18話
茂みの中から覗いた光景は想像したものとは全く違っていた。
ハスキー犬を一回り大きくしたような魔物?が武装した人間に銃で撃たれ、倒れていく光景だった。もちろん魔物たちも無抵抗というわけではなく必死になって戦おうとしているのだがいかんせん距離が違いすぎるように見えた。
人間たちは横一列に並んでいて、号令と共に一斉に銃を放つ。それで魔物の牙が届くよりも圧倒的に遠くから攻撃できている。
「嫌………」
小さな声が聞こえた。
小袖の言うことは十分に理解できる。なぜならばその魔物が地球にいる犬にそっくりに見えたからだ。もちろん体は大きいからその分唸り声も大きいくて迫力があるから魔物、と言えばそうなのだろうが心が痛くなる。
いま銃を撃った前列の男達が後列の男たちと位置を入れ替えた。
炸裂音。
犬のような魔物たちの悲鳴が聞こえる。戦いにすら全くなっていないその光景は戦いというよりも虐殺と言ったほうが近い。撃たれた魔物はそのまま動かなくなるかよろよろと立ち上がろうとしているができないでいる。
三段撃ち。
授業で習った言葉が蘇る。織田信長は当時最強と呼ばれていた武田の騎馬隊相手に火縄銃を使って大打撃を与えた戦闘法。さっき銃を撃った男たちは後ろで次のための弾を込めている様に見える。たぶんあの銃も一発撃った後で次に撃つまでには時間がかかるのだろう。その弱点を全く同じ方法で解決いるように思える。
「こんなの嫌だ」
小袖が言う。
言葉だけじゃなく小袖の気持ちが伝わって来る。
最初は人間が魔物に襲われているのだと思ってこっそりと近づいた。九十九と同じように小袖も「隠密」のスキルを獲得したから大きな刺激さえなければ相手に気づかれないだろうと考えた。
もし危険そうならばそのまま逃げて、大丈夫そうなら人間の味方をする。もちろん九十九は「人化」のスキルを使ったままでだ。そうすればその人間たちとつながりを持つことができて、人間の街に連れて行ってもらうことが出来る。
そう考えていた。
人間たちは笑っていた。
犬のように見える魔物を遠くから銃で虐殺しながら楽しんでいる。「当たった」とか「頭が吹き飛んだぞ」とか「2連続だ」などとまるでゲームのような言い方をしている。
「小袖の考えていることが伝わって来る」
小袖の肩に手を置く。
「これはなにかのスキルの効果なのか?」
それほど大きな声で喋らなければ気付かれないはずだ。
「なにそれ、わかんないどういうこと?」
小袖の目尻から涙がこぼれた。
「俺にも説明できないんだけど小袖の気持ちが俺に伝わって来るんだ。俺のスキルを選んだのは小袖だろ?だから小袖ならなにか覚えがあるんじゃないかと思って」
「わかんないよそんなの」
「そうか………」
例え魔法のように小袖の気持ちが伝わってこなかったとしても、その悲痛な表情を見ればその気持ちは分かっただろう。
「魔物を助けたいのか?」
小袖に聞く。
「けど………」
それは肯定しているのと同じこと。
「そうだよな、人間相手に戦うなんて想像してなかったよな。俺も同じ気持ちだよ」
「うん」
涙をぬぐう。
「小袖は助けたいんだろ?」
「そんなのおかしいよね?」
「確かにそうだ。普通に考えれば人間は仲間で魔物は敵だからな」
「うん」
「けど今の俺たちはオークとサキュバスだ。人間中心に物事を考えなくてもいいかもしれない」
「え?」
驚いた表情。
「俺は約束したよな小袖。何か小袖が困ったことがあったら助けてやるって。小袖はあの犬みたいな魔物を助けたいんだろ?」
「でも………」
「ただし言っておくけどな、もし魔物を助けに行ったとしても魔物が感謝してくれるなんて思わない方がいい、そんなこと相手にはわかるはずないからな。多分そのまま俺たちに襲い掛かって来るだろうな」
「うん、それは分かってる」
「俺たちにできるのはその後で逃げ続けることだ。あの魔物は怪我をしているからいつまでも追いかけてはこないはずだ。もしかしたら噛まれたりするかもしれない。それでもこの状況をどうにかしたいのか?」
「そんなの駄目だよ。だってそれってあの人間を殺すってことでしょ、そんなことできないよ」
「できないってことはない」
小袖を強く見返す。
「見てみろよ」
近くにあった石を手に取って力を入れる。そうすると石が砂のようになって手の中からこぼれ落ちていく。
「小袖が分けてくれたステータスのおかげでこんなことが出来るんだ。小袖だった自分の中にある力を感じているはずだ。これを使えばあの魔物たちを助けることが出来るかもしれない」
「けどもしできなかったら、その時は………」
「俺たちも死ぬな」
「そんな、まだ異世界に来たばっかりなのに………」
「小袖が決めてくれ」
「え?」
「俺は小袖を助けると約束したんだから1回くらいは小袖のやりたいことを一緒にやろうと思うんだ。それにもしもここで死ぬとしても俺としては悪くない死に方だ」
「何言ってるの?」
「もしもの話だから気にしなくていい。それより教えてくれ、小袖はどうしたいんだ?」
「………」
「人間を敵に回したらきっと長生きはできないだろうな。人間の恐ろしさを誰よりも知っているのは人間だからな。こいつらを全滅させたとしたらさらに多くの人間が仇を撃ちにやって来るかもしれない。勝ち目がないくらいの大群が押し寄せてくるかもな」
「………」
「そして見返りは無い。犬みたいな魔物が殺されていくのが嫌だから人間たちを殺すっていうのはただの自己満足だ。あの魔物だって感謝なんかしてくれないんだぞ。それでもこの状況を何とかしたいのか?」
「………」
炸裂音。
人間の笑い声、犬のような魔物たちが倒れていく声。
もうすでにまともにその場に立っている魔物は一匹もいなくなった。死んでいるかあるいは地面の上でもがいている魔物しかいない。
「時間がない。教えてくれ小袖、お前はどうしたいんだ?」
伝わって来る。
心が揺れているのが分かる。
揺れてはいるが小袖の心は最初から決まっているようだ。
「助けたい」
小袖はそう言った。




