チェックシート
今回は書き手ではなく読み手の技術を向上させる内容かもしれません。
例えば作者の方に感想を求められて評価しなければならない立場になったとしましょう。一読者として思ったことを伝えるのも素敵なアドバイスですが、なぜ「面白い」あるいは「面白くない」のかを具体的に評価するための素材を用意しました。
以下、技術的な判断材料となる項目の羅列です。
登場人物
□主人公は新しい個性を持っている。
□主人公は既存の人物と差別化できている。
□主人公の年齢や境遇が等身大で感情移入が容易。
□主人公は読者が羨むような特別な力を持っている。
□主人公は特別な力を持っていないが問題を克服している。
□ヒロインが魅力的である。
□ヒロインは新しい個性を持っている。
□ヒロインは既存のキャラクターと差別化できている。
□複数のヒロインがいて人気を分け合える。
□登場人物が魅力的に描かれている。
□登場人物の関連性に面白味がある。
□登場人物の外見描写が盛り込まれて想像しやすい。
□登場人物の感情描写が適切で感情移入しやすい。
□適切な数の登場人物が物語の展開上過不足無く配置されている。
物語
□斬新で魅力的な物語である。
□読者を楽しませる意識が感じられる。
□起伏に富んでおり最後まで飽きさせない。
□全体に渡って展開が面白く魅力的である。
□物語の方向性が明確で先を想像しながら読み進められる。
□物語の先が読めないが興味を掻き立てられる。
□ありがちで先の読める物語だが楽しい。
□台詞や行動によって登場人物の魅力が描かれている。
□関係の変化や擦れ違いなどドラマが描かれている。
□予想をいい方向に裏切るどんでん返しがある。
□爽快感や救いがあり読了後にカタルシスを得られる。
□物語が設定の記述で終わらず感動を与えるエンターテイメントになっている。
設定
□発想が斬新で新鮮さがある。
□しっかりした世界観の設定がある。
□定番の設定・アイデアだが魅力的である。
□設定の説明が適量かつ適切で理解しやすい。
□本質部分の虚構以外は事実と現実を軸にしている。
□興味・関心が高い世界設定・テーマを持っている。
□興味・関心が低い世界設定・テーマだが面白く読める工夫がなされている。
□登場人物や固有名詞などのネーミングにセンスが感じられる。
□細かいところまで配慮が行き届いて物語にリアリティを与えている。
□一般には知られていない知識を利用することで物語に奥行きを与えている。
構成
□物語の導入が劇的で誘引力がある。
□展開に緩急がありテンポよく読み進められる。
□中盤で中弛みせずに終盤へ向けて興味を刺激している。
□しっかリと盛り上がりクライマックスを迎える。
□長さに適切な章構成で飽きさせない。
□時系列に沿った素直な構成で物語を理解しやすい。
□前後関係がよく整理されており無理のない展開になっている。
□描写の視点が固定されており情景が無理なく思い浮かぶ。
□作中の中心となる間題が解決している。
文章
□誤字脱字誤用が少ない。
□書きこなれており基本的な文章力に間題はない。
□全体に勢いや新鮮さがあり好感が持てる。
□語彙が豊富で多彩な表現ができている。
□登場人物の造形や描写が適切で想像しやすい。
□状況の描写が適切で物語世界を想像することが容易である。
※□の中にチェックを入れて使用してください。
例:○・無印・×の三段階評価。3を普通とした1~5の五段階評価。
使用上の注意点。
基準は採点者の絶対評価で構いません。ただし好みによって基準が甘くなったり厳しくなったりしないよう気を付けてください。例えば「誰か虚淵文庫作ってくれないかな」が口癖の私だと「日常を淡々と描く小説」を一読者として見ると「そういうのは漫画に任せましょうよ」と感じてしまうわけです。反対に「ろくでもないことが起こりそうな物語」はそれだけで興味を掻き立てられてしまいます。しかし評価をする立場になれば感性の赴くままに採点するわけにはいきません。上記項目が物語の中にきちんと落とし込まれているかで判断していきましょう。
とはいえ「感情」を完全に抑えて評価するなんて編集さんでも困難な作業なので、あくまでこういうところに着眼して読めばいいんだなくらいの感覚で構いません。意識するだけで読み手としての技術は飛躍的に向上するからです。書き手はこれらの項目をプロットの段階で落とし込む必要があるので、本文を書き終えたあとでチェックしているようでは手遅れ感が拭えませんけどね。もちろん上記項目が本文で表現できているかの確認には役立つかもしれません。
またアドバイスは大局的に伝えることをおすすめします。というのも重箱の隅を突くような改善点は「面白くない物語」を「ちょっと読める面白くない小説」にするだけで大量の時間を浪費してしまうからです。言い方は悪いですが新人賞で早々に落ちる方ほどこの傾向が強かったりします。部分に拘るのではなく全体で判断していきましょう。
さあ、あなたも下読み(主に新人賞の一次選考を担当する方々)さんになったつもりで作品を評価してみてください! N