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ご主人様は真っ黒  作者: pinfu
第一章 幼生
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第二十一話 撤退2


「もう同じ手は通じない。横陣にて下がりつつ対応するしかないだろう」


 レーレン先生はそう言いきった。

 生徒達も分かっている。

 もうどうしようもないのだと。


「まだ諦めるには早いよ。

 森林部まで撤退できればそこからの追撃は厳しい。

 相手が諦めてくれる可能性もあるからね」


 問題はそこまでに必ず敵が攻撃してくる事だ。

 生徒達は行きでは歩きにくく傾斜もあってこんな場所無ければ良いと思った。

 だが今はその場所が待ち遠しい。


「それに初戦よりも更にする事は簡単だ。

 非戦闘員は走って逃げる! これはもう実行してるね。

 そして生徒諸君は並んで逃げる! ただこれだけの事だよ」

「先生方はまた殿でしょうか?」

「そうなるが君達とは別行動だ。

 平地とは言え隠れる場所は多いからね。

 伏兵になり敵の進軍を少しでも遅らせるよ」


 この場合の伏兵は敵を倒す為では無くただの足止めだ。

 そして生存率は絶望的だろう。


「敵の本体は必ず食い止めて見せるよ。

 さぁ生徒諸君は急いで撤退しなさい!」


 先生達は大人の責任を果たすのだろう。

 生徒達はそれが分かるのか表情は暗い。


「そんな顔をするな。私は死ぬつもりはないよ。

 なんといっても騎竜よりも速いからね!」


 ベアイレ先生はそう言って笑った。


「安心しなさい。

 レーレン先生が死んでも戦って敵を食い止めてくれるそうだからね」

「勝手に殺さないでくれるかな?

 まぁその通りですがね」


 こんな時だと言うのに冗談を言って笑っている。


「ただ申し訳ない事に騎竜は止められないと思う。

 その為の横陣だ。

 たとえ追いつかれてもきっちり隊列を組んで後退すればきっと大丈夫だからね」

「さぁ速く行きなさい……速さこそが力ですよ!」


 先生は最後までいつも通りの先生だった。

 それが多少なりとも生徒達を落ち着かせた。

 そして撤退戦が始まる。




◇◇◇




「それでまた俺達が最前列かよ……」


 サードさんがぼやいている。

 最前列といってもこの場合は殿である。

 敵が来たら真っ先に戦う場所って事だな。

 EDCBAのクラス順だ。

 Aクラスの者達が魔術で援護するとか言ってた。

 回り込まれたらとか考えているのだろうか?

 先生達が言っていたが騎竜なら足も速いしその可能性は十分あると思うのだが。


「私達の所に来ない事を祈りましょう。

 ……もし来たとしても全力を尽くすだけよ」


 その全力を尽くしたとして防げるかどうかを気にするべきかもしれない。

 そしてその時はやって来た。


「クッ、敵が来たぞ!」

「後方より敵が百!」

「騎竜だ!!!」


 やはり先生達では騎竜を止められなかったようだ。


「みんな集まって! 盾と槍で壁を作るのよ!」


 小隊員だけでなく周辺の小隊達が皆集まって壁を作る。


「アンタがタイミングを指示しなさい!

 壁役なんて出来ないんだからそれくらいしなさいよね!」

「了解!」


 俺は精一杯の声を上げそれに答えた。

 タイミングと言っても攻撃では無い。

 それは後方の仕事だ。

 通常は接近される前に攻撃するのだが俺達にそんな余裕はない。

 防御に専念だ。


「あいつら口だけかよ! 全然魔術が当たってないぞ!」


 接近する騎竜に魔術は全く当たっていなかった。

 見当はずれの所に飛んで行くかすでに通り去った場所に魔術が飛んでいく。

 あれだ速さが足りない。

 お前らベアイレ先生の言葉をよく思い出しとけ!

 そんな事を考えられたのは少しの間だけだった。


「もうすぐだ、もうすぐだぞ……今だ! 来るぞ!」

「お前ら気合を入れろよ!」


 俺の掛け声にセカンドが続く。


「アイスランス!!!」


 そしてシャルの魔法もそれに続く。

 直前に放ったにも関わらずその魔法と構えた槍が敵の魔法によって叩き折られる。

 騎竜に騎乗している奴らの中に魔術師がいたって事か!

 それでもシャルは諦めていなかった。

 セカンドの盾をいつの間にかシャルも支えていた。


「全力を尽くすって言ったでしょ! アイスウォール!!!」


 シャルは小隊員が持つ盾ごと氷の壁を作り出した。

 小隊員達に衝撃が走った。

 だが誰も倒れてはいない!

