【閑話3】純喫茶にて(※譲治視点)
後日、譲治と日正はレトロな純喫茶に来ていた。
良音と花音は別行動、二人には聞かせられない“仕事”の話をするために。
「いっただっきまーす♪」
「お前は本当にソレが好きだな。」
クリームソーダを満面の笑みで味わう日正を、譲治はコーヒーを啜りながら眺める。甘党の日正は、首都圏に用があると必ず喫茶店に寄りたがる。どちらかというと“仕事の話”がついでで、今回は糖分接種がメインだ。
「喫茶店の一つも無い山ん中じゃ糖分が足りなくて堪んないよ。パンケーキとクレープも食べに行きたいし…………あ、次は良音サマ達も連れて来てあげようね~。」
「わかっている。全く……良音殿と櫻井は、大丈夫そうだな。」
彼女たちの護符から伝わってくる気配と周囲を気にしつつ、声を低めて身を乗り出す。周囲の客は自分たちの食事に夢中で、二人の会話など気にも留めない。
「例の事件、進展は?」
「いや、ここしばらくは新しい犠牲者も無し。こんなこと言いたくは無いケド…………新しい事件が起きてくれなきゃ、何もしようが無い状況だよ。」
「皮肉だな。」
日正の言う通りなので、譲治は窘めることもしない。
2人が気にしているのは『不可視の殺人犯』の事件だ。妖術師でも最強と言われる譲治と、非術師の良音が婚約する。これを発表することで、反妖術師団体が何か行動を起こすかもしれないと危惧していた。良音は妖力を持っていないとはいえ、妖術師の家系出身だ。そんな彼女に“団体”がどう反応するか、予想しきれないところがある。
「けどキナ臭い話がある。」
「なに?」
アイスを突っつく日正が急に口を開くので、譲治は驚いて目を見開く。情報があるならさっさと言えと、メロンソーダを吸う日正を睨んだ。
「総理が警察の捜査に口出してる。」
「……………………あの人が?」
日ノ本の現総理大臣は、裏戸家とも親交の深い妖術師だ。譲治の父と同世代で、たびたび裏戸邸に来ていたのでよく知っている。故に、事態がより複雑化しているのを察して譲治は顔を顰めた。黙って手振りだけで、続きを促す。
「うん。警察は、上層部で見れば非術師側の勢力だ。反妖術師団体を庇うような真似をさせないため…………という名目らしいけど、あくまで建前ってカンジ。」
「本音は別のところにあると?」
「僕が見る限りはね。」
「お前がそう見たならそうなんだろう。引き続き頼む。」
「言われなくてもだよ。っていうか、会合にもあの人なら来るでしょ。直接聞いた方が早い。」
「いつも通り黙秘される気がするが。」
「そう、いつも通り「どーしょーもない」ってこと。」
日正の術とて、万能ではない。相手の正誤が見抜けることと、その詳細まで見るのはまた違うのだ。煙に巻くことを得意とする政治家の姿を思い浮かべ、譲治は深くため息を吐いた。想像よりはるかに、事態は面倒なコトになっているらしい。
最後までとっていたさくらんぼを食べたのち、日正は「あとさ」と次の話を始めた。
「会合には大上家と、あの水大院も来るよ?大丈夫?」
「言われなくともわかっている。」
「君のわかっていると僕のわかっているは多分違う気がする。」
「じゃあ擦り合わせろ。何だ。」
「何だ?じゃないよ、水大院のお嬢様!あの子、君と結婚する気満々だったじゃないか。絶対に良音サマに突っかかるよ?」
「良音殿から目を離す気は無いし、奈緒美嬢と同じように対処するだけだ。」
「やっぱりわかってないなぁ、この鈍チンめ。」
「だから何がだ?」
「コイツ…………」
日正が信じられないという顔で譲治を見つめるも、譲治は本当に『わかっていない』と理解できてしまい頭を抱える。
「はぁ、いや、いいよ。君はいつも通りで。」
「???」
呆れ顔でクリームソーダの残りを啜る日正を、譲治は心の底から不思議そうに眺めるだけだった。




