葛藤が起これば物語は転がる
まずは多くの方が体験したであろう葛藤を例に挙げてみますね。
あなたにはAさんという片恋相手がいます。付き合うためには思いの丈を伝えるしかないわけですが、失恋したときの痛手を考えると簡単には告白できません。つまり好きという気持ちを自覚しているのに告白「する」か「しない」かを先延ばしにしている状況です。傍から見ればただの片思い中に過ぎませんが、内在的に「葛藤」が生じていることはわかりますよね? 絶賛片思い中の方は今あなたが感じているすべてが物語を転がす原動力ですし、現在片思い中でない方は甘酸っぱい青春の記憶を引き出してください。あとはここに「きっかけとなる事件」を起こすだけで物語は転がり始めます。
①ある日、転校生Bがやってくる。BはAさんを好みだと高らかに宣言した。
②ある日、突然、友人BからAさんのことが好きだと告げられる。
③ある日、Aさんに望まない許婚がいることを知る。
これだけで先送りにしてきた「葛藤」が一気に表面化します。あなたはAさんに告白「する」べきか「しない」べきかこれまで以上に真剣に考えなければなりません。さりげなくアピールするのか、積極的に話しかけるのか、はたまた別の行動を起こすのか? もちろん結果的にBが勝手にフラれるということもありますが、少なくともあなたの平穏な日常は「きっかけとなる事件」によって変化をもたらされたわけです。
選択を迫られた主人公は果たしてどのような行動を起こすのでしょうか?
とても単純な展開ですが、これで物語の「起」になるんです。
それでは次に「小説家になろう」で流行の物語について考えてみましょう。
以下、おそらく主人公が最初に迫られるであろう選択です。
「VRMMO(閉じ込められる系)」
主人公はゲームの世界から脱出「したい」のか「したくない」のか?
「異世界トリップ」
主人公は元の世界に「戻りたい」のか「戻りたくない」のか?
「異世界転生」
主人公は新たな世界を「受け入れる」のか「受け入れない」のか?
そんなの当たり前だろと思った方、いえいえ、わかっていても実践するのは難しいんです。例えばゲームの世界から脱出「したい」主人公なら、それを妨げる「したくない」派の連中を疎みますよね? 実際に「したくない」派を糾弾する演出もあったとしましょう。それなのに翌日「したくない」派と和気藹々としていたら意味不明ですよね?
劇的な出来事を通じて選択肢が変わることはいいんですが、なにも起こってないのに言動が変わると共感なんてできません。現実的に考えれば「昨日と言ってることが違う人」はたくさんいるので、ある意味でリアリティを追求した結果と言えなくもないんですが、そこはぐっと堪えて一貫性のある主人公を描いてください。
またプロットの段階で表現したいことを明確にしておくと物語を動かしやすくなります。
「罪や問題を抱えている主人公に前を向かせて幸せになれるよう頑張らせる」
長編公募作品限定の話になってしまいますが、私は処女作から受賞作まで一貫してこれです。ラブコメを書いてもファンタジーを書いてもSFを書いても基本となる部分は変わりませんでした。
今回は物語の動かし方について書きましたが、もちろん闇雲に動かせばいいというわけではありません。動き始めた主人公が路頭に迷っては意味がありませんからね。 N




