第二十二話 撤退3
二十時から二十二時まで間違って同じ話を投稿していました。
すいませんでした。
「すまなかった。……信じて貰えないと思うがわざとでは無い」
「ふざけるなよ! お前のせいで危うくシャルは死ぬところだったんだぞ!」
俺はケーゼに詰め寄っていた。
最終的にはケーゼは役に立ったかもしれない。
だがどうしても俺には許せなかった。
「やめなさい。私は生きているし、問題ないわ」
『それに失敗をしたのはケーゼだけでは無いわ。
それはアンタが一番分かっているでしょう?』
「シャルがそういうのなら……分かったよ」
俺はこれ以上ケーゼを責めるのをやめた。
そして自分自身を責めるのもだ。
シャルは全てを見透かすように俺の事を分かっていた。
あの時失敗したのはケーゼだけじゃない。
俺も対応を間違えシャルを危険に晒した。
他の魔術師で騎竜から逃げた者もいる。
言い出したらきりがないのかもしれない。
そしてまだ完全に安全とは言えない。
森林地帯の奥へ奥へと進み、辺りが暗くなった所で休息をとる事になった。
「これは苦渋の決断ね……」
「いくらシャルでも悪魔にはなれなかったか……」
「良いからアンタは配ってきなさい!」
『あまり目立たないようにね。
醜い争いは出来る事なら見たくないわ』
俺はマジックボックスから食糧を取り出していた。
今ここで食糧を売ったらどれほどの値が付く事であろうか!
シャルは悪魔に魂を売りそうだが、悪魔にはならなかった。
当然……全員分は無い。
シャルやその小隊員を優先的に配った。
これくらいは優先されても良いだろう。
今は何もが足らない。
人も力も時間も食糧もだ。
「この用意周到さは尊敬に値するな」
「今ほどシャルさんの隊員で良かったと思った事は無いよ」
「情けなくて涙が出てくるわ……」
「それにしてもこれ作り立てみたいに美味しいね!」
実際に作り立てなのだ。
マジックボックスの中は時が止まってるとかいうトンデモ空間だからな。
まぁただパンに野菜などを挟んだサンドイッチなのだが。
これなら限りあるマジックボックスに無駄な容器などを入れなくて済むからな。
これ一粒で元気いっぱいみたいなのは普通に持ち歩けるしな。
そんなの持ってないけどね。
いや持ってても高そうだからシャルなら売り払っているか。
『それで言いにくいんだけど、アンタ見張りに立てる?
ずっと休んでない上に食べてもいないけど大丈夫?』
『ドラゴン凄いわ、全然疲れてないよ!』
自分でドラゴン凄いとか言っちゃうくらいには余裕だ。
『冗談が言えるほどは大丈夫なのね。
今この場でまだ元気なのはアンタだけかもね』
『シャルも休んでくれ。何かあったらすぐ起こすから!』
『ええ、私も限界よ。休ませて貰うわ……』
もう生徒達は限界だった。
もう後は歩くだけ、戦闘は無いという希望的な考えだけが心の支えだろう。
一応一部の者はまだ追撃の可能性があると分かっている。
だが分かっていても何も手は無い。
◇◇◇
日が昇ると同時にまた撤退を開始した。
休息を取ったばかりと言うのに皆すでに疲労困憊といった感じだ。
碌な食事もとれていないのだから当たり前だが。
たった一日の撤退戦でこれである。
いや見習いみたいなものだから良くやっている方なのかもしれない。
そして……悪い予感というものはよく当たった。
「シャルまずい、まだ距離はあるが追撃部隊だ!
……これは歩兵だと思う。
大人達が足止めしていた本体が来たのかもしれない!」
「落ち着いて。
……味方で戦闘の出来る者は五十も居ないわ。
敵の数は分かるかしら?」
「二百くらいだと思う。
木々や傾斜で大体しか分からない。
もしかしたらもっと多いかもしれない」
ドラゴンの感覚を持ってしても全ては分からなかった。
森林地帯なので空から見通すと言うのも難しい。
治癒魔術と言う物があるのに戦闘が出来る者が少ないと思うかもしれない。
治癒魔術は基本的に魔力だけで無く媒体を使用する。
それが薬草なのか本人の体力なのかは魔術によってさまざまだ。
つまりもう媒体が無くて治せないのだ。
「何か案のある人はいる?」
誰も何も言わない。
案が無いのか言えないだけなのか。
「今この場で何か思い付く事なんて天才しかできないわ。
でも私達は学園で、授業で、実習で先生達から教わって来た」
そう教わったのだ。
「……足止めの伏兵を置く。
当然私は伏兵としてここに残る。
帰ったら私の功績を称えなさい。
褒賞がたくさん貰えるようにね!」
何強がってるんだよ……手が震えてるぞ。
自動的に俺も残る事になるな。
シャルだけでも逃げて欲しかったがシャルが望むなら付き合うしかないな。
「この勇猛果敢な所は尊敬に値するな」
「今ほどシャルさんの隊員で損をしたと思った事は無いよ」
「嬉しくて涙が出てくるわ……」
「それにしてもシャルさんはいつも気丈だね!」
なんか昨日の晩御飯でも同じような事行ってなかったか?
シャルの小隊員は全員が残ると言ってくれた。
それ以外にも戦闘が出来る者はほとんどが伏兵に志願した。
「伏兵の場所は間隔をあけましょう。
波状的に攻撃を仕掛けて時間を稼ぐの。
第一波は私の小隊よ!
