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オリジナリティの意味2+プロの領域

(※基礎編「オリジナリティの意味」に関連)

 ネタが個性的であることは最も重要です。

 過激な言い方をすると、これが無ければ書く意味も無いと言って良いほど。この一点だけを考えれば、ネタは奇抜すぎて読者がついて行けないようなものであっても書く価値はあると思っています。なぜなら書くだけで実力がつきますし、チャレンジしてみるのも面白そうではありませんか。

 ですが、これは創作者としての立場から出る考え方であり、普通はダメです。

 なぜダメかというと、ほとんど誰も読みたがらない作品は、ほとんど誰も読まないから(当たり前です!)。なので新人賞に投稿しても、いわゆる「誰得小説」は個性を評価されることはありません。ネット小説を好きなネタで書いてみるのはアリですが、それで人気を出すのは極端に難しくなるでしょう。

 文学と違って、エンターテイメント小説は常に読者さんのことを考えて書かれていなければなりませんので、そこをクリアしていない個性は評価される土俵に立てていないのです。創作者は自分だけの新しい物語を生み出す立場でもありますので、常にこのジレンマに悩まされることでしょう。


 でも、かえってそこにチャンスがあったりもします。

 個性的なネタは市場に同じものが存在しないので、必ず作品の差別化につながり、かつ目立つという利点があります。また、そのネタで書かれた作品を読みたいと思っていた読者さんのニーズに刺さるため、作品として書く意義が生まれます。

 そのうえ、もしその題材を作者の力で大衆化することができたら、同じネタを使っているライバルがいないので一人勝ち。思いついた時点でやってみる価値があるでしょう。実際にモノになるかは、ある程度プロットを組んでから決めればいいことです。


 これに関連して、講談社様から出ている西尾維新先生の『きみとぼくの壊れた世界』には、登場人物が小説の話をするシーンが数多くあります。以下はそのうちの一つの抜粋。妹が兄に新発売の小説を紹介し、兄が内容を聞き返すシーンです。


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「ふうん。どんな話だった?」

「主人公が自転車事故にあって、主人公と自転車との人格が入れ替わっちゃう、みたいな話」

「キレてんなー。粗筋だけでわくわくしちまうじゃないか」

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 この小説のストーリー構造は「入れ替わりもの」という王道のメインストーリーを、「主人公と入れ替わるのが自転車だったら」という超個性的なサブストーリー・横軸のズレで飾ったものです。(「ストーリーの内部構造」参照)

 普通に考えたら、自転車になった主人公も主人公になった自転車も行動不能ですよね。その後どうやったら物語として成立するのか、まるで想像ができません。――しかしこの兄の言う通り、ものすごく読みたくなりませんか?

 流行のジャンルであるとか、面白いか面白くないかを差し置いて、非常に気になります。おそらく、この設定でエンターテイメント小説を作ることがいかに難しいか、誰しもが頭のどこかでわかっているからでしょう。

 これを商業化まで持って行けたという事実だけで、非凡な感性と構成力が作者に備わっていることが期待できるネタです。奇抜なだけでなく、売れると判断されたから世に出ているわけですからね。「売れるオリジナリティ」です。

 こういうのは新人賞でも評価されますし、平平凡凡なネタでありきたりなストーリーを完成度高く書くよりは、よほど人気が出るんじゃないかと思います。むしろ、何か一点でもこういう特徴的なネタが備わっていないと受賞は不可能に近いんじゃないかと。

 しかし、こういうネタ出しは狙ってできるものではないです。


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「本当、あの作者の人、頭の中とか、どうなってるのかな。あの人に限らず、小説家の人って、何考えて、物語書けるんだろうね」

「ふん。小説の場合は、考えるっつーよりも、思いつくって感じだろうとは想像はできるんだけど、具体的にはどうなってるかってのは、不明瞭ではあるよな……」

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 技術論の意義を一部否定するようで申し訳ないのですが、個性的なネタについては9割方、技術ではなく発想のセンスで決まります。

