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ご主人様は真っ黒  作者: pinfu
第一章 幼生
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第二十話 撤退


「鶴翼で大丈夫なの?」


 鶴翼とはVの形を取る陣形である。

 内部に敵を引き込み包囲殲滅するのが目的だ。

 撤退には向いていない気がする。


「敵の数が減ったからと言ってもまともに戦えるとは思えません」

「大丈夫ではないのですが……まぁ大人の我儘だと思ってください」


 俺が敵を偵察していた。

 敵は軍を二つに分けた。

 駐屯地に向かう軍と俺達を襲う軍にだ。

 此方に向かった敵の数は約七百。

 その差は百ほどになったがその百が問題だ。

 騎竜百騎が此方に向かってきている。

 はっきり言ってこれだけで全滅しそうだ。

 そして敵はすぐそこまで来ている。


「鶴翼は普通敵を中に引き込みますが今回は中に入れない事が重要です。

 相手は多分横陣でしょうし、無理に中へ入ってくる事もないでしょう。

 そうなると先端の二か所に攻撃が集中します。

 そこを教師達……大人が守るのですよ」


 それなら偃月と呼ばれるΛの形を取る陣の方が良いのではと思う。

 だが偃月は横を攻撃されやすい。

 それに無理に此方から進軍する訳には行かないしな。

 鶴翼なら多少相手の進軍も遅れるかもしれない。


「それは大変素晴らしい行いだと思うのですが……。

 どうして私達も先端にいるのでしょうか?」


 シャルの小隊はなぜか左先端に配置されていた。

 しかも大人達は少なくベアイレ先生の小隊だけだ。

 残りの大人達は右先端に配置されている。


「シャル君達は私のクラスで一番優秀ですからね!

 一番近くで私の戦い方を見せたかったのですよ。

 そしてそれを今後に活かして欲しいのです」


 敵が目視で確認できる。

 もうすぐ相手の射程距離だろうか?

 騎竜の足音も聞こえてくる。


「それでは皆さん……生きて学園に戻るのですよ!」


 ベアイレ先生の小隊だけが敵に向かって突っ込んでいく。

 そして敵の射程に入った所で急加速する。 

 敵の遠距離攻撃が届く頃にはもうその場に小隊は居ない。

 その速さは騎竜よりも速いのではないかと思えるほどだ。

 そして敵の騎竜と交差する。

 だが騎竜は小隊を無視する。

 たった一つの小隊の為に進行方向を態々変えなかった。


「速さこそが力です!」


 ベアイレ先生はすでに敵と近接戦闘を始めていた。

 速すぎる!