後の順番は皆に任せるわ。
だけど敵が来るまでなるべく後方へ下がるという事を忘れないでね」
俺達シャルの小隊を残し、後方へ下がっていく。
そのどこかには第二、第三の伏兵が置かれるのだろう。
◇◇◇
「はぁ……本当にやるの? 今からでも逃げ出さない?」
「馬鹿な事言ってないで、アンタは敵を警戒してなさい!」
「森を焼き払うとか駄目かな?」
「道具も無しに無理よ。相手の方が魔術師が多いしね。
でもまぁ足止めにはなるかもね。最終手段で使っても良いわよ」
やはり俺は天才では無い。
何も思いつく事は出来なかった。
「一応、策は他にもあるのよ。
策とも言えないかもしれないけどね」
「シャル(さん)は天才か!?」
皆が口をそろえて叫んでいた。
「……指揮官を倒す。
どこかに必ずこの追撃戦を指揮してる奴が居る。
そいつを倒せば敵は引いてくれるかもしれない」
「ちなみにどうやって?」
「アンタが指揮官を発見して、空を飛んで倒してくるっていうのはどう?」
「……最終手段で使っても良いかな」
「……馬鹿な事を言ってるのもここまでね」
敵がついに来てしまった。
「敵の先頭に魔術で攻撃するわ!
皆と別方向に敵を引き付けるわよ!」
シャルは天才では無いかもしれない。
だが優秀である事は疑いようが無かった。
この場合は優秀であるがゆえに危険に晒されているがな。
「アイスアロー!!!」
大量の氷の矢が敵に命中する。
木々を避け敵にだけだ。
伏兵して待ち構えていたとは言え凄い命中率だ。
それを称賛しようとしたがやめた。
たぶん、シャルは今初めて人を……殺したのだと思う。
攻撃が成功したと言うのに酷い顔だ。
「……敵はこっちに食らいついた。
引くわよ! セカンド、隊列は任せる。
私は魔術に集中するわ!」
障害物も多く傾斜もある場所では物理攻撃は当てにくい。
ここは魔術の出番といえるだろう。
そしてここまであまり行われなかった近距離戦になる。
「お前らハンターで行くぞ!
三、二……今だ!」
シャルを先頭にその後方を四人が守る。
そして追って来た敵をタイミングを見計らって身を翻し槍で突く。
足が止まった敵にシャルが魔術を放った。
タイミングは全て此方が決めるので面白いように攻撃は決まっていった。
相手の方が数は多いが油断しているのかバラバラに追って来ていた。
囲まれないように逃げてはいるのだがな。
それは俺が警戒し、誘導していた。
だが優勢なのも長くは続かない。
徐々に追い詰められ敵との距離が縮む。
まずは魔術師を狙う定石通り、シャルに攻撃が集中し始めた。
「ハンターワンだ! フィフスが護衛に付け!」
シャルの傍をフィフスが付き、魔術からシャルを守る。
残りの三人で敵を食い止める事になる。
小隊員一人一人は決して強くなかった。
だがその連携は素晴らしかった。
セカンドとフォースが敵の動きを封じる。
更にシャルの魔術の援護が入る時もある。
そしてサードが止めを刺していた。
敵を一番倒しているのはサードだ。
彼が一番武術に秀でているのだろう。
「お前ら子供相手に何を手間取ってやがる!
さっさと囲んで足を止めやがれ!」
敵の魔術師の指示が聞こえて来た。
そして俺達はついに囲まれ足を止めてしまった。
「それで良いんだよ! ファイアランス!」
アローとは違い強大な炎がシャルに放たれる。
フィフスが盾で守るがフィフスごとシャルも炎に包み込まれてしまう。
「くっ!」
「キャッ!」
俺のアンチマジックフィールドは使わない。
シャルがまだ敵に見せるなと厳命されていたからだ。
強力な魔術だった。
炎と氷の違いはあれ、シャルよりも……だ!
いやこれが魔術師として当たり前の威力なのかもしれない。
俺達はまだ魔術師見習いといったところだからな。
フィフスはかなりのダメージを受けたが動けないほどじゃない。
シャルにはそれ程のダメージは無かった。
まだやれるはずだ。
この時、ここまで定石通りに守って来たセカンドが奇策に走った。
「アレをやる、フォース任せたぞ!」
セカンド達はシャルを守りに戻らず、敵の兵士に向かって突っ込む。
そしてその守りに一筋の隙間を開いた。
その隙間にフォースがナイフを投擲した。
ナイフが敵の魔術師を襲う。
「チッ! あぶねーじゃねーか!
お前らちゃんと守りやがれ!」
ナイフは魔術師の頬を掠めただけで倒すまでには至らなかった。
「くそ! クロスで行く、シャルさんを守れ!」
シャルの四方を小隊員が守る。
セカンドは正しい選択をしたのだろう。
だが後は正面から戦うだけ、数は圧倒的に此方が不利。
援軍も望めない。
この先どうなるかは決まっていた。
それでも俺は今出来る事をする。
魔力を貯め魔術に備える事しか出来ないが。
「シャルさん僕に出来るのはここまでです」
「結構敵を倒したんだがなぁ」
「俺が決めていれば……」
「あれは成功した試しが無いから仕方ないよ」
小隊員は最善を尽くしたと思う。
だがそれでは足りなかった。
今の状況を改善するには足りなかったのだ。
「貴方達の賭けは失敗のようね。
だから……次は私が賭けに出る番ね!」




