冒頭の書き方
いろいろな作品の冒頭を読んでみると、なにかしら吸引力のある出来事が起きていますよね? これは「どういう物語なのかを提示」しながら「読者を作品に引き込む」という二つの目的を達成するために行われています。つまり読者の興味を駆り立ててページを捲らせるための手段なので、可能な限り「この先どうなるんだろう?」と感じさせる出来事であることが求められます。
耳にしたことがある方も多いかもしれませんが、ミステリーでは「まず死体を転がせ」という言葉があります。これは衝撃的な場面を冒頭に持ってくるべきという意味だけではなく、主人公が行動を起こす強烈な「きっかけ」を用意すべきという意味も含まれているそうです。そんなわけで冒頭で起こすべき衝撃的な出来事は、本編である物語へ誘引する必然性のあるものにしなければなりません。
以下、愚痴にならないよう台詞で書いてみます。
「バラバラ死体ね」
Nは辟易とした口調で吐き捨てて、今日何度目かもわからない溜息を漏らした。
「なんでもかんでも殺し方を残酷にすれば読者の興味を惹けるのかと言うと、実際のところかなり微妙で、なんの意味もない残酷さってのは単なる悪趣味だと思わないか?」
「それじゃあ、どういう殺し方だったらいいの?」
「行動と意味がちゃんとリンクしてたらどんなものでもいいと思うけどね。ただなんとなくバラバラにしてみました――みたいなのが一番苦手なんだよ」
さて、それでは衝撃的で必然性のある場面の具体的な例を挙げてみましょう。
盗賊が主人公なら宝物を盗み出す場面。
戦記なら主人公が戦わざるを得ない場面。
特にアクションが可能な物語では冒頭に取り入れて読者を盛り上げる場合が多く、それは逆説的に考えれば興味を駆り立てる方法として非常に有効な手段と言えます。しかしアクションはすべての作品で使えるわけではないので、その場合は「意外な出来事」が読者に興味を抱かせる常套手段となっています。例えば「一夜にして大金持ちになった」や「朝起きると姿が変わっていた」や「トンネルを抜けるとそこは異世界だった」とかですね。
ここまでは物語の頭から順に書く場合でしたが、物語の途中ないし結末を冒頭に持ってくる手法も有効です。つまり「すでに物語が動き出している状況」なわけですから、余計な描写や説明を後回しにすることで疾走感を出せます。どうしてそのような状況に陥ったかは冒頭を終えてから書きましょう。この場合に効果的なのが「静と動」の使い分けです。例えば冒頭で「派手な戦闘」を描いたのなら第一章の始まりは「穏やかな日常風景」を用いたり、冒頭で「暗くて静かな場面」を描いたのなら第一章の始まりは「明るくて賑やかな場面」という具合ですね。
避けたほうが無難な例も挙げてみましょう。
細分すると切りがありませんが、大きく分けると以下の二つです。
◇説明に終始して物語が動かない。
◇主人公が誰かもわからない段階で世界観や設定が長々と語られる。
ともあれ物語で起こることを予感させる出来事あるいは物語で起こる出来事へ繋がるものを選び、読者に「今後もっと大きな出来事が起こりそう」という期待や不安を抱かせることが重要です。 N
※連載形式であるネット小説では難しいのかもしれませんが、冒頭だからと言って必ず最初に書かなければならないわけではありません。実際に全体の流れを把握してから冒頭を決める書き手も多いのではないでしょうか? ちなみに私は「物語の途中(ただし結末からは大丈夫)」から始めるのが苦手なので、冒頭「過去」→第一章「現在」みたいな時系列的には順番通りな展開をよく使います。