 そして軍学校の教師だろうがよくぞ着いて行ったと思う。 

 あれはセンターポジション。

 魔術師を前面に押し出し、後を四人の兵士で守る。

 変則的なポジションで魔術師の力が絶対的に必要となるものだ。


「こいつ……神速だ!」

「な、神速のベアイレか!」

「ちっ、そんな話は聞いてないぞ!」


 敵の驚きの声が遠くにいてもドラゴンの俺には聞こえた。

 ベアイレ先生が一人で敵を蹂躙していた。


「ベアイレ先生って神速なの? そう言えば属性は何だろう?」

「知らないの? 神速のベアイレ、地属性だったはずよ」

「風じゃないのかよ!」


 いつもそうだよ、疾風なのに地属性とかそんなのばかりだな。

 余裕を見せていたのには理由がある。

 遠距離攻撃が来ないのだ。

 右の先端には遠距離攻撃が降り注いでいるがな。

 此方側の敵はベアイレ先生の相手で手一杯になっていた。

 そして此方の攻撃手段は無い。

 矢じりの無い矢とか飛ばしても仕方ないからな……。


「余裕を見せるのはここまでね。騎竜がこっちに向かってるわよ!」


 騎竜は流石に中央突破は避けたようだ。

 外側から此方に向かって突進してくる。


「氷の(アイスランス)!」


 シャルは魔法を使い氷でできた槍を作り出す。

 魔術では無い、飛ばす必要が無いからだ。

 兵士達も皆すべて剣では無く槍を構えている。

 騎兵には槍ぶすまというのは異世界でも変わらない。

 騎竜は此方の傍を通るだけであまり被害は出なかった。

 敵も全く被害を受けていないがな。

 騎竜はそのまま明後日の方向へ進んでいった。


「僕達はやれたのか?」

「何とかなるもんだな!」

「俺達もやれば出来るんだ!」

「次が来ない事を祈りましょう」


 小隊の兵士が安堵の声を漏らす。

 そして後方の生徒達も特に被害は無く安堵していた。


「先生達って強かったんだな。ちょっと見なおしたよ!」


 俺も俺も!

 速さがどうとかちょっと馬鹿にしてたけど今回の件でそれは一気に払拭された。


 そして敵はなんと後退を始めた。

 たかが一小隊の攻撃で……だ!

 それに合わせベアイレ先生の小隊も後退し、右先端の大人達も後退した。

 なんとか耐えきったようだった。




◇◇◇




「レーレン先生、派手にやられましたね」


 補給物資と一緒に後方にいたはずのAクラスの小隊達は酷いありさまだった。

 物資は焼かれ、生徒達の人数が合わない。

 考えたくない事だが犠牲者が出てしまったようだ。

 敵を迎え撃った俺達にも勿論犠牲者は少なからずいる。

 だが物資の防衛に当たっていたAクラスの方が犠牲が多いようだ。


「騎竜の部隊に襲われてね。とてもじゃないが抑えきれなかったよ」


 どうやら俺達に一度当たった後に騎竜が後方へ進軍していたようだ。

 それで簡単に引いていったのか。

 レーレン先生に怪我は見当たらない。

 だが衣服が所々破れ、また血の跡も残っていた。

 治癒魔術で治したのだろうが酷い怪我だったに違いない。

 そして治したからといってすぐに動けるわけでも無い。

 魔力で体の機能を活性化させ再生を早めているだけだ。

 それが体に優しい訳が無く疲労が貯まり長時間の休息を必要とする。

 さすがにそのままにしておくよりは休息も少なくて済むのではあるが。

 そしてその顔にはやはり疲労の色が見て取れた。

 怪我だけがその理由では無いかもしれないが。


「……生徒を幾人も失ってしまったよ。

 私のような者が生き残っても何の意味もない」

「拾った命はまだ生きている生徒の為に使うのが君だろうに」

「そうだな、少し弱気になっていたのかもしれない。

 まだ戦いは終わっていないのだったね」


 その通りだ、まだ追撃はあると考えた方が良いだろう。


「失ってしまった命や物資の事はどうしようもない。

 今はとにかく逃げるのが優先だろう。

 なんとか山岳部の森林地帯まで行ければどうにかなるかもしれない」

「そこまで行くのにもう一度戦闘になるでしょう」

「私の方は兵士を数十と魔術師は数人だけしか倒していない。

 騎竜に至っては受け流しただけで一騎も倒していない。

 被害の方は与えた戦果と同じくらい出ている」


 レーレン先生が戦果を報告する。

 人数が劣っているのに敵と同じ戦果を挙げたのだから上出来と言えるだろう。


「此方は……酷いよ。

 騎竜を一騎も倒していない。

 それに加え、魔術師が十名程、兵士も五十名程亡くなったよ」


 言葉も出ないとはこの事か。

 壊滅的な被害と言って良いだろう。

 物資の防衛に当たった半数程の人数が倒されていた。


「更に戦闘を行えない職員達も半数ほど亡くなったよ。

 物資も焼き払われ言い訳のしようも無いほどやられてしまったな……」

「過ぎた事は仕方ない。

 今どうするかだが……非戦闘員は優先的に撤退してもらおう。

 だが護衛は付けない、いや付けれないと言った方が良いか。

 残った者全てでなければ次の戦闘はとても耐えれないだろうからな」


 次の戦いはもう目の前まで来ている。

 戦力は初めの戦いよりも多くはなるだろう。

 しかし、多くの被害も出る事になる……。




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