第四十三話 七月2
本日二回目の投稿です。
「……それはどういう事かな?」
「僕がこの状況を作り出した。
そう言う事です」
トートがキルシュに答える。
つまりトートが上級生達を陰で操ていたって事か。
「上級生達に薬を渡しましてね。
それを剣に塗ってキルシュさんを斬るようにお願いしました。
心配いりません、ただの痺れ薬ですよ。
魔力の流れを阻害し、体の力が入りにくくなるだけです。
明日には治っていると思いますよ」
「それは安心したよ。
やけに簡単に倒されたとは思ったんだ。
だが聞きたいのはどうしてこんな事をしたかって事だよ」
俺もそれが気になった。
こんなただキルシュを傷つけるだけの事になんの意味があるというのだろうか。
「僕個人に理由はありません。依頼されただけです。
……貴方の家の者にと言えば分かるでしょう」
「父か……。僕にはもう興味が無いと思っていたよ」
「一応この場は依頼主と呼ばさせて貰います。
僕の依頼主はキルシュさんの現状確認、周辺人物の調査、不安要素の排除を依頼されました」
キルシュの現状を調べるって事か。
だが不安要素って何だ?
俺はまだまだこっそりと盗み聞きするしかないようだ。
「不安要素の排除。
この為に今回はこんな回りくどい方法を取らせてもらいました」
「僕は逆に不安いっぱいになったよ」
「冗談を言ってはぐらかそうとしても無駄です。
……ショコラさんの事ですよ」
「彼女は大丈夫だ。それにその件は僕に任されたはずだが?」
その台詞に説得力は全く無かった。
つい先日の事を思い出すとだ。
それをトートが調べていないはずが無かった。
「大丈夫では無いと思えましたが?
それに依頼主の方からトイフェルが使わされたはずです。
それもなぜか有効には使われなかった」
「余計な事をされなければ上手く行っていたよ」
どうもトイフェルが留年したのはキルシュの父、トートの依頼主が手を回したかららしいな。
「それだけが問題とも思えませんでしたが……。
ショコラさんには本当の事をどこまで話して居るのですか。
あの様子ではキルシュさんの事を全く知らないのでは?」
「今はまだ話す必要が無かっただけだよ。
隠すつもりは全く無い、いずれ全てを話すよ」
「どうして隠すのか僕には分かりません。
何を心配して話さないのですか?」
「……彼女はまだ正しい判断を下す事は難しいのさ」
キルシュは何を心配しているんだ?
俺もキルシュがどうして本当の事を話さないのか分からない。
それほどまでに隠す事ってなんだ?
「隠し事をされては正しい判断は下せないと思います。
本当の事を話したらどうでしょう。
……キルシュ・アインツ。王位継承権第一位の者だとね」
「その家名は捨てたつもりだったんだがね」
王子様とか! しかも第一とか!
なんでそんな奴がこんなとこにいるんだよ。
……魔術学園とかいうエリートが通う所なんだから当たり前だったか?
いやいやシャルが行動制限受けてるのに、キルシュが全く受けてないとかずるくね?
もしそんな理由で隠してたのならめっちゃ怒るけどやっぱ違うよね?
「捨てれる物ではありません。
たとえ捨てたとしてもその事を話すのが筋でしょう。
そして本当の事を知らないからこの状況になったとも言えますが」
「君のせいでこうなったんだろう?」
「それはそうなのですが、今言いたいのはショコラさんがこの場に居ない事です」
「ショコラはどこへ?」
「お気づきで無い?
上級生の所へ感情のままに向かいましたよ」
キルシュは止めに行こうと体を動かしたがまだ動けないようだった。
「まだお一人では動けませんよ。
一応マルメラさんが止めに行ったようですがどうなるのでしょうかね?
もし感情のまま報復として上級生を殺めるような事になると……ショコラさんはどうなるのでしょう?