 騎竜の突撃を俺達は耐えきったのだ。

 

「全力を、尽く、したわ、よ!」


 シャルは息も絶え絶えになりながらそう言っていた。

 短期間でしかも強力な魔法を使ったシャルは急激に疲弊していた。

 騎竜は進行方向を変えただけで、部隊に損害は無い。

 そして大きく回り込み俺達の後方、Aクラスの方へと向かっていた。


 いくらシャルが優秀とは言えAクラスの奴らも同じくらいの魔法は使えるはずだ。

 小隊の兵士も強いはずだしな。

 だが結果は違っていた。

 騎竜が突撃してくる時が問題だった。


「あいつら逃げやがった! 兵士だけでは耐えられないぞ!」


 魔術師が騎竜の突進に恐れを無し逃げ出してしまった。

 兵士達は攻撃を受ける訓練ばかりしている。

 多少は慣れていたのだろう。

 だが魔術師は守られる存在だ、そして攻撃を受ける訓練はあまりしていない。

 せいぜいが剣を受け流す訓練をする程度だ。

 いきなりで盾まで支えたシャルを褒めるべきなのだろう。


 逃げた魔術師に敵の魔術が飛んでくる。

 魔術師が多少魔法に抵抗力があるとはいえ複数に狙われたらひとたまりもない。

 また壁役もいないからな。

 逃げた方が危険だったという事だ。

 そして魔術師の支援の無い小隊の兵士達は騎竜の突進で蹂躙された。


 陣形は乱れ、小隊単位ですら隊列を維持している所は少ない。

 騎竜が縦横無尽に蹂躙していく。

 そんな中でも俺達シャルの小隊はよく持っていた方だと思う。

 先に隊列が乱れた生徒達が狙われたと言うのもあるかもしれない。


「もう、少しで、森林地帯のはず、よ!」


 シャルはもう限界だった。

 だが誰しもが諦めようとしている中でシャルだけは諦めていない。

 そして限界が来る前にそれは起こった。


 錯乱した魔術師が放った魔術が俺達の方へ飛んできたのだ。

 大量の風の(ウィンドアロー)が飛んでくる。

 ウィンドアローは見えにくくドラゴンの俺でなければ気付けなかったかもしれない。

 俺は咄嗟にアンチマジックフィールドでそれを中和した。

 思わずその魔術を放った方を見るとケーゼが取り乱していた。

 コイツ生きてたのかよ!

 死んだ方がマシな奴って本当にいるんだと思ったね!

 そしてそんな事をしている暇は無かった。


「キャッ!」

「ガハッ!」


 シャルと小隊員の悲鳴が聞こえる。


「しまった!」


 俺はシャルの魔法も中和してしまっていた。

 そして隊列は乱れ、小隊員は全員倒れてしまった。

『とは……ン、タが……』


 だがシャルは気を失ってしまった。

 そして意識を失う前に態々俺に念話(テレパシー)で話しかけていた。

 何を言ってるかなんて分からないが俺には伝わっていた。


『あとはアンタが指揮しなさいよね!』


 後はする事なんて決まっている。

 俺はただ言われた通りすれば良い。 


「お前ら動けるか!? 動けなくてもシャルを守れ!」

「……分かってるっつうの!」


 倒れてしまっていたが全員生きているしシャル以外は動けるようだ。


「フィフス、お前がシャルを運べ!

 セカンド、サード、フォース後方を守れ!

 俺が安全な方へ誘導する!

 お前らついて来い!!!」


 俺は意識を集中し、周囲を索敵する。

 同時に魔力も貯める、貯める、貯める。

 ドラゴンに出来ない事は無い。

 気配に敏感で魔力も多い、出来ない事なんて無い。


「くそっ、後方から騎竜だ!」


 セカンドが叫ぶ。


「俺に任せろ! ドラゴンブレス!!!」


 俺は今まで貯めに貯めた魔力で炎を放った。

 だが威力なんて無い対抗戦でショコラが使った魔術を見様見真似で魔法として放った。

 さすがに俺達のように突っ込んでは来ず、騎竜はその進行方向を変更した。


「ぎゃう! 公爵のくせにいつまで錯乱してやがる!」


 そして近くに来ていたケーゼに詰め寄り今度は本当の炎を食らわせた。


「熱っ! 貴様何をする!」

「それはこっちの台詞だっつーの!

 正気に戻ったならお前が全体の指揮をしろ!

 殿は当然お前だ!

 騎竜がすぐにでも来るぞ早くしろ!」

魔物(モンスター)風情が命令をするな!

 言われずともそうするに決まっているだろうが!」


 そしてケーゼは風の魔術で大声を出し生徒達をまとめる。


「全員ここへ集まれ! 隊列を組み直すぞ!

 並んで槍を構えるだけの簡単な仕事だ!

 教師に言われた通りのな!

 聞こえた奴はすぐに行動しろ!

 遅れた奴は炎で騎竜と一緒に焼き尽くすぞ!」


 やれば出来るじゃねーか!

 初めからそうしろと思わずにはいられない。

 そしてケーゼは魔術を使わず普通に話しかけて来た。


「ドラゴン、貴様はもう一度炎でこの戦場全体を焼いてしまえ!

 対抗戦で似たような奴を皆知っている……敵は知らんだろうがな!

 その隙に隊列を組み直す!」

「そんな広範囲には出来ないっての!」

「なら私と一緒にするんだよー!」


 ショコラも生きていたか!

 そして合体魔法か! ロマン溢れるな!

 実際は別々に並んで魔法を使うだけだけどな。


「ファイアウォール!!!」

「ドラゴンブレス!!!」


 この作戦は何とかうまくいった。

 陣形を建て直し、森林地帯まで撤退する事が出来た。

 そこから先に騎竜は追って来なかった。

 機動力が活かせないのもあるかもしれないが、その目的を達成したからかもしれない。


 俺達生徒の人数は三分の一、百五十人程までに減っていた。

 百体の騎竜に三百人程が倒された事になる。

 そして敵の損耗は……無い。




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