第29話:【降臨】魔女の慈悲と新たなる生贄
本日も、終わりなき復讐の深淵へようこそ。
第30話、物語はついに「破壊」の先にある「統治」へと足を踏み入れます。
神を肥料とし、天使を家畜とし、宿敵を絶望の器へと変え尽くしたリアナ。彼女が玉座から見下ろすのは、美しき調和の取れた世界ではなく、悲鳴と苦悶が心地よいリズムを刻む「完成された地獄」です。
復讐を終えたはずの魔女が、なぜ止まらないのか。なぜ「∞」の連鎖を止めないのか。
その残酷な答えと、新世界の理を、圧倒的な熱量で描き出します。
世界の終焉すらも通過点に過ぎない、魔女リアナの真の完成をどうぞその目に焼き付けてください。
天界を飲み込んだ漆黒の夜は、もはや明ける兆しさえ見せない。
かつて全知全能の神が座していた至高の玉座には、いまや「無」となった二つの人形が、リアナの足元で泥のように伏し、不気味な一定の間隔で脈打っている。
「……アスタロト、この子たちを見て。何を描いても、何を注いでも、ただ無抵抗に受け入れるだけの『綺麗な器』になったわ」
リアナは、エドワードの光を失い、空っぽになった眼窩に細い指を添え、恋人に語りかけるような甘い声で囁いた。
自我が真っ白に漂白された彼らに、もはや「恐怖」という高尚な感情は残っていない。
あるのは、リアナという絶対的な支配者から与えられる苦痛や快楽という「刺激」への、飢えた獣のような反射的な依存だけだ。
「そろそろ、この空虚な器に新しい『中身』を詰めてあげましょうか。……この天界の隅で、まだ自分を人間だと思い込み、命を惜しんでいる哀れな生き残りたちの絶望を」
リアナがパチンと指を鳴らすと、神殿の太い柱の影に潜んでいた数人の神官たちが、魔界の茨に引きずり出されてきた。
彼らはかつて、無実のリアナを「呪われた魔女」と指差し、広場での火刑を狂信的に扇動した者たちの末裔であり、その教えを継ぐ者たちだ。
「……あ、あぁ……っ! 魔女め、我らを……我ら聖職者をどうするつもりだ……! 神の罰が下るぞ!」
「神? ああ、あそこで私の華の肥料になっている塊のことかしら? ……どうもしないわ。ただ、あなたたちの神が愛したこの『王子様』と『王女様』の中に、あなたたちの魂を少しずつ、生きたまま溶かし込んであげるだけ。それが私の考える、あなたたちへの『再雇用』よ」
リアナが冷たく手をかざすと、神官たちの絶叫とともに、彼らの精神が光の糸のように無理やり引き抜かれ、エドワードとエルナの半開きになった口へと吸い込まれていく。
器は、肉体という物理的な限界を持つ一つ。だが、その内部には数百、数千の「死ねない苦しみ」が無理やり押し込められ、圧縮されていく。
エドワードの肉体が、他者の絶望を飲み込むたびに不自然に膨らみ、血管が浮き出てドクドクと波打つ。
漂白された真っ白な自我の領域に、他人の断末魔が直接書き込まれていく。それは、どんな物理的な拷問よりも深く、逃げ場のない精神の蹂躙。一つの体に数千の意識が同居し、互いの苦痛を共有し続ける。
「……あ、あは……っ、あぁああああああ!!」
エドワードの口から漏れたのは、彼自身の声であって、彼のものではない数千の断末魔が混ざり合った異形の咆哮。
エルナもまた、他者の恐怖を苗床にして、その背中から漆黒の華を幾輪も咲かせ、その身を歪な怪物へと変貌させていく。
「これが私の『慈悲』。孤独だったあなたたちに、こんなにたくさんの『お友達』をあげたのだから。……さあ、永遠にその狭い器の中で、互いの絶望を貪り合い、混ざり合いなさい」
リアナは、神殿の床を埋め尽くすように広がる絶望の渦を眺め、冷たく、そして深く微笑んだ。
復讐は、個人の怨恨という枠組みを軽々と超え、全生命を巻き込む永劫の地獄へと昇華した。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
第29話、リアナの復讐は新たな次元へと到達しました。
自我を失ったエドワードたちを「器」として再利用し、そこに生き残った者たちの魂を詰め込むという、最悪の再構築。一人の苦痛が、数千人の絶望と混ざり合い、誰が誰かも分からぬまま永遠に苦しみ続ける監獄の完成です。