学園内と言う大衆の面前で行えば隠蔽も難しいですしね」
トートが不敵に笑う。
これが狙いだったとでも言いたいのだろうか。
「良くて退学処分。悪ければそのまま投獄される事になるだろうね。
そして君は不安要素を排除出来るって訳か。
まぁショコラはそんな事はしない!」
キルシュは落ち着いている。
マルメラが止めに行っているし、シャルも向かっている。
大事にはならないと信じたい。
「ショコラさんは感情の制御に問題があるようです。
特にキルシュさんの事になるとなおさらですね。
そこをキルシュさんが上手く制御出来れば良いのですが……」
「君が邪魔をしなければ出来るさ」
「少しでも何かが起きれば困る状態ではどの道そう長くは持ちませんよ?」
キルシュは黙る。
その事はキルシュ自身も分かっている事なのだろう。
「……それで態々自分がやったという事を教えてくれたのはどういう目的かい?」
「どうしてもキルシュさんに確認しないといけない事がありましてね。
依頼主にはほとほと困ってしまいますよ」
やれやれという仕草をトートはしていた。
依頼主って王様になるんじゃないのか?
そんなに忠義が無いのか親戚? だから親しいのか。
そういやキルシュとトートって従妹になるのか?
って今はそれは重要じゃなかったな。
「もうこれ以上僕たちに関わらないというのなら何でも答えるよ」
「一応今は僕が有利な立場だと思いますが?
キルシュさんは動けないようですしね」
そう言ってトートは銃を見せつける。
そんなものが無くても今のキルシュには何も出来ないだろう。
こりゃ俺の出番になるかもな。
これからの話の内容次第ではすぐにでも動けるようにしないとな!
「……聞くだけ聞いてあげよう。
それに君になら僕の事はなんでも知って居ると思うけどね?」
「大抵の事は知っていますよ。
ですが分からない事もあるのですよ……。
僕は知りたくもないのですがね。
あくまで依頼ですからね?
……キルシュさんは女性との経験がありますか?」
ぶっ!? 危うく声を上げるところだった。
なんて馬鹿な質問なんだ……。
ここまで手の込んだ事をして、そんな事聞いてどうするんだよ。
「冗談かい? こんな時に笑えないよ?」
「僕はいたって真面目ですよ。
……キルシュさんにはこれまで何人か女性があてがわれたと思います。
だがそれを全て断った。
依頼主はキルシュさんが女性に興味が無いのか心配なようですね」
まぁ王様とか王子様とかはそう言うのも重要になってくるのかもな。
でも断ったって何でだよ!
ケーゼなら喜んで受け入れてるはずだぞ……多分。
「僕は正常だよ。女性はもちろん好きさ。
ただそう言う事はまだ早いとも思っている。
それだけの事だよ」
「ではショコラさんともまだなのですか?」
「……そうだよ」
キルシュって……なんだか今まで以上に仲良くなれそうだぞ!
「マルメラさんとはどうでしょう?
此方は慎重になって貰った方が良いのですが……」
「僕は誰ともしていない……僕はお子様って事だよ」
ちょっとキルシュが可哀想になって来た。
もしかしてこれは助けた方が良かったかもしれない。
キルシュの精神的に……。
「マルメラさんは仕方ないとしてもショコラさんはどうしてでしょう?
きっとショコラさんはキルシュさんとの事を望んだはずです」
「もう良いだろう?
それともこんな事をそんなに事細かに調べろと言われているのか?」
キルシュが少し怒っているように感じた。
当たり前の事だったかもしれないが。
「いえ、もう十分です。
ただショコラさんが感情を制御出来ないのは特別な環境で育ったせいという訳でもなさそうですよ?
貴方はそれに気付いていると思うのです」
ショコラはキルシュの事を好きなのだろう。
でもキルシュにはマルメラがいる。
そしてショコラはマルメラの事も好きなんだよな。
そしてキルシュはハッキリしない。
このヘタレが! とは言えないがな。
「分かっているさ。
……分かっていても出来ない事もあるんだよ」
このヘタレが! やっぱ今度言ってやろう。
「何時までこんな事を続けるつもりですか?
