第59話 どこに座る?
体育祭が始まった。
そして開会式が終わった。
想像以上につまらなかった。
校長の話つまらないし、暑いし、立ってるの疲れるし、前のやつめっちゃ鼻歌うるさいし。
そして最初の競技が始まろうとしてる。
確か1年生の『台風の目』だった気がする。
その間俺たちは砂の上で座って待つらしい。
せめてブルーシートを敷いてほしい……。
「木神くん! 砂に座るの、嫌だよね!」
座らないで立ってる俺に、大量の女子生徒が近づいてくる。
「私、パーカー持ってきたんだ! その上に座って!」
「私、折りたたみ式のイス持ってきた! それに座って!」
ご苦労さまです……。
しかも折りたたみ式のイスって……。
結構重いよね?
「ね? イスに座るよね? 木神くん?」
うわぁ、すげぇ圧。
めっちゃ断りにくい。
ここは『はい、ありがとう、座らせてもらいます』って言うしかないのか……!
「――ねぇ」
後ろから声をかけられる。
振り向くと咲羅。
なんかすごい安心感。
「天太に座ってほしいの?」
「うん!」
「汚いのに?」
……はい?
「天太のこと、『汚い』とか『ブタ』とか言ってたよね? それなにの座ってほしいの?」
「いや、あれは――」
「ってかさ、謝罪とかしたの? あんなに天太の悪口言っといて、謝罪もなしにベタベタするんだ」
咲羅……ありがとう……。
「ってか、天太今めっちゃ汗かいてるじゃん。イスより飲み物が先だと思うけどな、本当に天太のこと思ってるなら」
さすが咲羅。
今気づいたけど、咲羅は麦茶が入ったペットボトルを持っていた。
女子生徒たちはなんかボソボソ言いながら俺から離れていった。
『俺から』じゃなくて『咲羅から』だと思うけど。
「はい、天太」
咲羅は俺に麦茶を差し出す。
「喉乾いてるでしょ? 水分補給、大事だよ」
「え、いいのか?」
「うん。ミネラルいっぱい入ってるよ」
咲羅からペットボトルを受け取る。
冷たい。
そして飲む。
うん、美味い。
「ありがとな、色々と」
「大丈夫。天太も気をつけてね。じゃ、私戻るね」
咲羅は俺に手を振って、走っていった。
今思い出したけど、咲羅ってツンデレで有名だったよな……。
全然ツンデレじゃない気がする。
ま、所詮は噂。
噂なんて誤解が多いし。
だって俺がケーセンの常連って噂もあったからな……。
ゲーセンなんてあんなにぎやかな場所、行けるわけない。
つい最近行ったけど。