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番外編 宴と婚約

「これより、冒険者・シンのSSSランク昇格祝いと、我が娘のルナとイムの婚約祝い。存分に楽しもうじゃないか! では、乾杯!」


 今日は、シンのSSSランク冒険者祝いと婚約祝いといった二つの特別な宴の始まりだ。

 少し遡って宴の二日前。ルナとイムの求婚を相談しに王都の王女のスピカ様に会いに行った。


「ふふ、いいじゃない。シンくんなら任せられるわ」


 スピカ様に気に入ってもらっているシン、そのためすごく信頼されている。それに、もうじき二人は婚約者を決めなきゃいけないといけない時期だったそうでちょうどいいとも言われた。


 そこまで話を進められると後が大変になると思い、スピカ様には自身が嘘をついていると明かしたがそれでもいいと言われた。理由は王都の後継人は長女のルナじゃなくてもイオがいるからと、イムに関しては支えもらえる人が必要だと、そうして彼女が選んだ人ならいいということだ。


 そうして、ルナとイムの正式な婚約が決定したのだった。



 会場は演奏が流れ、食べ物や飲み物が置かれている。そんな光景を見ている隣にいたミアとニアが早速食べたいと言ってそそくさと移動していった。


 そう一人になったシン。あまり着ないスーツ、少し懐かしいようがするが気にせず飲み物をもらって会場を見ているとひとりの少女がシンの腕を組んできた。


「シン様、見つけました!」


 明るい性格が黄色いドレスとよく似合うルナだった。


「シン様、お待たせしました」


 黒髪でポニテをし、物静かな彼女にぴったり合う黒いドレス。どこか落ち着きを感じる姿にシンは見続けてしまった。そんなシンの反応にルナは嫉妬したのかムスッと顔をした。そんな彼女を見て仕方ないと頭を撫でてあげた。


「二人とも、似合っているよ」


 ルナだけずるいとイムも頭を差し出してきたので撫でてあげた。


「……なんだこれ」



 少ししてからルナはミアとニアとおしゃべりが始まっていたので、シンは外の空気を吸おうをベランダに出た。こういった多くの人がいる空気が少し苦手だからだ。


 外の景色を見ながら飲み物を飲んでいると一人の少女がシンの傍にやってきた。


「……シン様」


 イムだ。彼女も飲み物をもってベランダに出てきたのだ。少し距離を置いて柵に手を置いて外の景色を見渡した。そんな彼女に自然と視線を送る。


 イムは辛い過去を持っている。ルナから聞いた。


 イムはルナの従妹。ルナの父、ここの王様であるカリストの弟の娘だと。イムの両親は病気で亡くなり、こっちに来てルナたちと一緒に住んでいるのだと。


 もじもじして落ち着かないイム、そんな彼女を少し面白いと思っているシン。


「それで、イムはどうしたの?」


 シンの呼びかけにびっくりしたのかびくっとするイム。やっぱどこか落ち着かないようだ。


「いえ、その……うれしくて」


 顔を赤くして俯くイム。そんな彼女にどうしても聞きたいことがあった。


「イムはどうして俺に婚約を?」


 そうだ、初対面でこう婚約を申し出る人は初めてだったからだ。確かにSSSランク冒険者ってこの世界でシンが初めてらしい。だからまあ、強い人間だったり、権力がある人と結ばれれば自身に将来が楽になるみたいな考えを持つ人だったらそうなるだろうなって思うが、彼女は違うことはわかっている。


「初恋なんです。あなたが」

「初恋?」


 イムは頷いた、それはあの日、婚約を申し出された時よりも前だという。


 勝手に森に入ったことで大きな蛇に襲われそうなところを助けてくれたという。それから一緒に城の中に住んでいると次第に心を開き、いつの間にか恋していたのだと。彼女が今している髪を結んでいるヘアゴムはその人からもらったものとは違うが、せめて同じものとデザインはこの何もない柄のものだと。それからある日に告白をしたのだと、だが振られてしまった。でも、次会える時にあの人は全部を愛してくれるならと。しかし、悲しい別れをして、また会えることを願ったと。


 彼女の会話から、少し違和感を覚えた。まず、イムとは初めて会う。山で少女を助けたなんてことは一度もない。ドラゴンを倒したのは覚えているが周りには人がいなかったから、その時じゃないのはわかっている。そして、この会話は自身がどこかで知っている。心の奥でモヤっと何かがある。どこかで彼女に、いや、似ている。あの女の子に。


