【独白】 一色 桜子
それから五日が過ぎました。
逃げ出したガルキオ商会の会長の遺体が坑道内で発見されたそうです。
現在、商会は聖石の不正な取引とか色々で教会騎士団の捜査が入り、一斉摘発が進んでいるようです。さらに一番上の人がいなくなったため、組織の基盤がぐらぐらでガルキオ商会という組織が無くなりそうです。後、坑道の捜査で無事ネコリーゼマスクが見つかってヨハンナさんが滅茶苦茶喜んでました。
総督府の方はガルキオ商会と繋がってた人たちが一斉に辞職して大変らしいです。アルやヨハンナさん、後はリコパパさんたちがまだバタバタしています。総督や騎士総長の二人は裁判にかけられ、恐らく極刑に処されるそうです。
リコちゃんとは一緒に買い物に行きました。以前お父さんにプレゼントしたカフスボタンを鉱山で失くしてしまったので、もう一度プレゼントするために一緒に選んだりしました。笑っているリコちゃんや、リコパパさんを見て頑張って良かったなと思いました。
そう言えば、彩乃さんはあの後、見せちゃダメな情報をアルに見せた事で上の人に怒られたそうです。ヨハンナさんの上司の人が取りなしてくれて問題にはならなかったそうです。彩乃さんに少しだけ愚痴を聞かされましたが、直ぐに笑い話にしてました。
初めて会った時より笑顔をよく見るようになりました。私たちと出会ったことで何かが良い方向に変わったのなら嬉しいな。
そうそう、今グロービスの都市全体が活気に溢れています。アンネリーゼさんがモンスターの増加の謎を解決し、ガルキオ商会の排除、さらに総督府の不正を正したという情報が広まり、アンネリーゼさん人気が凄い事になってます。アンネリーゼさんも民衆の前に立って謝辞を受け取ったりしてました。
そんなこんながあって、私は総督府の執務室に呼ばれました。部屋には私の他にアンネリーゼさんとアル、そしてテレージアさんから送られてきた書簡を読み上げるヨハンナさんが居ました。
書簡の内容は次のグロービス総督の任命についてとか、人事がどうだとかそんな話です。私の事は何もないようなので一応、利用価値は示せたようです。
一通りの話が終わった時、アンネリーゼさんが口を開きました。
「どこまでが母上の思惑通りだったのだろうな」
「と言うと?」
「私をグロービスに向かわせたのは、私でなければ総督に罪状を叩きつけられないから。更に視察の情報を流し、奴らに大きな動きをさせて証拠を掴むための布石にした。幼女化は私の姿を隠すには丁度いい。色々と考えられる。後は思い上がった私の鼻を折るため、というのもあるな」
「テレージア様なら考えられますね」
アルがそんなことを言いうものだから、背筋がゾッとしました。
「それで、私たちはこれからどうするんですか? テレージアさんの依頼は果たしたんですよね。首都に帰るんですか?」
私の質問にアンネリーゼさんは考え込んでしまいました。
そして、ゆっくりと口を開きます。
「私はこのまま別の都市へ行こうと思う」
その言葉にアルはとても驚いていました。
そんなアルを他所にアンネリーゼは言葉を続けます。
「私はこの国の王なのにこの国の現状を知らなすぎる。今回の一件でそれを深く恥じた。他の都市でも同じように理不尽で不当な行為が行われているかもしれん。それを正すのは公王である私の務めではないだろうか」
「アンネリーゼ様。ご自身の御立場もお考えください」
アルは心配そうに止めようとしてるけど、アンネリーゼさんの表情は全然揺らぎません。
「一応、この書簡には追伸と思われるモノがありまして内容は、『次は《ハルレイン》に向かいなさい』ということです」
ヨハンナさんの言葉に気概が削がれたアンネリーゼさんは、
「どこまでお見通しなのか……、本当に恐ろしい人だよ」
