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ガチ戦術、「へそ天」に負ける④

『公式アナウンス:勝者、コタツ丸! ギャラクシー・コロシアム本戦トーナメント第一回戦、完全勝利!!』

けたたましいファンファーレが鳴り響く中、ガイウスとラムダは、ただただ白目を剥いて消え去った敵のいた空間を見つめていた。

「……なぁ相棒。俺の、あの、必死の手動操艦って一体なんだったんだよ……」

「忘れてください、艦長。すべては、アレルギーに苦しむ富豪の執念と、猫の気まぐれの前に消え去ったのです」

二人の深いため息が、完璧なシンクロ率で艦橋に優しくこだました。


銀河最強のトップランカーを理不尽極まりなくも撃沈した余韻が、《コタツ丸》の艦橋を包み込んだ。

過負荷でうなりを上げていたナノマテリアル変換炉がゆっくりと冷却されていき、警告灯の赤光が平穏な緑色へと切り替わっていく。あちこちに飛び散っていた電撃の火花も収まり、船内を包んでいたコタツ布団を模したドーム状のシールドが、淡い光となって宇宙の闇に溶けて消えた。

メインモニターの横に設置された配信コメント欄は、文字通り光速を超える速度でスクロールしており、もはや肉眼で文字を識別することは不可能だった。辛うじて読み取れるのは、画面全体を埋め尽くす弾幕のようなネットミームの嵐だけだ。


『@古参勢:うわああああああチャンプが猫じゃらしで消し飛ばされたあああああ!!』

『@アンチ:もう何が何だか分からねえ! でも最高に笑ったからヨシ!!』

『@戦術ニキ:おい、大変なことになってるぞ! コロシアム公式が早くも今回のハイライト切り抜き動画を投稿したんだが、その再生数がすでに一千億回を超えてる!』


ガイウスは思わず無精ひげの顎をさすりながら、ラムダが最優先で画面に引っ張り出してきたその『最高再生数の切り抜き動画』に視線を向けた。

そこには、おっさんの泥臭くも華麗な手動操艦技術の映像はなかった。

銀河最強の絶対王者が放った、あの全方位一斉掃射の絶望的な火線の映像でもない。

もちろん、石油王Xことユニヴァース会長が天文学的な数字をぶち込んだ、超巨大コタツシールドの威容でもなかった。


画面の中で再生されていたのは、ただの、あまりにも平和な日常の光景だった。

激しい空間戦闘の爆音と、船体を揺らす凄まじいG、そして窓の外を埋め尽くすミサイルの爆発の光。その恐るべき光景を背景にしながら、完全な無重力と重力制御の狭間で、床から2メートルほど上の空間にシロとポチがぷかぷかと浮き上がっていた。

二匹は揃って足をピーンと垂直に伸ばし、お腹を天井に向けた見事な『へそ天』の姿勢で、空に浮いたまま小さな寝息を立てて爆睡していた。爆発の光が明滅するたびに、その小さな肉球がぴくぴくと可愛らしく動いている。

再生数は、今も文字通り桁違いの速度で跳ね上がり続けていた。

添えられたタイトルは――『【尊死】最終決戦の爆音を子守唄にして、完全にシンクロへそ天で爆睡する子猫たち【コタツ丸切り抜き】』。

コメント欄のスクロールは、光速を超えて宇宙を埋め尽くさんばかりだった。


『@名無し:かわいすぎて心臓が止まった』

『@古参勢:おっさんが命がけで神回避してる横でこれであるwwwww』

『@戦術ニキ:解説します。この完璧なへそ天は、艦長の手動操艦によるGの相殺が完璧に行われていた証拠……いや、そんな硬い話はどうでもいい! 足ピーン可愛すぎるだろちくしょう!!』

『@アンチ:負けたわ。カイザー・ヴォルフが負けたんじゃない、俺たちの理性がこのへそ天に完全敗北した』

『@猫博士:これぞ全銀河を救う究極の癒やしです。シロちゃんとポチちゃんの並びは宇宙の宝として認定されるべきです』


ガイウスは、しばらくその画面を凝視したまま、ぽかんと口を開けていた。

隣では、青白いホログラムのラムダが、完全にシステムを停止させたかのように静まり返っている。

「……なぁ、相棒」

「なんでしょう、艦長」

「俺の、あの、最新AIでも絶対に真似できないっていう、命がけの旧式操艦技術は?」

「シロ氏とポチ氏のピーンと伸びた後ろ足の可愛さの前に、完全に粉砕されました。私の超絶な演算サポートも、二匹のへそ天の尊さの前にはただの背景ノイズに過ぎないようです」

二人は顔を見合わせ、それから、どちらからともなく深い、深い溜息を吐き出した。

だが、その溜息のすぐ後に、ガイウスの唇からは、堪えきれないといった風な笑いが漏れ出した。


「はは……はははは! まぁ、いいか!」

「はい。猫たちがかわいいので、すべては問題ありません」

ラムダもまた、その中性的な顔に、いつもより少しだけ柔らかい、温かみのある微笑みを浮かべていた。

退役軍人のガチ戦術も、高性能AIの限界突破も、宇宙一の富豪の財力も、すべては猫たちの穏やかなお昼寝を守るための盾に過ぎない。世界中が彼らの姿を見て笑い、癒やされ、平和な気持ちになるのなら、それ以上の勝利など、この銀河のどこを探しても存在しないのだから。


「よし、お前ら。今日の祝勝会は、タイアップで貰った『銀河の咆哮・マグロ仕立て』の最高級プレミアム猫缶だ! 山ほど食えよ!」

ガイウスが缶詰の蓋を開ける小気味よい音が、艦橋に響き渡る。

その音を聞きつけた五匹の猫たちが、一斉に目を輝かせてガイウスの足元へと群がってきた。ミケも、シロも、タマも、モチも、そしてポチも、みんな嬉しそうに尻尾をピンと立てて、喉を鳴らしている。

画面の向こうでは、数千億の視聴者たちが、その光景を見て温かい笑顔を浮かべていることだろう。


「じゃあ相棒、今日ものんびり配信を続けようか。次の対戦相手が誰だろうと、俺たちのやることは変わらねえ」

「了解しました、艦長。カメラ位置を調整します。――さあ、銀河で最も平和な戦闘配信の始まりです」

旧式小型駆逐艦《コタツ丸》は、今日もたくさんの愛と、笑いと、そして最高にかわいい猫たちの鳴き声を乗せて、果てしない銀河の海をのんびりと進んでいくのだった。

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