「シン様は、覚えてないですよね。あなたにとって遠い昔なんですもの」

「……人違いとかは?」

「それはないです。だって、シン様はシン様ですから」


 どんな根拠で話しているのかと、でも、もう気づいたかもしれない。このモヤっとする気持ち。彼女の会話がよく似ている、最近の出来事を。


「すいません、おかしなことを言ってしまいましたね。ごめんなさい……」


 柵に手を置いて、涙目で、ヘアゴムを取って今度はもう少し遠くを見ているイム。


 風で流れる髪。髪が彼女の髪を隠すように前を遮る。直すわけもなく、風に任せるように、顔を自然に隠れるように。それは、今この気持ちを隠すためだ。


「……」


 彼女は答えが欲しいと思う。さっきの会話の答え。


 シンは、イムに近づく。


 イムは少しびくっとするが動かない。そんな彼女の髪をまとめて、右手を出して彼女からヘアゴムを受け取り、結んであげた。


「……これで、顔が見えるね」


 彼女の顔を覗き込み、頬を撫でて顔をこちらに向けた。必死に涙をこらえていたせいで目元が赤く、今にも泣きだしそうな顔。そして、答えを求めている。だから、俺は彼女を抱きしめて、一言……


「……俺と踊ってくれませんか? ミュー」


 イムは、シンの胸の中でぎゅっと抱きしめて、ずっとこらえていた涙をすべて流して。


「……はい、喜んで、シン様」


 やっと、出会えた。あの日、お別れした彼女と……



 会場へ戻り、イムに、いや、今はミューに、


「それじゃあ、一曲お願いできますか?」


 右手の手のひらを差し出した。そして、ミューは、


「はい、よろこんで」


 シンの右手に優しく左手を置いて会場の中心へ歩いた。


 音楽が流れると共に、二人はゆっくり、ゆっくりと曲に合わせて踊った。踊れるかわからなかったが、体が覚えている。みんなが見ている、貴族の人や、ミアとニア、そしてルナも。


「ふふ、羨ましがっていますね。……やっと、夢が叶った」


 体を密着させて呟く。そんな彼女を優しく包む。


「宴が終わったらゆっくり話すか」

「……うん、そうだね」


 踊ることが叶わなかったあの日、それが叶った今日、長い、終わることを拒む夜になる。



 その後はルナたちと踊り、宴は終わった。ミアとニアは踊らなかった。と、いうか練習も何もしてないため踊れない。ので、次回までに踊りを覚えることにした。


 ここは王都の一室。俺とミアとニアの三人部屋を用意してもらいそこに泊まった。


「……それじゃ、ご主人様」

「私たちは、少しお散歩してくる」

「ああ、行ってらっしゃい」


 そういってミアとニアは部屋を出ていった。


「シン様、少し……いいですか?」


 そしたらすれ違うようにイムが訪ねてきた。


「どうぞ」


 彼女の部屋へ入れた。見覚えのあるやり取り。少し露出を控えているようだが、それでも攻めてきている寝間着だった。


「……その、どう、ですか?」


 寝着姿の髪型はポニテではなくストレート。シンの顔を見て、顔を赤らめながらも様子を伺っている。


「そうだな、かわいいと思うよ。まあ、座りな」


 シンは、ベッドの横に座るようポンポンと叩いた。


 イムは失礼しますとゆっくり座った。


 距離は近すぎる、だけど小さな呼吸音が聞こえる距離だ。


「……その、約束を果たしに来ました」


 それは、遠い昔の夜に交わした約束。再び出会い、その時にシンの本当の姿を見ても愛してくれるか。


「まずは本当の姿、ね」

「はい、あの時のシン様の顔とは違い、なんというか……かわいいですよね」


 あの時の顔は前世の俺の顔だ。当然、男顔だ。今の俺の顔は、カナリアの顔をそのまま出しているだけで、魔法とかでいじるのはめんどくさいし、美少年か美少女の違いだろうと思っているためこのままでいるので、彼女からすれば男顔からかわいい顔になったそうだ。


「それで、本当の姿っていうのか、それですか?」

「いや、俺はこう見えて性別は女性なんだ。それを知っているのはミアとニア、あとはルナにイオ、最近はスピカ様にも教えた」


 最初は性別から明かすことにした。獣人であることは黙っておきたいが、約束は約束だ。全部話すつもりだが、先にこのことだけでも伝えておくことで彼女の好意がどう変わるか見ておきたいのだ。


