えが止まらないよ……」
キルシュと俺がそれを必死に説得して止めようとする。
女性陣はその恐ろしさが分からないのか止めようとはしない。
「それはトート次第ね。
話す気になったら言ってね?」
シャルはそれをトートの下腹部に当てようとする。
「僕は本当の事を話した!
それにシャルさんはそんな事が出来る人では無いよ!」
これまでの拷問でもシャルには躊躇いがあった。
拷問は勢いよく斬るばかりでは無い。
苦痛を与える為、ゆっくりと感触を確かめながらする事が多い。
それゆえにこれまでの拷問はどこか子供じみていた。
要するに甘いのだ。
それに傷はすぐに治る。
逆に言えばすぐに治る程度しか傷を付けれなかったのかもしれない。
「……それはどうかしら?」
それでもなおシャルは止めない。
だがトートも何も話さない。
「……駄目ね。私には出来ないわ。
それに間接的にもそんな物に触りたくないわ」
シャルは思い直してくれた。
周りはほっとした様子だった。
一番ほっとしているのはトートだろうが。
「でも、ドラゴンなら出来るわよね?
ファースト! アンタがやりなさい!」
「マジですか……」
俺はシャルから器具を受け取る。
その手は震えていた。
「ああ……それはそうだね……」
キルシュは目をそらしていた。
「私はもう……治さない……」
マルメラは治さないと宣言し、トートを追い詰めた。
恥ずかしいのか目はそらしていたが。
「大丈夫だよー、ドラゴンの力ならすぐだよー」
ショコラはトートの恐怖を煽った。
「駄目よ……ゆっくりとね?」
シャルがその恐怖をさらに倍増させた。
「トート済まない。
やらなきゃ俺がやられる……」
「嘘だよね?」
トートはその絶望的な状況を理解した。
そして包み隠さず全てを話す。
「す、すまない。
僕はキルシュさんの父の依頼でキルシュさんの現状確認をしていたんだ。
そこでショコラさんがいるとキルシュさんの迷惑になると思ってね。
遠ざけようとしたんだ!
本当にそれだけなんだ!
信じて欲しい!
もうこれで全部話したから、それだけは止めて下さい!!!」
トートは全てを話した。
俺はもう良いだろうとシャルを促す。
だが……。
「そう、でもそれは関係ないの。
私の身内に手を出した。
四年生達には警告の意味で軽く脅しも掛けたのよ?
当然それは償って貰うわ。
トートの次は貴方達よ?」
トートだけではなく、氷で拘束されている上級生達にもそれは行われる。
あちこちで悲鳴が上がるがそれは無視された。
「そんな、なんで、こんな事にもう意味は無いだろう?
本当に許して欲しい。
何でもする!
絶対にもう逆らわない!
頼むから止めて欲しい!」
トートはなおも懇願する。
「ファーストやりなさい。後が閊えているわ」
それは受け入れられなかった。
「許せ、トート……」
俺はその小さな手に力を入れ器具を使い……潰した。
「ガ、ガァ、グゥ、ギャーーー!!!」
それは言われた通りゆっくりで少しずつ少しずつだった。
トートは口から吐瀉し、下腹部からは赤い血が流れていた。
そしてトートは気を失った。
死ななかったようだ……。
だがこれから彼は死んだ方がマシだと思う状態になるのだろう。
「ファースト、治せないように取っちゃって」
「マジですか……はい……」
関係の無い上級生達からも悲鳴とも嗚咽とも取れない声が上がっていた。
可哀想にトートはもう……。
『嘘よ。マルメラから薬のジャムを預かってるから使ってあげて』
『シャル!』
『この後はもう潰さないわ。
潰したふりだけして順番に悲鳴をあげて貰うわ。
それですぐに治した事にする……トート以外はね』
その後は恐怖だけを上級生達に植え付け声だけを上げさせた。
それが全て終わった頃、レーレン先生がやって来た。
「これは一体なんの冗談ですか!?
すぐに氷を消しなさい!
四年生は念の為に医務室へ行き治癒魔術を受けなさい。
三年生はすぐに私の部屋に来なさい!
事情聴取を行います!」
レーレン先生が珍しく怒っていた。
当たり前だが。
そして事態は収拾した。
ちなみにトートは気絶したまま、レーレン先生の部屋へと運ばれた。
その怪我はなんとか後遺症も無く治っていた……と思う。