そう長くは許されません。
期限は学園の卒業までです。
その後は王の元へと戻って貰う事になります」
これが本題だったのだろう。
「……分かったよ。だが卒業までは自由にさせて貰うよ?」
「そうもいきません。
これからは僕がキルシュさんに付くようにと言われています」
「それも依頼なのかい?」
「はい。そしてキルシュさんに拒否権はありません」
「最後の質問だ……ショコラはどうなる?」
キルシュはそれが一番気になる事なのだろう。
今までになく真剣だった。
「僕の報告次第ですね。
ですがまぁ、それ程問題ないのではと思っています。
キルシュさんには危害を加えようとするとは思えませんし、今回のように暴走しても見捨てるだけです。
多少情緒不安定ですがキルシュさんには従順だと報告しますよ」
それならショコラは今まで通りという事になるだろう。
今現在何もしでかしていなかったらだがな。
「……それで僕に付くという事はショコラやその他の知り合いとも行動を共にする事が多くなる。
僕は今回の件を皆に正直に話すけど君はどうしようと思っているんだい?」
「隠していてもいずれ分かる事でしょう。
何発かは殴られる覚悟で正直に謝りますよ」
ショコラのパンチは痛いぞ、獣人族だからな。
っとそろそろ良いか。
「おーい、キルシュいるかー?
ショコラが大変なんだよー」
多少わざとらしかったが何も知らないふりをしてトートとキルシュの所へ合流する。
「ああ、トートから聞いているよ。
トート、僕をショコラの所まで運んでくれるかい?」
「はい。勿論ですよ」
キルシュは簡単に受け入れたんだな。
いや今は動けないから体が治ってから何発か殴るのかもしれんが。
それにしても……。
王様って実はキルシュにめっちゃ甘くない?
なんていうか過保護なんだよな。
それはキルシュにも言える事か。
ショコラに対して物凄く過保護というか気を使っている。
似た者同士という事だろうか、やはり親子という事なのだろうか。
トートがキルシュに肩を貸す。
そしてショコラ達の所に向かう事になる。
そこで何が起きているかを俺は感覚共有で知っていた。
此方以上に混乱した場所になっているという事を俺だけが知っていた。
◇◇◇
「ショコラ止めて! これ以上やったら死んじゃうわ!」
「こいつらは! キルシュに怪我を! 許さない!!!」
「ショコラ……もうやめよう……」
ショコラは上級生達を難なく倒し、そのうちの一人を掴み上げ殴り続けていた。
「あんな卑怯な! 絶対許さない!」
上級生達は油断していたのだろう。
まさか下級生が報復に来るとは思ってもいなかったはずだ。
それにトートが適当な事でも吹き込んでいたに違いない。
僕は勿論そちら側、キルシュは動けない、ショコラは成績最低の雑魚とか言ったに違いない。
「そいつはもう意識を失ってる! 殴っても仕方ないわ!」
「もう……十分よ……」
シャルとマルメラが説得するがショコラは止まらなかった。
仕方なくシャルは魔術を使用した。
「アイスバインド!!!」
一面全てが銀世界へと変わった。
上級生達は全て氷で拘束される。
「ショコラもう止めなさい! 本当に死んでしまうわ!」
「でもこいつらがキルシュを!」
ショコラは怒りとも悲しみとも取れる顔をしながら殴るのを止めた。
「大丈夫……だから……」
マルメラがショコラを優しく包み込む。
「感情のままに殴っても仕方ないわ」
「でも!」
「落ち着いて……」
ショコラは説得の甲斐あってか何とか落ち着いて来たようだった。
「落ち着いた……大丈夫かな……」
「うん……もう大丈夫なんだよー」
そしてシャルが満面の笑みで言った。
「落ち着いた所で……拷問を始めましょうか?」