「……それでも、シン様はシン様なので、私は全然愛せますよ?」


 なんか聞いたことある回答だなっと思った。結局、俺が俺であるならいいと。


「まあ、性別を偽っているのもそうなんだけど、俺って、獣人なんだ。しかも狐種なんだ」

「つまり、尻尾とケモミミを持っているの?」


 頷くとイムは少しそわそわしたが深呼吸をし、真剣な顔で言った。


「私は、シン様が女性でも、獣人でも、あなたがあなたなら愛します。だって、あの時の約束を守ってくれましたしね」


 イムの笑顔に、その言葉、彼女とこんなにすぐに再会できたのが少し驚きもある。彼女はシンの手を握り。


「もう一度言います、私はシン様が好きです、愛しています」 


 本気の目だった。言葉に迷いもなく、どんな答えが返ってこようと覚悟している言葉だった。


「すまないが、俺は一人を愛することができない。女たらしみないだが、俺に対しての愛を向けてくれるなら、平等に愛したい。実際、ミアとニアはもう関係なしに俺にくっついてくる」


 正直、あそこまでスキンシップされては認めざる得ない。なんなら過去に入浴や触り合いっこまでしたのだから。


「つまり、ミアさんとニアさんはシン様のケモを触っていると……」


 つい、こぼしてしまった言葉になぜか考え込むイム。彼女ならモフりたいとか、言わないと思いたいが……


「なら、私にもモフらせてください。ついでに、ミアさんとニアさんのも!!」


 なんか、すごくグイグイとくるイムに対してどうしようか迷ったが、自分のだけならとケモミミと尻尾を現した。


「ミアとニアのはたぶんダメって言うけ――きゃ!?」

「やばいです、フワフワです! しかもいい匂いがします!!」


 言葉が崩壊して、カナリアのケモミミと尻尾をモフっては吸うイム。急な接触に女の子の悲鳴が出た。シンは一応というか、女の子であるので当然の声が出たというか、本来の姿である。


「ちょ、急に触らないで。びっくりするでしょ」

「やっぱ、シン様は女の子ですね。でも、どっちでも好きですよ?」

「モフりながら言わないで!」


 そんなこんなでイム、いや、ミューと再会し、こうやってまた楽しいことができてうれしいカナリア、ではなくシンの長い夜が――


「はい、ここまでですよ、イム」

「あるじのモフモフは私たちのもの、そう簡単に触らせているのは特別」


 帰ってきたミアとニア、実の所お散歩と言っていたがそう遠くまで行っておらず、そこらの長い廊下を一周してきただけだ。


「いや、お前たちのものでも何でもないって。勝手に私のケモミミたちの所有権を持たないで」

「いいえ、持つわ。だから、イムはこれ以上ご主人様をモフり続ければ……」

「イムをモフる」


 単純にお前らも混ざりたいだけじゃないのか? 心の中で思いながらイムの手から抜け出し、離れようとしたら一瞬でミアに捕まりベッドに投げ飛ばされ、ニアとイムに完全に固定された。どうにか力で抜け出そうとしたその時、扉が勢いよく開き、一人だけ仲間外れになっていたルナが来たのだ。


「三人でかなりあ……シン様……いえ、カナリア様とイチャイチャと!! 私はまだしたこともないのに!! なのでカナリア様、混ぜてください!」

「なるほど、シン様の女の子の姿は”カナリア”って名前なんですね」

「いや、確かにそうだけど今気にすること!?」

「当然です、教えてくれなかったじゃないですか」

「なのであるじはイチャイチャの刑に処する」

「ご主人様、覚悟してね」


 こうして、カナリアはミア、ニア、イムにルナと……まあ、夜の女子会が始まったのであった。その後は、5人で王都を回るという女子会が計画されたが、それはすべてが今度の依頼を終えてからの約束にしたのであった。

「行っちゃったね」

「そうですね、でもシン様ならすぐ帰ってきますよ」


 シンたちは依頼として獣人の国『ティア』へと向かっていき、見送りをした彼女たち。


「それじゃあ、私たちは何をしよっか?」

「そうですね、シン様が無事帰ってこれることを祈りましょうか」


番外編 宴と婚約:完

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