そう言って椅子の背もたれに項垂れてしまいました。
「良いじゃないですか、テレージアさんのお墨付きも貰えたんですから。胸を張って次の都市に行きましょうよ」
「張る胸があったらいいんですけどね(クスクス)」
「失礼! ホント失礼ですからね、ヨハンナさん! ちょっと笑ってるのも凄い腹立つ!」
「落ち着いてください、桜子。怒っても胸は大きくなりませんよ」
「キーーーーーッ! アル、ヨハンナさんが私をずっと虐めるの。きつく言ってやってよ!」
「ほどほどにしときなさい」
「そんなんじゃこの人絶対に止めないよ! アンネリーゼさんも何か言ってください!」
「ほどほどにしておけ」
「かしこまりました。ご命令通りほどほどに虐め抜くことにいたします」
「ヤダ! 私、絶対にヤダ! ヨハンナさんと一緒に行きたくない」
「あ~ぁ、駄々こねだしちゃった……。面倒くさい。アンネリーゼ様どうしましょう? 桜子がいないと色々と面倒ですので、一緒に連れて行く必要がありますが……」
「いざとなったら引っ張ってでも連れて行くさ。私は公王としての道を歩き出したばかり。私たちの旅はこれから――」
ヘックシュン
まあ、出てしまうものは仕方ないと思います。
「ちょっと、桜子ッ! アンネリーゼ様が折角決意を改めようとしてたのに!」
「いや、打ち切りみたいな台詞言ってたよ。そんなことより、アンネちゃ~~ん、会いたかったよぉ~~。頬っぺたスリスリしてあげるぅ~~。アンネニウムを補充させてぇ~。逃げないで。恥ずかしがらなくていいんだよ」
「サクラコ、顔ちかいぃ……。みんな、なんの話してたの?」
「新しい都市に行こうって話してたの。でも、ヨハンナさんが虐めるから、私たち二人だけで行こう♪」
「そうなんだ。でも、アルベルティーナもヨハンナもいっしょがいい」
「…………天使、アンネちゃんマジ天使。優しすぎるよアンネちゃん。桜子ちゃん涙が止まりませんッ! よし、皆で行こう!」
「いこ~♪」
「ほら、二人ともボーっとしてないで早く準備しよう。準備♪ 準備♪」
「…………本当、ブレないわねアイツ……」
「ええ、本当に面白い子です♪」
そんなこんなで今に至り、私は次の都市へ行くための準備をしています。旅支度をしながらこんな事を考えていました。
『今の私は幸せか?』
その答えはもちろんYESです。私はこの世界で天使であり最愛の人に出会えたから。
命の危険もあったし、怖い思いもした。でもその答えは変わりません。
だけど、アンネちゃんがいるから幸せというわけではありません。アンネリーゼさんが前に進めた事、リコちゃんやリコパパさんを助けられた事。彩乃さんが自然に笑えるようになった事。そういうのがあったから私は幸せを感じられるのだと思います。
私は目の前に悲しい思いをしている人が居たら、絶対に幸せを感じる事はできないです。
アンネリーゼさんと一緒に行くという事は、苦しい事や悲しい事を味わう事になるのだと思います。だって、アンネリーゼさんはそれを無くすために旅をするのだから。だけど、アンネちゃんと一緒にいるには行動を共にするしかありません。だから、私も精一杯その旅に協力したいと思います。
私は独善的に自分勝手な人間です。私は自分の幸せを享受したい。そのためには目の前に不幸な人が居て欲しくありません。
私は私が見える範囲の人は幸せであって欲しいと思います。だから私は目の前の人の手助けになってあげたい。自分が幸せでいたいから。
これから先も色々大変なことはあるのかと思います。だけど、私のこの思いは変わらないと思います。
それがこの世界で私が見つけたモノだから。
独善的で自分勝手な『幸福論』
たぶん、これが私の『幸福論』だと思うから。