 『既存のネタを個性的に組み合わせる』 というネタ出しの方法論を聞いたことはありますが、私にはどうもしっくりきません。説明するのが難しいのですが、使っているネタが新しくても、それによって話そのものが面白く、かつ新しく変化しないと意味が無いのではないかと。

 仮に『剣で戦う主人公』と『ヤンキーもの』を組み合わせて、『釘バットで戦う主人公』というネタを作ったとします。しかし攻撃方法が『斬る』から『殴る』に代わっただけで、本質的には何も変わりません。『剣で戦うヤンキーもの』にしたところで、不良が銃刀法違反をしているというだけで、大筋の物語自体はヤンキーもののままです。

 既存のネタを組み合わせるだけじゃ、パクリの領域を越えられません。ただ変わったことをしようとして世界観に合わず、失敗していると思われることがほとんどですし、それはおそらく事実でしょう。


 ジャンルの決定のところでも組み合わせの話をしましたが、組み合わせは発想のためのきっかけであって、親和性の高いネタを組み合わせただけで一作書いても、中身はいつもの凡作と何も変わらないはずです。

 この場合、目新しさを狙うなら、主人公の武器を生八つ橋くらいにする必要がありますが、生八つ橋をどうやって武器にするのかを考えるのは、結局作者です。ネタを組み合わせたはずの私でも、こんなんでどう物語にするのかさっぱり思いつきません。

 ――毒殺? いやいや、地味すぎてつまんないよなぁ。新しいけど。

 これでは「売れないオリジナリティ」ですから、面白くて売れる物語を考えてあげなければ。

 そこで少なくともバトルものやヤンキーもののプロットのなぞりでは物語が作れないことに気づくのですが、そのあと生まれるのは『生八つ橋を武器にしなくてはいけない』という不必要な縛りです。思いつかないし、縛られた条件内で論理的に考えるのは正直しんどい。

 もちろん、ちゃんとできたら素晴らしく評価されると思いますが……ちゃんと面白くできる保証も期待度も、まったくありませんよね? ですので、こんな状態から物語を面白くする方法を考えるよりは、読書をしながらパッと思いつくのを待った方がマシ、というのが私の考えです。

 何事にも、可能不可能というものはありまして。つまり「組み合わせ法」は奇抜な設定こそ作れますが、内容の面白さや斬新さ、その題材を扱う必要性と物語との整合性や、それで読者さんに人気が出るかどうかなどについてはノータッチなのですよね。だからあくまで、発想のサポートというスタンスです。


 話は変わりますが、『きみとぼくの壊れた世界』を読み返していると、こうも書かれていました。


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「一冊二冊と本を出せば小説家ってわけじゃない。テクニックやスピードを自慢してるうちはアマチュアなんだよ。裏返しゃ、そんなもんはアマチュアのうちに磨いとけってことだな。ごちゃごちゃ喋るプロはプロじゃない。単純にパワーある小説を書くこと以外に、どんな看板がいるもんかってんだ」

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 一応注意書きしておきますと、これは登場人物の発言ですので、これら全てが西尾先生のお考えであるとは限りません。(しかし他にもプロな視点で創作について書かれていますし、物語自体も面白いので是非オススメ)

 私はこのやりとりを読んで胸にグッときました。大学時代に初めて読んだ時もそうだったのですが、今改めて読み直すと二度ビックリ。こうして創作についての技術論を書きながらも、常に感じていた事と極めて似ていたのです。

 プロになりたいなら、技術で語れるようなことはできて当たり前……(一部できないけど)。そのうえで感覚的に優れたものを書けないと、プロの世界で生きていくことはできないよなぁ、と。 M

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― 新着の感想 ―
[一言] 生八ツ橋を武器に……。閃いた……かも? バトルモノではなく経営モノにしてみるとか? 潰れかけのお茶屋を自作の生八ツ橋で建て直していくとかw経営知識皆無なので自分は書けませんw
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